23-01 Household Trash

第23部 Preparation Of Training (全10回)

奥多摩湖畔から12日目 


(1)Household Trash ************************************************* 3546文字くらい



あれから12日目の朝、

目が覚めたら一人でいることに気付いた香は、

すっぽりと布団にくるまれている。

がばっと上半身を起こすも、

めくれてあらわになった自分の肌に驚き、思わず声がでる。



「なっ!なんで…って、…あ、」



掛け布団を引き寄せながら胸元を隠し、昨晩のことを思い出し始める。

状況を振り返り、かぁああと恥ずかしさで

いつも通りに頬が染まる。

そもそも、

客間兼自室で、素っ裸の自分がいることそのものが初めて。

さらに布団を肩まで引き上げた。




「……りょ?」



相方の気配は全く感じない。

外の明るさがカーテンを通して部屋に光度を与えている。

まわりを見渡すと自分の脱がされたパジャマが目に入り、

夕べの記憶がより鮮明になる。



「だ、だめ、だめだわ…。こ、ここで、

あ、あんな、こ、こ、こと、ししし、しちゃった、なんて…。」

撩の感触や声が思い出され、

強烈な照れと後悔に似た感情が沸き上がる。




ふと見ると、

電気スタンドの脇にある写真立てが表面を下に倒されている。

撩の部屋にあったボックスティッシュがその横に。

また部屋の角にある抜け穴のフタが開きっぱなしで、

扉の千錠はそのまま。



ぷっと吹き出す香。

恥ずかしさと照れくささと可笑しさで、また更に頬が色を重ねる。




自分がこんな格好をしているので、

今はまだ写真立てを元に戻す気にはなれない。

わざわざティッシュを持って来たことに、

これが撩の夜這いセットであることを

今回のことで深く納得した。

過去、依頼人に遊び半分でしかけていた慣習の中で、

香はどうしてティッシュが必要なのかいまいち分かっていなかったのだ。

自分の部屋には、見えるところにボックスティッシュを置いていない。

鏡台の深い引き出しが指定席。

大概白い四角いコットンで用をすませていたので、

持参してきた相方に、ますます可笑しくなった。



「これ、ここ用に置いといたほうがいいかしら…。」



と、ぼそっと自分でつぶやいた文言の意味に気付いて、

ぼぼっともう一段赤くなる。

「なっ、な、な、なに言ってんのかしらっ!ああああ、あたしったらっ!!」

顔を両手で思わず隠してしまう。

はらりと布団が落ちて愛らしい双球が腕の間で丸見え状態。

つまりは、今後もここで、あーゆーことが起こりうることを

肯定するような言い回しを自分の口から言ってしまったことが、

独り言とはいえ、

かなりこっ恥ずかしく、勝手に頭部から湯気を上げている次第。



「だだだだ、だめよっ!ここは今後も依頼人のヒトが使うんだからっ!」



とてもじゃないが、

自分と撩が裸で過ごした場所を来客に使わせるということに、

抵抗をなくすことは出来ない。



「もうっ!」



香は頭をぷるるるっと振って、

ベッドサイドの時計を見直した。



「え!7時半過ぎてるじゃないっ!」



香は、がばっと布団から出るも、一糸纏わずであることを一瞬忘却、

慌てて布団の端を引っ張り上げ、自分の体を隠しながら下着を拾い集めた。

超照れ屋の香、今は誰もそばにおらず、誰にも見られていないのは分かっていても、

やはり大事なところを晒して、この部屋を歩くことは出来ないと、

布団の中でごそごそしながらインナーを身につける。



汗をかいたり、あそこが濡れてきたりする前に、

早々の段階で脱がされたせいか、

殆ど汚れもついていないので、

そのまま今日一日身につけることにした。



「は、早く行かなきゃ!」



香は、大急ぎで外着に着替える。

ジーンズに薄手のタンクトップに腕を通し、

ボーダーのハイネックから、にょっと首を出して、

くびれのある腰回りに布地を押し込む。

白のトレーナーをがばっとかぶり、靴下を履いて、

落ちているパジャマを拾ってたたみ、ベッドの端にとりあえず置く。

すかざす鏡台に向かい、跳ねたくせ気をいい加減にブラシでごまかす。

スリッパをつっかけ、千錠を超特急で解除し、ダッシュで洗面所へ駆け込んだ。



「は、8時までに間に合うかしら?」



簡単な身支度だけで結構時間はとるもので、

軽く顔を洗って、口を漱ぎ、トイレを済ませて、

キッチンに飛び込んだのは、7時55分。



「あ、あら?」



昨日、まとめたゴミ袋がない。

「え?どういうこと?あたし、別のところに置いたんだっけ?」

4階5階のゴミを見回ってから、確かにここでゴミ袋の口をしばったはずと、

記憶を引っ張り出している時、

玄関のドアが、がちゃ!ばたん!と開いて閉まる音がした。



「ええ?」



香は、驚いて吹き抜けに続く扉を開けると、

頭がぼさぼさの撩が、スウェット姿で髪をぼりぼり搔き上げながら、

6階のフロアに向かって階段をひょこひょこと登ってくるところに遭遇。



「りょ、撩?」

朝からどこに行ってたのよ、と尋ねる前に、先にその答えが返ってきた。

「おー、起きたか。ゴミは捨てといたぞぉ。」

「へ?」

「つーわけで、ボクちゃんもっかい寝直すわ。」

「は?」

「昼飯出来たら起こしてくれ〜。」

「は?」



眠そうな表情は作り物なのか、そのまま猫背で7階に昇る撩。

パタンと閉まる扉の音。

固まる香。




「も、もしかして、早起きして捨てに行ってくれたの?」



目が点になる。

「う、うそでしょ?」

らしくない。

撩がそんなことするなんて心底信じられない。

それとも、一緒に寝ない宣言が相当影響しているのか、

考えられない相方の行動に、手すりに指をそえたまま、

香はポカンとフロアで立ち尽くしていた。







一方、撩は自分の広いベッドにどさりと身を預け、

組んだ指を頭の下に、開脚した長い足はYの字に投げ出して、

はぁと一息つく。



つい今しがたの自分の一連の行動が、

まだこっ恥ずかしい。



自分がゴミ出しをしている姿は周辺住民には見られてはならないという

妙なプライドが湧き、

アパートの出入り口から様子を伺うこと数分。

まるで潜入を試みる忍者のように怪しげな容相を醸し出す。

向かいの白人も、隣りの探偵も、その他通行人も、

自分をキャッチしないことを確信して、

瞬間移動をそのまま実践したかのように、どぴゅん!と集積所までゴミ袋を持って行き、

速攻でカラス除けネットをめくってもどして、

瞬足でアパートに戻った。

慌てて締めたその出入り口の向こうで扉に寄りかかり、はぁと一息吐く撩。



「かぁ〜、やっぱスイーパーが本当のゴミ捨てんのって、どうなんでしょ…。」



いやいや、カオリンと寝られなくなるくらいなら、

これくらいはっ!と思いつつも結構大きな抵抗感があったりする。




香がここにやってきてから、

自分でゴミ捨てなどした記憶がない。

なら、その前は一体どうしていたか、かすれかけている記憶を引っ張り出すも、

そもそもアパートで過ごす時間そのものが少なかったのだ。

ただ寝るだけの場所、

生活ゴミなど、そうそう多く溜まるものではなかったし、

あったとしても、槇村がせっせっと片付けていたことを思い出した。



「んー?じゃぁ、その前はどーしてたっけな?」



コンクリートの天井を見上げながら振り返ってみる。

ここで、暮らし始めて間もない頃は、

教授宅居候の時よりちょくちょく通っていた

馴染みの店のママが請求ついでに片付けてくれたり、

裏の情報をやりとりしている輩が訪ねに来た折りに、

見るに見かねて掃除をしてくれたりと、

あまり自覚のないところで、

周囲がそこそこお節介を焼いていた。

10年ほど前のいらない情報は削除寸前状態、

そう言えばと思い出す。



そして、80年代に入り槇村と組み、ここが拠点となり、

改めて、この兄妹が撩の生活空間を快適で居心地のよいものにしていたのか、

再認識させられる。




——  感謝しろよ…  ——




幻聴か、聞き覚えのある声に、

昨晩伏せた写真立ての中の槇村の顔が浮かぶ。

目を閉じふっと息を鼻から小さく出す。



「あいあい、わーってますよぉーだ。」



んーっと両手を頭上に伸ばしながら、

右肘に左手をひっかけ、くちりと関節を鳴らした。

撩は、寝ぐせのついた髪のままで、

あくびをしつつ階段に向かって進路をとる。



そして、戻ってきたとこで、吹き抜けに来た香と遭遇した次第。

本当はまだ寝ているもんだと思っていたが、

玄関を開ける前から気配に気付き、一瞬別ルートから部屋に戻ることも考えたが、

開き直って、突っ込まれることを覚悟した上で、

室内に向かった。



驚く香の顔がまた、可愛らしくて可笑しくて、

思い出しながら、ベッドの上でくすくすと笑いが漏れる。



「まぁ、俺だって信じらんねぇーよ…。」



激変という言葉では足りない。

変わり過ぎて、お互い色々信じられないのもムリはない。

むしろ、今までの状態がヨソからみたら信じられないこと。

しつこいが、

惚れたオンナと共に暮らし、健康体の適正年齢期の男女が、

はからずも相思相愛にまで発展した関係に、

長期間何もなかった方が、一般的にはアンビリーバブルなのだ。



「ま、時間がたちゃ、慣れんだろ…。」



そう、つらつらと考え事をしながら、

撩は、もう一眠りすることにした。



*********************************************
(2)につづく。






というワケで、ゴミ捨て回想をさせてみました。
平成の昨今、旦那さんがゴミを捨ててくれるシーンは、
ドラマや漫画でもフツーに描かれていますが、
昭和の時代、
まだまだ、オトコがそんなことをするなんてカッコ悪い的な
空気があったような。
1991年頃だと移行期あたりになるのかしら…と。
撩ちん、カオリンとのもっこりのためならっ、と
ちょこちょこ家事を頑張ってもらってます。
ちなみに、当サイトでは、
撩が入国した時期を1979〜1980年のハタチ頃、
1年ほど教授宅居候で、
1980年代初頭頃から冴羽アパートに入居&槇兄ぃと組む
というイメージ年表です。
(四谷のじいさんのお話しは初期の設定未成熟による脱線事例ととらえております)


【誤植情報感謝!】
Sさま:ここの千錠はそのままにすることにいたしましたぁ〜。
ご連絡本当にありがとうございました!
2013.11.16.03:00




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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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