25-13 Discvery

第25部 Narusawa

奥多摩湖畔から13日目


(13)Discovery **************************************************** 3180文字くらい



勘が働いた。

ここにいる。

建物に近付いた時、

根拠のない確信が、香の頭頂部に突き抜けた。

なぜそう感じたのか、その時は分からなかったが、

得られた直感を信じることにし、ごくりと唾を飲む。



4つ目のロッジ。

先の小さいタイプと同じの建屋。

平屋建ての木造は、新しさは全くなく、

恐らく二ケタは年を越している痛み具合を醸し出している。

窓は2つ。

やはりカーテンが閉じられ、ガラスの向こうは見えない。

中央の歩道より左に枝分かれしている位置にあるそれは、

撩の潜む木立のある斜面林が近いところ。

もちろん、香は相方の見守りには全く気付いていない。



「香ちゃん、これからだぜ。」



頬杖をついて、目を細める撩は香が第一段階の要に到着し、

真面目に取り組む姿を、半ば複雑な面持ちで見下ろしていた。




背を低くし、ローマンを両手で持った手は斜め45度で下げ、

窓の様子を確認しながら、裏手側に接近する香。

まだ周囲は見える明るさではあるが、きっと室内はライトが必要と読む。

壁にひたっと体を付け、

腰に巻いたカメラバッグからヘッドライトを取り出した。

装着すると髪の毛がバンドのゴムにからむ。

本当は帽子の上から装着したいが、致しかなたしと、

そのまま照明が額上にくるように調節する。

ペンライトも腰のポケットに差し込んだ。



「まさか同じトラップが入り口にあるってことは…。」



外周から確認をしようと思ったが、

先の玄関口でひっかかったワイヤーもののこともあり、

ことさら警戒心を高める。



もう一つの窓の施錠やカーテンの有無、覗き穴の存在を見るために、

壁面にそって足音を立てない様に少しずつ移動する。

角を曲がったところで、

窓の下に積もっている落ち葉に違和感を覚えた。

わざと浅く広げ散らかしたような葉っぱの重なり。

吹きだまりが出来るにしては、不自然な位置。

香は、ふと案を思いつき、一旦Uターンをする。



まるで使って下さいとでも言うように、

ロッジの脇に軽トラック用の冬用タイヤが4つ積み上げられていた。

無言で、その一番上のタイヤをぐいっとずらして、

地面にどさりと落とす。

出来るだけ、余計な音は立てたくないと、眉を寄せるが、

ここはどうしようもないと、

タイヤを縦に起して、目的地に転がしていく。



くだんの窓の下、壁際に沿わせて、タイヤを勢い良く押してみた。

計算通り、ごろごろごろと窓のある壁面に平行して転がっていく。

そして想像通り、

怪しいと見越していたスポットで、タイヤがばさっという音と共に姿を消した。



「やっぱり!」



香は、そぉーっと消失現場を覗きにいく。

「ふ、深い…。」

2.5メートルはある縦穴。

丁度、2階の床から1階の床を見る高さに、

香は、気付いて良かったと、ほっと息を漏らした。

下には、たっぷりの落ち葉が敷き詰めてあり、

タイヤも半分以上が埋もれている。

「本番だったら、きっと竹か何かで串刺しだったわね…。」

これだけじゃないはず、と更なる注意を払いながら、

アプローチへ向かう。



身をかがめたまま、玄関に慎重に慎重を重ねて接近するも、

またどこかにワイヤーが渡してあるんじゃないかと、

夕暮れ時の日陰の中で、必死に目をこらす。

自分だったら、こうやって仕掛けるだろうという場所を推察しながら、

異常が察知できないことを確認して、

ようやくノブに手が届くところまでに近付いた。



扉に耳を当てる。

何も気配はない。

恐らくカギがかかっているだろうと、想定内の元でノブを回す。

「当然か…。」

香は、再度ステンレス線を取り出し、ヘッドライトを付け、

カギ穴に差し込んだ。

鍵山が当たる部分と針金が接触し、カチャカチャと金属音を出す。

ほどなくカチンと解除され、ほっと肩が下がる。

素早く外ポケットに小道具をしまい込み、ライトを消す。

外壁に身を隠して、ドアをゆっくりと開けた。

そっとドア枠から中を覗き見る。



「あ!」



ついに目標物を発見。

薄暗い中、板張りの中央に、人の形をしたものが横になっていた。

すぐに駆け寄りたくなるが、それを一拍ガマンして、

ヘッドライトを点灯する。

玄関まわりの天井から床をざっと見回し、

上から何か落ちてこないか、床が抜けるような細工の後はないか、

一歩入ったとたんにガスが出てくるような穴がないか、

過去の経験から、築年数を重ねたロッジの屋内を隅々チェックする。



「だ、大丈夫みたいね。」



目視を終えた後、目的のものに駆け寄る。

「に、人形、よね…?」

あまりにも本物に近い雰囲気を持つダミー人形に、

一瞬、死体ではないかと思ってしまった。

背中を入り口に向けて、腕は後ろ手に縛られている10才くらいの女の子。

香の中で、一気にプロラクチンが放出される。



「ちょ、ちょっと、いくら訓練でもこれは可哀想じゃないっ。」



緩いくせ毛の黒髪が、肩にまで届く長さ。

トレーナーとジーパン、靴下に靴までちゃんと履かせてある。

「今外してあげるからね。」

つい声が出てしまった。

紐が巻き付いている手首を持ち上げると、

表面は人肌の質に近いシリコンで出来ていることを知る。

「うわ…、リアル…。」

ウエストバッグの外ポケットからナイフを取り出し、

ピッと刃を入れる。

パタリと落ちる両腕は、有機物の重さを感じる。

香はゆっくりと、人形を仰向けにさせて様子を確認する。

「あ…、結構重い…。」

目を閉じた状態の表情で作られている人形、

なのに、幼さと無防備さ、大きさ、質感で、そこらへんの店にあるマネキンよりも

命が入っているように見えてしまう。



「に、人形なのよね…。」



まさかこれにまで何か細工がされているんじゃないかと疑心も沸き上がり、

所持品やトラップがないか、衣類を調べ始める。

「特に問題ないようね…。」

香は、時間にゆとりがないことを思い出し、

次の行動を決める。

人形は当然歩けない。

「背負って行くしかない、わよね。」

人形の髪の毛をさらりと撫でる。

意識のある人間になら、自分の背中に背負わせるのに、大きな苦労はないが、

本人が体を動かせない状態で、自分の背中に移動させるのは

一人では工夫がいる。

あたりを見回す香。

「椅子とか台もないか…。」

ふとキッチンのシンクが目に入る。

「あそこを使えば…。」

香は、作戦を決める。

「よっと!」

人形を抱き上げた。

「う、うわっ、重っ!」

子供サイズと思って油断していた。

力の入らない人形の手足がだらりと揺れる。

「うー、ホントに適正体重なの???」

奥歯を噛み締めよろめきながら、やっと小さなキッチンの狭いワークトップに

人形を座らせた。



「ふ…ぅ、こ、この重さで山登るのぉ?」



一気に不安要素が膨張する。

ぐらつく人形を手で支えてしばし考えていたが、

その時間もないことを思い出し、慌てて次の行動に移ることに。

ウエストバッグを腰の前面にまわし、

人形に背を向けると、

香は後ろ手に自分の手を回して、ダミードールの両手を持った。

自分の肩に腕が伸びる様にぐいっと引っ張ると、

背を曲げて、人形の腹と自分の背面が密着するように体勢を整える。

「よいしょっと。」

あとは、普通のおんぶスタイルで背負うも、

完全に両手は塞がってしまった。



「ヒトってこんなに重たいんだっけ?」



かなりキツい。

普段は、ハンマーやこんぺいとうを操っていても、

この人命救出とは完全別枠。

これで果たして登坂できるのか、

香は白い息を吐きながら、玄関に向かった。

一歩一歩に重力を感じ、

地面から強く引っ張られるのを振り払っての前進。

この先のルートの状態を全く知らないことにゴールまで辿り着けるのか、

自分の能力が追いつくのかと、表情が暗くなる。



開け放していた扉をくぐると、

先ほどよりも一段と薄暗くなり、一層周囲が見辛くなっていた。

香は、足でコンと扉を蹴って音で閉まったことを確認。

「い、行かなきゃ…。」

そのまま中央の通路に出ると左に曲がって、

奥のトレイルを目指すことにした。


********************************************
(14)につづく。





プロラクチンは、母性行動誘発に深く関わるホルモン。
随分前に、
NHKの某番組で若い女性を対象にした実験があり、
火事場の馬鹿力にも影響していることを証明。
脳のイタズラとも言える仕組みに、
脳科学に興味を持ってしまったきっかけの番組でした。


ひよ子様のお部屋、リニューアル&新作更新!


【誤植情報感謝!】
Sさま:千錠→施錠の変更やっと出来ました〜。
ご連絡本当にありがとうございました!
2013.11.16.03:00

スポンサーサイト
プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


9万hit記念に
とりあえず作ってみた
CH専用Twitter
 


拍手1000パチ記念につけちゃいました。



かなり便利なサーチツール

登録サイト最新情報はこちらをチェック!


試運転中…

カテゴリ
最新記事
月別アーカイブ
検索フォーム
QRコード
QR
現在の閲覧者数: