25-08 I Don't Want To Apart

第25部 Narusawa 

奥多摩湖畔から13日目   


(8)I Don’t Want To Apart ****************************************** 1639文字くらい



未舗装の坂道を高速で走る下るクーパーは、

砂利の振動を受け、

車内が激しく揺れ続ける。



「くそっ、やっぱダメじゃねぇーか。」



カーブの遠心力で片輪が浮く。

自分が課した訓練のはずなのに、

これから共に生きて行くための、超初級の模擬救出体験だというのに。

こうも強烈に、香から離れたくないと、一人にさせたくないと、

甘えた思考が込み上がり、

別れ際、

抱きしめ唇を重ねたい衝動をギリギリでこらえての別行動に、

撩自身が、

香の到着までに耐えられるか怪しい雲行きになっている。



到着した時、香の一言に、

まだ自分に自信を持てないでいる深層心理を垣間見た。

思わず、抱き寄せ口を塞ぐところを15センチ上になんとかずらす。

そのままちゅうをしたら、勢いでそのままクーパーの中で

押し倒していたかもしれない。



もうその時点で、

森に一人で残すことに、ただならぬ抵抗を感じていた。

しかし、奥多摩で、あの湖畔で、

ケジメをつけてから、

撩なりに計画を立てての訓練の序盤。

以前から、ぼんやりとイメージは描いてはいたものの、

思いもかけぬクロイツ戦において節目を得てしまい、

この晩秋に実施と相成った。

当初、こんな心情がせり上がってくるとは、

全く想定外。

スタート早々に、自分の揺れる心理に向き合わされ、

それを悟られまいと、終始おちゃらけモードで、やり過ごした。



「香ちゃん、頼むから、無茶はすんなよ…。」



わだちが深い作業道から、傷み気味の細いアスファルトに入り、

さらにスピードを上げる。

タイヤの鳴る音が斜面林に反響する。

広い道路に出たところで、すぐに左折し再び坂道を上り、

ペンションが並ぶ直線をつっきると、山の斜面を舐めるように

林業用の作業道に侵入した。

舗装されていない林道は大型重機が入るためか、

クーパーが余裕で走れる道幅に、ますますアクセルを踏み込む撩。

針葉樹と広葉樹の混交林を走り抜け、

まるで獣道の出口じゃないかと思う程の狭い横道へするりと左折する。

実は、入り口はカモフラージュで、

トンネルを抜ける様に藪を突っ切ると、

唐突に、整備されたウッドチップが敷き詰められているアプローチに入った。

正面には、洋風の山荘が待ち受けていた。



撩は、建屋の裏手側に車を回し、林縁に近いところにキッと停めた。

運転席から出てきたオトコは、

バンと音を立ててドアを閉める。



香と別行動になってから、短時間でここまで到着。

まわりは、夕焼けで空と森が染まりかけている。

「急がねぇーとな。」

撩は、山荘をざっと見回し、異常がないかを目視すると、

尾根沿いにロッジへ続くトレイルを小走りで下って行った。



香よりも早く、大小各種のログハウスがある広場に出るのが目的。

気付かれない様に、経過観察という言い訳の元、

そばにいる口実であることは当然自覚している。

計算では、香がそこまで辿り着くのには、

30分かかるはず。



途中より、体操選手にでも職を変えるのかいう動きで、

樹幹を移動しながら、

ロッジ全体が見渡せるミズナラの巨木に身を隠した。

樹高15メートルほど、七部目あたりのところのある太い横枝は

撩の体重を支えるに十分な強度。

ここなら、香の動きがある程度キャッチできる。

「間に合った、な。」

香は、まだ到着していない。

「さて、……ここを何分で抜けられるか、ね。」



黄葉した数万、数十万の葉が、撩の姿を都合良く隠す。

自分の胴体と同じくらいの直径を持つ樹木の腕に、

よっと腰を降ろすと、

肘掛けに使ってくれと言わんばかりの位置と大きさで

幹にサルノコシカケが育っている。

粉のふいたような表面の感触は滑らかで、

撩はそこに右肘をひっかけ頬杖をついた。

足を組み、ふっと小さく息を吐き出し、つと目を閉じる。



さわさわと葉が擦れ合い重なり合いながら乾燥気味に鳴る中で、

寸分も音を聞き漏らすまいと、

じっと香の気配が近付くのを待つ事にした。


***************************************
(9)へつづく。





サルノコシカケは
コフキサルノコシカケ(高級品らしい)で。
本当は、弱っている木か枯死した木につくみたいですが、
そこは勘弁…。
ペンションまでは、実際の地図にそっていますが、
林道からは捏造です…。
クロイツ戦でも、樹上にいる撩が描かれていましたので、
テナガザルのごとく、木々を移動するのはお手のもんかと。


ここで、今回のフィールドの解説をば。
第25部のタイトル通り、鳴沢という地区名が舞台です。
山梨県の鳴沢村ではなく、栃木県日光の某所でございます。
新宿から日帰り往復可能で、そこそこの標高、
教授の管轄物件の一つがある場所として選ばせてもらいました。
20年前、サークルの合宿先だったのですが、
当時のかすれたイメージの中で、
ロッジの棟数や位置関係は完全な妄想です。
今はどうなっているのか、全く分からないのですが、
お近くの方や、利用したことがある方にとっては、
全然違うじゃん!と思われる表現箇所が複数出てくるかと思います。
一応、舞台だけ鳴沢をお借りしましたということで、
細部の誤差はご勘弁下さ〜い。


【Rさまへのお詫び】
すぐに対応させて頂きました。
Twitterですでに情報発信がされていたので、
こちらもリンクノートを管理している側として
動いてしまいました。
最後の最後まで、こちらの配慮のない言動で、
ご不快な思いをさせてしまい、
本当に本当に申し訳ございませんでした。

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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