21-06 Invasion

第21部 Invasion Of A Novelist

奥多摩湖畔から11日目  


(6)Invasion *************************************************************2860文字くらい



香と唯香が、アパートに向かっている頃、

撩は香のご機嫌をなおすために、

ヒゲをそるのも後回しにして、

香の黄色いエプロンをつけ家事をしていた。



吹き抜けに干してあった、4枚のシーツを回収してたたみ、

香が出かける前に回していた洗濯機の中身も

乾燥機に移して然るべき操作をし、

キッチンでは食器も洗い上げ、丁寧に布巾で水気を拭い食器棚へ戻し、

次はリビングに掃除機をかけようかと、

倉庫から掃除機を連れて引きながら、がらっとベランダの窓を開けたのだ。



そこでキャッチできたのは、

香ともう一人、手を繋いでというより引っ張っている小柄な制服の少女。

「げげっ!」

手すりに身を乗り出した撩。

持っていたノズルがガシャンと落ちた。

100メートル以上は離れていた位置からではあったが、

香ともう一人の人物を間違えようがない。



「かぁあああ、一番捕まって欲しくないヤツに捕まったか…。」



撩はこめかみを押さえて、そのまま窓枠に寄りかかりながら

ずるずると座り込んでしまった。

12日前の奥多摩での結婚式。

冴子と麗香は参列し、その場に居合わせたが、

唯香は美樹とファルコンとに面識がなく、

挙式には同席しなかったものの、

二人の姉から、情報を仕入れた事は容易に想像がついた。



「追い返す…ってワケには、いかないよな…。」



はぁとうなだれる撩。

今は、香と夜一緒に寝るために

『撩ちゃん頑張るプロジェクト』を実行している最中。

また香が喜びそうな食事も作ってやろうかとイメージしている時に、

この客の登場によって、すでに不穏な未来が確実となっている。

はっきり言って、彼女は苦手である。

1年前、ガードの名目上致し方なく数日過ごした中で、

短期間のうちに、

鋭い感性と洞察力で自分の深層心理を読み切った天敵とも言える存在。

色々な意味で非常にタイミングが悪い。



「どぉーすっかな…。」



どうもこうもないのだが、すでに二人はアパートの前。

のっそりと立ち上がり、ふぅと息を吐き出すと、

とりあえず掃除機を廊下の倉庫にしまうことにした。





「わぁー、本当に久しぶりー。」

冴羽アパートの前で6階を見上げる唯香。

「あれから1年だもんね。」

香は苦笑しながら、ビルの入り口を開けた。

一緒に、コンクリートの壁面に囲まれた階段を登っていく。

「ねぇ、香さん、冴羽さんは出かけてないの?」

「あー、わかんない。

あたしが家を出るときもまだ起きてこなかったから、

もしかしたら出かけているかもしれないけど…。」

と言いながら、玄関の扉を開けると撩の靴があった。

「あ、いるみたい。」

「わぁ、うれしい!お二人一緒に会えるなんて!」

きゃぴきゃぴと喜びをあらわにする唯香。

香は、スリッパを出しながら、はっと気付いたことがあった。

「あ!」

「え?」

「ゆ、唯香ちゃん!ご、ごめん!

ちょ、ちょっとここで少し待っててもらえる?す、すぐ戻るから!」



香は、やや赤くなりながら、

大急ぎで5階の玄関から6階の吹き抜けに駆け上がった。

「あ、あら?」

イメージしていた光景がない。

7階の通路の手すりに夕べ干していた

タペストリー状態のシーツ各種がなくなっていた。

「え?え?どうして?」

理解が追いつかない香。

自分が片付けた記憶はない。

「ま、まさか撩?」

唯香に見られたくなかった事案が消滅したので、

とりあえずそのまま彼女を呼ぶ事にした。



「唯香ちゃん、ごめんね。いいわよ、上がって来て。」

一時停止の意味は一体何だったのかと、

すっかり取材モードの女子高生は周りへの観察眼を最大限にして、

階段を上がり、香と合流した。



「どうしたんですか?」

「あ、いや、その、ちょっと下着とかをここに干していたもんだから、

それを片付けようかと思ったんだけど、し、しまったの忘れてわ…。」

リビングに続く扉を開け、廊下を進みながらそう答える香。

唯香はきっと何かを隠していると、きらんと目の端が光った。

「あたしは、ちっとも構いませんよー。同じオンナですし!」

「で、でもお客さんの目にはあまり見せたくないもんでしょ?」

リビングに入る二人。

「まぁ、確かにそうかもしれませんね。」

「そ、そうなのよ。じゃ、じゃあソファーに座って待ってて。

今飲み物持て来るから。」

「はーい!」



にっと笑った唯香は、テレビの前を横切り

ソファーの短辺側に近付き、床に鞄をおいて、ぽすっとクッションンに腰を下ろした。

くるりとリビングを見渡す。

「……特に、変わりはない、みたいだけど…。」

あごに人差し指を当てながら、

今後なかなか来られないと思われるこの場所に、

ネタやヒントが隠れていないか、目を動かしながら静かにサーチする。



麗香から話しを聞いたのはつい3日前。

最近の探偵業の内容を探りにまずは電話連絡をしたところ、

自分のところより、今はお隣をお薦めするわ、とかなり意味深な言葉を聞いたのだ。

深くは語らない姉に訝しがりながら、

すぐに冴子の職場に連絡した。



『冴子お姉ちゃん、今忙しい?』

『忙しいに決まってるでしょ!』

『分かってるんだけどさぁ、教えて欲しいことがあって。』

『捜査関係のことだったらお断りよ!』

『ううん、違うの。冴羽さんのところ、最近なんかあった?』

『え?』

『麗香お姉ちゃんから、自分のところの情報収集より隣に行けって言われて、

あの2人、何か事件とか抱えているんだったら、

先に裏取っておいた方がいいかなと思って。』

『なんで、私が裏を取ることにつながるのよ。』

『だって、やっかいな仕事って冴羽さんのところに持って行くのお姉ちゃんじゃない。』

『はぁ?あんたってどんな先入観でモノ見てんのよ。』

『あら、事実でしょ?』

『そんなこと言っていると教えてあげないわよ。』

『え?!なになに?お姉ちゃんなんか知ってるの???』

『………。』

ふぅと溜め息が受話器越しに伝わる。

『?』

『……先週、私と麗香が結婚式に呼ばれたのは知っているわよね。』

『うん。』

『撩と香さんも一緒だったの。』

『えっ!』

『それって新聞にも出ていたあのどっかの国の人が、

奥多摩で捕まったって言ってたアレの時の事?』

『そ。』

『冴羽さんがやっつけちゃったの?』

『香さんが人質になったのよ。』

『あ…。』

『あのオトコも、やっと覚悟を決めたってところかしらね。』

『………それって』

『私が言えるのはここまで。』

『ずっるーい!!!』

『忙しいから切るわね。』

『ねぇ、ねぇ、もしかして、冴羽さん、香さんを助けた時に、

こく…』

ガチャ!ツーツーツー…。

『………間違い、なさそうね。』



麗香の微妙な言い回しに、冴子の多くは語らない現場の話し。

あれから季節が一周した。

そろそろ何かあってもいいのではと、思っていたところに、

この二つの情報は、唯香の推察力を刺激するのに十分だった。



そして、3日たった今日、ようやく学校の日程の都合で、

午後早く解放されたので、電車で新宿駅を降り立ったところ、

香を発見した次第。



「絶対聞き出してやるんだから!」

唯香は、膝の上にワープロを置くと電源のスイッチを入れ、

すっかり取材オーラ100%に気分を盛り上げていた。


***********************************
(7)へつづく。






唯香ちゃん、やるきまんまんです。

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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