25-06 Tined Autumnal Leaves

第25部 Narusawa 

奥多摩湖畔から13日目 


(6)Tinted Autumnal Leaves **************************************** 3913文字くらい



午後1時前。

伝言板を確認して、何もないことを伝えに戻った香に、

撩はこう言った。



「少し遠出するぞ。」



「……は?」

そんなこと、今日は一言も言っていなかったはずと、

香は自分の予定を訴える。

「ちょ、ちょっと撩!

あ、あたし、このあと、スーパーに買い物行こうと思ってるんだけど。」

「却下。」

エンジンがかかる。

「はぁ?」

「だ、だって、もうあんまり冷蔵庫に入ってないのよ?」

グォンと出発するクーパー。

「今日はいい。」

「ど、どこに行くの?」

「なーいしょ。」

ハンドルを軽やかに切りながら前進。

「はぁ?なにそれ?」

そんなやりとりの中、クーパーはさっさか新宿インターに入って、

高速に乗ってしまった。



「何か企んでるんでしょ…。」



まだ教えようとしない秘密主義のオトコに小さく立腹中の香。

腕と足を組んで、少し頬を膨らませる。

「着くまでのお楽しみっつーことで。」

撩は、窓枠に肘をひっかけ、左手だけをハンドルに乗せて、

軽快にアクセルを踏み続ける。

23区を出たところで、緑被率の高い景観が増えてきた。

放置された杉林の緑と対比するように、

落葉広葉樹の斜面を抱える稜線が、

紅葉のグラデーションを描いている。



「わぁ…。」



車窓に見とれる香は、

今シーズン、郊外の秋の風景を味わえることを諦めていたので、

突然の予定に、嬉しい付録がついてきた。

進路は、北北東。

いつの間にか首都高を出て、東北自動車道に入る。

青く抜けた空と、紅葉のピークが重なった絵葉書のような光景が、

移動中の時間を忘れさせる。

すぐそばの木々は、防音壁で隠されているが、

遠目の森や林が、まさに燃えているような様々な色の赤で

その存在を主張している。



(ま、まさか、紅葉狩りのデートとかじゃ、ないわよ、ね…。)



まだ、何も言わない撩をちらりと見やり、

このあと、一体どんなタイムテーブルが待っているのか、

香はひどく気になり始めた。

すでに1時間半近く走っている。

これで、今日戻るとしても往復3時間以上、

戻ってから、買い物とか料理とかがいつも通りの時間には

出来そうにない未来が見える。

とりあえず非常食は常備してあるので、飢え死にすることはまずないだろうが、

一体今日は、何時に帰宅できるのか、

それによって作るメニューの作戦を立てなければと

香は考え始めていた。



「ねぇ、ちゃんと戸締まりしてきた?」

「心配すんな。全部見てきた。」

「あたし、すぐにアパートに戻る気でいたから、色々やりっぱなしだったんだけど。」

上着も着損なって、出てきてしまった。

「ガスの元栓も占めてあるし、洗濯もんも乾燥機に突っ込んできたから大丈夫だろ。」

「あ!そうよ!帰ってから干そうと思ってたのに!」

「とりあえず家のことは気にすんな。」

「気になるわよ!急にこんな遠くに出かけるなんて思ってなかったもん!」



県境を3つ超えて、海のない県にまで入ってきた。

紅葉の行楽シーズンで好天のためか、車も若干混み気味であるが、

小回りの効くクーパーは、滑らかに車線を右に左に変えながら

他車を追い抜いていく。

香は、ふぅと息を吐き出しながら、シートに深く座りなおした。

首を少し傾けて、引き続き車窓を眺める。



「きれい…。」



民家が少ないルートのところでは、壁もなく

道路際までに鮮やかな秋の色がせり出している。

種類によって、その暖色系の濃さや形も違い、

視界たっぷりの多種多様な彩りに、

香は飽きることなく、窓からの光景を眺め続けた。




暫く無言で進んでいたところに、唐突の提案。

「パーキングに寄るか?」

「え?」

「トイレ休憩。」

「ううん、いいよ、別に。どっちでもかまわないけど。」

「んじゃ、行くか。」

するりと車線を変えて、パーキングエリアに入る。

約2時間のドライブに、香は助手席から降りると、んーっと伸びをした。

「結構寒いじゃな…。」

自分の二の腕を抱きしめ肩をすくませるも、

目の前に広がる赤の海に、言葉が止まった。



「すごい…。」



バタンと運転席から撩も出てくる。

「ちょうど真っ盛りだな。」

ボンネットに寄りかかり、タバコをくわえた。

「あんた、まさか、いろは坂登るんじゃないでしょうね?」

「ああ?」

「いきなりこんなところまで出かけるなんて、

分かっていたら、ちゃんと上着とか用意してきたのに!」



香は、縄跳びの時にトレーニングウェアに着替えたあと、

シャワーを浴びてから、

またジーンズに布地がやや厚いピンクのカジュアルシャツと、

カーキ色のトレーナーを着込み、それだけで出てきてしまった。

もう1枚羽織らないと屋外ではなかなかキツい。



「そんな奥までは行かねぇーよ。目的地はもうすぐそこだ。」

快晴なので、風さえやめば陽の温かさを感じるが、

すでに標高は500メートル近い。

「外に出たら冷えちゃったわ、トイレ行ってくる。」

そう告げると、小走りで小ぎれいな建物へ入って行った。

ライダーも複数台、休息をとっており、

ここで記念撮影している観光客もあちこちで目に入る。

いかにも観光地らしい店構えに、多くの県外ナンバー。

尾行等、怪しい影や空気はないなと、ざっと周辺をサーチして、

火をつけていないタバコをくわえたまま、

撩は、クーパーによっと腰掛ける。



片足だけ、くいっと曲げると、肘を置いて、

ふぅと浅く空を見上げた。



「……ボクちゃんのほうが耐えられるかしらん。」



ぼそっとこぼれた独り言、

はっと気付いて、また香に聞かれてやしないかと、

きょろきょろと見回してしまった。

まだ用足し中。

ほっと肩の力を抜いて、またボンネットに体重を預けた。




全ての準備は整っている。

香の体調も問題なし。

(いや、もしかしたらボクちゃんのせいで、ちーっとばっかし寝不足かもしれんが…。)

