17-12 Gay Bar "Eroica"

第17部 Compensation Of Bill

奥多摩湖畔から9日目  


(12) Gay Bar “Eroica”  *************************************** 4119文字くらい



「ど、どうしよう…。こんなに返してもらっちゃって…。」



香は、返金してもらった分の金額の大きさに、

お祝いにしても頂き過ぎだと、

指定席がない紙幣に、やや困っていた。

(とりあえず、またいざって時のために、キープかな。)





「えーと、次は…。」

新宿南署方面に向かっていた足が止まる。

「『エロイカ』、か…。」

正直、一人では行きたくないが、パートナーのしでかした後始末も、

またパートナーの役目だと、ぐっとショルダーバッグの紐を握りしめ、

目的地に向かった。



「ついちゃった…。」



5時半過ぎ。

見上げた看板には『ゲイバーエロイカ』と

でかでかと文字が主張されている。

撩御用達のオカマバー。

ここは裏口から入ることにする。

狭い路地にまわり、目的の小さなドアをノックする。



「はぁい?どなたぁ?」



奥から野太い声がした。

「槇村です。」

やや大きめの声で返事をする。

するとドタバタドタバタと複数の体重の重たそうな人間が

ドア向こうに近付いてくるのが分かった。



がちゃりと勢いよく扉が開き、香の鼻先と接触しそうになる。

「きゃっ!」

「香ちゃんっ!よく来てくれたわっ!さささ!中に入ってぇ〜♡」

主人のオカマママの迫力ある登場。

「あ、あのツケの支払いを…。」



香はそのまま2、3人の女の姿をしたガタイのイイ元男たちに、

腕をぐいぐい引っ張られて、店内のセンターへ連れ込まれてしまった。

「いーから、いーからぁ〜!」

二の腕の筋肉が目立つニューハーフの面々は、

もうこれ以上ないキラキラした表情で香を取り囲んだ。



「はい、ここに座ってぇ〜♡」

「きゃあっ!香さんじゃない!」

店内で準備をしていた他の店員が気付いて、どやどやと集ってくる。

「わっ、あ、あのっ、きょ、今日は撩のツケを支払いに来たんで…。」

香はあっというまに、10人程の種無しに囲まれてしまった。

「ツケぇ?」

「そ、そうなの、えっと、こちらも確か半年分未払いがあって、

請求書の金額を、一応揃えてきましたので、か、確認して頂けます?」

封筒をおずおずと出すも、

長身のオカマたちにぐるりと壁を作られ、香も言葉がスムーズに出てこない。



「んんまぁ!撩ちゃんったら、なんで香ちゃん一人にこんなことさせるのかしら!!」

「一緒に来ればいいのにぃ!」

「撩ちゃんの尻拭いだなんて、香ちゃん、かわいそうにっ!」

中には、ハンカチをくわえて涙を流す輩もいる。



「あ、あの、お店の開店準備でお忙しいと思いますから、

あたしも領収書受け取ったら、すぐに帰りますんで…。」

引き止められそうな空気を珍しく読んだ香は、

長居はする気はないことを、やんわりと伝える。



「遠慮しないで、香ちゃん!あたしたち、あなたが来るのを待ちに待っていたのよぉ。」

「え?」

「ほら、普段は、撩ちゃんに傘を届けにくるとか、今日のようにツケの支払いとか、」

「あ、あと、撩ちゃんが酔って持って帰っちゃったウチの備品なんかも

返しにきてくれる時があるでしょっ?」

「撩ちゃんよりも、香ちゃんが、ウチに寄ってくれるほうが、

みんな喜ぶのよ。今日会えて良かったわぁ〜。」

「忙しいの?仕事入っているの?」

立て続けに言葉のシャワーを浴びて、香はたじろぐばかり。



「あ、い、いえ、依頼は全然ないんですけど、

ちょっと通っていた場所があって…。」

「ちょっとあんたっ、ウトイわね!香ちゃん、キャッツのミキさんのお世話をしていたのよ!

