01-21 Next Morning

第1部 After the Okutama Lake Side


(22)Next Morning *************************************************************2866文字くらい




太陽の角度が徐々に動き、

ブラインドから漏れる陽の光が、

香の顔にラインを作った。



「……ん。」



まぶた越しに明るさを感じた香は、

朝であることを、目を閉じたまま認識した。

(すごく深く眠れた気がする…。

こんなにぐっすり休めたのはいつ以来かしら?)

そんなことを思いながら、ゆっくりと目を開けた。

視界の光景にピントが合う。



「!?」

ビクッと肩が揺れる。

目を見開く。

いつもと違う光景が見える。

自分の部屋ではない。



一瞬、また攫われたのかと、拉致監禁を疑ったが、

視線の先には、壁際にあるソファーと観葉植物。

クロスに貼られている見慣れたポスター。

そこが知っている部屋であることが分かった。

ひとまず、ほっとする。



しかし、分かったはいいが、

そこになぜ自分がいるのかが理解できなかった。



(ど、ど、ど…どうして、りょ、撩の部屋に???)



さらに、自分の首の下から伸びている長い右腕。

腰に巻かれている丸太のような重たく太い左腕。

背中に感じる自分以外の体温。

両脚も、ずっしりとした足がからめられている。

耳の後ろから聞こえる規則正しい呼吸音。



一気に覚醒した。

心臓は音をたて早鐘のように暴れている。



香は、どうしてこういう状況なのか、

必死に理由や成り行きを思い出そうとした。

(っちょ、ちょっと待ってっ、香っ!落ち着いて考えるのよっ!)

自分に巻き付いている人間が撩であることは、

顔を確認しなくても、直感に近いものがそれを告げていた。



シャンプーや石けんの香に混じって、

わずかに感じる嗅ぎ慣れたタバコと硝煙の匂い。

他の男ではないから安心しろと、防衛本能が教える。

しかし、まだ状況が整理できない。



(き、昨日の夜、な、な、にがあったんだっけ???)

自分の早くなる脈拍を感じつつ、懸命に記憶をたぐり寄せる。

ふと、自分の手首を見たら、うっすらと線が残り、

一部薄皮が剥けていた。

(あ、思い出した。昨日奥多摩から帰って来たんだ…。)

美樹とファルコンからの招待状が届き、

奥多摩での結婚式に参列してから、アパートに戻るまでの

濃過ぎた半日の記憶がはっきり思い出せた。



自分たちのために美樹が撃たれ、

自分は拉致され、救出され、

お互いの気持ちを確認することができた。



(…今頃、美樹さんどうしているかしら…。)

教授宅で療養しているはずの、

姉とも思える彼女の姿に思いを巡らす。

いくら謝らないでと言われても、事が事だけに、やはり胸が痛む。

(…ここで、心配しても仕方ないわね…。)



次に、自分と撩のことへ思考のベクトルが向くと、

どうしようもない恥ずかしさが急速に押し寄せて来た。

本当に信じられないことばかりが、

短い時間で積み上げられ、

撩と触れ合っていた時間のことが、

津波のように意識を覆い隠して行く。

香は、慌ててその波を払いのけ、

とにかく今の状況を分析することにした。



思い返せば、リビングから撩のベッドに運ばれてからのことが、

イマイチ記憶が明確でない。

(服を着ているということは、

特に何かされたという訳ではなさそうだけど…。)

と段々冷静になってきた。

心拍も少し落ち着いてきたようだ。

あまりにも優し過ぎる撩に戸惑い、

沢山のキスをもらい、と記憶をたぐっていく。



(ああ、思い出した。確か寝る前も…。)

ここまで状況が見えてきたところで、また血圧が高くなった。

イチゴともトマトともリンゴとも言えるような赤い顔から、

湯気がもうもうと上がっている。

やっと、自分の置かれている状況が理解できた香であるが、

そのまま動けずにいた。



(…ど、ど、どうしよう…。)



