25-04 To Feel Inclined

第25部 Narusawa 

奥多摩湖畔から13日目   


(4)To Feel Inclined ************************************************ 2810文字くらい



「駅に行くのは、昼飯食ってからな。」



午前9時過ぎ、

コーヒーをガラステーブルに置いたと同時に、

そう耳に入ってきた。

「え?」

読んでいた雑誌をソファーにぽいっと放ると、

カップに手を伸ばし、もう片方の手でリモコンを取った。

「伝言板、見るのは午後でいいだろ?」

ピッという電子音と同時に、テレビ画面がどこかの行楽地の中継を映す。

「あ、うん。」

気分としては、出来るなら午前午後の計2回は

伝言板を見回っておきたいが、

別段、この提案を断る理由もないので、

香は、素直に承諾する。

午前中に行こうかどうしようか、迷っていたので、

これで正午までの動きのイメージがほぼ固まった。



「わかった、じゃあ、あたし片付けることがあるから、そっちやってるわ。」



トレーを脇にかかえて、廊下に出ようとした足がふっと止まる。

「あ、昼ご飯なにがいい?」

「食えりゃいいー。」

ずずっとコーヒーをすすりながら、さも興味なさげに返事をするも、

実は、心の中では、次は何が出てくるかが、かぁーなり楽しみだったりする。

「あっそ。」

最初から、期待はしていなかったので、香も軽く流して、

キッチンに戻る事にした。




「さてと、2時間どうしようかなー。」

いつもなら、午前中の雑用が済んだら駅経由キャッツコースが定番ではあるが、

アパートの滞在時間は、なにかとすべき事案がそばにあり、

むしろ外のほうが開き直ってのんびりできたりする。

コーヒーセットをしまいながら、

まずは、食材の在庫確認。

3日前のパルコの買い物から補充が出来ていないので、

そろそろ生鮮も冷蔵モノも心細くなってきた。

買い物メモを用意して、テーブルの上で書き足しながら、

今日の午後にでも、いきつけのお店に行かなければと考えつつも、

ふと顔を上げて動きを止める。




「……まだ一人で行っちゃ、だめ、なのか、な?」



先の伝言板も、一緒に行く事前提での会話。

当然、買い物も、まだ街中の単独行動を許された感じではない。

撩は、まわりが勝手に盛り上がっているうちは、

一人歩きをするなと言っていた。



「一体いつまでなのよぉ〜。」



がたりと白木の椅子に座ると、頬杖をつく。

確かに、先日唯香に捕まったり、

ツケの支払先でもなんやらかんやらと、そっちのネタで集中砲火を受けたり、

撩もあちこちでからかわれている様子も見受けられ、

助言通り、まだ一人でそのような場に居合わせても、

冷静に対処できないことは必至。

かと言って、いつまでもこのスタイルでは、

撩をそのつど付き合わせるようで、申し訳なさもあり、

一方で、一緒に出かけられるささやかな嬉しさもありと、

心中複雑な気分が渦巻いてしまう。

とにかく、今日は買い物に行かなければと、

香は、必要な項目を書き留めたら、

メモ紙をシーンズのポケットにくいっと仕舞い込んだ。



「さてと、次は洗濯機見てこなきゃっ。」



香は、よっと立ち上がると、んーと伸びをして、

細い腰に手をあてながら、ダイニングキッチンをあとにする。



すでに洗いが仕上がっているくだんのシーツを洗濯槽から回収すると、

再びリビングに入り、ベランダの手すりにふわりと広げた。

一足早めに干していた掛け布団に並び、

これで冴羽アパートの6階ベランダには3枚の寝具が干しに出された。

(昼頃まででいいかな?
 
 午後は出ちゃうし、夕方だともう冷えちゃって間に合わないかも。)

回収時間をイメージし終わると、

次の洗濯物をまわしにいこうと、振り返る。



テレビは消され、

ソファーの短辺でごろりと仰向けにかっている撩は、

愛読書を顔にかぶせている。

すー、すーと空気の出入りだけがかすかに聞こえ、

長く邪魔そうな足は、高く組まれ、

左腕はクッションと頭の間に差し込まれ、右腕は自分の腹の上に投げられている。

なんとも無防備な姿に、

これが昨日、自分と裸で抱き合った相手なのかと、

同じオトコとは思えないさまに、つい足が止まってしまった。

その姿を見とれていたことを悟られまいと、

カラのコーヒーカップを片付けようと手を伸ばす。



「こ、これもってっちゃうね。」



これまでそんな意識をしたことがなかったのに、

視線が、どうしても撩の股間に行ってしまい、あわてて目をそらす。

何も気にしてませんよぉー、と見られてもいないのに、演技をし、

その場を去ろうとする。



「んー…。」



背後から、気の抜けた返事が、広げられたページの下より聞こえるも、

その声も、情事の時にまれに耳にする撩の吐息と重なり、

どきんとして、かぁぁと顔が赤くなってしまった。

アレから、ほぼ毎晩のように、肌を合わせるようになり、

これまで、何にもなかったことがウソであったかのような、

いちゃつきぶりには、香自身も、未だ持って信じ難い。



「……何も、なかった、ってワケじゃない、か。」



香は、そうつぶやき残して、廊下に出た。

持っているカップの縁取りを見ながら、飲み口に残る撩の唇のあとに

くすりと頬をさらに赤める。



シンデレラデートの時に抱きしめられ、

ソニアの時も公園で抱き寄せられ、

マリーの時には、額への口づけ、

海原戦の時にも抱擁し合い、

ガラス越しのキスは、

もはや何もなかったという部類には入れられないだろうと、

耳から湯気を出しながら思い返す。

今だったら、その時、撩が何を思い、何を考えていたのか、

尋ねたら教えてくれるだろうかと、聞きたい欲求が込み上がるも、

過去の思い出が明瞭に浮かび、体温もまた込み上がってくる。



シンクで軽くコーヒーカップを洗い上げ、かたりと水切りかごの中に置き、

冷たい水をさらに出して、

熱くなった顔にぴしゃぴしゃと冷水を当てる。



「はぁ…。」



油断すると、頭の中は撩との触れ合いのことで一杯になり、

交感神経が過剰に反応して、

心拍数は高まり、発汗も激しくなり、

しまいには呼吸も乱れ気味になってしまう。

四六時中、もっこりのことを考えている相棒を

これまでも散々変態呼ばわりしてきたが、

これでは、自分も同じではないかと、

ぶんぶんと頭を振ってみる。



先のリビングでも、実はそっと近付いて、

いつも自分に優しく触れている撩の手に、

己の手を重ねたい衝動にかられてしまったが、

それを無理矢理引っ込めての退散。



「あーっ!だめだめ!もうっ!」



顔を拭きながら、

切り替えスイッチを強引にオンにすると、

香は、縄跳びの準備にとりかかることに。



「終わったら、シャワーと洗濯第2弾だわ!お昼はラーメンかなっ。」



パンと頬を叩いて、ふんと荒く息を吐き出すと、

イカリ肩の大股で自室に入り、

すぐさま、トレーニングウェアに着替え始めた。






一方、リビングでは、

香の置き逃げのようなつぶやきの意味が分からぬまま、

寝たふりをして、相棒の動きを拾っていた撩。

しかし、断片的な独り言では、

この不可解な空気の正体は、撩でもさすがに掴むことができない。

頭の中に3つ4つの疑問符を浮かべつつ、

忙しく動き回る香の気配を糧(かて)に、心地よくまどろみに身を任せた。



******************************************
(5)につづく。





ウブなカオリンですから、
いろいろ気になってしょうがないと思います。

【8万ヒット感謝!】
ありがとうございます!!!
近々、リンク2件様追記と、GIFTをご紹介させて頂きま〜す。
ゆっくりいじれるまでしばしお待ち下さいっ。
2013.07.29.01:50

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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