21-03 Bowl Of Comed Beef

第21部 Invasion Of A Novelist

奥多摩湖畔から11日目 


(3)Bowl Of Comed Beef ********************************************* 2246文字くらい



「何つくろ…。」



シャワーと着替えを終え、洗濯機のスイッチを押し、

キッチンに入った香。

いつものジーンズスタイルにライムグリーンのハイネックに

白いトレーナー。

その背中は、もんもんと悩んでいる。



朝昼兼用というどころの時間帯ではない。

今から真面目に作り始めたら、仕上がる頃には

3時のおやつの時間のほうがむしろ近くなる。



「はぁ…、なんで起きれなかったのよぉ…。」



くるるるる、と自分の胃も再び空腹を訴える。

炊飯器の中には、朝のうちに炊きあがっている白米。

夕食のことを考えると重たすぎる訳にもいかない。

この中途半端な時間帯での食事作りに、

冷蔵庫を前に立ち尽くす香。

まずは、いつもみそ汁を作る鍋に水を入れ沸かすことに。



これから伝言板も見に行かなければならないし、

撩に課せられた縄跳びもある。

洗濯物も、昨日買って来た分を早く片付けなければならない。

買い物は、昨日の買い出しで間に合っているからよしとして、

このままでは、あっという間に夕方になること間違いなし。



肉類を解凍する時間もないので、

香は戸棚の開き戸のある常温保存食品倉庫を開けた。

「よし!コレにしよう!」

手に取ったのはコンビーフの缶。

以前、撩のツケを払いに行ったお店で1ダース入りの箱ごともらったものだ。

オーナーのママさんから、

珍しく発色剤が使われていない国産牛の品が手に入ったと

日頃の御礼代わりに押し付けられた。

非常用に未開封だった梱包を開ける香。

缶を3つ選び、白木のテーブルに並べ、1つ1つ開封する。

ガラスボールにそれを移し、木べらで形を少し崩しておく。

先に加熱中の鍋は沸騰し、

香はスライスされた乾燥椎茸、

お麩、夕べのうちに塩抜きしておいた塩蔵ワカメを投入して、

中火に調節。

次は素早くまな板を出し、包丁も軽く流水に流して、

タマネギの薄切りを用意する。

大玉1個分と青ネギも手早くカット。

冷蔵庫から卵を取り出し6個分をボールでときまわす。



一区切りついたら、次はシンク下から中華鍋を取り出し、火をかける。

熱せられたところで、オリーブオイルをいつもより少量かけ回し、

ほぐしたコンビーフを投入。

肉の脂ですぐにしっとりと柔らかくなり、香りが漂う。

元の形がなくなったところで、タマネギを一緒に炒める。

コンビーフにもともと濃い塩味がついているので、

塩こしょうの調味料は必要なし。

じゅーという音とともに、食欲をそそる匂い成分が鼻先をくすぐる。

タマネギがしんなりしてきたところで、

溶き卵を一気に流し入れる。

菜箸からターナーに持ち替え、ざっくりと混ぜ合わせ、

きざみネギを多めに加えた。

黄色と緑とコンビーフの茶褐色が互いの色彩を引き立てる。

半熟状態で火を止めて、隣の鍋に味噌を溶かす。



「こんなもんかな。」



炊飯器を開けて、さくさくとしゃもじを動かすも、

保温時間が長過ぎた時の特有の固さと匂いで、やや眉を下げる。

撩用の大きな丼と、自分用のやや小さめなサイズの器を用意し、

白米を盛りつける。

中華鍋から、コンビーフの卵とじを掬い上げ、白米の上に乗せ、

炒りごまと刻み海苔を振りかければ、コンビーフ丼の出来上がり。

2人分、ついだはいいが、まだ撩は降りてくる気配がない。



「もう、知らないんだからっ。」

待っている余裕もなし、起こしに行く気分もそがれたまま。

香は、トレーの上によそった大きな丼と、

カラのみそ汁椀、箸をセットしラップをかけた。

「とにかくさっさと食べて出なきゃ。」



かなり久しぶりに作ったこのメニュー。

「いただきます。」

一人でもとりあえず有り難く頂く挨拶は忘れない。

ぱくっと一口頬張ると懐かしい味に少し顔が緩む。



「高校の時以来、かな?」



これも、槇村が香に教えた急ぎの時のお手軽メニュー。

早くから兄妹だけの生活をしていた二人にとって、

この手のレパートリーは欠かせない。



「は、早く食べなきゃ。」



はぐはぐと一人で食事を進める香。

いかにして、これからの時間を使うか、

夜寝るまでのタイムテーブルを思い浮かべながら、

箸を口に運んだ。





その頃、撩はお怒りモードの香で部屋を出て行った香の気配を読みながら、

いつ降りて行こうかとタイミングを計っていたが、

どうも顔を合わせ辛い。



「……まずったよなぁ。」



ぐぅーと腹が鳴るも、今キッチンに行ったら

きっと繰り返し一緒に寝ないと宣言されるに違いない。

規則正しい日常の中で、生活環境の維持管理をしている香に、

いわばこのだらしのない生活リズムは、

すでに色々と支障をきたしている。

香の立腹状態も当然だ。



「どぉーすっかな…。」



仰向けで目を閉じ組んだ指は頭の下に通して、

はぁぁぁ、と溜め息をつく。

さっきからかすかに換気扇に吸い込まれ損なった食事作りの匂いが

7階まで流れて来て、さらに撩の空腹を煽る。



「腹、減ったな…。」



呼びに上がって来る気配はない。

そのうち、食器が重なる音が小さく聞こえて、

シンクで洗い物をしている動きをキャッチ。

バタバタと廊下を小走りに移動したかと思いきや、

玄関のドアがバタンと開閉され、かちゃりとカギも回された。



「あら、出かけちゃったのね…。」



放置された撩は、のそりと起き上がり、伸びをした。

「んーっ。」

頭をぼりぼり掻くと、床に投げられたトランクスを拾い上げる。

夕べ、入浴後にしか着なかったTシャツとスウェット上下も回収して

とりあえず着込んでみる。



「おりっか…。」



首にタオルをひっかけ、

がに股猫背でひょこひょこと部屋を出る撩。

時間は、もう2時を回っていた。


***********************************
(4)へつづく。





コンビーフ丼、旦那のカカサマの裏技です。

スポンサーサイト
プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


9万hit記念に
とりあえず作ってみた
CH専用Twitter
 


拍手1000パチ記念につけちゃいました。



かなり便利なサーチツール

登録サイト最新情報はこちらをチェック!


試運転中…

カテゴリ
最新記事
月別アーカイブ
検索フォーム
QRコード
QR
現在の閲覧者数: