23-05 Marriage Ring

第23部 Preparation Of Training

奥多摩湖畔から12日目


(5)Marriage Ring ***************************************************** 4372文字くらい




「美樹さん、こんにちは。あ、海坊主さんも来てたのね。」

かずえと一緒に病室まで来た香の第一声。

「じゃあ、ごゆっくり。」

と言い残して、かずえはその場から離れた。



「いらっしゃい、香さん。

教授から、もうそろそろ来るかもって聞いてたのよ。

ね、ファルコン。」

「ああ。」

そばに座っていたキャッツのマスターも同意する。

「え?」

「寄るって電話があったみたいよ。」

入院着で上半身を起こしている美樹の腕は相変わらず三角巾付き。

「あれ? いつ連絡したんだろ? あたし、てっきりいきなりの訪問だと思ってから。」

撩がアパートを出る前に、教授宅に一報を入れたことを知らなかった香は、

この流れが読めず、きょとんとする。

「くるぞ。」

ファルコンがぼそっとつぶやいた。



「美っ樹ちゅわ〜ん!まる4日、ボクちゃんに会えなくって淋しくなかったぁ〜ん?」



半ドアの入り口から、しゅわっちと飛びかかろうとする撩に、

まとめて3つのハンマーが放られた。

「ぐへっ!」

美樹は1トン、香は10トン、ファルコンは100トンで

計111トン。

どさっと病室の床にひっくり返った撩は、

顔と腹をさすりながら、一応抗議してみる。

「なっ、なにすんでい!折角りょーちゃん、お見舞いにきたぁーげたのにぃ。」

「お前の見舞いはいらん。」

ファルコンがパイプ椅子に座ったまま腕組みをしてふんと鼻息を出す。

「撩…、大人しくしてちょーだいってさっきも言ったでしょ。」

「冴羽さん、もう少しまともに部屋に入ってきてくれない?」

それぞれ苦情を聞きながら、撩はよいしょと立ち上がり、

ぱんぱんと衣類のホコリを払い落とした。

「まぁ、美樹ちゃんもハンマー出せるくらいだったら、復帰も早そうだな。」

「ありがと。おかげさまでね。」

美樹は軽くウィンクする。

「香、わりぃが、俺これから出かけてくっから、帰りはタコと一緒に戻んな。」

「え?どういうこと?」

「晩飯はいらねーから。」

「え?お、遅くなるの?」

「たぶんな。おい、タコ、悪いが家まで香を送ってやってくれ。」

「それが人にモノを頼む態度か?」

「まぁあ、まぁあ、俺と海ちゃんの仲じゃなーい♡」

ファルコンの腕になよなよと腕を絡ませ、すり寄りながら頬ずりをする撩。

「よ、よるな!気色悪い!」

顔を掴んで距離をつくるファルコン。

「いででで、は、放せったら!じゃ、適当な時に頼むわ。」

解放された撩は、頬をさすりながら出口に向かいながらそう言った。

「ちょ!ちょっと撩!一体どこ行くのよ!」

「ふふーん、ちょっとそこまでぇ〜。じゃあねぇ〜。」

スキップ気味の小走りで美樹の病室を出て行く撩を見送った3人。



「何なの一体…。」

香はきょとんとしたまま。

いきなりの教授宅訪問、何かを受け取ったらしい情報、

そして唐突の単独行動。

何が何だかさっぱりで、他の2人が何か知っているのかと、

視線を向ける。

「心配はいらん。香、帰る時には呼べ。食堂にいる。」

「あ、わ、わかったわ。」

どすどすと、足音をわざと立てて、ファルコンは美樹の部屋を出て行った。

2人きりで話す時間を配慮しての退出に、

美樹は、くすりと唇が上がった。



「まぁ、香さん座って。何か飲む?」

「あ、いいわよ、気は使わないで。」

ポットに手を伸ばした美樹を、やんわりと止めて自分も穴空きの丸椅子に腰を下ろす。

「痛みはどう?」

まだ三角巾で吊られている右腕を切なげに見つめてそう尋ねる。

「ううん、全然痛くないわよ。ただね、ちょっと痒いのよねぇ。」

「え?」

「たぶん治りかけている証拠だと思うんだけど、

ほら、かさぶたを剥がしたくて仕様がない気分に似てるのよ。」

「あ、分かる!自然にはがれるの待てないのよねー。」

「ふふ、もしかして香さんも子供の頃、よく剥がしてた方?」

「へへ、あたし小さい時からよく細かいケガばかりして、

