SS-04 Brooch

50000万ヒット記念企画


原作穴埋め、1989年10月下旬頃。
第245話(完全版24巻)「コートの秘密!?の巻」で
登場した盗聴器の猫のブローチが香に手渡されるお話し。


SS-04  Brooch (side Kaori) *************************************2729文字くらい



「ほれ。」

「え?」



キラリと光り弧を描いてあたしの方に飛んでくる何か。

「わわっ。」

慌てて両手を出し、胸の前で受け止める。

「な、何これ?」

固い金属片のような感触。

そっと手の平を開けてみた。



「?」



首をかしげる。

猫の顔を象(かたど)ったブローチのように見えるけど…。

あたしは、いつも通り伝言板を見に行って昼前に帰宅。

撩に、お昼に食べたい物を一応聞いてからキッチンへ行こうと、

リビングのドアを開けたとたんに、これが放られた。




「教授が、おまぁにって。退院祝いだと。」

撩はソファーに寝転がったまま億劫な空気で答えた。

「え?きょ、教授がぁ?な、なんで?」

「さぁーねぇー、ボクちゃんにはなんにも出さねぇーでやんの。あーつまんね。」



ついこの間、あたし達2人は、

揃いも揃って急性虫垂炎で入院した。

その時出会った浦上まゆこちゃんの事件が無事解決し、

また日常が戻ってきたところで、

この出来事。



「どうして教授が入院のこと知ってるの?あんた話したの?」

「うんにゃ、あのじぃーさんのこったから、こんな情報筒抜けなんだろ。」

「そ、そっか…。あ、お礼のれんら」

「あー、しなくていいよ。俺から言っといた。」

「そ、そう…。」



あたしは、ブローチを目の高さに持って来てマジマジと見る。

指先に違和感を覚えて、裏をひっくり返してみた。

「それ、発信器兼盗聴器になっているから、

仕事が入っている時はスイッチオンにしとけ。」

「は?盗聴器?」

「試作品だと。」

「はぁー、だから裏にへんなのがついてるのね。」

安全ピンや爪楊枝で押すであろう小さな凹スイッチの場所を確認して、

また表面をひっくり返す。



「……キャッツのマークみたい。」



あのエンブレムにそっくり。

「あたしより、美樹さんのほうが似合うかもね…。」

可愛くシンプルな猫のデザインに、

あたしにはこれが似合うような要素がない気がして、

少しだけ口調が暗くなった。



ソファーの短辺側でドアの方に頭を向けて仰向けに転がっている撩は、

持っていた雑誌をばさっとガラステーブルに投げた。

「……そいつは、スーツでもカジュアルでもどっちでもつけられるさ。」

むくっと起き上がると、

ソファーに座ったまま、んーっと伸びをする。



「あー腹減った。メシは?」

「あ、今から作るわ。何が食べたい?」

「食えりゃあいい。」

「もう!たまには作る側が助かるような要望とか言ってよね!」

「だから、何でもいいって。」

撩は頭をぼりぼり掻きながら、面倒臭そうに答える。

「何でもいい、が一番困るのよっ。」



あたしは、リクエストを聞くことを諦め、

撩に背を向け廊下に出た。

キッチンに進みながら、

肩から下げていたショルダーバッグにブローチをそっとしまう。

ボタン付きの服じゃない時は、

とりあえずこれを持ち歩いた方がいいわね。



正直、今まであたしに分からないように付けられていた

ボタン型の発信器は、折々の洗濯やクリーニングで

付けたり外したリが面倒だから、

こういうアクセサリー系のほうが断然助かる。

でも、敵を欺くには

ボタンとかベルトの部品とかの方がいいのよね…。



あたしは、荷物を白木の椅子の上に置き、エプロンをまとった。

「何つくろ…。」

冷蔵庫を開けて庫内チェック。

「パスタ系にしよっかな。」



だけどアクセサリー系の小道具は初めて。

ただ素直に身に付けるには、ちょっと抵抗があるのよね…。

たまぁーに、あたしがイヤリングやネックレスをつけると、

撩はあからさまに苦い顔して、

こう言うの。



— そんなもんは、もっと似合うカワイ子ちゃんが付けてナンボのもんだろぉ ー
 
