23-08 Independent Training

第23部 Preparation Of Training

奥多摩湖畔から12日目  


(8)Independent Training ******************************************** 4694文字くらい



ファルコンにアパートまで送ってもらい、

撩からの電話がかかってくるまでの6時間、

香は、まず買い物に出ようとも思ったが、

一人歩き禁止令はまだ施行中かと、とりあえず思いとどまった。



「まだ、ぎりぎり食材残っているから、今日はいっか……。」



コンクリートの階段を登りながら、ショルダーバックを肩にかけなおした。

夕べ、遅くに帰宅した撩が、

自分のための訓練の準備だと言っていたことを思い出す。

重ねて、今日の撩の動きと、ファルコンの断片的な情報から、

おそらく近いうちに何かあると、強く確信。

まだ詳しいことを知らされていないということは、

突然ということも十分あり得るかもと、

香は、とりあえず心構えておくことにする。



「4時過ぎか…。」



リビングの置き時計をちらりと見やり、

これからどう時間を使おうか、部屋を見回しながら考えあぐねる。

保留にしてある先送りの雑用件案は複数あるものの、

どれから優先的に片付けるか、順位付けにしばし迷う。



「あ!そうだ!ゴミ!」



はっと思い出して、キッチンの分別ゴミと、

倉庫に仮置きしているゴミの袋を引っ張り出す。

「よいしょ、っと」

明日は、不燃ゴミの日なので、ハサミで切れないような固いプラスチックや、

金属類に、割れ物関係を集積場所に出しやすいように整える。

月に2度しか収集日がないので、出し損なうわけにはいかない。



「忘れないように、玄関に置いておこうかな。」



がさがさとビニール袋を両手に持って、

6階吹き抜けの階段を降りて行く。

玄関のコーナーにガシャリと音を立てて置き去ろうとするも、

撩が帰って来た時にジャマかなと、できるだけ端に寄せることにする。




「さてと…。」



すべきことは、

古くなったTシャツやタオルをボロ布サイズに使いやすくカットする作業、

食品の在庫チェック、

生活用の家計簿に、仕事用の帳簿の整理、

水回りの掃除と、シーツの交換、ベランダのプランターへの水やりに、

古新聞、古雑誌、段ボールの古紙回収セットをまとめて、

5日後の再資源ゴミに出せるように整える。

明日の朝の分も含めて米研ぎもし、タイマーをかける。

なんてことを、ちまちま片付けていたら、

あっという間に7時前になってしまった。






「も、もう、こんな時間?」


時計を見直して驚く香。

やはり腕時計をしないと、時間の経過が分かりにくいと、

置き時計の長針と短針を見ながら、ふぅと一息吐き出した。



「夕食どうしよっかな…。」



撩は、食事はいらないと言っていた。

一人の時はごくごく簡単に食事を済ませることが常、

かといって、今日は朝も昼も簡略し過ぎたので、

夜はしっかり食べようかと、

キッチンに向かい冷蔵庫を開けてメニューを決める。

丁度炊飯器が炊きあがりの電子音を鳴らす。



「あったかいものが食べたいな。」



基本、撩がいない時や依頼人がいない時は、

節約のために空調を使わない香、

11月中旬の東京の外の気温は、夜になると10度近くにまで下がる。

服の重ね着で、なんとかやり過ごすも、

食べ物で体温を上げたくなる。



「よし!中華あんかけ丼にしよ!」



正直一人分を真面目に作るのは、複数人分を作るよりも、

手間も費用も割り増しになるが、

残り物処理対策として、中途半端に残っている食材をかき集めた。

野菜の端切れに、賞味期限切れが近い豆腐やら、ハムやらを冷蔵庫の奥からも発見。

庫内掃除も含めて、一緒に炒めても問題なさそうなものをテーブルの上に並べてみた。

「うん、十分じゃない?」

中華スープの素のありかをチェックして、ささっとだし汁を用意し、

味噌汁も同時並行で鍋一杯分作る。

てきぱきと調理を進めて、

具材を炒めていたフライパンに水溶き片栗粉をかけまして、仕上げに入る。



「よし!完成。」

中華丼と豆腐と油揚げのネギの味噌汁に、白菜の漬け物が添えられる。

「お茶も出そうっかな。」

緑茶も用意して、席についた香は、湯気に混じる旨味成分の芳香に、

食欲中枢が刺激される。

「いただきまーす。」

はふはふと箸を口に運び、あんの効果で熱を保持し、冷めにくい中華風のなんでもあんかけに、

