25-09 Great Spotted Woodpecker

第25部 Narusawa

奥多摩湖畔から13日目   


(9)Great Spotted Woodpecker *************************************** 3035文字くらい



数十メートル歩いたところで、香の足が止まる。

緩いカーブ、この先の様子はまだ見えない。

内側のラインに隠れながら、そっとその先を覗く。

同じ様に、林縁沿いに砂利道が続いている。



目をこらす香。

足下の高さ、胸の高さに、

ワイヤーなどの細いものが渡されていないか、

不自然に倒れた草薮はないか、

自分だったら、この道にどこにどんなトラップを仕掛けるか、

そんな視線で見えている空間をサーチ。



「だ、大丈夫みたい、ね。」



しかし、もう周りが見えにくくなってきた。

空はまだ明るく、夕焼けのちょっと前の様相であるが、

自分がいる谷は、すでに陽が当たらなくなって時間が経っている。

吐き出す息も白さが濃くなり、気温が下がっていくのを肌で感じる。



「い、急ぎたい、けど…。」



とにかくこの先のロッジまで辿り着かないと、

コトが始まらない。

が、この道にトラップがないとは言い切れないので、

用心深く進まざるを得ない。



「仕掛けてあるとしたら、どんな細工なの?」



香は、カサカサと先に落ちてしまった黄葉紅葉の絨毯を踏みしめながら、

さらに注意を払いながら先に進む。

地図上では、2キロ程でロッジに到着するはず。

普通に歩けば、30分もかからない。

しかし、何があるか分からない初めての道であり、

罠も仕掛けられている可能性があるとしたら、

その速度は数段落ちてしまう。



どこに何が仕掛けられていてもおかしくない環境に、

困惑から緊張が広がる。

これまでは、ファルコンと共に、埋め立て地や大型倉庫に廃ビルと、

どちらかといえば都市部のフィールドで受ける訓練が多かった。

しかし、ここは植相から原生自然に近い環境。

馴染みの薄い、勝手の分からない現場に、

香が持っている見識では、先読みするには不足しているものが多過ぎた。



しばらく直進が続く道のりに、

上下左右を気にしながら、とにかく前進。

木立の間を、ジェー、ジェーと濁った声で鳴くハトサイズの野鳥が数羽、

香の気配を感じて、慌てて森の奥へ飛び去って行く。

そろそろ彼らもねぐら入りの時間。

羽音に少しドキリとした香は、鳥ならまだいっかと、ほっとする。



「え?ちょ、ちょっと、待って?

