19-03 Hash Browns

第19部 Shopping

奥多摩湖畔から10日目


(3)Hash Browns  *********************************************** 2987文字くらい



香は、短時間で朝のシャワーを済ませた後、

すぐに朝食の準備に取りかかっていた。



メニューは、ハッシュドポテトに、粗挽きウィンナーの粒マスタード添え、

たっぷりのブロッコリが混ざったマカロニサラダに、

マンゴーソースがまぶしいヨーグルト、

小鍋にはミネストローネが弱火で加熱中。



頭の中では、今日のスケジュールを思い描く。

(えーっと、午前中の家事をする前に、縄跳びのノルマをこなして…、

駐車場を軽く片付けて、地下の武器庫の在庫確認でしょ。

伝言板のチェックに、昼食作って。

それが終わったら、買い物行かなきゃ。

シーツも何枚か買い足さないと…。車じゃないと運べないわね。

あ!夕べのも洗わなきゃ!)



そこまで予定を組み立てて、一度鍋の火を止めると、

慌てて7階へシーツを取りに行く香。

撩はもぬけのカラ。

(あら?いつの間に?)

香がキッチンにいる間に、無音で廊下を通過した撩。

現在シャワー中。

香は、訝しがりながら、シーツを新しいものに取り変えようとした。

心当たりのあるシミがちらほら目に入る。

(は、恥ずかしいぃ〜。おねしょじゃないんだからぁっ!)

汗でしっとりしている寝具。

この季節、それが寝床をより一層ひんやりさせる。

(起毛のベッドマットのほうがいいかしら?

でも、高いし、洗濯の時乾きにくいし…。)

対策に色々と考えを巡らすも名案は浮かばない。



「うー、とりあえず脱衣所に運ばなきゃ!」



6階に降り廊下を進めば、浴室からシャワーの音がかすかに聞こえる。

香はそれだけでピキンと緊張してしまう。

そっと仕切りのカーテンを開け、

大急ぎで洗濯機に持って来たシーツを詰め込んだ。

(洗うのは後でいいわ…。)

ここに長居は、なんとなく危険だと、

すぐに、隣りのキッチンへ退散した。



「はぁ…。あたしってば、なに逃げ回ってんの?」



溜め息を一つ出してから、

とりあえず、一度止めたガスの火をつけ再び鍋を温める。

ざっとシンクのまわりを片付け、

取り皿とフォークを食器棚から取り出すと、

テーブルに向き直る香。



そこへ気配を消した撩の登場。

赤Tシャツ、いつものベルトにいつものズボン。

首にはタオル。

少し湿った黒髪の間から、優しい瞳が香の背中を捉える。

香は全く気付かずに、配膳をしながら戸に背を向けていた。



スキだらけのインパラを見つけたヒョウが、

抱き包みながら首元にぱくりと噛み付いた、ワケではないが、

気分は獲物を捕らえた捕食者そのもの。

「うっひゃあああ!」

フォークが音を立てて床で跳ねた。

香の右頬に、撩の髪がさわっと触れる。

犬歯がちくりと当たり、ぞわわと肩が縮むも、

その感触がすぐにねっとりとした舌と唇の動きに変わって、

太い腕からの熱と背中にぴったりと当てられた胸部と腹部の感触が、

一気に香の意識をぼやけさせる。



「……っりょ、……ぁ。」



香から熱い息がはぁと漏れる。

(だ、だめっ。撩のペースに、も、もって行かれちゃうっ。

だいたい、こいつは何考えてんのよっ!

毎回毎回、気配消して突然こんなことばかりっ。

今までここここんなこと、全くなかったのにっ。

ははは恥ずかしいいじゃないっ。)



