25-10 Access

第25部 Narusawa

奥多摩湖畔から13日目   


(10)Access ******************************************************** 3409文字くらい



閉じていた目をふっと開ける。



「着いたか…。」



予想より若干遅め。

用心し過ぎて歩みが遅くなったか、トラップにかかったか、

まだ視野に入らない相棒の姿を想像する撩。

それなりに気配を押さえつつ現場に接近しようとしているが、

いかんせん、足下は音が鳴る小石や小枝や落ち葉が多く、

どうしても足音が消せないルート。

これも計算済みのフィールドではあるが、

愛しいパートナーの足が踏みしめる度に伝わってくる距離が、

妙に嬉しく感じ、早く姿を見せろと、発信源に意識を向ける。



「あらーん、ひっかかっちまったか…。」



ロッジ入り口そばの、カツラの木の陰で身を潜めている相棒を発見。

右腕にピンクの蛍光塗料がちらりと見えた。

香レベルでなら発見できる程度のトラップだったつもりだが、

気をとられてしまう何かがあったのか、

それでも速やかに脱出したことを伺わせるタイムテーブルに、

まぁ想定内のことだと、観察を続ける。



腕時計をちらりと覗き見る香。

きっと時間配分を考えているのだろうと、

その表情から読むも、なかなかその場を動こうとしない。

かなり警戒している。



香の立ち位置から、ログハウスが5棟見えるが、

残り半分の奥の建屋は、手前の建物と木立が遮りその全貌を見る事ができない。

概ね2列に並び、中央に設けられている通路からそれぞれに枝分かれし、

ロッジの入り口階段につながっている。

各窓にはカーテンがひかれ、室内は見えない。



自分だったら、どこに人質を隠すか、

香は見えている範囲内の情報から、敵の動きと心理を読み取ろうとする。

(手前は考えにくいわ…。)

捜索というものは、手近なところから順にチェックしていくことが常。

早々に発見しやすい入り口直近の場所に監禁ということは、

自分でも選ばないだろう。

(だったら、奥?)



トラップが仕掛けられている可能性と、

時間制限も設けられていることも否定できない中で、

1棟1棟見て回るのは、効率が悪過ぎる。



香は、周辺を見回した。

ロッジのある広場は楕円形。

森に囲まれるように、斜面林がせりだしている。

香はふっと顔を上げ、動きを決めた。

正面からの侵入は見送り、右手側の林縁からの接近を試みることに。



「お?」



撩のいる方向とは真逆の木立に入っていくパートナーの姿に、

眉がくいっと上がった。

「なるほどね、そっちから攻めるのねん。」

ふっと息を吐きながら腕を組み直す。

と、さっきは見えなかった左腿に棒らしきものが目に入る。

「んー、枝でもくっつけてんのか?」

ガムテープの帯は見えるが、この距離では正体がよく分からない。

足首でないなら、くじいたとかのトラブルではないだろうと、

また近くで見られた時にチェックするかと、

改めて向き直る。



一方、香はそんな撩に見下ろされているとも知らずに、

課題に集中している。

斜面林の中は、低木や藪が少なく歩きやすい足元ではあるが、

ロッジから動きが捉えられやすい。

香は、身を低くしてウエストの太い樹木を選びつつ、

その陰に隠れながら広場の奥へ移動する。



(窓から見られていたら狙い撃ちされちゃうかも…。)



そんなことを考えながら、

閉じられているカーテンに覗き窓の穴が開いていないか、

室内から外が見えるレースのカーテンになっているところはないかを

確認しながら傾斜度20度ほどのややきつい林床を進んでいく。




「ここが一番奥ね。」



広場入り口正面から向かって最奥右手側の木造建屋、

まずはそこを最初に確認することに。

斜面をそっと下るも、

どうしても枝や枯れ葉がカサカサパキパキと音を出し、

一歩を出すのに時間がかかってしまう。

(もう!こんなんじゃ、接近がバレちゃうじゃない!)