こ、ここって、く、クマとかシカとかいるんじゃないのぉ?」



ミッションのことばかりを考えていたが、

トラップに加えて、出くわしたくない野生動物の存在も鳥の声で教えられ、

ますます緊張感が高まる。

「やーんっ、こ、こーゆー時って、

スズとか鳴らしながら歩かなきゃいけないんじゃないの?」

どこかの山岳ロケの番組を見た時に、

登山道をカランカランと小さなカウベルを鳴らしながら歩くハイカーの

シーンがあったことを思い出す。

持たされた道具にラジオもフエもベルもなし。



「うー、こっそり行かなきゃならないんだったら、

歌いながらってワケにはいかないわよ、ね…。」



とにかく、不用意な出会いがないことを祈りながら、

夕刻近くの心細い道を一歩一歩進んで行った。

進行方向右手側に林床がすっきりとした広葉樹の斜面林があり、

左手は細い沢がさらさらと流れ、大小の礫がごろごろとしている。

歩いている光景は、贅沢なトレッキングコースであるのに、

まわりの秋の風景を楽しむゆとり無く、目的地に徐々に近付く香。



一度、立ち止まって地形図をウエストバッグから取り出し、もう一度見る。

「も、もうちょい、かな?」

10棟ある建屋から人質を探し出さなければならないとしたら、

1棟1棟そう時間もかけられない。

地図をしまい込み、先に向かおうと歩みを再開。

何十歩か進んだところで、

突然樹上から、ドロロロロロと重低音の連打が響いた。

「なっ、なに???」

思わず、腰を低くして音の発信源に顔を向けた。

胸高直径は人が抱きかかえても届かないくらいの

枯れた巨木のさらに上。

白と黒の鹿の子模様に、下腹部が赤いキツツキが、

今日の最後の食事探しだと、懸命に嘴で幹を突いていた。



「び、ビックリしたぁ—…。あんな大きな音をたてるんだ…。」



高速で頭部を動かし、香が見上げているそばから、

さらにドラミングを続ける。

「初めてキツツキ見たわ…。あんなに激しく突いちゃって、くちばし折れちゃわないの?」

絵本や映像でしか知らなかった有名所の生き物が目の前で、

自分を気にせずに採餌している。

脳しんとうでも起しそうな勢いで、

乾燥した樹皮を突きながら少しずつ上部に移動していくアカゲラを追うも、

ほどなくして、ケレケレケレと鳴きながら、次の枯れ木を求めて飛び去って行った。



「いっちゃった…。」



肉眼でギリギリ見えた初めて出会う野鳥に驚き気をとられ、完全に油断をしていた。

数歩踏み出したとき、

バサン!という音とともに自分の視界が一気に地面から引き離された。

「きゃあああっ!」

自分のまわりはメッシュに囲まれ、パラパラと落ち葉が舞う。




「………やっちゃった。」



最初のトラップに、華麗に引っかかってしまった。

ネットで包まれた香は、地上2メートルくらいのところでぶら下がっている。

樹木の形を活用した吊り上げ式の初歩的なトラップ。

香は、横倒しの体育座りのような格好でラッピングされているが、

なんとか体勢を立て直し、状況を確認する。



「はぁ…、油断した、わ。」



キツツキを気にしなければ、

きっと不自然に積まれた枯れ葉の集まりに気付いていたかもしれないが、

完全に注意を怠っていた。



「もうっ!」



自分のミスに腹を立てるも、まずはここから脱出すべきと、

腰のカメラバッグから、折りたたみナイフを取り出した。

地面からの高さを再確認。

この高さなら、飛び降りることができる、と

メッシュをカットする位置を見極める。



「金網じゃなくてよかったわ…。」



数カ所切れ込みを入れ、自重でちぎれる範囲も予想しながら、

落ちる時に、ナイフでケガをしないよう、

慎重に脱出をはかる。

ビビビと繊維がちぎれる音と共に、重力に引き寄せられる香は、

片手でネットにぶら下がり足裏と地面が50センチというところで、

すとんと着地した。



「ほっ、脱出成功!…って、これ何よ!」



黒のフリースの腕部分に、ピンクの蛍光塗料が格子状にべったりと付着。

はっと見上げて自分が切ったトラップの網をみやると、

メッシュの内側に同じ色の塗料が見えた。



「もーっ!撩ったらっ!」



どのトラップにひっかかったかが分かる証拠が衣服に残る仕組みであることを

理解する香。

「これじゃ、ごまかせないわね…。」

はぁと、溜め息をつく。

この1件で、余計に時間を使ってしまった。

「い、急がなきゃ!」

香は、パンパンと服についた小枝や葉っぱを払う。



ロッジのある広場までは、あと数十メートル。

「持っているものが心細いかも…。」

香は、今のうちに手近にある小石をいくつか拾い上げ、

ウエストバッグに入れると、ガムテープを取り出した。

「んー、これも無駄使いできないわね…。」

せり出している斜面の際には、枯れ枝がいくつも落ちている。

「えーと…。」

あたりを見回し、手頃な枝を選び出す香。

長さ40センチ、直径は親指程、表面が滑らかな小枝を手に持つと、

丈夫さを確認し、自分の左の腿の側面にガムテープでくるりと巻き付けた。

ファルコンから教えてもらった発見したトラップをわざと作動させるのに、

ワイヤーなど刺激するための小道具。

「ないより、マシよね。」

膝をポンと叩いて、すっと立ち上がるとガムテームをしまい、

進行方向にくっと顔を向ける。



香は、見えにくくなってきた周囲を気にしつつ、

さらに注意を払いながら前に向かった。


***************************************
(10)につづく。





まずは、アカゲラちゃんの登場でした。

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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