19-09 Elevator

第19部 Shopping

奥多摩湖畔から10日目   


(9)Elevator   ****************************************************4019文字くらい



6階で起毛の敷パット2枚、普通のシーツ2枚、バスタオル4枚、

5階でストップウォッチ、トレーニングウェア上下セットに室内用の運動靴とマスク、

4階で撩のトランクス、Tシャツ、靴下の3セットを多めに、

3階で香のハイネックのトレーナーとTシャツそれぞれ2着ずつに、ストッキングと、

1台のカートは上下とも日用品で埋まる。



「つ、疲れた…。店内って結構歩きまわる距離が長いのよね…。」

普段、あまりまとめて買うことがない品々を

各階で探して選んで会計してと、

ようやく残すは食料品だけとなった。



「りょ…、どうする?一度これ車に移してから地下に行く?

それとも、このまんま食料品売場行っちゃう?」

「あー、往復すんの面倒くせえな。とりあえず地下に行っちまおうぜ。」

そう言って、エレベーターのボタンを押す撩。




「はぁ…。」

エレベーターの壁に寄りかかる香。

疲れは、歩数の問題だけではない。

いちいち物品を選び買う度に、撩のセクハラ的発言でどっと疲れるのだ。



ストップウォッチを買うにしても、縄跳びの時に測るためと言ったのに、

「ふーん、リョウちゃんのもっこり持続タイムを測るってワケじゃないのね〜。」と

さらりと言いのけ、またハンマーを飛ばすことに。



トランクスを選んでもらおうと、売り場に行くと

「あーん?今までおまぁが買ってきてただろうが。選ぶの面倒くせー。」

と言いながら、下半身のみのマネキンを抱えて、

ぴっちりとした黒いブリーフをじゃんと見せ付け、

「それとも、おまぁ、こーゆーもっこりが分かりやすいタイプが好きかぁ?」

とにやけ顔で聞いてくるので、またミニハンマーを招集。



自分のハイネックを選ぶ時も、

「ぐふっ、これでちゅうマークつけていい場所増えるもんねー。」

嬉々として衣類に触れる撩に、

近くに他の客がいるにも関わらず、

思わずいつもの100トンを落としてしまい、

店員が驚いて駆け寄って来る始末。

慌てて弁明し、とりあえず床は壊れていなかったので、

あたふたとその場の用事を済ませてフロアを後にした。



プシューと、エレベータが開く。

夕方の時間帯、地下の食品売場は結構混み合っている上に、

上の階よりも通路が狭い。

荷物がたっぷり乗ったカートを押して見て回るのは抵抗がある状況。



「ねぇ、撩はあっちのベンチがあるところで待ってて。すぐに済ませてくるから。」

香が指さしたレジの奥の休憩コーナーに目をやる。

「あー、そのほうがいいようだな。」

「ちゃんと荷物見ててよっ。じゃあ行ってくるから。」

荷物をほっぽり出して、

試食を進める可愛い売り子さんに、まぁたちょっかいを出しに回りそうだと、

これまでの撩の生態を振り返るも、

とにかく早く買い物を済ませなければと、

地下のフロアを早足で巡ることにした。



いつも利用しているスーパーよりも割高ではあるが、

いい品揃えもよし、報酬も入った後、

これから別の店に行って買い物をする時間と手間の省略と思えば、

値段への罪悪感は軽くなる。

生鮮物を中心に、これから数日の献立を思い浮かべながら

香はカゴに選んだものを入れていった。



一方、撩は荷物の番犬状態で指定された場所で大人しく待機。

ベンチの端に座り、背もたれに肘を預けて頬杖を付き、ふっと息を吐き出す。

その表情は決して嫌がっている空気ではなく、

忙しく歩きまわる香をしっかりと視線でロックオン中。

おのずと唇の端が緩む。



(んと、まるで夫婦だわな…。)