満足そうな表情で食事を進める。

丁度一人分しか作れない量であったこともあり、

在庫整理も兼ねていたが、やはり撩の分も作って上げたかったと、

思いのほか仕上がった寄せ集め且つかき集めの夕食に、

近いうちにまた真面目な調理法で作りなおし、うずらの卵ものっけてあげて、と

買い物メモに書き込むべき物品を思い描いていた。

一人の食事が昨晩から続いてるので、

明日の朝は、相方と一緒に食べたいなと、

今現在、どこで何をしているのか計れない相棒のことを思いながら、

ぱくぱくと口を動かす香であった。




作って、食べて、片付けて、

明日の朝の準備までの一連の作業を終わらせて、

落ち着いたのは午後8時頃。



「お風呂どうしよう…。」



香は、自主訓練のタイムテーブルを練ることにする。

これから1時間、体を動かすトレーニング、

9時くらいから、撩の指示した完全防備での射撃訓練。

急がなくてもいいのなら、ゆっくりとじっくりと的を狙えるようにしたい。

それが終われば、入浴すれば汗も流せると時間割りを決める。

ただ、相方が戻ってくる時刻が分からない故、

それがいつ中断になるか分からない不安定な予定でもあるが、

香はとりあえず、客間に行って、先日買い足したばかりの

新しいトレーニングウェアを着込むことにした。



午前中のうちに、マスク付きの縄跳びは指示通りこなしたものの、

もう一度ワンセットしておこうと、

吹き抜けで、撩の課したメニューの倍をこなす。



「う〜、食べた直後は、き、きついわ…。」



消化器系にある程度詰め込まれている上に、

血液もそこに集中しているので、

若干、頭もぼやけ気味に。

マスクをしている故に、よりぽーっとしてしまい、

何回か縄が足下にひっかかる始末。



「だ、だめだわ。これ、空腹の時じゃないと、お腹が苦しいわ。」



そもそも、ある程度の運動量をこなす前に、

比較的たっぷり食べてしまったので、

タイミングとして色々よろしくない。

香は、とりあえず一つ学習して、今後の自主トレーニングの時間帯を

考え直すことにした。



「ふぅーっ、1セットおわり!」



マスクをくいっと引っぱり、はぁーと息を深く吸う。

丁度1週間前から始めたこの縄跳びも、随分慣れてきた気がすると、

食後という条件を差し引きした疲れ度合いの差を自覚する。

子供の頃は、体が軽かったためか、

地面を蹴って繰り返し宙に浮くこともなんなく出来ていたが、

大人になってからは、自重がさらに負荷となり、

重量に反抗するにエネルギーをかなり要していると感じるも、

慣れを感じ、体力作りにつながっていることも実感する。

これをもっと継続しなければという意欲にもつながり、

香は明日も午前中にちゃんとこなそうと

心に決めながら、縄跳びをきゅっと結んだ。



「次は、地下、か。」



着ているウェアはそのままで、

洗い終わった硝煙防止のための5点セットに加え、

双眼鏡も手に持って、

ローマンと共に連れて行く。

重たい防音扉を開け、パチンと照明をつける。

3日前の300発射撃訓練を一度経験し、

自分の苦手なパターンが垣間見えた香は、

その部分を直すべく、自主的に射撃場のブースへ向かう。

マスク、ゴーグル、ポンチョ、指なし手袋と、帽子、

それぞれを着用すると、

弾が入っている箱を用意する。

耳栓代わりの使用済みの弾を両耳にねじ込み、自分の銃を取り出す。



「今日は数じゃなくて、質、ね。」



とつぶやくが、撩に無断でしていいのか、ちょっとひっかかるも、

この時間を有効利用したいという思いもあり、

ここまで準備したことを、中止する気にもなれず、

自分の計画通り、射撃を始めることにした。

パチンパチンと充填する音と感触に、

これが日常になっている自分を振り返る。

そもそも銃そのものが日本においては、非日常的なものであり、

警官や狩猟免許所有者など特別な場合でないと、

所持は許されない。

今、現在自分は、完全な違法行為を犯している。

しかし、選んだこの仕事はこの道具なしでは、成り立たない。

共に生きるために必要なことと、

この鉄の重さを感じる度に、そう言い聞かせてきた。



香はくっと足を引き締め、ぐっとローマンを構えた。

新しい的に、照準を合わせる。

最初の一発は、ちゃんと中心に当てたい。

両手で支える時間が長くなる程、腕が下に下がっていくので、

的よりもまずは少し上から狙いをつけ、じわりと凸部分にコアを重ねる。



ドン!