「こっちの朝飯から食べちゃおっかなー。」



頸動脈の通るラインに唇を這わせながら、撩がそう言い終わった直後、

プラチナ製恥じらいハンマーが振り落とされる。

アパート全体が震度3で揺れ、天井から埃がパラパラと落ちた。



「はぁ…。」



柄(つか)を握りしめたまま、香は大きく溜め息をつく。

「……朝ご飯は、テーブルの上にあるでしょ…。」

本日3本目のハンマー。

いいかげん、このやりとりの繰り返しに、

香は、次は自分も不意打ちを含ませた仕返しをしたくなったが、

おそらく、なにを企てても躱(かわ)されそうなので、

仕返し作戦の思考はとりあえず引っ込めるとこにした。



耳を赤くしたまま、香はガスレンジに向い、

おたまで、温まっているミネストローネをスープカップになみなみと注(つ)いだ。

刻みパセリを散らして、食卓を整える。

落としたフォークも回収し、眉にシワを寄せながら洗い直す。

撩はまだ、床とキスをしたまま。



「あたし、先に食べちゃうわよ。頂きます。」

「ボクちゃんも食う。」

香の言葉と後半重なるように、撩の声が届く。

気付けば、もう対面に座っている。

「いっただっきまーす。」

ぶつりぶつりと、ソーセージ3本をフォークに刺して、

べろんと粒入りマスタードを絡ませて、あーんぐりと口をあける。

もごもごしながら、ハッシュドポテトももう口の傍で待機。

片手にはスープカップを持って、咀嚼の間にずずっとすする。



「っちょっと!落ちついて食べなさいよっ。」



いつもの食べ方とそう変わらないのだけど、

声をかけられずにはいられないガツガツ振り。

嬉しさと照れくささが混じり、それをごまかすように注意をしてしまう。

「あーん?いつものこったろ?おまぁも、食えよ。」



言われて気付く。

まだ自分は一口も進んでいなかった。

食べっぷりに見とれていたとバレたくはない。

方向を変えるために、

ブロッコリを口に入れながら話題を切り替える。



「あんたさぁ、……家事してる時にちょっかい出すのやめてもらえる?」

「あ?」

「ほ、包丁とか火とか使っている時だったら、あ、危ないじゃないっ。」

「俺がそんなヘマすると思うか?嫌なら、ちゃんと気配読んでみるこった。」

「ぐっ…。」

言い返せない香。

「……これも訓練だっていうの?」

「そ。」

「う〜。」

「躱(かわ)せなかったら、ボクちゃんに美味しく食べられちゃうのだっ。」

両手にマカロニとソーセージが刺さったフォークを持って、

にっと唇を三日月にして寄り目で笑う撩。

「うっ…。」



冗談が混じっていなさそうなモノ言いに、香の上半身がひくっと反る。

その間にぱくぱくと頬袋を膨らませていく相棒。

11日前までは、ありえなかった、こんな会話にこんなやりとり。

奥多摩でのハグとキスから、

こうも変わってしまうのだろうかと、まだ疑問の感が拭えない。



香は、かしゃりとソーサーにフォークを置いて、

ミネストローネの入った器を両手で包んで口にした。

「……はぁ。」

温かい、酸味と旨味のあるスープが食道から胃にゆっくりと落ちる。

温度を感じるのは、食道まで。

胃に入ったらその感覚が消える。



「……今日も、何かトレーニングするの?」

ほぼ食べ終わっている撩に尋ねる。

「あー、どーっすかな?」

「午後ね、買い物行きたいんだけど…。」

「ああ、シーツ買い足すんだろ?」

「!!!っ、なっ、なっ、なんでわかんのよっ。」

「そりゃ、あんだけ洗濯しなきゃならねぇーんだったら補充は必要じゃん?」

ぼしゅっと湯気がでる香。

「っだだだだれのせいよ!だれのっ!」

恥ずかしさで、顔を合わせられず、香もガツガツと食事を進める。

「まっ、連帯責任だわな。」

さらっと言う撩。

ピキンと固まり、更に赤さを増す香。



「あー、くったくった。リビングにいっからコーヒー頼むわ。」

爪楊枝でシーシーと歯間を掃除しながら、

撩は何事もなかったかのようにキッチンを出て行った。



香は、絶句したままぷしゅぅーとテーブルに突っ伏せる。

慣れない。

撩とこんな会話をしていること自体が、まだ信じられない。

他の恋人同士とか、新婚さんとかもこんな感じなのかしら?と

思いを巡らすも、リアルな参考情報は持ち合わせていない。

しいて言えば、身近にいるカップリングは、

キャッツの夫婦に、ミックとかずえくらい。

しかし、こんなことを尋ねる訳にもいかず、

安易に外に出せない悩みがしわりと膨らむ。

撩との関係がより深くなったことに、

身も心もまだまだ追いつかない香であった。


***********************************
(4)へつづく。





ゴム使えば少しは汚れも軽減されるかもしれませんが、
汗やら何やらがたっぷりとなるとねぇ。
今は、こちらの設定11月中旬で、
これから寒くなっていく流れですが、
夏の暑い時は、もっと大変かも…。
(風呂で頑張ってもらうか…)
リアルは今日から5月、まだ年度末の件案を引きずっています。
早くケリをつけたい…。

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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