アニキによく叱られていたからなぁ。」

「お兄さんもきっと心配で仕様がなかったかもね。」

「でも、むしろ刑事をやめてからは、あたしのほうが沢山心配してた気がするわ。

どんなことしているか、詳しく話してくれなかったし、

分かったら分かったで、撩みたいな変態と組んでいるなんて知って、

ショックだったわぁー。

アニキまで変態に染まったらどうしようかって本気で悩んじゃったもん。」

「ぷぷぷ!おっかし!」

目尻に涙をためてくすくすと笑う美樹。

ふぅと息を吐く香。



「もっと、アニキと撩とあたしで、

一緒に過ごせる時間が、もっとあったらよかったのに、な…。」



窓の外に視線を移し、より紅葉が濃くなった庭を視野に入れる。

実際、撩の存在を知ったのは、17才になる直前の16才の春。

1982年3月26日、

再会するまでに3年の間があいた。

その間、意図的に避けられていたのか、接触する機会は皆無だったところに、

唐突の出会いで、左頬をぶたれるというなんとも印象の悪い二度目のコンタクト。

それから、たった5日後に、兄は風になってしまった。

もし、兄が死なずに、3人で一緒に記念日を祝っていたら、

どんな未来が待っていたのだろうか、と

考えてもどうしようもない「たら・れば」の世界に少し足を突っ込みそうになる。



「香さん?」



「あっ、ご、ごめんなさい。」

「……私も会いたかったな、香さんのお兄さんに。」

「美樹さん…。」

姉のような存在である美樹に、自分の家族に関心を持ってもらい、

香の心がふわりと温かくなった。

思わず、胸に片手を添える。

「アニキも、いつもここにいる、いつも一緒よ。」

「あら、そんなこと言っちゃうと冴羽さん、ヤキモチ焼くわよ?」

「は?」

「たぶん、冴羽さんにとって、今でも最大のライバルよね、香さんのお兄さんって。」

「ら、ライバル?」

「たぶん、勝てっこないと思うけどねぇ。」

にやにやしている美樹の言わんとすることがよく分からずにきょとんとする香。



「そうだ、アレからお兄さんのお墓参りに行ったりした?」

香は、突然の話題変更に目を大きく見開く。

そして、その前後のことを思い出して、じゅわぁ〜と顔が赤くなってきた。

「あら、その顔は『一緒に行った』ってことね。」

ファルコンと撩が本気の決闘をしたフィールド。

そこで眠る兄の前で、いわゆる事後報告に行ったのは、

奥多摩騒動の翌日の夕方。

11日前のこと。

日が浅過ぎる上に、思い返すには、恥ずかし過ぎるくらいの人生初体験があり過ぎて、

美樹の一言で、さらに赤さがパワーアップされる。



「香さん、もう何があったか、言わなくても分かるような感じよ?大丈夫?」

美樹は嬉しそうな表情で、少し体をずらすと、

サイドボードの上にあった未使用のおしぼりを香に手渡した。

「どーぞ。」

「あ、あ、り、がと…。」

頬や額にひんやりとする湿った布を当て、ふうと温度を下げようとする。



あの時、撩は香の薬指に跡が残るキスを施した。

思わず左手に視線が落ちる。

ふと美樹の手元をみやると、あの式の時にファルコンが震えながら、

妻となる女性の指に通したリングが見当たらない。



「ねぇ、そういえば結婚式の指輪は?」

不思議に思ってつい美樹に尋ねてしまった。

「ああ、お店を再開できたら付けようと思って。」

美樹は左手首をくるくると半回転ずつさせて、その部位を眺める。

「そっか。」

なくしたとかいうワケではないことが分かり、内心ほっとする。

確かに、香も

もし何事もなければそのまま左指に収まっていたであろうリングは、

復帰の象徴として置き換えられてもなんら不思議はないと感じた。



「迷ってるのよねぇ〜。」

美樹が左指を顎に当てながら首をかしげた。

「え?何を?」

「指にはめるか、ネックレスにするか。」

「ネックレス?」

「仕事上はネックレスに通して首にかけておくほうがいいかなと思っているんだけど、

キャッツでは接客業だからね、お互い指にはめておいて、

あたしとファルコンが夫婦ってちゃんとアピールしておいたほうが、

お客さんにもすぐに分かってもらえて、

余計な勘ぐりをされることもないと思うし。

ただ、ファルコン、ものすごく照れ屋でしょ?つけてくれるかしら?