ね!香さんっ!」

もうそれもバレているのかと、香は浅く溜め息をついた。



その時、俯き加減になったのがいけなかったのか、

鎖骨下にある赤いうっ血痕がちらりと、すぐそばのオカマの目に入ってしまった。



「きゃああ!カオリさんっ!それってっ!」

そのオカマが、香のカッターシャツの胸元にちょいっと太い指をかけて覗き込む。

「うっそぉぉーー!!撩ちゃんがキスマーク付けてるっっ!!!」

「きゃあああー!!信じらんないっ!撩ちゃんがキスマーク残してるっ!! 」

「えーーーーーっっ!」

「ちょっ、ちょ、ちょっ」

みんなして、香の服を覗こうとするので、香は日本語にならない言葉を発しながら、

慌てて両手で襟元を絞って隠した。



「ちらりと見えちゃったけど……、し、信じられないわぁ……。」

香以上に顔をピンクに染めて、両手を頬に添える「彼女」たち。

「香ちゃん、本当におめでと!あなた、撩ちゃんと、ついに…。

やっぱりウワサは、間違いなかったのねっ!」

おもむろに隣に座ったこの店のママが、涙を流しながら香を抱き込んだ。



「むはっ!く、くるし…!」

「あらあら、ごめんなさいねぇ〜、もう嬉しくって…。」

巨体がゆっくり離れると、香は赤い顔でぷっはぁ〜と深呼吸をした。

「香ちゃん、お祝いよ!折角だから何か飲んでかない?」

「あら、だめよ!撩ちゃんが帰りを待ってんだから。」

「ちょっとくらいいいじゃない!」

「ねぇ、あたしのお手製のデザート持ってくるわ。あれならいいでしょ?」

ガタイのいい「彼女」がにこやかに席を離れる。



「ねぇねぇ、香さぁーん、聞きたいことが一杯あるのよぉー。」

「き、き、聞きたいこと、って?」

香は内心質問攻撃がキターっと、びくついて構えた。

「ちょっと、ちょっと、香さんをいじめちゃダメよ!」

「でも聞きたいじゃなぁーい!