— アクセサリーも付けられる相手を選びたいんでねぇのぉ? —



どうせ男女には必要ないだろうという表現にずきりとしながら、

本気で傷付いたことを知られない様、

その度にハンマーを出してごまかすの。



だから、できるだけこんなものは使いたくないのに…。

今回は、あいつから依頼時には付けとけって…。

使ったら使ったで言われることはきっと一緒。



ベーコンとバジルソースを取り出し、

冷蔵庫をパタンと閉める。



うーん、せっかく教授からプレゼントもらったのに、

なんだか気分が沈んでいくなんて、

まったく誰のせいよ、誰のっ。



パスタが入っている引き戸を開け、

スパゲッティを400グラム取り分けた。

あたしは100、撩は300…で足りるかな。

かがんでシンクの下から30センチ鍋を取り出して、

たっぷりと水を注ぎコンロにごとりと座らせる。

フタをして火をつけて、次はベーコンを切らなきゃ。



まな板を前に包丁を手にしたところで、

また余計なことを考えてしまう。



そうよ、いちいち撩の言葉に落ち込んでる場合じゃないのよ。



ワケのわからない腹立たしさと悲しさにまかせて、

厚いベーコンをざくざくと切り分ける。

美樹さんから分けてもらった、本格的な手作りベーコン。

ログハウス住まいの知り合いが、

いい豚肉を使って自家製の薫製器で燻し上げた

塩以外無添加の一品。

次はイノシシ肉で作りたいんだとか。



なんかもったいないな。

少しずつ使いたいけど、

でも撩にはたっぷり食べてもらいたいし…、

うーん、まぁいっか。



「撩のためなら…、か。」



包丁を動かしながら、思わずつぶやきの声が出てしまった。

はっとして口元を押さえる。

指先についた薫製の香りがくんと鼻に届く。

自分の頬が染まるのが分かった。



も、もうっ!

今、腹立ててなかったっけ?あたしったら!



動きが止まったあたし。

手元のまな板と包丁とベーコンを見つめる。



……たぶん、うれしいんだわ、これって。



教授からの退院お祝いって分かっているけど、

撩からあーゆーモノ受け取ったの、

は、初めて、なのよ、ね…。



思わずくすりと鼻から軽い息が出て、口元がにやついた。

たった、これだけのことで…、

撩からのプレゼントではないと分かっているのに、

撩から手渡された、もとい手渡しじゃなくて放られたけど、

ただ、撩を経由したけなのに、

たったそれだけで、嬉しいだなんて…。



「……あたしって、なんてお安いのかしらね。」




こんな調子だったら、もし直接撩から何かもらっちゃったりしたら、

どうなっちゃうのかしら。

まぁ…、そんな心配はしなくてもいいんだろうけど、ね。




「ふん、仕事の時つけろって言ったの撩なんだから、

またぐちぐち言ったらハンマーだからね。」



あたしは、どこかくすぐったい気持ちが沸き上がり、

それをかき消すように、

またベーコンを切り始めた。



バッグの中に収まっている小さな仕事用のアクセサリー、

その後、すぐに絵梨子の件で、

ブローチが役立つことになるとは、

この時のあたしは知る由もなかったけどね…。


********************
END




うーん、何だかよくまとまりませんでしたが、
腹が立ったり、沈んだり、喜んだりと、
気分が上下して忙しい香ちゃんでした。
ベーコンとバジルのスパゲッティ、
話しの中で最後まで作らせられんかった…。

【忘れてはならない日】
9.11、1.17、3.11と1が並ぶ日取りで
忘れてはならない数字と重なり、
今日もまた、振り返るべき日が巡ってきました。
生きたくても生き得なかった多くの人々の思いは
あまりにも重たく、
安易に陳腐な言葉では触れることもはばかられますが、
生かされていることに改めて感謝しながら、
多くの命を犠牲にして得られた教訓を
しっかりと次世代に伝えていかねばと思います。

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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