19-06 A Complaint

第19部 Shopping

奥多摩湖畔から10日目


(6)A Complaint *************************************************** 2295文字くらい




店の勝手口のドアが乱暴に開く。



「あら!撩ちゃん!」

裏方で、

片付けと帳簿をつけていたエロイカのママが立ち上がった。

午前中のこの時間の登場は

異例中の異例ではあるが、

さほど驚かず、

訪問はさも当然という表情で出迎える。




「『あら』じゃねえっ!」




入ってきた種馬は苛立ちを誇張して口に出す。

他の店員やバイトは既に帰宅済み。

また夕方の再集結時間までそれぞれフリータイム。



「昨日は、香が世話になったようだな…。」

「まぁまぁ、撩ちゃん、そんなに怒らないでよっ♡」

作業中の手を止めて、

大きなママは

撩をそのまま店のカウンターに促した。

触られる腕を、

さも嫌そうに振り払い、

心底機嫌が悪いと言わんばかりに、

どかりとスツールに腰を下ろす。



「何か飲んでく?」

「うんにゃ、忠告だけしに来た。」

頬杖をついて、眉にシワを寄せ、目を閉じている姿は

オーラで『余計なこと喋りやがってぇ』を発している。

そんな撩の様相を見ながら、

ママは物怖じもせずにカウンター越しにくすりと笑った。



「ムリよ。」

「ああ?何がだよ?」

「撩ちゃんが、いくら口止めしようとしても、たぶんムリよ。」

「はぁ?」

ママは、ふっと息を吐き出す。



「これまでさぁ、

香ちゃんには絶対言っちゃだめ、っていう暗黙の掟があったのよねぇ。

この店だけじゃなくて、

香ちゃんと撩ちゃんのことを知っている

みーんなの約束みたいなものがねぇ。」

「は?」

「あなたたちが、曖昧な関係のうちに、

もし香ちゃんが、

知っちゃったてら困ることが、

い~っぱいあるでしょぉ〜。」

意味深な口調で体を斜めにしながら

じりっとにじり寄ってくるママ。



「それを今まで、言わずにおいただけよ。」

「ぐっ。」

「……ケジメを、つけたんでしょぉ?」

撩の鼻先にママの鼻がつきそうなくらい顔面が接近する。

否が応でものけぞりたくなる。

「そ、そんなに近付くなっちゅーのっ!」

「だったら、何を聞いても大丈夫よ。彼女は。」

すっと身を引く筋肉質の巨体が柔らかい笑顔になった。

その余裕さにむっとする撩。

「だ、大丈夫じゃなかったんだよっ!

おめぇらどこまで喋ったんだよっ、全くっ!」

「あーら、昔撩ちゃんがモテモテだったって、

言っちゃダメだったかしらぁ?」

「む、昔って、俺は今でもモテモテなのっ!

他にも余計なこと喋りやがっただろっ。」

「あら?撩ちゃんがおうちで、

ちゃあーんとフォローしてあげたんでしょ?

それでなくても、

香ちゃんは勘がいいところもあるから、

あたしたちが言わなくても、

とっくに気づいていた部分は沢山あったと思うけどねぇ〜。」

一見矛盾した物言いだが、

間違いではないことがお互い分かっている。

がしがしと頭を掻く撩。



「だ、だがなぁ!」



続きを言おうとして、

ママの手の平が撩の顔の正面にビシっと止まる。



「全ては、香ちゃんのため。」



撩の動きがふと止まった。

「悪い結果になるようなことは、うちの店のコは漏らさないわよ。」

にっと口元を細い三日月型にする。

「まぁ、撩ちゃんがきちんと対処することが前提だけどねぇ〜。」

両腕をカウンターについて身を乗り出すママは、

昨夜撩と香がどんなやりとりをしたか、

聞きたくて聞きたくてしょうがない。

「んふっ♡さらに絆が深まったんじゃなぁ〜い?」

「けっ、余計なお世話だ…。」

唇を尖らせた男は腕組をして、

スツールを90度滑らせ、体の向きを変える。





「……あいつには、まだ、刺激が強すぎるだろうが…。」





これまで、この街の連中の気遣いで、

撩の闇の部分は、

香に知られないように手回しがされてきた。

その無言の協定が、無効になったという宣言に、

撩は心の中で頭を抱えた。



「心配することないわ。

みんなあなたたちの味方よ。

下手なことしたらどうなるかぐらい、

承知しているんだから。」

「もう十分、下手なことをされてんだがな…。」

「じゃあ、しばらくは、

香ちゃんをこんなところに一人歩きさせないことね。

あたしたちも、昨日は驚いちゃって嬉しさのあまりに、

あのコたちもちょっと箍がはずれちゃったのよ。」



「はぁぁぁ…、調子に乗るなよぉ…。」

長い溜息をつく撩。

「きっと報酬が入ったから、

少しでも早く撩ちゃんのツケを支払いたかったんでしょ?」

「んだよ、自業自得とでも言いたいのか?」

「そのとぉ〜り。」

ウィンクで返すママは、

未だ流れの主導権を握っている。



至極面白くない撩。

「とにかく!俺がいないところで、

あいつに昔のことをくっちゃべるなっ!」

「約束は、出来ないわね…。」

「ああ?!」

「心配なら、彼女に発信機だけじゃなく、

盗聴器も常に付けさせておくことね。」

ニンマリと笑顔で返すママは、

その太い腕を組んで撩を見下げた。




「……香ちゃんの左の鎖骨の下、見せてもらっちゃったわよっ。」

「っ!!」

「もっと見えないトコロに付けるべきよねぇ〜。

うちのコたち大喜びしてたわよぉ〜。」



撩は香の昨日の服装を瞬時に思い返す。

ジャケットに、厚手のシャツだったが、

背の高い視線から見下ろせば、もしくは香が屈んだりすれば、

ぎりぎり見えてしまう襟の開き方だったはず。

思わず右手で両目を押さえた。

一気にその ” 喜ぶ店のコたち ” の様子が映像化される。





「あのバカ…。」





「バカは撩ちゃんでしょぉ〜。」

「へいへい、そのとぉーりでやんす……。

ボクちゃん……、もう帰るわ……。」

がっくり肩を落として席を立つ。

「そのうち、二人でいらっしゃい!」

「アホ抜かせ、来れるかっつーのっ!

とにかく香に余計なこと言うんじゃんぇーぞっ!」

「ふふ、とりあえず心にとめておくわ!じゃあね!」

明るく見送るママ。

撩は、店の表の出入り口から、

背中を丸めてカランとカウベルを鳴らして出ていった。





「あんなこと言いながら、たぶんそのうち連れてくるわね。」




確信した未来を口に出したママは

笑顔で裏方に戻っていった。


*************************************
(7)につづく。





とりあえず苦情を訴えた撩ちんでした。



【思い立ってちょこっと改稿しました/2016.07.25.火.21:52】

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
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十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
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