あの撩ちゃんが、どうやって香さんを口説いたのか!」

「あーん!あたしも知りたぁーい!」

「く、口説くって…。」

香は、ソファーの真ん中に座らせられて、

まさに四面楚歌状態。

物理的には全く逃げらそうにない。



言い淀んでいる香の横でふっとママが短い息を吐き出した。

「撩ちゃんね…、いつ頃からだったかしら。

ぱったりとオンナ遊びをやめて、ここに通うことが多くなったのよね…。」

遠い目をして語り始めるママ。



「はぁ?」

「そうそう、あたしもウワサで聞いたことある。

撩ちゃん、表では見境なく女性に声かけているけど、

実際は、プロしか相手にしないって。しかも、かなり厳選しているって。」

「余計なことをしゃべらない割り切ったプロ中のプロでしょ。」

「少しでもリョウちゃんに、気があるようなそぶりがあると、

上手にかわしてたもんねぇ〜。」

香は、唐突に撩の夜の行動の生々しい情報を耳にして、少し気分が悪くなった。



「それがさ、全くそぉーゆーことをしなくなったって新宿界隈がどよめき始めたのよ。」

「3年以上よ!たぶん!撩ちゃんがオンナ買わなくなったのは! 」

「EDじゃないかって、ウワサしてたこともあったのよっ!」

「香ちゃんに、操を立てていたのよ…。」

ママが静かに呟いた。

「は?」

ふいに、教授の話しが脳裏に蘇る。

「撩ちゃんがね、この街にやってきた時は、そりゃ、ウリをしている女の子たちが、

いかにきっかけをつくるか、激しく競い合っていたのよ。」

「撩ちゃん、黙ってればカッコいいしね、謎めいていて、色々知っているし、

外国の言葉も何でもオッケーだから、お店のトラブルもたまに解決してくれて、

昔っから、あっちこっちで引く手数多だったのねぇー。」

「でも、撩ちゃん、1回キリなのに、見る目がかなり厳しくてね、

まず新人には手が届かないのが当たり前だったわ。」

「誰と寝たかを自慢するようなコは、まず相手にしなかったしね。」

「そうそう、ただね、あっち(アメリカ)で、けっこう悲惨なことも多かったみたいでね、

撩ちゃんの顔を知ったオンナは、必ず人質にされるっていう話しがあってね。」

「ひ、人質?」

「そうなの、ウワサだけど、撩ちゃんをおびき出すためのエサに使われて…、

ってここから先は、撩ちゃんの許可なしじゃ、しゃべれないわね…。」

香は一瞬、アパートに泊まり込んだ冬野葉子のことを思い出した。



「そうよ!ママ、ちょっとこの場には相応しくない話題よっ。」

「方向変えましょ!」

「とにかく!あなたのお兄さんと組み始めてから、撩ちゃんに変化が出始めたのよ!」

「ア、アニキと?」

「そして、香ちゃんと住むようになってからは、撩ちゃんの目が変わったわよね〜。」

「そうそう!」

「でもね、時々苦しそうだったわよ…。」

「あたし、別のお店で撩ちゃんが1人で飲んでるところ見たことあったけど、

いかにも悩んでいますって背中して、声かれらんなかったわ…。」



勝手に話題が進んで行く状態に、香は理解が追いつかない。

「たぶん、香ちゃんの幸せについて悶々と考えていたのよ。」

「香ちゃん、あたしたち、ずっとあなたたちのことを応援していたのよ。

そしてこれからもずっと味方よ…。」

「香ちゃん、っんとよかったわぁ…。」

「香ちゃんだけよ。撩ちゃんが心から甘えられるのは…。」

「香ちゃん、撩ちゃんしか知らないだろうから、色々不安になると思うけど、

あの、撩ちゃんがそんな痕を残すなんてありえなかった。

それだけ、香ちゃんが特別だってことよ。」

優しい瞳で見つめられる。



「そうよ、相手もあくまでも仕事と割り切れるコじゃないと、

どんなに可愛いコでも、撩ちゃん逃げてたもン。」

「彼女たちは、商売なの。感情はなし。あったらやってらんないわ。」

「撩ちゃんも、やっと決心したのねぇ!ウワサが本当でよかったわっ!」

香自身はなにも肯定の文言を発していないのだが、

勝手に納得し幸せに浸る元男達。



「私たちの一番の心配事だったんだもの。

いつ香ちゃんから愛想尽かされても可笑しくないことばかりしていたから、

やっとまとまったらしいって情報が流れて、みんな大騒ぎよ。」



次から次へと複数のニューハーフから、頭上直下に注がれる言葉に、

香の脳はあっという間に飽和状態になった。

あくまでも間接的な情報、今この場に撩に抱かれたという女はいなくても、

この街にそういう人が実在することを

再認識されられて、心のやり場がなくなってしまう。

言葉に詰まっていたところに、

さっき席を立った種無し大男が戻ってきた。



「香ちゃぁーん!これお祝いのエロイカ特製オレンジババロアよ!」

香の目の前に、

大きなドーナッツ状のデザートがずいっと持ってこられた。

香は、これを食べ終わらなければ帰してもらえないかと、

瞳を真ん中に寄せたまま、小さく覚悟を決めた。



*******************************************
(12)につづく。






オカマママのカオリンハグは、
ラピュタの終盤、ドーラがシータをハグするシーンと
勝手に重ねてしまいました。
エロイカのみなさん、悪気はないんですよ、悪気は〜。
嬉しすぎてちょっとハメをはずしてしまった彼女たちの
機関銃トーク。
雰囲気は、冬野葉子がエロイカに連れて行かれた
あのシーンがご参考になればと…。

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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