01-22 Start Line

第1部 After the Okutama Lake Side


(22) Start Line ****************************************************************4072文字くらい




香は、超至近距離の真っ直ぐな黒い瞳に射抜かれた。

動けなくなる。



少し口角を上げた真面目な顔で、自分を見つめる撩の表情は、

どんな女性もすぐに堕ちてしまいそうな魅力というよりも、

むしろ魔力がある。

黙っていれば、ホントいい男なのに、と普段のギャップを思い出しつつ、

この状況に、どうしようもない恥ずかしさが香の全身を駆け巡って行く。



気付いたら、もう口を塞がれていた。

香は、たまらず視界からの情報をシャットアウトした。

寝起き独特のねばつきが、自分の口の中に少しあるのが分かったが、

そんなことは気にするなと言わんばかりに、

ゆっくりと深いキスが始まった。



「んんんっ…。」



唇と口腔内をじっくりかけて一巡した後、

撩は唇を左頬に移動させた。



「っはぁ…。」



やっと息ができたと、水面から浮上したかのように深呼吸をする香。

酸素補給に気を取られていたら、突然左耳に温度を感じた。



「っあん!」



撩が香の耳介に吸い付いたり、舌で撫でたりと、細やかな刺激を送っている。

くすぐったい、というのとは違う感覚。



「っひゃぁぁん!」



初めての信号に、身が硬くなり、無意識に体が逃げようと抵抗する。

しかし、やんわりと体や頭を押さえられ、

わずかしか動かせない。



「…んー、いい声。」



香の耳朶をくわえたまま喋る撩の唇が、また違う刺激を作る。

あたる息が熱い。



「っぁ…。」



撩は、香が初めて漏らす官能的な喘ぎ声がたまらず、愛撫が調子に乗ってくる。

「っん…、はぁ…、やだ…、勝手に、声が、…あぁん!」

「…声は、我慢しなくてもいいから…。」



撩の唇が耳の後ろから首筋に少しずつ降りていく。

何もかも生まれて初めてのこと。

頬から肩口を、撩の唇と舌が緩慢に動き回っている。

同時に大きな温かい手が、香の髪や首や背中を優しく撫で続ける。

香は、恥ずかしさと心地良さで意識がかすれそうになりながらも、

今の状態を自分なりに理解をしようとした。



(……いや、じゃない。…むしろ、もっと触れて欲しいって、

心のどっかで思っている…。

…撩だから、撩じゃなければ、こんな気持ちには、…なれない。)



「っはぁ…、ふっ…りょ…。」

乱れる呼吸が撩の耳をくすぐる。

想像以上に、感じやすい体質と読み取った撩は、

香のこの反応でますます気分が加速した。



「…もっと、…お前の声を、…聞かせてくれ。」



香の耳元で本音を小さく囁く。

自分を感じて声を漏らす香に、撩自身が敏感に呼応しているのを感じる。

もう「試しに」と言っている余裕が全くなくなってしまった。



香は、体全体をふるふると小さく震えさせながら、

吐息とともに小声で啼いている。

初めて目にする愛撫に反応する香の姿は、あまりにも想定を外れた脳殺力を持ち、

撩の息子にも、しっかりすっかりエンジンがかかってしまう。



(まずいっ…。これは香が途中で拒否しても、もう止められないかもしれない…。)



つい先ほどまで思い描いていた、もし嫌がられたら、

香の意思を尊重するという考えが、いかに楽観視し過ぎていたか自覚が沸く。

このままなりふり構わず香を抱いてしまいたい衝動を必死に抑え込んで、

一度ふわりと唇を離した。



撩は、右手を香の頬に添え、虹彩の模様が見える距離まで顔を近付ける。

そして香に、低い口調で、文節を一つ一つ区切って尋ねた。



「……香…、このまま…先に、…進んでも、いいか?。」



瞬時に、香の体が硬くなった。

肩で息をしている香は、すぐに答えられず、

ゆらりと撩の目を見つめる。



(…さ、先って、…つまり、あーゆーコト、よね…、たぶん…。)



香とて、撩が意味することが分からない訳ではない。

ただ、リアルな想像ができないのだ。

この先に、一体どんなことが待ち受けているのか。

映画や撩の愛読書のチラミでは、

香の持っている情報はあまりにも乏しかった。

見つめ合ったまま、しばし沈黙が続く。



「………。」



「…俺と、もっこりするの、嫌か?」



先に口を開いたのは撩だった。

具体的に要求を表現され、ぼぼっと顔が火照り上がる。

心室が痙攣しそうな気分に言葉が出ない。

香は、女として求められていることが全く信じられなかった。

まだ、自分の右手は撩の左指が絡んだまま。

指から温度が伝わる。

頬に添えられていた右手の指は、香の柔らかい髪の中に埋められていた。



「いやな、……こーゆーことは、まだもうちょっと先でもいっかと……、

思っていたんだがな……。」



撩は少し困ったような表情で笑みを浮かべた。

自分がもはやここでストップが効かないくらい限界に近いことを

できるなら悟られたくない。



「おまぁが、もし今オッケーだったら、善は急げって言うしぃ〜。」

余裕のなさをごまかすように、軽い口調が出て来る。



香の指先が細かく震える。

もう望んではならないことと、望めば苦しくなるだけと、

そう思っていた禁忌の願望。

夢の中でしか思い描くとこが許されなかった女としての望み。

思い描く程、抜け出せない煩悶(はんもん)の渦に巻かれ続けていた

実現しえない希望。

それが突然今、自分の返事如何(いかん)で現実になろうとしている。



ここで拒んだら、このぬくもりが、この匂いが、

もう戻ってこないかもしれない。

ずっと触れていたい、ずっと触れててもらいたい。

離れたくない、離したくない。



まだ返事が出来ない香から、

撩は苦笑いを浮かべほんの僅かだけ体を浮かせた。



その瞬間、香は心の中で、だめ!行かないで!と、

見えない手が撩のほうに伸びる。

自分が深層で望むことに真っ向から向き合わされ、

香はついに意を固めた。



「………りょ…、撩は、…ほ、ほんとに、…ぁ、ぁたしで、ぃぃの?」



やっと出て来た香に言葉に、撩はほっとする。

(もう、おまぁじゃなきゃだめなんだよ。)

右手で小さな頭をそっと撫で、表情を真面目な顔に変える。



「…香は、俺でいいのか?」



優しく穏やかな口調で逆に問われる。



「…撩じゃなきゃ、…ぃや…。」

(撩以外は、考えられないよ…。)

「…香。」

「………でも…、りょ…、あたしなんかで、…その、

………もっこり、できるの?」

「へ?」



撩は目が点になった。

何を今更そんな心配をしているんだっ、と困惑したが、

冷静に考えれば香がそう感じるのも当然だった。

香の自己評価は、周囲の人間の想像以上に低過ぎるのだ。

そこに、撩が自分をごまかすために、

今まで、散々、男女とか、唯一もっこりしない女とか、

全面否定の言葉ばかりを浴びせ続けてきたのだから、

これからのことに疑問に感じても全く不思議ではない。



(し、か、しっ!、おれのもっこりは、

朝もっこから、そのままアイドリングがかかって、

さっきからもうギンギンパンパンで、

いつでもスタンバイオッケーなんだっ!

それが、今まで分からなかったっつーの?)