ボッと突き抜けた音は、耳栓付きの香の鼓膜には届かなかったが、

わずかにずれはあるものの、得点は最高点の位置に穴があく。

「ほっ。」

大はずれでなかったことに安堵するも、

ゴーグルをずらして、双眼鏡でラインを確認する。



「あら、少し上に当たったのね。早く引き金を引き過ぎたってことか。」



冷静に分析すると、またゴトリと双眼鏡をブースに置き、ゴーグルをつける。

当てたいところに当てられるようにしなければ、

招きたくない不幸につながることは十分理解している。

だからこそ、自分のクセをきちんと見極めなければと、

香は、繰り返し、的の各場所を変化球的に狙いながら、

そのつど、位置を確認した。



見えてきたことは、撃ち始めは、狙い所よりもやや上に穴が空き、

時間の経過とともに、

当てたい場所よりもやや下を抜ける弾道を作る傾向があること。

「コレを支えるために、腕の筋肉つけなきゃダメってことね。」



30発ほど撃ち終わったところで、

今度は、振り返りながらの的撃ちに挑戦する。

的に背を向け、ローマンは両手に持ったまま下におろし、

さっと振り返り、目視で標的を確認し、素早く連発で撃つ。



ドン!ドン!ドン!



「あららら!全然だめじゃない!」

見事に穴はばらばらで円の中にかろうじて入っている状態。

「はは…、まだこれをするには早いってことね…。」

ふぅーと息を吐き出した。

「今日はこれで終わりにしよっかな…。」

自主訓練終了、疲れすぎないように心がけなければと

適度な引き際で撤収作業に入る。



「んー!早くお風呂に入ろっ!」



片付け終わり、撩が前に使った鳥の羽のはたきで塵を落とし、

射撃場の外で、纏っていたものを脱ぐと、前回と同じようにビニールに入れた。

「撩、帰ってるかな?」

上に戻る前に、駐車場を確認するが、クーパーは見当たらず。



「一体どこで何してんのよ。」



詳細を知らないままで、待機するのは今に始まったことではないが、

夕べよりは、かなり面持ちは違う。

ファルコンの一言で、与えられた安心感はことさら大きい。

たぶん、帰ってきてから

何をしていたのかと聞いてもきっとごまかされるだろうと、

半ば、答えを知ることを諦めて、香は階段を昇って行った。



時間は9時半を過ぎたところ。

客間に着替えを取りに戻り、そのまま入浴タイムに入った香は、

いつもより念入りに、体と髪を洗い流し、

温かい湯船にゆっくりと浸かることにした。



もう十分温まり、そろそろ出ようかという時に、

かすかにリビングから呼び出し音が耳に届いた。

「空耳?」

聴覚を集中させる。

「違う!ホントに鳴ってるわ!も、もしかして撩から?」

ざばりと立ち上がり、浴室を出ると

濡れた体を慌ててバスタオルでくるみ、

リビングにかけつける。

髪の毛からは雫が滴り、

首筋から鎖骨に流れ、タオル地に染みて行く。

「っも、もしもし!」

とやっと取れた受話器を耳に当てる。






こうして、先の撩との会話があったワケだが、

やはりリビングは冷え込んでおり、

終始、くしゃみ連発の会話となってしまった。

受話器を置いた後、

香は、超特急でまた浴室に戻り、

湯船に飛び込み、鼻水をすすりながら、

冷えた体を温めなおすのであった。



********************************************************
(9)につづく。






香ちゃん、自主トレーニングタイム。
もしかしたら、撩の訓練が始まってから、
一人の時は、以前よりもきっと自主トレを積極的にするんじゃないかと、
こんな感じの夜を妄想してみました。
カオリンと一緒にお風呂入ってみたいな〜。

【ごめんなさいっ!】
本業やその他行事等で、やや切羽詰まり気味。
色々すべきことが遅れております。
大変申し訳ございません。
メールもお送りしたい方が沢山いらっしゃるのに、
下書きばかり積まれてしまって…。
のろのろですが、少しずつ送らせて頂きますね。
そして、放置状態のところに、いつも足跡を残して下さる皆様
本当にありがとうございます。
ここで最近の方にまとめて御礼。
(一応お名前の読みのローマ字二文字目までだけの伏せ字で)
Toさん、Kaさん、Meさん、Noさん、Hiさん、
Kiさん、Haさん、Yeさん、Ko&Haさん、Emさん、
ご訪問感謝です!

修正手術25部まではなんとか整いました。
夏休み中は、紅葉の森をお届けできればと思います。

2013.07.10.12:40

スポンサーサイト
プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


9万hit記念に
とりあえず作ってみた
CH専用Twitter
 


拍手1000パチ記念につけちゃいました。



かなり便利なサーチツール

登録サイト最新情報はこちらをチェック!


試運転中…

カテゴリ
最新記事
月別アーカイブ
検索フォーム
QRコード
QR
現在の閲覧者数: