21-04 Alone In The Kitchen

第21部 Invasion Of A Novelist

奥多摩湖畔から11日目   


(4) Alone In The Kitchen **********************************************1959文字くらい



「あら、用意はしてくれたのねん。」



キッチンのテーブルの上には、コンビーフ丼とみそ汁椀。

完全飯抜きを覚悟していた撩は、苦笑いをしながらくすりと口端を上げた。

シンクに立ち、口を漱(すす)ぎ、ばしゃばしゃと顔を洗う。

首にかけているタオルで雑に水気を拭った。

香がいたら、即「洗面所に行ってやってよ!」と確実に苦情を言われる行動。

薄く伸びたヒゲはそのままで、みそ汁の鍋を温める。

丼をレンジに入れてスイッチを押す。



「コーヒー…」

と言いかけて、入れてくれる香がいないので、

食器棚をがさがさ漁って、インスタントの瓶を見つける。

あまり出番はないが、豆が切れた時の非常用。

「これでいっか…。」

一人ではミルを挽くのが面倒くさい。

ポットの湯を少しヤカンに移して沸かすことにする。

ぼっと火がついたら、テーブルの上にある新聞を手に取る。



「……ふん、特に目立ったことはねぇな。」

速読でチェックをすませて、ぽんとテーブルに放った。

その間に、みそ汁も加熱され、ヤカンの湯も沸騰し、

レンジも温め終了を告げる。

「食うか…。」



コーヒーカップに熱湯を注ぎ、食事の準備が整うと、

箸を持ち、丼を左手で持ち上げた。

「これも槇ちゃん仕込みかぁ?」

はぐっと一口かき込む。



槇村と組み始めた初期に、ここで槇村が撩のためにと

作ったメニューであることを思い出す。

「ったく、キョーダイそろって似た味付けだこと…。」

無意識ににやつきながら、二人の顔を思い浮かべる。

とりあえず、今日初めての食事がこんな時間なので、

空腹を満たすためにがつがつと口に運ぶも、

やはり香がそばにいなくて、正直かなり寂しい。



これまでも、一人遅起きで一人飯は珍しくない日常的なことであったが、

香との関係が変わってからの一人の食卓は、

はっきり言ってもう勘弁と思うくらいに

居心地が悪い。

こうして食べている間にもすでに幻聴幻覚的な感覚が過(よぎ)って行く。



— おかわりいる? —

— はい、ヨーグルトも食べといてね —

— ちょっと、もう少し落ちつて食べなさいよ —

— あたし、洗濯物干してくるから —



基本おしゃべり好きな香は、

リビングにいてもダイニングキッチンにいても、

耳心地のよい会話を絶やさない。

それがない空間は実に静かで、

一人食いのむなしさを一層濃くさせる。

視野の端に、流しのそばに立つ香の後ろ姿が脳内で勝手に合成された。



「ボクちゃん、重症かも…。」



すでに重度のカオリン中毒、

そばにいて欲しい欲求が、空腹が満たされる目盛りと同調していく。

ゴミ出しの失敗で香の機嫌を損ねてしまった撩は、

今日のこの後の作戦を練り始める。



「……寝ないって、言い張るだろうなぁ。」



最後の一口をぱくりと頬張り、

みそ汁でぐびりと流し込む。

「ごっそさん。」

食器を重ねてシンクに置き、また座り直した。

頬杖をついて、寄り目でコーヒーを飲む。

やはりいつもと違う味なので、

ここはどうしても香にいれてもらいたくなる。

ふぅとまた溜め息を吐き出す撩。



6年以上の時を重ねて、

ついに関係が変わってしまったのは12日前。

一人で客間なんぞに寝かせるものかと、

毎夜自室に連れ込む日々に、

もう香なしでは自分も床につけなくなっている。

どうしたら今晩以降、香と一緒に穏便に横になれるか、

撩の頭の中の回路が、数十通りのパターンをはじき出すも、

いずれも成功率2割以下と算出される。



頬杖をついたままで、

飲み終わったコーヒーカップをことりとテーブルに戻す。

香が伝言板だけなら、行って帰ってくるまで往復30分もかからない。

キャッツもまだ開いていない故、

寄り道がなければ、もうすぐ帰ってくるだろう。

そこまで考えて、撩は、はっと眉を上げる。



「あいつ!一人で歩いていったのか!」



はぁああ、と情けない息を吐き出しながら、撩はテーブルにごとっと突っ伏した。

恐らく、行きでも帰りでも、きっとおせっかいな連中が香をとっ捕まえて

余計なことを言い散らかすに違いない。

もうしばらくは、一人歩きさせないでおこうと思っていたが、

くだんのことばかりを考えていたので、すっかり忘却していた。

今から追いかけて、香を回収しに出ても、

またそれが余計なウワサのネタになる。



「くぅぅ〜、朝もっこの代償がこれかぁぁぁ。」



テーブル額をつけたまま悶々とする撩。

とにもかくにも、

今日の夜、何が何でも香を一人で寝かさない作戦を組み立てねば、

冗談抜きで夜這いになってしまう。

それもいいかもとちらりと思うが、やはり今の状況では

香が少しでも嫌がることは極力避けるべきだ、と別の善意が訴える。



「……よしっ!」



がばっと起き上がって立ち上がり、両手をテーブルにつく。

「リョウちゃん、頑張るっ!」

ふんっと一つ鼻息を出すと、腕まくりをして、シンクに向かい、

ぐいっと蛇口を回すのであった。


***********************************
(4)へつづく。





カオリン中毒、
もうご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、
カオリンという鉱物が存在するということで、
カオリストとしては、一度見て触ってみたい気も…。

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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