撩は、小さくため息をついて、布団の中で、

わざと香の腰にもっこりをつんと押し当ててみた。



「香…、これで俺のもっこりがどうなってるか、分かるよな…。」



何が体に当たったか、理解ができた香は、

どきりとして、今まで以上にカーッと赤くなった。



「………俺と一緒に、一線を越える覚悟は、出来てるか?」



香は、目を潤ませながら、撩の瞳を見つめた。

何秒か、何十秒かの沈黙。



「……ぅん…。」



香は、少しの微笑みを浮かべて、小さく返事をした。

撩は、ふっと息を吐き、わずかに表情を緩めた。



「……もう、後戻りはできないぞ…。」



今までのじれったい曖昧な関係から、本当に決別するこの行為、

越えた後は、取り消しなんか効かない。

自分にも言い聞かせる。

もう、表の世界には戻せなくなると。



「……撩と、……一緒なら、いい…。」



撩は、香の覚悟を確認し、同意を得たことを心底嬉しく思った。

同時にちくりと罪悪感が胸を鋭く刺す。



「で、でも!…は、初めてだからっ、

…その、…ぉ、ぉ手柔らかに、…ぉ願ぃ、…し、ます…。」



赤い顔をして、

初心者であることを恥じらいながら訴える香が、たまらなく愛おしく感じる。



「……香。」



絡めている左手の指に力が入った。香も握り返してくる。

指の間からトクトクと心音が伝わってくる。

この期に及んでも、

本当にいいのか?と躊躇いの声が脳の奥で聞こえてくる。

湖畔で唇を重ねた時、この関係を壊そうと決心したのは自分だ。

闇に引き込んでしまう原罪を背負ってでも、

お前と、生きたい。



撩は迷いを振り払う。



右手で香の頬をそっと撫でた。

痛い思いをさせてしまうかもしれない。

苦痛でこの顔を歪ませてしまうかもしれない。

いや、かもしれないではなく、

痛さで気を失わせてしまう可能性だってある。

それでも、自分を必死で受け入れようとしているその姿に、

また、胸の奥を握られるような感覚が再来した。



(俺も切羽詰まって決壊寸前だが、

怖がらせないよう、注意深く、慎重にだな…。とにかく優しくしなければ。)



撩は、右手を伸ばして、ブラインドのシャッターの角度を変え、

陽が入らないようにした。

恥ずかしがり屋の香にとって、まだ明るいところでは、気の毒だと思っての配慮。

薄暗くなった室内で、ほっとした香の表情が見える。

ついでに、着ていたスゥエットを脱いで上半身をあらわにした。

絡ませた左指を解くのに一抹の淋しさを覚え、

離さないまま脱げないかと、ちらとでも考えた自分に驚く。



香が、布団から赤い顔をして目だけを覗かせて、こちらを見ている。

(う、かぁーいーかも。)

「どう?俺の肉体美。」

照れ隠しに軽いセリフで言ってみた。

「っ!ば、ばか…。」

思わず目をそらした香は、さっきからドキドキしっぱなしなのに、

撩の全く無駄のない筋肉質の体に更にときめいてしまった。



(な、な、なんで?今更?

今まで、撩の裸なんていくらだって見てきたくせにぃ。)

そんなことを考えていたら、薄い掛け布団をかけ直しながら、

撩がゆっくり覆いかぶさってくる。



「……この日がくるまでの道のりは、長かったな…。」



撩は、左右の肘で上半身を支え、

香の小さな頭を両手で包むように撫でる。

香は撩の手がさっきより熱くなっているような気がした。

服越しに感じる撩の体全体もすごく温かく気持ちいい。



「りょ…。」



撩は香の前髪をかき分けて、もう一度額に唇をつける。

香は静かに目を閉じた。



「時間が、かかった分…、」

撩の唇はそのまま高い鼻筋を辿って、

「これから…、ゆっくり…、」

鼻尖に吸い付き、

「取り戻して、いこうな…。」

香の唇に到着すると、また深いキスから再開した。



**********************************************
第2部(1)につづく。(注)第2部は年齢制限あります。





はぁ〜、や〜っとここまできました〜。
第1部終了〜。
他の作家さんの切り貼りをした感もある中身ですが、
2人の初夜のスタートは、
こんな感じがいいなぁ〜とワタクシの勝手な願望をまとめてみました〜。
当初は、ここで妄想の吐き出しを終わりにしようかと思っていましたが、
止まりませんでした…(爆)。
続きをご覧になりたい方は、あだるてぃなお話しなので、パスワードが必要です。
原作をしっかり読んで頂ければたぶん見えてくるキーワードかなと。
美樹のセリフがポイントです。
中身はあまり期待されないようにぃ〜。


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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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