21-11 Absence

第21部 Invasion Of A Novelist

奥多摩湖畔から11日目 


(11)Absence ******************************************************* 4066文字くらい




香は、4階と5階のベランダに溜まっていた

落ち葉やら風で飛ばされてきた紙くずやらを回収し終わると、

自分たちの生活空間の6階と7階にある

各部屋の巡回を始めた。

撩の部屋のゴミ箱も回収。

ティッシュがたっぷり捨てられている様に、

花粉症ですとは言えないこの痕跡は、

また香の顔を赤くした。

「やっぱり明日も出さなきゃだめじゃない!」

これはこれで数日放置したら、困る事になりそうだと、

こまめな廃棄を心がけることに。

その後、脱衣所や自室を巡って一通り回収終了。

なんとか、ゴミ袋1つ分がそこそこ埋まった。



「これでいいわね。」



キッチンでエプロンをつけ、腕まくりをして手をざっと洗うと、

30センチ鍋を取り出してたっぷりと水を注ぎ入れた。

メニューは焼うどん。



キャベツ、タマネギ、ニンジンを切りそろえ、

金ザルで水洗いをする。

固めに茹で上げた麺もまた別のザルで湯切りして、

冷水でぬめりをもみ落とす。

パズタと同様にオリーブオイルを軽くかけ回し、

全体に艶がまわるように混ぜ合わせた。

中華鍋に牛の薄切り肉を先に炒め、火が8割程通ったところで、

野菜を投入、しんなりしたところで、うどんを加える。

十分加熱されたところで、塩こしょうをふりかけ、

最後に醤油をじゅうっと円を描くように細く長く纏わせる。

鉄板に触れた黒い液は小さな泡を出しながら、

芳香を醸し出す。

火を止め、ざっくりと麺と具をなじませて、主食の完成。




自分の分は少なめに盛りつける。

撩のを取り分けようとして、はたと気付く。

時間は7時半。



「まだ、ぶら下がっているのかしら?」

香は、リビングに向い、電気をつけるとまっすぐに窓に向かった。

ベランダに出て下を覗き見る。



「……いない。」



ロープを引き上げ、上がってきた布団はもぬけのカラ。

「まぁ、あいつがこっから抜け出すなんてワケないと思うけど…。

まったくどこ行ったのかしら?」

出かけたのか、靴を確認しに行くことにする。

「あ、ない!もうっ、いつのまに!」

おそらく4階と5階の部屋を回っている時に、

入れ違いになったのだろうと、勝手に動きを呼んだ香。



ダイニングキッチンに戻り、一人で食事をすることに。

撩の分は、ラップで包み取り置く事にした。

「まったく、折角ツケを清算したばかりなのに、また増やされたら

たまったもんじゃないわ…。」

ブツブツと口は文句を言いつつも、

一体どこに行ったのか所在が完全に掴めていないことに、

じわりと不安の芽が生えてくる。

とりあえずさっさと食べ終わり、

食後の片付けを済ませ、軽く雑用もこなして一区切り。



「8時前か…。」



中途半端な時間に、自分がすべきことを思いめぐらせ、

ひとまず、トラップのチェックと侵入者の探知機が正常に作動するかを確認をしようと、

また居住空間を巡り始める。

エマリア共和国の輩が侵入した時以来、取り入れた装備。

また類似の事案が起きても対応できるように

教授からの援助で設置した小型動体センサーは、

冴羽アパート内の各所に、

すぐには見えないように設置してある。



「よし、ちゃんと働いているわね。」



それぞれに手をかざし、

機器の側面にある小さな赤いランプが点滅するかを見て回る。

リビングのテレビにモニターが直結しているソレは、

小林みゆきをガードした時に大いに役立ったが、

香は出来るだけ出番がないことを祈りつつ、チェック作業を進めて行った。





「よっと、これで最後ね。」

踏み台から降りた香は、手をパンパンとはたき、

腰に手を当て確認箇所を見上げる。

1時間ほどをかけてようやく見回りが終わり、

リビングに戻ることに。



「ふぅ…。」



自分一人の空間が、妙に静かに感じてしまう。

ソファーに座り、一息つこうにも、やはりなんとなく時間がもったいない。

撩のパートーナーとして、すべきことは複数あるももの、

一人で出来ることは限られてくる。

気分が乗る乗らないも心理的に大きく影響するのもあり、

今、この時間で何をしようか、しばし迷う。

腕を組みながら、うーんと悩む。



「ストレッチでもしておこうかな……。」



何が起こるか分からない職業故、体の柔軟性を低める訳にはいかない。

リビングでテレビをラジオ変わりに流しながら、

フローリングに腰を下ろすと、ゆっくりと開脚し、前屈から始めた。

「んーっ。」

順に普段出番の少ない筋を柔らかく伸ばす。

もともとエアロビを積極的にしていることもあり、

心地よく、各所の筋肉に適度な刺激を与えていく。

そうこうしているうちに、バラエティ番組が1本終了。



ちらりと置き時計を見る。

「まだ、帰ってこない、か。」

何も言わずに出て行った撩のことが急に心配になる。

「い、今までこんなこと、いくらでもあったじゃない…。」



気を取り直して、

見損なっていた映画を1本見て消化することにする。

キッチンから唯香が来た時に出したクッキーを出して来て、

鑑賞しながらコーヒーと一緒にかじることに。

しかし目に流れる映像は映るものの、

全く集中できない。

はたと気付いたら、いつのまにかエンドロールが流れていた。

「え?お、おしまい?」

はぁ、と溜め息をついてリモコンをいじる。

「うー、また見直さなきゃだめだわ、全然内容分かんなかった…。」



テレビ画面よりも、ちらちらと見ていた時計は、

12時前を指している。

この時間でもまだ戻ってこない撩に、

芽生えた不安がさらに成長し膨らむ。

思わず立ち上がって、両腕をきゅっと自分にからませる。



(最近は出る時、ひとこと言っていたけど…。)



改めて周りを見直すも、書き置きなどは見つからない。

電話機が目に入り、

思わず、美樹のところに電話をしようと思うも、

入院中でキャッツも休みであることを思い出す。



(ミックのところ?)



ベランダに出て対面のビルを覗くも明かりは消えている。

「一緒に飲みに行ったのしら?」

もしかしたら、本気で機嫌を悪くしたのではと、

思考はマイナス要素のじわりと割合が増えてくる。



「どうしよう。探しに…って言っても、まだ出歩くのは…。」



迷う。

この時間に一人歩きをする方が、撩に余計な心配をかけてしまうことは、

十分に分かっている。

探しに行く宛ても絞れているワケではない。

再び時計を見直すと、日付けを跨いでいる。

耳をすませてみるも、玄関が開く音も、足音も聞こえない。




「こ、こんなこと、フツーよ、フツーっ!」



朝帰りは日常茶飯事、どこに行くとも何をするとも言わずに

夜の不在は、これまで極当たり前だった。

いつしか、遊びなのか、情報収集なのか、裏の仕事なのか、

なんとなく読めるようになりつつも、

それでも、ちゃんとここに戻ってくることに、

この場所が自分たちの居場所であると、

何があってもここに帰ってくることを、信じることが出来ていた。

ただ、それは、関係が変わる前の話し。




奥多摩から戻ってきてから、

何も告げずに遅くまで帰宅しない撩の動きは、

今回が初めてなのだ。



「い、いつものこと!き、気にしない!」



言葉とは裏腹な思いは、ますます育っていくも、

昼間に一緒に寝ない宣言をしてしまったこともあり、

リビングで待ち続けるのは、バツが悪いと、

とりあえず、自室で横になることにした。

テレビと照明を消して、戸締まりを確認すると

着替えやら、歯磨きやら、洗顔やら、トイレやらを済ませ

パタパタとスリッパの音が響く廊下を進んで客間兼自分の部屋に入った。

夜這い防止と賊侵入警戒のために、一応カギとトラップはしっかりしかけておく。

しかし、その手がふと止まってしまう。




この強烈な寂しさは一体何なのか。

それに同調するように不安ばかり大きくなる。

こんなこと、いままで日常であったはずなのに、と

撩と一線を越えてから、こんな思いを抱きながらの一人寝は初めて。

カギに指を添えたまま、ふと後ろを振り返り、

自分のシングルベッドを複雑な心境で見つめる。



「きょ、今日は、ここで寝る、しかない、わよ、ね…。」



実は、今の気分は撩の部屋で、撩の匂いを感じながら

あの部屋で帰宅を待っていたいという、

自分でも信じられないような面持ちになっていた。

ただ、くだんの一人寝宣言の手前、さすがにそれは出来ないと、

香は首をぷるぷると振った。

再度、ちゃんとカギがかかっているかを確認し、

扉のそばのスイッチに触れ照明を消した。

サイドランプだけが光源として残り、パジャマ姿の香を仄暗く照らす。

ぎしりとベッドに腰をおろし、写真立てにふっと視線を送る。



「だ、大丈夫だよ、ね…。」



兄の同意が欲しいと思いつつも、

一度伸び始めた焦燥感は、心の中でツルを四方に広げ始めた。

もうすぐ午前1時。

「も、もう寝よ!」

ばさりと布団を頭から被る。



11月の夜、そこそこの寒さは、

これまで撩と一緒に寝ていた温かさをより一層強く思い起こさせ、

感じる室内の気温がさらに低く思えるほどに、

すっぽりと被っている布団の中はちっとも温もらない。



「さむ…。」



自分を抱きしめるように身を縮こませ、背中を丸める。

不安、淋しさ、寒さ、そんなものがどろどろに混じり合って、

目を閉じても、

考えうるありとあらゆる『もしも』が、瞼の裏で描かれる。



「りょ…。」



眠りにつけず、何度も何度も寝返りを打ってしまう。

「大丈夫だよね…、ちゃんと、帰ってくるよね…。」

か細い声がつい漏れ出る。

そのとたんに、目尻に涙が溜まリ、ぽろりとこぼれ始めた。

こんなことなら、あんなことを言わなければよかったと、

今自分がここに一人でいることが、

己の作った流れであることを振り返る香。



「ぅ…。」



声を押し殺して、肩をふるわせる。

言いようのない心の不安定感がじわじわと広がっていく。

( とにかく、無事にここに帰って、来て…。)

明らかなに、関係が変わる前と後では、

この所在不明の状態での一人待ちの心理に変化が出ているのだ。



「りょ…。」



くっと目をきつく閉じる。

何事もないことを祈りながら、

一緒に寝ないと断言してしまった己の発言を後悔しながら、

心地の悪い緊張感と寂しさに塗られていく。



しばらく香は、なかなか寝付けずにいたが、

泣くことを抑えるのに、思った以上に疲労してしまい、

夢と現実を浅く行ったり来たりしていたが、

そのうち、ふっと意識が落ちてしまった。


****************************************
(12)へつづく。






リアルはもうクソ暑い季節ですが、
11月中旬の晩秋&初冬は、
布団がえらく冷たく感じてしまいます。
香ちゃん、なんだか連日泣かせてしまってごめんね。

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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