25-12 Anesthetic

第25部 Narusawa

奥多摩湖畔から13日目    


(12)Anesthetic **************************************************** 2447文字くらい



2番目に侵入したロッジも特に異常はなかった。

異変があったのは、3番目のログハウス。



殆ど同じ作りではあるが、若干小さめ。

最初の2棟が2家族分としたら、今入ろうとしているところは

1家族分が宿泊する為の広さ。

奥2つと手前2つが大型のロッジで、

間6棟がコンパクトな作りのタイプとなっている。

窓も少ない。

玄関に続く中央通路からの道も階段はなし。



周囲を一巡りし、入り口に近付いた時、

見えにくい30ルクス以下の明るさだったことが、

悪条件に重なった。



ピンっと腕に感じた細い線。

「はっ。」

しまった!と思うと同時に、

香は、とっさにその場で低く身を伏せた。

とたんにびしゃっと液体が出入り口の壁に広がる。

自分が立ったままでいたら、

恐らく胸部から腹部全体に染まっていたであろうそのトラップに、

香は伏せたままで、そっと玄関の扉にこびりついたものを見る。



「な、なによこれっ???」

今度は、緑色の蛍光色。

やや粘度がある。

まるでゆるいスライム状の物体。

不自然に甘く感じる揮発性成分に、はっとして鼻と口を押さえた。

立ち上がり、後ずさりをして、その匂いから離れようとするが、

それも一緒についてくる。

よく見ると、自分の右肩にわずかに飛沫が付着していた。



「まずった、かも…。」



撩のトラップにまたひっかかってしまったと、

悔しく思いながら、くんとそばで匂う薬品臭のようなものが鼻につく。

わずかに立ちくらみを覚え、足元がふらついてきた。

バランスを崩す前に、香は一旦その場で膝を付く。

肩に着いている緑色の液は、500円玉サイズ。

明らかにそこから漂っている匂い物質に、何かが混じっていると確信。



「な、ナイフ…。」



ウエストバッグの外付けポケットから、

手探りで装備の一つの折りたたみナイフを取り出す。

息をあまりしないように、

右手で肩の布をつまみ上げ、左手で布地を切り落とすことに。

しかし、もちろん利き手ではないほうで持っているナイフは、

上手く扱えず、フリースだけを一部カットのつもりが、

その下のトレーナーとシャツにまでナイフがあたり、

香の皮膚に浅く刃が当たった。

「つっ…。」

香は、同時に分離した、5センチ四方の布片を右手でつまみ、

できるだけ遠くへ投げやった。



「ふー、クロロホルムじゃなさそう、だけど、…一体何なのよ!もう!」



過去に何度かかがされたことのあるモノとは違う匂いに、

麻酔成分でも混じっていたのか、

発信源が遠のくと、体は楽になった。

まともに食らっていたら、どうなっていたのかと、ぞわりとする。

「よけられてよかったわ…。」



近付こうとした玄関入り口は、

べったりとナゾの物体が張り付き、

危険な成分入りと分かっている状態では、安易な接近は出来ない。

「これでトラップが終わりってワケじゃなさそうよね…。」

最初の2つの棟で時間と体力と精神力を思った以上に削いでしまった。

この先、一体いくつ目で目的地を発見できるのか、

香は周囲の照度を見ながら、焦りが込み上がる。



「窓、から、行くか…。」



目的の建屋を一周した時、まずは中に気配がないことを確認はしている。

ならば、ここは持ち主には悪いが、

ガラスを割っての侵入しかないと心を決める。

比較的低い位置にある窓ガラスに、そっと近付く。

ここもカーテン付き。

カギはクレセント部分さえ動かせれば開けられるタイプ。



「どうしよう…。」



さっさと割りたいところではあるが、

派手な音は出したくない。

時間もかけたくない。

そこで、何かのドラマで見たシーンを思い出す。

まずは、カギのそばのガラスを割りたい範囲にナイフで傷をつけることにした。

キキーと背中にぞわぞわとくる高音が鳴りはするが、

あまり深い傷がつかない。

「あれ?おっかしーな。」

香が見た映像は、専用のガラスカッターだったので、

簡単に傷が入ったが、香の持っているナイフでは同じ仕事はムリだった。

何往復か同じラインをなぞって、やっと傷らしい傷がつく。

「よし、これくらいでいいかな?」

香は、きょろきょろとまわりを見渡して、手頃な石を二つ持ってきた。

拳サイズよりもやや大きめ。

一つは窓にあてがい、一つはその石をめがけて、

トンカチでゴンッと叩く様に、衝撃を与える。

一気にヒビが入る。

「あ、いけるかも。」

ちゃんとナイフで傷をつけたラインの中だけでの破損具合に満足しながら、

第二打を落とした。

ガシャリッと崩壊する音と共に、ちゃりちゃりと窓の向こうに破片が落ちる。

「よし。」

香は、石を足元に落とし、割れたガラスの穴の縁(ふち)に触れぬ様、

そっと手首を入れて、三日月型の金具をくっと奥に押した。

カギが解除されると、香はカラカラと窓を開ける。

中に人がいる可能性が低いことを確信した上での独り言に、

窓からの侵入。

形としては、気を失っていると設定している人質の発見に、

今回は、静かにという優先順位は下げることに。



カーテンをさっと開き、まずは中の様子を見る。

薄暗く、よく分からない。

先ほどと同様に、トイレと押し入れはある。

「あそこをさっさと見て、次に行かなきゃ。」

ひらりと窓枠を超えると、ペンライトを取り出し、

二つのドアをこれまでと同じスタイルで開けてみる。

異常なし。



「なによ…、入り口にトラップがあると、

人質はここです、て言っているもんだと思ったのに。ダミーってこと?」



ここでの発見を期待していたが、

どう見回しても、何も見つからないので、とにかく4つ目の棟へ向かうことに。

思わず、足は玄関に向かってしまったが、

使えないことを思い出し、慌てて進行方向を変えた。



「このままにしてごめんなさいねー。」



ちらかった破片を見ながら、申し訳なく言葉だけ残す。

開いたカーテンを元に戻し、無意味と分かっていても、

また窓の錠も最初の形にした。

すたっと、外に降りると、さらに回りは夕闇が近くなり、

気温も低くなる。

指先が冷たく感じ、はぁーと息で温める。

動かしにくい状態にしておくことは、何かと危険だと、

指を揉みながら、背を低めて、次のロッジへ向かった。


****************************
(13)へつづく。




トラップの怪しい液体、
これが撩ちんがエレクトラのママを通して注文していたものの一つ。
欲しいもんもってるヤツがなかなか現れなかったんだよと、
言っていたそのブツがこれということで。
21−12のお話し参照)
揮発性麻酔薬を調べて見たら、
エーテルとか、イソフルランとか、セボフルランとか、デスフルランとか
色々と紹介されていましたが、
気化器がないといかんらしいと。
その辺り無視して、吸ったら少しくらつくくらいの麻酔薬を
その手のプロが注文通り作りましたってことで、
勘弁して下さい。

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
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