そもそも、今までのことを考えると、

撩が後ろから自分を抱きしめるような形で

一緒にベッドにいること自体が、

ありえない場面。

撩が自分を他の誰かと思い違いをしているんじゃないかと、心底疑いたくもなる。

なのに、もう少しこうしていたいと、

心のどこかで思ってしまうのだ。



(…さ、先に、起きたほうが、いいのかな…。)

夕べまわした洗濯機からも洗い物を出して干さなければならないし、

いつも通り、伝言板、朝食作り、掃除とこなすべき日課が待っている。

(…うー、動きたいけど、恥ずかし過ぎて、撩の顔まともに見れない…。)

少し身を捩ってみるが、

動こうにも、撩の腕と足が熱を持った鉄のように重たくて、身動きができない。



すると突然、枕になっていた撩の腕がぐいっと持ち上がり、

両腕の中でくるりんと体が回転させられ、

背中合わせから対面合わせになってしまった。

「!!」

「…おはよ。かおりちゃん。」

ぎゅっと両腕で抱きしめられたまま、頭の上から声が降って来た。

「よく寝れた?」

「?!?!」

香の脳内は大混乱を起す。

隣でまだ寝ていると思っていた撩がしっかり起きていて、

さらに密着度が高くなったからだ。



実は、撩は香よりもずいぶん早く目が覚めていて、

ゆっくり、じっくり寝顔を見つめていた。

さらには、

頬を撫でたり、髪を梳いたり、鼻筋をなぞったり、肩を抱いたりと

香がノンレム睡眠中であったのをいいことに、

好き放題いじって楽しんでいたのだ。

ただし、肩より上限定であったのは、

撩のギリギリの節度で抑えていてのこと。



香が寝返りを打って背中を向けられてからも、

後ろ抱きにしながら、この状況に浸っていた。

気配で、香の目が覚めたことも、混乱していることも、

後ろから全て感じ取っていた。

その様子が可愛くて、楽しくて、愛おしくて、面白くて、

しばらく様子を見ていたのだ。



「…香ちゃん?」

撩の胸に顔を埋めて、まだ赤くなっている香。

撩からは、香の鼻から上が見える。

目をきつくつむっていた香がゆっくりまぶたを上げ、

視線だけ撩のほうに向けた。

もう、それだけで萌え死にそうだ、と撩はまた何かに耐えていた。



「……ぅん、すごく、よく寝れた…。」

「そりゃよかった。」

余裕を装うように、

撩は、香の前髪をかき上げ、額にちゅっと軽く吸い付いた。

「ひゃあ!」

ボッと更に赤くなる香。

「おはようのちゅうで、そぉんなに反応してたら、

この先のあーんなことや、こーんなことしちゃったら、

どーなっちゃうのかな?カオリンはぁ?」

「へ?」



香は、今しがた撩が発した言葉をリフレインしてみる。

(あーんなこと?こーんなこと?)

「もう十分、疲れも取れただろうからぁ〜、ちょっと試してみよっかっ♡」

「え?、え、え、え、えーっ?!」

撩は、掛け布団の中で、くるんと体勢を変え、真っ赤なままの香を組み敷いた。

(お、ハンマーはでないな。)



撩の左手は、香の右手の指と絡められ、

右手は香の左側頭部に添えられ、髪の毛の間に指を通す。

殆ど男性経験がない香を相手に、自分の想いは膨張の一途。

ゆっくり進むべきか、思い切って先に行くべきか、

夜のまどろみの中、撩は香を抱き込みながら、ずっと迷っていた。

何かを間違ったら、

取り返しがつかないことになってしまう可能性もあると、

ある種の怯えや恐怖も心のどこかに引っかかっている。



それでも、目覚めの様子と、流れから、

撩は、香の閾値を慎重に見ながら、どこまで進むことが許されるか、

まずは、踏み出すことにした。

もちろん、香が嫌がったらちゃんとセーブすることも思い描きながら…。


*************************************
(22)につづく。






いや、撩ちゃん、ストップきかんだろ。
あとはカオリン次第という訳で、
第1部は次で一区切りです。


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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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