17-13 Orange Bararois

第17部 Compensation Of Bill

奥多摩湖畔から9日目  


(13)Orange Bararois  ****************************************2567文字くらい



「今からお酒飲ませちゃうと撩ちゃんに怒られるから、

デザートで勘弁してね♡」

「ママさん…。」

テーブルの上に置かれたオレンジババロアを、

さくさくと切り分けて取り皿に移す主人。



「さぁ、どうぞ!召し上がれ!」

目の前にぐいっと突きつけられた、

可愛い小皿の中でオレンジ色に揺れる軟質固体。

小さく絞られた生クリームの白とハーブの緑の色合いが食欲を刺激する。

ちょっとひるむも、

その甘い香りとちょんと乗せられたミントが香の鼻腔をくすぐった。



「香ちゃん、食べさせてあげましょうかぁ?」

小さなスプーンを持って構える『彼女』。

おでこに縦筋を描きながら、ぶんぶんと首を横に振る香。



「い、いえっ!!

じ、自分で、た、た、食べますっ!い、い、いた、だきますっ!」

慌てて小皿を受け取り、右手にデザートスプーンを持つ。

ゆっくりとそれを差し込むと、ゆるるんとババロアが振るえた。

最初の一口をつるりと舌の上に吸い込ませる。



「あ、美味しい…、オレンジの味がすごく優しくていい甘さ。」

「でしょぉ〜?」

「ほら、ここお酒飲むところだから、甘いデザートってあまり置かないけど、

このコが作るオレンジババロアはリピーターが多いのよ。」

香は、この愛情そのまま味なったような感覚に、

さっきどろりとした感情が育ちそうになったものが

このデザートで消火されるような気分になった。



「ほんとに、美味しいです。」

香は、ほんのり頬を染めて、作った本人と目を合わせる。

しかし、こんなデザートを作れるとは到底思えない容姿とのギャップから、

思わず顔面神経が引きつってしまう。



「香ちゃんに褒められるとすっごく嬉しいわぁぁぁ♡」

両手の平を頬に添えて、くねくね体を波打たせるオネェの様子に、

香は、くすくすと笑みを浮かべた。



「香ちゃんの笑顔って、ほんといいわよねぇ。」

ババロアを口に運ぶ様子を見つめながら、

ママが肘に頬杖をついて、溜め息まじりに呟くママ。

「こんなステキな笑顔をいつもそばで見られるなんて、撩ちゃん羨ましいわぁ。

手放せなくなるの当然だわ。」

「そ、そ、そんなっ!あ、あ、あたし、撩と一緒の時は怒ることばっかりですからっ!」

「そ・れ・は、香ちゃんにかまってもらいたくて、わざと怒らせてんのよっ!」

別の『彼女』が横から割り込んだ。

「そうそう、ハンマーだって嬉しくって受けているだから、撩ちゃんって絶対Mよねぇ〜。」

「え、えむ?」

スプーンを銜えたまま暫し固まる香。

「そ、マゾ!いじめられて痛い思いをすることに快感求めてんのよ!」

「はぁ?」

「オトコって、そんなところがあるわよねぇ。」

「そうそう、香ちゃん、男はいつまでたっても子供みたいなもんだから、

好きなコに意地悪して、気を引くことを狙うような小学生と一緒よ。」

かつて男だった厚化粧の彼女は、まるで絶対的な法則のように断言する。



「でも、香ちゃん、また悩む様なことがあったらいつでも来てちょーだい。」

「そうそう経験豊富なあたしたちが、ちゃぁーんと聞いてあげるからっ♡」

いっきに顔の距離を縮めてくるオネェたちに、

思わず背中がのけぞってしまう香。



「っはいっ、…あ、あ、ありが、と、ぅ、ござぃます…。」

そこで、香ははっと思い出して、

食べかけのババロアをテーブルに置き、

バッグから顔だけ出している封筒を引っ張り上げた。

「あ、あの!これ受けとって下さい!」

ママの手に押し付ける香。

「な、中身を確認して頂いて領収書頂ければ嬉しいですっ!」

「あ、そうだったわね。ちょっと待っててね。」

ママは、厚みのある封筒を受け取って、レジへ向かった。



その間に、香は残りのババロアをつるるんと完食した。

「ご、ご馳走様でしたっ!お、美味しかったです!とっても!」

制作者に向かって頭を下げる香。

「香ちゃんのためなら、いつでも作ったげるわよん♡」

褒められたのが嬉しいことをあらかさまに全身で表現する『彼女』。



「はい、これ領収書。」

戻ってきたママから手渡された封筒は明らかに、

領収書以外のものが入っている。

「ちょっ、ちょっとママさん!まだお金入ったままですよ!」

香は、封の入口をちらっと見て、ママに戻そうとする。

「いーのよ!そのまま持って帰って頂戴!」

香から突きつけられた封筒をそのまま受け取ると、

香のショルダーバッグにぐいっと押し込んだママ。

「ママさん!」

「半分だけ頂いたから、あとの半分はあなたと撩ちゃんで楽しいことに使って頂戴。

また今後はちゃんとツケの請求させてもらうから。ね。」

「ママさん…。」



どうして、新宿界隈の皆は、

こうして私たちに有り余る心配りをしてくれるのだろうと、

香は、涙腺がじわりと熱くなった。

「……あ、ありがとうございます。……でも、やっぱり頂き過ぎですよ。」

「いいの!さ、遅くなると、撩ちゃんが心配するわ。

香ちゃん、この後またどこかのお店に寄るの?」

「あ、今日はあと1軒伺おうかと。」

「そう、もう暗くなっているし、お天気も崩れるみたいだから、気をつけてね。

あ、撩ちゃんに電話して迎えに来てもらおうかしら?」

「あ!いいです!たぶん出かけていると思いますんで。」

「あら、そうなの?」

「こんな時に、香ちゃんを一人歩きさせるなんて、撩ちゃんも酷いわね〜。」

「あ、いえ、私が勝手に出て来たので、撩もミックと何か大事な話しがあるようだったし…。」

「あら、ミックと一緒なの?」

「は、はい。た、たぶん。」

「でも、もう夕食準備の時間でしょ。

引き止めちゃってごめんなさいね。裏口まで送るわ。」

「香さん、また来てね!」

「待ってるからねっ!」

「あ…、その、ま、ま、また寄らせて、い、頂き、ますっ。」

「じゃあね〜!」

センターのソファーから立ち上がった香を皆が笑顔で送り出した。



ママに連れられて、入ってきた裏口まで来る。

「開店準備のお邪魔になってごめんなさい。また撩をよろしくお願いします。」

「何、かしこまったこと言ってんの。いつでも来て頂戴。」

「はい!じゃあ失礼します!」

にこりとして、香は軽く会釈をすると、路地裏から表通りに出て行った。



姿が見えなくなるまで、目で見送るママ。

ふっと上を見上げる。

細長く切り取られた黒い空には、星は見えなかった。

「雨に当たらなきゃいいけど。」

そう呟くと、優しさをまじえた瞳で、

店内に戻って行った。


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(13)につづく。




「彼女たち」は全然悪意はないのですが、
香ちゃん、心の深いところに腫瘍ができちゃったかもです。
帰宅後、除去手術は撩ちん任せで…。

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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