後で相談してみよ。」

半ばおのろけ話で指輪のはめ方を迷う美樹が、

香にとって、なんて愛らしいと思ったりも。

「ごちそうさま!」

「香さんはどうしたいの?」

突然自分に振られる。

「あ?あ、あたしがっ、あ、あ、アニキの形見以外の、ゆゆゆびわ付けるなんて

絶対あり得ないわよっ!」

「そうかしら??」

「そ、そうっ!い、いやだっ!み、美樹さんっ!

あ、あ、あたしにはアレ1つだけで、じゅ、十分だしっ、

ア、アクセサリーなんて増やす予定ないからっ!」

唾が飛びそうなドモリ具合で反論する。

「ふーん。…まぁ、いい変化があることを期待してるわっ!」

にっと微笑む美樹。

「そ、そそんな、き、期待なんか…。」

してはいけないと思い込んでいる香。

表情がふっと暗くなる。

その心を読んだ美樹は、左手を伸ばしてそっと香の左手をとった。

「香さん、私の予感って結構当たるのよ。」

「え?」

美樹のしっとりとした指先の体温を感じてドキリとする。

「きっと、遠くない未来に、ここに何かがはめられるわ。」

優しく香の指をさする。

「で、なんとなく、あなたたちは、ネックレスを選ぶ気がするわ。」

「んなっ、み、美樹さん!い、い、一体、なんのこ」

「望んじゃいけない、なんて思わないで。」

また、どきんと心臓が跳ねる。

まさに今、自分が考えていることを見事に当てられてしまった。

「み、美樹さん…。」

「ふふ!楽しみだわ。とにかく、いい報告待ってるわよ。」

香はちょっと困った顔で、くしゃりと笑った。



「……ほ、報告、で、できる、かな?」

「言ったでしょ、私の勘は当たるのよ。」

お互い左手同士の柔らかい握手をする。

「余計な心配はしないことよ。ね。」

「……ん。」

香は目を閉じて、美樹の手のぬくもりを感じた。

優しい柔らかいしとやかな指や掌の感触に、

何かが注ぎ込まれる感覚が手首から脳に伝わる。



「ありがと…、美樹さん。」



すんと鼻をすすると香は、にこっと笑顔になる。

「美樹さんも、早く治って!

お店が開いてなくて、ほんと調子狂っちゃってるから、

年内には開けてほしいわ!」

「もちろんそのつもりよ。また日取りが決まったら連絡するわ。」

「うん、待ってる。」

きゅっと指を握り返す2人。

「じゃあ、あたしそろそろ出るわ。急に出かけてきちゃったから、

家で色々雑用がたまってて、片付けなきゃ。」

「また気軽に寄って。」

「もちろん!」

ふたりの絡んでいた指がそっと離れる。

「じゃあ、またね。」

「ええ、また話し相手になってね。」

香は、出口で振り向き様に表情でオッケーを伝える。



上体を起こしていた美樹は、

微笑みながら、ぱふっと横になった。

奥多摩の翌日、あの2人がここに来た時のことを思い出しながら、

きっと兄への報告は、あの時の前後に違いないと、

勝手に確信を持ちながら、

嬉しさを抱きつつ、美樹は仮眠をとることにした。



**************************************************
(6)へつづく。






最終回のサイレントシーンで、
香がファルコンの指輪に気付くシーンから、
おそらく、美樹の入院中はファルコンはリングをつけていなかったと想像されます。
ということは、ファルコンがつけていなければ、
美樹だけ薬指にはめているもの、どうかと思いましたので、
2人とも、お店を再開する日に合わせて、
一緒につけ始める形を思い描いてみました。
AHで、指輪がネックレスにされていましたが、
ここは賛同ということで、
照れ屋のRKは、自分たちだけ共有できていればいいと、
日常生活の中では、見えない形を選びそうと。
(ただ、AHは渡せなかったリングなので、
 意味合いが大きく違ってきますけどね…)

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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