03-01 Butterfly Kiss

第3部 Turning Point (全10回)

奥多摩の翌日


(1)Butterfly Kiss  **************************************************************3747文字くらい




複数の感覚を体が同時に拾っている。

温かい。

気持ちいい。

喉が痛い。

トイレに行きたい。

生理痛みたい。

お腹減った。

お水飲みたい。



香は、目を閉じたまま覚醒した。

「……ん。」

目蓋を持ち上げようと、薄目を開くが目の端に涙か何かが乾いて、素直に開かない。

何度かまばたきをすると、左の睫毛にカサカサと触れるものがある。

目を開けたのに、目の前は薄暗い。

目の前のモノが近過ぎて焦点が合わない。

「…………。」

(これ、何?)

まばたきが繰り返される。

睫毛の先が触れているものが何なのか、五感が情報を集めようとする。



見覚えのある肌色、細かい傷に大きな傷。

浅い収縮を繰り返す、温かい平面。

かすかに鼻の粘膜に届く硝煙とガンオイル、そしてタバコと汗の匂い。

規則正しい吸気と吐気の音。

視覚、嗅覚、聴覚、触覚が、それぞれ持ってきた情報を束ねたところで、

香の心臓が跳ねた。



(こ、こ、これ、……これって、りょ…の、…む、胸?!)



自分の耳に心拍の音が大きく響く。

一緒に生活してきた中で、確かに見慣れていたものではあっても、

睫毛がその肌に触れる程の距離にあるとは、一体どういうことか。

まばたきの回数が増え、体温が上がる。

そして、自分が何も纏っていないこと、太い右腕が枕になっていること、

筋肉質の左腕が自分を抱き込んでいること、2対の足が交差していることを

やっと脳が認知した。

その「理由」と「経緯」が分かるやいなや、血液が沸騰する。

目が乾燥し、さらに目をパチパチさせてしまった。



「……香ちゃん、くすぐったい。」



突然、頭の上から降ってきた声に、ビクンと肩が反応する。

「撩ちゃん、バタフライ・キス初めてぇ〜。」

随分とおちゃらけた調子の口調に、混乱した香は言葉の意味が全く読めない。

(は?な、なに?バ、バタフライ・キスって??チョ、チョウのキス??)

足の先から頭のてっぺんまで、真っ赤になって、体は固まったまま。

撩はくすりと笑い、左手を香の髪に滑り込ませ、そっと頭の角度を変えさせた。



視線が絡む。

撩の黒く優しい瞳が、香の体温をさらに上昇させる。

「おはよ。」

本日二度目のあいさつ言葉。



「………。」

香は、まだ自分は寝ているんじゃないか、夢を見ているんじゃないかと、

起きていることに自信が持てなかった。

見つめていた先の撩の目の中に、自分が映し出されているのに気付き、

またボッと朱に染まる。

「…どした?」

「ぁ、……りょ…、コホッ!ケホッ!」

おはようと、言い返そうとしたが、喉がカラカラで、声が掠れ咳まで出てしまった。



「あ、ちょっと待ってろ…。」

撩は、香を腕枕したまま、左手をベットサイドに伸ばして、

ミネラルウォーターのボトルをとった。

キャップを指だけで器用に開封。

少し多めに自分の口に含むと、ボトルを置いて、香の顎を持ち上げた。

「んんんんんっ。」

親指で少し下唇をずらされ、角度をつけた接吻から、舌で歯の隙間を広げられたかと思いきや、

すぐさま冷たい軟水が口腔内を潤し、喉を滑り落ちていった。

こくりこくりと、香の喉が動く。

この間、ほんの数秒。

実になめらかな動きでの口移しに、香が状況を理解する前にコトが終わってしまった。

(っく、く、口移しぃー?!……な、なんで冷たいのがこの部屋にあるの?)