ケジメをつけたとはいえ、

世間ではまだ「同棲中の恋人」止まりで、

まだ夫と妻と呼び合える仲ではない。

ただ、今日のこの買い物を通して、

もう自分たちの中身は既に所帯を同じくした夫婦であると

疑いようがない関係を客観的に感じ入る。



各階の会計をしていた店員も、

買っていたものから間違いなく夫婦かそれに近い関係と読んでいただろう。

それが、どうにもこうにもくすぐったく感じ、

これが、スイーパーとして、殺し屋として、

裏の業界で世界一の肩書きを持つ男の日常だろうかと、

自身のギャップに可笑しくも思う。



「……悪かぁない、よな。」



ぼそっと呟く撩。

しかし、美樹とファルコンのように、仲間の前で正式な婚姻を披露するまでの

心の準備は全くもって出来ていない。

自分がファルコンと同じうように、燕尾のスーツを着て、

ウェディングドレスの香と歩くなんぞ、

想像するだけで、平静さが保てなくなる。



「ぅー、だめだ、考えらんねぇ…。」



もし、それが実現したら、

きっと香はこれまでにない極上の笑顔で喜ぶことだろう。

その顔も見てみたい。

騒動が起こる前の教会で、ほんの一瞬そう思っていたのもまた事実。

かといって、香が40、50になるまで先送りすることも憚(はばか)られる事案。

それでもお互いの心の準備が整うのは、まだ当分先になりそうだと、

挙式のある未来を全面否定することのない自分に、ふっと苦笑した。



そんな考え事をしながらも、

撩の視線は追跡モードを解除することなく、香を追い続ける。

カゴ一杯に食材を詰め込み、レジに並ぶところ。

高額の入金後なので、

若干いつもよりも値の張るものもちらりと見える。



他の客よりも上背がある分、

レジでもそのモデルのような姿は目を引く。



「目立つ、よな…。」



また、ぼそっと声が出る。

色白で、美しい顔立ち、腰の細さとふくよなか胸元が目立つスタイルの良さ、

醸し出す空気の穏やかさ、活力のある栗色の瞳。



会計を済ませる香は、レジ係りの女性にもお釣りを受け取るときに、

笑顔でどうもと、声掛けをする。

振りかまれるスマイルパワーに勘違いするヤローも多いことを

本人は全くもって気付かない。

撩は、目を閉じ後ろ頭に指を組んで、んーと伸びをした。



「ボクちゃんだけに向けてればいいっつーの…。」

「は?何を?」



ぽろっと指が解け、目を見開く撩。

視線の先には小首をかしげ自分を見下ろしている香。

その手には買い物袋が積まれたカート。

長い睫毛でまばたきを繰り返し、

きょとんとした顔で、無言の撩を見る。



「……お!やっと終わったか!もうあと買うもんはないな!」

油断した自分をごまかすように、待たされたモードで、

普通を装う撩。

すっくと立ち上がって、香を見下ろす。

「う、うん。」



撩の計算ミスは、

レジですでに袋詰めのサービスが行われていたこと。

他の客がサッカー台で、買い物袋への詰め込み作業をしていることから、

当然、香もそこでの時間を取ると思い込んでいた。

そこへ、レジからストレートで自分のところに戻ってきた香に、

こぼれ出た独り言をまた聞かれてしまった次第。



(かぁ…、なんかこのところ、こーゆーコトが増えてない?オレってば。)



二人でそれぞれにカラカラとカートを押しながら、エレベーターに向かう。

「で、さっきの、何を向けるって?」

撩の独り言を、何の警戒もなく蒸し返す香。

エレベータの扉が閉まる。

口元をややへの字にして、顎を反らせ気味に視線を下に向ける撩。

監視カメラの角度から接触面が丁度見えないように、

素早く行動に移した。




ちゅ。




「…………。」





何が起きたか理解できない香。

両手を壁につけたまま、つと離れる撩。

何が起きたか理解できた香。

一気に体温計の目盛りが上がっていく。



「っな!っな!こっ、こん、…なにっ、か、か、かっ!」



何語をしゃべっているでしょうかというどもり具合に、

くすりと笑う撩。



「そーゆー顔は俺だけに向けとけってこと。」



低い機械音でエレベーターの出口が開く。

「ほれ、行くぞ。」

先に出る撩。

「も、もうっ!一体っ、なななに考えてんのよっ!」

わたわたしながら、カートを押す香。

そのまま立体駐車場へ向かう。



数時間かかった買い物がようやく一区切り。

クーパーの後部座席とトランクに買ったものを詰め込み、

カラのカートを戻しに行こうとする香。

「あー、俺が行ってくるわ。」

さらりと交代し指定席に置きに行く。



「やっぱ、ヘン、よ…。撩が自分からそんなことするなんて…。」

見送りながら、いぶかしがる香。

「さ、さっきの、いきなりのアレもなんなのよー!あ、あんなところでっ!」

思い出して、かっかしながら助手席に乗り込んだ。



撩は撩で、前の買い物の時に、カートを戻しに行った香が、

自分が気付かないうちに戻ってきて、

あまり聞かれたくなかった独り言を聞かれてしまったので、

それを思い返して、

自らカートの後始末を買って出たのだ。



それでなくても、さっきも同じミスをしてしまっている。

ミスと言っても、命のやり取りに関わる案件ではないにしろ、

奥多摩以来、

ふとした考え事からポロリと漏れ出る愛しいパートナーへの独り言は、

自分でもかなりこっ恥ずかしい。



むしろ、ケジメを付ける前は、

本業での細かなミスが続いていたのだから、

それに比べれば可愛いものではあるが、

らしくねぇなと、

撩は、苦笑いを交え頭をかじかし掻きながらクーパーへ戻った。



「んじゃ、帰るか。」

運転席のドアをバタンと閉めながら、横目で香をちらりと見る。

まだ顔を赤くし、肩が碇型に縮こまっている。

文句を言いたげなその表情に、ぷっと吹き出す。



「なっ!なによ!」

「べぇっつにぃ。」

エンジンをかけて、車を出す撩。

「も、もぅ!ワケわかんない!あ、あ、あんなトコで、ああああんな、こ、こっ」

訴える香を横目に、

一旦停止して、駐車券を入れる。

買い物も一定金額以上なので無料となる。

「誰にも見られてねぇーよ。」

アクセルを踏む。

「!!、っだって!か、か、カメラがっ!」

香もちゃんと監視カメラの存在と位置を認識していた。

「わぁーってるって、ちゃんと角度考えてんだよ。心配すんな。」

なめらかに駅前に出ると、そのまま高速へ向かう。

「でででもっ!そ、そ外でっ。」

「んー?今までも外で何回もしてんじゃん♡」

にまっとして、忘れたのぉ?と視線で尋ねる。

香は、ひくっと、窓側に逃げ腰になってしまう。



今、隣にいるオトコは、本当に自分が知っている撩なんだろうか、と

こうまで言動が激変している相方に、

未だ、身も心も適応できない香であった。


*****************************
(10)へつづく。






ナンパするより、カオリンをからかっている方が楽しい撩ちん。
以下、個人的な話しなので、
見てもいい方だけスクロールを。
ちょっと弱音吐き気味…。

















ようやく四十九日が明けました。
本当は、くだんの後輩の実家が調布だったので、
このお話しの地名設定も変えようかと迷っていたのですが、
どうしても代替策を出せずに、そのまま公開することにしました。
4月は、もう何をするにも上の空。
雪の残る山の映像を見たり、
子供が使っているヘルメットを見るだけで、
込み上がってくるものがあり、
なかなか現実の生活に集中できず、
このサイトを作ってしまったがために生み出したトラブルや
一読者として失態を繰り返した暗部も重なり、
心が弱っているなぁと、自覚があるところに、
許容量オーバーの雑務に追われる日々。
それに加え、他にも近い周囲で不幸が重なり、
もうなぜ、どうして、と
心が潰される気分にもなりました。
正直、1日でもいいから何もかにも放棄して、
逃げたしたいと思ったことも…。
表ブログではあからさまに自分のネガティブな状況を
つらつらするワケにもいかないので、
出来るだけ、いつも通りでの発信をと思っていましたが、
記事を作るスイッチもオンに出来ず、時間もとれずで、
溜め込んだものを
やっとGW明けにまとめて片付けと、
ネットに費やす時間もやや心に重たく感じることもありました。
しかし、立夏を過ぎてやっと、
その後ろ向きな反応も小さくなった気がします。
とにかく今は、前を向かなければと、
足を進めているところです。
初夏を迎え、生き物たちの賑わいも増してきました。
この気温の上昇に気分を乗せて行ければと思います。
今後、やや慌ただしくなるので、
また目次の放置がでてくるかもしれませんが、
5月分は自動更新で設定していますので、
またお気軽にお立ち寄り頂ければと存じます。
半ば愚痴状態で失礼致しました〜。
[2013.05.13]

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


9万hit記念に
とりあえず作ってみた
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試運転中…

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