23-09 Stand By At Home

第23部 Preparation Of Training

奥多摩湖畔から12日目 


(9)Stand By At Home ************************************************* 2684文字くらい



風呂上がり、髪の毛をドライヤーで乾かして、

寝る前の雑用も一通りすませた香。



まだ撩の部屋で一人待ちが出来ない故に、

リビンクで毛布に包まって体育座りで待機中。

去年創刊されたばかりの雑誌を読みながら、

うつらうつらとしていたが、そのままスーと眠りに落ちてしまった。

この10日余り、慣れないことが多過ぎて、

無自覚の疲労も若干どころか、かなり残存中だったところに、

思い立って自主訓練もこなしたがために、

この状況での意識が保てなかった。



撩の帰宅は、予告通りの日付けが変わる前。

リビングの扉の隙間から漏れる明かりはあるものの、

テレビの音は聞こえない。

感じる相棒の気配は薄い状態。



「やっぱりな。」



音を立てずにゆっくりドアを開けると、ソファーのコーナーで、

丸まっている香をキャッチ。

床には落ちた雑誌が目に入る。

主婦向けの節約大特集の表紙に、ぷっと吹き出した。

それを拾って、ガラステーブルの上にそっと置く。



完全に寝ている。

これが賊だったらどうするんだと、苦笑しつつ、

無防備なパートナーの右隣にそっと腰を下ろす。

髪の毛はドライヤーで乾かしたようで、見た目も十分ふわふわ。

すぐに触れたい思いも沸くが、

もう少しここで寝顔を見ていた気もあり、

早くこの寒いリビングから連れ出したい思いもあり、

ここですぐに抱きしめたい思いもありと、

動いた腕が少し浮いて止まった。




ふっと息を吹き出したその表情は、

実に優しく穏やかで、殺し屋が持つ顔だとは思えない程に、

愛おしく相棒の横顔を見つめる。

左肘をソファーにあずけ指を丸めてこめかみにあて、

スローで右手の指を香の髪に触れさせた。

たったそれだけで、

胸キュンとは一体どぉーゆーことなんだかと、

気付かれないように指先でゆるいくせ毛の髪の房をくるくると回してみる。




これまでも、こんな場面が複数回はあった。

香に言わずにいた仕事の帰りに至っては、

高確率で客間以外での待機だったパートナー。

玄関でハンマー付きの出迎えもあり、

暗い居間でテレビだけが付いている中、

こんな感じで毛布に埋もれているパターンもあり、

自分の普段のわずかな行動の差を

香なりのセンサーで拾っていたのだろう。

心配や不安を抱えながら、自分の帰りを待っている姿に、

毎度胸の奥でチクリチクリと刺さる針が増えていった。

それが、奥多摩でお互いの意志を確かめてから、

剣山のように蓄積されていたあまたの針は、見事に完全熔解。



「不思議なもんだよな…。」



つい音に出た言葉に、はっとするも香はまだ起きる気配はない。

さぁ、どうしてやろうかと思いながら、

かつては、こっそり勝手に軽い接吻を施したり、

途中で起こさないよう客間に運んだりと、

己の本音を深く強く押し殺しての各種行動にくくっと肩を揺らす。




もう、こそこそする必要は全くない。

俺の愛を受け取れと言わんばかりに、

撩は毛布ごと香をぐいっと引き寄せた。

「わわわっ!」

ビクンと体が跳ねて一気に覚醒に引き戻された香は、

この急襲を理解するのに数秒を要する。

「りょ、撩?」

ぐっと抱きしめられ、髪の毛に撩が顔を深く寄せているの感じる。

「ばーか。」

「へ?」

「風呂上がりに、また体が冷えることしやがって。

しかも俺の気配に全然気付かねぇーなんて、ずいぶんと余裕じゃね?」

「は?」

撩は、そう言いながら2人を隔てている毛布がジャマで、

とっぱらいたいと思うも、運搬が先だと、毛布と一緒に香を抱き上げた。

「な、なにすんのよ!」

「寝るに決まってんじゃん。」

涼しい顔で、そういいのける。

歩きながら、わずかに残る硝煙の匂いを嗅ぎ取り、

香の自主練を知るが、あえて何も言わないことに。



この男の『寝る』という語彙が、他の意味も含むことは

十晩以上、夜を共にした香も十分に理解している。

かぁああと体温があがっていく。

しかし、運ばれつつも香は撩の付属物にふと気付いた。

それを尋ねる前に先に撩が口を開く。

「今度から俺の部屋で大人しく待ってろ。」

「はぁ?」

「下は冷えるだろが。」

そうこうしているうちに、7階に到着。

香をお姫様抱っこしたまま、器用に布団を引き上げ、

ベッドにころんと香を転がす。

「きゃあ!」

毛布から半回転して香が出てきたところを、

すかさず冬用の掛布団できっちりサンド。

「シャワー浴びてくっから、いいコで待ってろよ。」

「はぁ?なによっ、そのいいコって!?」

「前のように、トラップのチェックとかすんじゃねぇぞ。」

離れそうになった撩に、香は慌てて呼びかける。

「あ、ちょっと待って、あんた髪になんかついてる。葉っぱ?」

「あ?」



撩の服に泥がわずかに付着しているのにも勘付いていたが、

黒髪のくせ毛の中に、

2、3センチほどの茶色い小さな枯れ葉が1枚ひっかかっていた。

かなり細かい鋸歯(きょし)があり、葉柄(ようへい)も短い。

上半身を起こした香は、目標物を見ながら手を伸ばす。

「こっちきて、とったげる。」

「あー?どうせ洗うんだからいいだろ。」

「見つけたものは今とったほうがいいでしょ。ほら。」

形のいい指でつままれた枯れ葉に、

撩は、あそこでついたのを連れてきたかと、眉をあげる。

きっとこれが植物のプロだったら、

この葉の特徴から自生している環境を読み取れるだろう。



「あんた、公園とかでノゾキやってたんじゃないでしょうねぇ〜。」

つまんだ枯れ葉を手にジト目で撩を見るパジャマ姿の香。

「ばっ、ばか言え!んなワケないだろーが!」

香から離れた撩は、チェストからトランクスだけ持ち出して、

ドアに向かいながら、他に余分なものがついていないか

片手で自分の髪をくしゃくしゃと掻き回す。

「んじゃ行ってくっから待ってろよぉーん。」

いつものスタイルで手をひらひらさせながら、

階段をトントントンと音を立てて降りていった。



「一体、どこで何してたんだか…。」



摘んだ葉っぱをベッドサイドの植木鉢の中にぽとりと落とす。

ばふっと枕に頭を預けるも、

香は、今晩もまた撩と肌を合わせることになるのだろうかと、

夕べのような一人寝の淋しさはもうしたくないと、

またここで一緒に寝られる嬉しさと、

まだまだ色事に慣れない緊張と、

オトコの匂いが残る各種寝具に妙なトキメキを感じと、

この部屋にいることを許される安心感とで、

待ち時間と相関するように頬は赤くなっていく。



「きっと、聞いてもまともに教えてくれそうにないわよね…。」



あの葉っぱに、肩や服の裾についていた土の痕跡に、

撩がどこに何をしにいっていたのか、

香には全く推理はできないまま、

指示通り、相方が戻ってくるのを

大人しく布団の中で待つことにした。


********************************************
(10)につづく。





撩が連れて帰った葉っぱは、サラサドウダンをイメージしています。
色々こそこそしてましたってことで…。
香ちゃんが読んでいた雑誌は1990年に創刊された「すてきな奥さん」あたりで。
自分が高校生の時、何冊か買った記憶があるもんで…。

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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