撩は、軽く口を触れさせたまま、囁いた。

「もっと飲む?」

「…!!、ぃ、い、い、いい!じ、自分で飲むからっ!」

声が何とか出るようになった香は、この状態が恥ずかし過ぎて耐えきれない。

とりあえず、夢ではなくどうやら目が覚めているらしいと、

ようやく現実に戻ってくる。



「おまぁ、体起こせるか?」

問われて初めて自分の体が重たくなっていることに気付いた。

「あ、あれ?」

(え?なんで?だって今朝は、すごくよく寝れて、疲れもとれたと思ってたのに。)



撩は苦笑しながら起き上がり、腕枕になっていた右腕を使って、ゆっくり香の上体を起こさせ、

左手で香のパジャマをベッドの端から拾い上げた。

片手でうまく広げると香の上半身にぱさりと羽織らせ、

そのまま手はボトルを持って、香に手渡す。

「ほれ。」

「ぁ、ぁりがと…。」

かなり喉が渇いていた香は、赤い顔のまま右手で受け取ると、そのまま半分を喉に流し込んだ。



(お、間接キッス。)

と余計なことを考えていた撩の目に映る香は、

薄手の掛け布団の端を左手で握り、前が開いたままのパジャマから、

喉元と胸骨を経由し臍上までが帯状に覗き、白い喉がゆっくり波打つ、

実にエロティックなビーナスだった。

(あぁ、やべぇ、こんなん見たら、マジでセーブが効かなくなる…。)



「っはぁ、助かった。

喉が痛くてうまくしゃべれなかったけど、おかげで潤ったわ。」

自分がどんな姿か、全く分かっていないような素のしゃべり方に、

撩は何となく煽られた仕返しをしたくなった。

ボトルを取り上げ、ベッドサイドに戻すと、

「んじゃ、もっかいスる?」

撩は香の上半身をそのまま後ろから抱き込んでみる。

「は?」

(何を?)

と、聞こうとしたら、

自分の胸の前でクロスしている撩の手が、さわさわと脇腹を登ってきた。

「う、うあっ!!っちょ、ちょっと!待ってっ!」

腕の中で身じろぐ香は、撩の言葉にかなり焦っている。

(もっかい、って……い、今は無理っ!)

慌てふためく香が可愛くて、思わず顔がふっと緩む。

「……わかってるよ。心配するな。」

「ぇ?」

撩は、そっと香の下腹部にその温かい右手を重ねた。

「……痛く、ないか?」

ゆっくりとした低い口調で、後ろから問う撩は、

香の身体的ダメージは決して小さくないことを悟っていた。



香は、朦朧としながらも撩の行為に必死についていこうとしていた

あの時間を思い出し、同時にその時の痛みも甦ってきた。

本気で心配している撩に、赤面しながらも、正直に言ってみる。

「……ぁ、なんだか…、生理痛のきつい時みたいな感じ。

ヘンな異物感も……、残ってる、みたい…。」

(でも、今撩の手がすごく気持ちいい。)

撩の低い声が耳の後ろから聞こえる。

「……すまなかったな。……抑えが、効かなかった。」

(え?効かなかったって?何のこと?)

香は、言葉尻がイマイチよく分からなかったにしても、

心底すまなさそうにしている撩に、

別の事もちゃんと言わなきゃ、と照れながらも口を開いた。



「ううん。…ぁ、ぁ、の…ね。……痛い、だけじゃ、…なかった、から…。」

撩の目がパチッと開いた。

座ったまま後ろ抱きされている香は、それが見えない。

そっと自分の手を撩の腕に重ねて、小さな声で香は続けた。

「……れしかった。……ゆ、…めみたい…。」

「ばぁか、夢であってたまるかよ。」

(…やっと、中途半端な関係に終止符を打ったんだ。夢オチにしていいわけないだろ。)

撩は目を閉じて、香を後ろから深く抱き込み、自分の右頬と香の左頬を擦り寄せた。

(ひゃ、りょ…、ヒゲがのびてるぅ。)

これだけでも、ドキリとしてしまう。

撩は、もともと全体的にそんなに毛が濃い方ではなく、

あごひげもまばらで、僅かに伸びているくらいだったが、

香は、たったこれだけでも撩の雄の様を感じたような気がして、

この感触に心臓の耐久力が限界という思いだった。



そのまま、撩の右手は子宮を温め、左手を香の上半身にからませ、

しばらくその体温と鼓動を感じるがままに浸っていたが、

身を少し捩った香の頬に、つと自分の唇が触れた。

次の感触が欲しくて、撩は左手で香の顎を掬うと、

肩越しに唇だけのバードキスを交わす。

「ん……。」

「……後悔、してないか……。」

目を閉じ、唇を合せたまま、撩は低く小さな声で尋ねた。

「するわけ、ないじゃない……。」

赤く染まった照れを含む表情で、揺るぎない決意を込めた香の言葉に

撩はふっと顔が緩み、また恥ずかしがっている香の紅唇を啄み始めた。



きゅるるるる、くぅー。

そこに突然の見事なまでの腹の虫のデュエット。

2人同時に消化器系が低血糖を訴える。

「ぷっ!」

吹き出す2人。

「あー、腹減った。朝飯食ってねぇーから、ガス欠だぜ。」

撩は、名残惜しげに香から離れ、のんびりとベッド脇に降り立つ。

「え?今何時?」

ベットサイドの時計を見て香は驚いた。

「うそっ!もうこんな時間なのぉ!?」



すでに昼を回っている。

(どうりで、空腹なわけだわ。こんな時間まで寝ていたなんて信じらんない。)

撩は、スウェットをはき、

香にも、自分が脱がせてしまった残りの3点セットを渡しながら、

掛け布団で身を隠している姫に言った。

「あぁ、俺が昼飯作ってやるよ。おまぁ、もうちょっと休んでろ。」

「え?、大丈夫よ。食事くらいつ…」

と言いながら香は体を動かそうしたが、どうにもこうにも下半身が重たい。



「無理すんな。」

ベッドの上に座る香の髪をくしゃっと撫でる。

「でも、洗濯物もあるし、伝言板見に行かなきゃ。」

いつもの予定をこなそうとする香に、自身を二の次にする性(さが)を改めて感じた撩は、

自分が思い描いている予定を伝えた。

「今日は冴羽商事は休業!洗濯モンは、俺がやっとく。

夕方出かけるから、それまではゆっくりしとけ。」

撩は、引き出しからTシャツを取り、脱ぎ捨てたシャツを拾い、

扉に向かいながら、振り向き様にそう答えた。

「え?出かけるの?」

「そ!報告しにな。」

と、片手をひらひらさせながら先に部屋を出た。


*********************************
(2)につづく。





一線越えた後の目覚めのシーンは、
様々なサイトさんで紡がれていますが、
どれもありえそうなことばかりで、
多角的なバリエーションに、その作品数分たっぷり
楽しませて頂いております。
読み逃げで申し訳ないです。
当方、パニクった香ちゃんにハンマーを出させるかどうか
か〜なり迷いましたが、
ハンマー出せないくらい結構コタエタということにしました。
なにせ初体験が撩ちんのアレですからねぇ〜。
あと、撩って体毛薄そうですよね、ね、ね。
原作でも殆ど表現されていないしぃ〜。
という訳で、お二人の新しい生活が始まりま〜す。


【御礼】
6000hitありがとうございます!
2012.05.28.09:38

スポンサーサイト
プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


9万hit記念に
とりあえず作ってみた
CH専用Twitter
 


拍手1000パチ記念につけちゃいました。



かなり便利なサーチツール

登録サイト最新情報はこちらをチェック!


試運転中…

カテゴリ
最新記事
月別アーカイブ
検索フォーム
QRコード
QR
現在の閲覧者数: