23-02 An Afterimage

第23部 Preparation Of Training 

奥多摩湖畔から12日目  


(2)An Afterimage **************************************************** 2708文字くらい



香の午前中は、何かと慌ただしい。



一人の朝食をコーンフレークとヨーグルトで

ごくごく簡単にすませ、掃除に洗濯に、マスク付きの縄跳び、

その前にベランダで布団干しも。

昼食に素早くパスタとサラダを用意するも、

あまり空腹ではなかったので、半人前だけ取り分けて、

大急ぎで先に食事を済ませることに。

まだ片付けることが色々とあるのだ。



これまでも、

2食連続、3食連続の一人食べはそう珍しいことではなかったが、

アレから思い返せば、初めてかもと

甘いケチャップとトマトの酸味を感じながら振り返る。

すぐに食べ終わった食器を洗い、かごに入れて、

乾燥機の中身を取りに隣りの脱衣所へ向かう。

やっと、パルコで買った新しい衣類を一通り洗うことが出来、

それらをかかえて客間に入った。



「さっさとたたまなきゃ。」



ベッドの上に綺麗に折り畳まれた、下着やらスポーツウェアやら、

タオルやらが積み重なる。

てきぱきと終わらせ相方の衣類を選び持ち直すと、

その足で撩を起こしに行くことに。

トントントンと7階に続く階段を昇っていった。



「りょお?」

ノックをして扉を開け部屋を覗くと、

枕を抱き込んでごろんと横になっている相方が、

「ぐふふぅ…。」とか言いながら、

にやついた顔でむにゃむにゃしている。

当然、香の接近には気付いており、起こされたいがための

稚拙な演技。




香は、はぁと一息こぼす。

「もう!起こしにこなきゃ、っんとに昼まで寝てるんだからっ!

お昼出来たわよ!」

衣類を抱えたまま撩を呼ぶ。



「う〜…、まだねみぃ…。」

「じゃあ勝手に寝てなさい!あたし駅にいってくるから!」

がばっと起きる撩。

「ま、待てっ!一人で行くなっつぅーたろーがっ!」

「なっ。」

唐突に切り替わり、

ややキツめの命令形に、これまたややムムっとする香。

「昨日一人でのこのこ出かけて、唯香にとっ捕まっただろ?」

そう言いながら撩はベッドからのそりと足を下ろす。



「だ、だってあんたがっ!」

「あー、だからそのことは悪かったって。

とにかくこの界隈の連中が勝手に盛り上がっている間は、

あんまり一人歩きすんなって。」

頭をがしがし掻きながら立ち上がると、

んーと伸びをして、肩関節をくちくち言わせる。

「めし何?」

「あ、ナポリタン作っといたから。」

「んじゃ食いにいきますかね。」

「さっさと食べちゃって。片付かないからっ。」

「あんれ?香ちゃん、もう食っちまったの?」

「当然でしょ!いつまでも待ってられないわよっ。やること沢山あるのに。」

ベッドのわきにあるチェストにたたんだ衣類をしまう香。

「食べ終わったらすぐ伝言板見に行きたいから、あんまりのんびりしないでね。」

自分に背を向けたままそう言う香に、

思わずまた抱き込んでやろうかと不埒な思考が沸き上がるも、

とりあえず押さえて、伸びた腕を後ろ頭に回し、

部屋を出ることにする。

「へーい。」



覇気のない返事と階段を下る音が香の耳に届く。

「もう、教授宅の通いがなくなってから、また昼までコースが戻ってきたじゃない。」

奥多摩直後から、美樹の入院のサポートで、

教授邸を往復していた時は、朝からグータラするゆとりは殆どなかった故、

比較的早寝早起きを求められていたのだが、

昨日今日で、撩のリズムに引き込まれそうになり、

いや一部引き込まれてと、すでに色々と困る事案が増えている。



「何もすることなかったら、あたしもゆっくりしたいわよ…。」

思わず本音がぽろりと出てしまう。

省略された言葉は、



— あたしも “あんたとここで” ゆっくりしたいわよ… —
  


はっとなって、三本指で口元を押さえた。

確かにフルタイムの勤めに出ているワケではないのだから、

その気になれば、優先順位を変えることはいくらでも出来るはず。

しかし、習慣ともなっている日々の日課は、

そうそう先送りすることは出来ない。

自身の規則正しい生活に多少の弛みを与えるのには、

まだまだ抵抗がある香であった。



「さてと…。」



香は、撩が寝ていたところを簡単に整え、

自分も階下へ降りて行った。

途中、あっと思い出し、小走りで客間に戻ると、

伏せられたフレームを元に戻して、

撩が持参したボックスティッシュを持ち、

換気のために開けてあった2ヶ所の窓を閉めた。

持っているものがどうにもこうにも、アノことを思い出させるので、

軽く拳でこめかみをコンコンと叩きながら、

また撩の部屋へ向かう。

文字通り、愛の巣と化しているこの場所に、

なかなか冷静な面持ちでは、この空間にいられない。



「どうしよ…。」



ベッドボードの上に持ってきたものを置くと、

ふいにそうつぶやいてしまった。

実はこの12日間、自分にとってかなり困った状態が続いている。

生活リズムの乱れよりも深刻なソレは、

即解決できる方法は全く見当たらない。




撩がそばにいる時も、

撩の衣類を扱うときも、

撩の持ち物を視野に入れるだけでも、

撩の部屋にいるだけでも、

全てが秘め事への連想に直結してしまう。



今まで知り得なかった男の姿が、

これまで体験することのなかった愛されるという行為の残像が、

常に頭の片隅でくすぶり続け、ちょっとしたきっかけで

その熾き火が、勢いをつけて他のことを一気に追いやってしまう始末。

その度に、慌てて「ひっこめ!」と扉の向こうに押しやり

バタンと締めるも、常にぎゅうぎゅうとその戸板はしなり、

ノブもガチャガチャ音を鳴らし、

スキあらば出てこようとするのだ。



残像と言っても、行為の時の多くの時間は、

目を閉じたままであることが多い故、

主に視覚以外の記憶によるところが割合を占めつつも、

稀に視界に入る男の姿は、殊更強烈で全てに慣れない香にとって、

過剰な刺激続きの日常に、

切り替えスイッチの機能がかなり低下していると、

本人も自覚せざるを得ない事態に。



「……はぁ、……慣れっこ、ないよぉ。」



撩のベッドのそばで立ち尽くしたまま、

両手で顔を覆う。

こんなことを考えているだけでも、

顔の表面に血液が集まっているのが分かる。



「こ、これじゃ、ホントに仕事に支障がでるわ…。」



こんないやらしいことばかりを考えてしまうような自分が

情けなく、恥ずかしく、腹立たしく、

撩とやっと共に生きることを確かめ合って、

目出たくも初恋の相手との想いが叶ったというのに、

嬉しさや喜びの反面、このままではいざという時に、

絶対困ることになると、対策を考えるも、

やはり妙案も出るはずもなく、

再び悩ましい溜め息を吐く。

これでは、撩のことを「もっこり大将」とはののしれない程に、

自分もまた、常にアノことに意識が傾いてしまう。



「布団、…取り込まなきゃ。」



耳からプスプス湯気を出しながら、

香は、半ばふらつき気味で撩の部屋を後にした。



************************************
(3)につづく。






カオリン、頑張れ〜。

【お詫び】
もくじ、お返事等々、週明けまで猶予を頂ければと…。
こちらの優先順位を上げられなくて申し訳ございません…。
2013.06.28.21:25.金

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
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