19-08 Palco

第19部 Shopping

奥多摩湖畔から10日目


(8) Palco ********************************************************3198文字くらい



食器を洗い、シーツを吹き抜けに干して、窓を閉め、

買い物メモを確認し、ベッドのサイズをとりあえず計測して、

ようやくアパートを出られたのは、午後2時前。

先に、新宿駅に寄ってから、依頼の有無を確認。

今日も、毎度ながらXの一文字も見当たらず。

ロータリーで待つ撩のところへ、急いで戻る香。



「お待たせっ。何もなかったわ。」

香は、バタンと助手席のドアを閉めながら報告する。

「ほいよ。じゃ、行くか。」

「どこに行くの?」

近場ではなく、遠出の買い物。

具体的な場所は絞られていない。

「あー、決めてない。」

そう言いながら、撩はアクセルを踏む。

赤い車は、そのまま新宿通りに入り、ガード下くぐり、

中央公園方面に向かう。



「……区内からは出たほうがいいな。」

「え?」

「23区外に行くか。」



西新宿インターに入り、中央自動車道に乗ったクーパーは、

そのまま西へ走った。

奥多摩からの帰り道以来の道で、香はワケもなくどきりとした。

この先、23区外となると、世田谷区に隣接している調布が一番近い。

買い物の距離としてはなんとか許容範囲。



「ね、ねぇ、撩。」

「あん?」

「あ、あのね、調布のパルコに行かない?

確か2年くらい前に駅前に新しくできたばかりで、品揃えもいいらしいし。」

渋谷のパルコは時折ショッピングに出かけていたが、

馴染みのある名称で、距離や、買い物の内容から、

手持ち情報を撩に伝えてみる。



「んー、おまぁ、そこでいいのか?」

「それ以上遠くに行くと、ほんと郊外になっちゃうわよ。」

「んじゃ、調布でおりっか。」

具体的な行き先を絞っていなかった撩も、特に問題はないだろうと、

提案に賛成する。

高速ならば、さほど時間はかからず約20キロ強の道のりをスムーズに進む。



調布インターを降りて国道20号に入ると、すぐに駅前。

お互い初めて来る場所ではあったが、目的地はすぐに分かった。



「駐車場は、立体に行けってか?」

徐行しながら、パルコに近付きパーキングの案内を探す撩。

コースを見つけて、素早く駐車場に停車した。



「どこから見るんだ?」

「あ、え、えーとね、食料品は後にして、

さ、先に服とか靴とかストップウォッチとか探したいんだけど。」

「りょーかい。」



車を降りて、建物に向かう。

いつもとは、違う場所での撩と一緒の買い物、

ただ、それだけなのに香は初めてのデートのような気分で、

余裕なくドキドキとしていた。



絵梨子と再会した時の原宿も、

かなりムリを言ってのショッピング、

お互い、喧嘩腰のイラツキを露わにしながらの買い物に、

結局は一緒に来るべきではなかったかと、がっくりと肩を落とした。



今は、違う。



背の高い撩の隣を歩くだけで、胸がきゅんとつままれる。

嬉しいけど、どこかぎくしゃくして、

顔が熱くなる。



(これは、ただの買い物、買い出し!

なに、あたし一人で舞い上がってんのかしらっ。)



そう言い聞かせて、店内に入る。

広く明るいフロアーに、眩しくて目が細まった。

「出来てそうたってないから、まだ新しさがあるわねー。」

周りが写り込んでいる床に目を落とす香。

「えーと、案内看板かなにかあるかしら?」

軽く見回すと、エレベーターの脇に各階の店舗が大きく掲示されている。



8-10F ホテル
7F レストラン
6F ファミリー、リビング、アウトドア
5F カルチャー、スポーツ
4F メンズスタイル
3F レディース
2F レディース
1F レディース
B1 パルコフードマーケット



「……へぇー、ホテルも一緒にあるんだ。

うーん、上から順に片付けて、最後に食料品かしら。

撩、6階から行こ。」

「あいよ。」

そう言いながらぽちっと階上に向かうボタンを押す撩。

脳は、カオリンといつかホテル行きモードでピンクに塗られる。



わずかな待ち時間でエレベータが到着し、静かに入り口がスライドする。

乗り込むと香は6の数字を押した。

撩の距離が近い。

真後ろに立っている。

クーパー以外の密室の狭い空間に、

また香は一人どぎまぎして、肩幅がくっと狭まってしまう。

撩は、ちらっとエレベーターの天井を見る。

隅に監視カメラ。

いたずらをするには、時間も短すぎるし、他人の目もあるかと、

邪な思考をとりあえず保留にする。



「さ、さてと、ここではシーツとバスタオルね。」

フロアに着くと、香はカートを引き寄せ、買い物メモを見直した。

「撩、あんたどうする?その辺で待ってる?それとも一緒にまわる?」

「あー?行くよ。離れると合流めんどいし。」

一緒に歩く気まんまんだったので、

別行動の提案にちょっとだけチクリとくる。

それが、香の付きあわせ過ぎると申し訳ないという思いが含まれているもの承知しているが、

気分は、許される限りそばにひっついていたいのが本音。

そんなことを短い時間のうちに思い巡らせながら、

香の触り心地のいい肩を押す。

「ほれ、行くぞ。」

先に見つけた寝具コーナーに誘導する。





「ど、どうしよう。こんなに種類がある…。」

ずらりと商品が並んだ棚にたじろぐ香。

おしゃれな柄に、材質も様々。

「いや、思ったより選択肢は少ないぜ。」

「え?」



撩の大きいベッドは、キングサイズと思っていたら、

計測すると、クイーンのロングサイズに近いことが分かった。

端にゴムを引っ掛けるタイプのものは、それに合うサイズが思いの外少ないと、

香は商品を手にとりながら、撩の言葉に納得した。



「はぁ…、あんたなんであんなややこしいいサイズのベッドなのよっ。」

「あーん?俺の体だと長さが2メートル以上ないと狭くて寝れんだろ。」

アパートに住み始めた初期から、教授経由で今の場所に鎮座しているベッド。

そろそろスプリングもヘタれてきた感もある。

「なんならキングのロングにでも買い換えっか?」

キングベッドのロングは194cm×205cm、シングルベッドのロングを2つ並べたサイズ。



「それなら多少暴れてもベッドから落ちる心配はなくな」

スコーンと顎に当たったのは1トンハンマー。

「あ、暴れるって何よっ!全くもぉっ!

さっさと選ぶわよっ。他にもまだ買うものあるんだから!」

撩のセリフの意味するところが分かってしまった香は

頬を染めて、商品に向き直る。



これからの季節用に起毛のタイプ2枚と、乾きやすい普通のシーツを2枚と

計4品選び出す。

(ま、まるで新婚カップルが、新居に引っ越す前の備品調達みたいだわ…。)

勝手に想像を巡らせた香はまた一人体温を高めてしまう。



「りょ、撩、もうこれでいいわよね!」

カートのカゴにシーツを重ねて入れて確認をしようとするが、

近くに相方がいない。

「あ、あれ?」

視野を広げると、少し離れた売り場で何かを眺めているところを発見。

カートを押してそばに行く香。

「な、なに?他に買わなきゃいけないものある?」



寝具コーナーに隣り合った家具電化製品コーナーで、

小型冷蔵庫に視線を落としている撩。

「こいつも、いずれ必要なんじゃないか?」

「はぁ?な、なんで?」

「喉乾くだろ?いちいち下に降りるのメンドーだしぃ。」

「????。」



この男は、一体なんのことを言っているのかと、目をパチクリさせる香。

しばし考えて、

撩の部屋に冷蔵庫←喉が乾く←いつ乾く←あの後、と逆算がようやく終了。

またボボボっと赤くなる。



「も、もうっ!外で、な、なんてこと言うのよっ!」

「あ?余計なことはなーんも言ってないぜ?

カオリンなんか想像しちゃった?」

にやりと意地悪そうに問う撩。

「ばっ、バカっ!」



ぷいっとそっぽを向くと、そのままスタスタとカートを押して、

撩から離れる香。

ただでさえも、ドキドキしている買い物なのに、

あっけらかんと『アノ』ことに触れてくる撩にどう切り返したらいいのやら、

できるだけ今は思い出さないようにしている努力が簡単に崩されていく。



「つ、次はバスタオルだからっ。」

「あいよ。」

耳まで赤くなっている香の後ろを、

ポケットに手を突っ込んだ撩は、ひょこひょこと追いながら

楽しそうにその小さな背中を眺めていた。


***************************************
(9)へつづく。





調布は親戚がいたり、昔父が単身赴任で住んでいたり、
友人知人も多い地域で、
何かとゆかりのある場所なんですが、
実は、ここも中には入ったことがないのですよ…。
というワケで、実在する店舗ではございますが、
中の様子は適当ですのでご了承下さいませ〜。
エレベーターのカメラもあるかないか知らないまんま、
案内掲示板もどこにあるかさっぱりです〜。
テリトリー内の方、ごめんなさい。

【Sさん感謝!】
誤植発見ありがとうございます!
ベッドの数値変更しました。
どんな巨人が寝るよ…と、
自分で吹き出しました。
ご連絡改めて感謝ですぅ。
[2013.12.11.08:18&12.15.03:28]

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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