あとは、どこまで想定内の動きでコトが進められるか、

進行方向にある山の稜線を見ながら、イメージを固めた。

撩自身、初めての事にわずかな緊張感が胸の端に引っかかっている。



「ま、なんとかなんだろ。」



聞き慣れた足音が近付いてくる。

「おまたせ。」

コンと置かれたコーヒーに気付く。

「はい、これあんたの分、ブラックでいいわよね。」

「ああ、さんきゅ。」

自販機からホットで購入してきた2本の小さな缶。

香の分は、ミルクティーが印字されている。

「あったかい。」

両手で包んで冷えた指先を温める。

香は撩の隣りで同じくクーパーによりかかる。

撩は、くわえていたタバコを指で挟むと、その手で

プルトップタブをプシュと引いた。

一応焙煎の香りがほんのり漂う。



「こんないいタイミングで、紅葉見られるなんて思ってもなかったわ。」



遠くの山並みを見つめながら、香がそう言うと、

「目的は、紅葉じゃないんだがな…。」

と隣りから返ってきた。

「え?」

「飲んだら行くぞ。」

撩は、くいっと残りのコーヒーを飲み干すと、

10メートルほど先にある缶ゴミ入れに、

ぽいと弧を描かせてホールインワンをさりげなく決めた。

カゴではなく、丸い二つの穴が開いているタイプの分別ゴミ箱へのシュートに

香は目を丸くする。

「も、もう、行くって一体どこなのよ!」

慌てて缶を傾ける香。

「もうすぐそこだって。」

「何しに行くのよ?」

「んー、だから、な・い・しょっ。」

撩は指に挟んでいた折れたタバコを、

ピンと跳ねて、燃えるゴミへ飛ばした。

「もうっ。」

まだ多くを語ろうとしない撩に、はぁと諦めモードで追求を早々にやめることにする。

こくりと缶の中のミルクティーを喉に流し、

体を温める。

上着なしなので、早く飲んで車内に入らなければと、

ようやく中身をカラにする。

「よこしな。」

「あ。」

そのまま撩の手に渡った缶は、さっきと同じ軌道で、缶ゴミの中に見事に収まった。

「おーっ!!」

少し離れていたところで、その様子を見ていた革ジャンのライダーたちが、

驚きの声をそろえる。

「行くぞ。」

「あ、う、うん。」

撩がちょっとかっこ良く見えてしまって、

また頬が赤くなり、飲んだホット飲料と重なって香の体温を上げた。



クーパーの両ドアがバタンと締まり、再出発。

すぐに本線へ合流する。

そう長く走らずに下りたところは、日光インター。

大谷川を渡って、山の方へ進路を進める。

だんだんとアスファルトも細くなって行き、

大きなスポーツ施設らしきところの脇を通過したあたりから、

道がかなり心細くなってきた。

気がついたら、狭い砂利道の作業道のようなところを走っている。



少し開けたところに出たと思ったら、

そこでようやく赤い車は停車した。



香は、ゆっくりと運転席の撩の方を見る。

「ま、まさか、ここって姥捨山じゃないわよね…。」

こんなところで、置いて行かれてしまったら、

色んな意味でただじゃ済まないと感じる山の谷あい。

「あ?」

もしかして、自分がここで捨てられるんじゃないかと、

ほんの少しだけ自虐的な想像が浮かぶも、

撩のきょとんとした顔で、さすがにそれはないだろうと、

とりあえず自分の考えを否定しておいた。

「ううん、な、なんでもない!」

首と手をブンブンと振って、聞かなかったことにしてと、表情で訴える。



撩は、ふっと息を軽く吐くと、

左手で、ぐいっと香を引き寄せ、眉と眉の間やや上あたりに

自分の唇を押し付けた。

「うひゃあ!」

「……さて、準備すっか。」

くしゃりと香のくせ毛を掻き回し、

すっと離れた撩は、運転席から降り立つ。

突然のでこちゅうに、真っ赤になってフリーズしていた香は、

バムっとドアが閉まる音で我に返った。

自分も慌てて、車外に出る。

先ほどの場所よりも、さらにひんやりしている林縁そばの路肩。

間近で燃える広葉樹が広がりを見せる。



吐く息が白くなる気温。

一体何を始める気なのかと、

香はクーパーのトランクを開ける撩の姿を見ながら、

自分の腕を抱きしめた。



***************************************
(7)へつづく。





いよいよ現場につきました〜。



【今更修正…】
「紅葉のグラディエーション」を
「紅葉のグラデーション」に修正…。
同じ間違いを他でもしとったのに…。
今更過ぎる訂正、お詫び申し上げます。
m(_ _;)m
4年近く経っとるしっ。
2017.06.24.01:58



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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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