もどかしさの中で、右手で掴もうとした枝が枯死しているのに気付かず、

パキッと折れてしまった。

「あっと…。」

バランスを崩して、とっさに反対の手で掴んだ樹種が悪かった。

「痛っ!」

唐突の痛覚への刺激、左指先を慌てて確認する。

「何よ…、一体…。」

指なしの革手袋から顔を出している中指の先に赤い点がにじみ出ている。

傾斜が厳しい足場の安定しない場所で、その原因をたぐると、

自分の掴んだ細い木には、固くて細いトゲが互生で生えていた。



「つー…、これを掴んじゃったのか…。」



ちゅっと自分の指を口に含んで吸ってみる。

思いの他、深く刺さったらしい。

「はぁ…、絆創膏はあたしのカバンの中なのよね…。」

持たされた荷物の中には、

香がいつも最低限持ち歩いている救急セットは含まれていない。



「手袋しといてよかったわ…。」



幸い、革手袋の部分は貫通することなく、ガードされていたが、

ややじんじんと痛む指先に眉を寄せて、

出血の状態を確認する。

痛さはあるが、すぐに止まりそうな気配。

香は、傷をそのままに目的地に接近することにした。

まだ、まわりは見える明るさではあるものの、

寒さは上乗せされ、息も白い。

ロッジから、一番近い大きな木の後ろに身を隠し、

そっと様子をうかがってみる。

三角屋根の、平屋建てログハウス。

ちょうど入り口から真裏なので、立ち位置からは窓しか見えない。

ここもカーテンが引かれ、中は見えない。

カギもかかっているのが見える。



「どうしよう…、ガラスを割ってカギ開けるのはあんまりしたくないな…。」



とにかく中に入らないことには、様子が分からないので、

周囲の気配に注意を払いつつ、身を更に低くして、慎重に玄関に近付く。

仮に建物の中に人がいても

ウッドデッキが自分の姿を死角にしているはずと確信するも、

他のログハウスからは丸見えなので、

各角度から見えている窓に覗かれるような隙間がないかを一度見回した。

(大丈夫のようね…。)

デッキ沿いに少しずつ移動し、建物の壁に耳を当ててみる。

人がいたら、足音や体が動く振動が分かるかもと、

神経を集中させてみる。

そこで、はっと気付く。



(そうだった…、これ模擬だったのよね。だったら賊がいる可能性はなし???)



まったく怪しげな音はキャッチできず、無人と判断するが、

本番では人質が気を失っていたり、眠らされていることも考えられるので、

気配の有無関係なしに、まずは室内確認が優先と、

香は背を丸めて入り口に向かい、

もう一度、ドアに耳を寄せる。

特に異変はなし。

ゆっくりとノブに手をかけるが、

しっかりカギがかかっている。

かがんで覗き見ると、ほっとした表情になる。



「こ、これなら、開けられるかも。」



後ろ背に回しているカメラバッグをぐいっと腰の横に回し、

ファスナーを開けると、ステンレス線を取り出した。

アルミ線なら、何度か同じところを曲げると好きな長さに切ることが出来るが、

ステンレス線は、ペンチがないとスムーズには切り離せない。

致し方なく、環のまま20センチほどそれぞれの端から引っ張り出し、

先端と末端を同時にカギ穴に差し込む。

ファルコンからトラップに関する技術と共に教わったカギ開けは、

簡単な仕組みのものであったら、香も時間こそかかるも、マスター済み。

針金でなんとか開けられそうな手応えに指先の痛みを忘れて作業を進める。

2本のステンレス線がカギ穴でかちゃかちゃと金属音を立てる。

ほどなく、カチンッと解除の音がした。



「よしっ…。」



思わずガッツポースをしてしまいそうになったが、

速やかに、ワイヤーをしまい込み、

侵入の準備をする。



(どうしよう…、一気にバーンって入ったほうがいいのか、

それとも、ドアだけ開けて少し経ってから覗いてみるか、ま、迷う…。)



扉の横の壁にぴたりと背をつけ、

ノブに手をかけるが、ベストな選択肢はどちらか、

決定できずにいる。



(んー、もし敵が身を潜めていたら、開けたとたんに撃たれることもあるのよね…。

だったら、すぐに入るのはダメね…。)



もしかしたら、

この入り口にもトラップが仕掛けられている場合も考えられると、

香は、ささやかな小細工をすることに。

腰のバッグから必要なものを取り出す。

身を出来るだけ低くして、壁ぎわに隠れながら、

ドアノブにそっと触れ、くいっと素早く回しラッチが引っ込んだらすかさず

勢いをつけて扉を一気に開放した。

蝶番が、ぎぃーという鈍い音を立てる。

まだ身は隠したまま、一拍置いて、

さっき拾った小石を室内に床を転がす様にして投げ入れた。

と同時に、ローマンを両手で構えて入り口正面で奥に狙いをつける。



目に入ってきたのは、

薄暗いワンフローリングの広い空間。

何もない。

それが第一印象だった。


***********************************
(11)へつづく。





銀狐の時も、高みの見物とか言いながら見守っていた撩ですが、
面持ちはかなり違うかもしれません。

昔、仲間と昆虫採集をしに東北へ行った折り、
オサムシなるものを探そうと、
先輩が灌木の生える急な斜面を登っていたら
カオリンと同様に枯れた枝を掴んで滑り落ちそうになり、
はしっと掴んだ木が、山菜の王様「タラノキ」でした。
軍手・手袋なし。
もちろん手の平は血だらけに…。
ここでは、刺がまだ控えめなイヌザンショウに出て来てもらいました。
カオリン、ケガさせてごめんね。

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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