25-14 Trail

第25部 Narusawa

奥多摩湖畔から13日目    


(14)Trail  ************************************************* 1793文字くらい




「出てきたか…。」



ダミーの子供を背負って、

重たい足取りでロッジから出てきた香をキャッチした撩。

この先が、香に実体験させるべき訓練のコアがある。

仕掛けた3つのトラップはあくまでも付録。

座っていたミズナラの横枝から、よっと立ち上がり、

できるだけ地上部を避けて香の後を追うことにする。

「たのむから、判断ミスだけはするなよ…。」

想定内のタイムテーブルに、

撩は、遠目から相棒の背中を、憂いを含んだ瞳で見つめていた。




トレッキングシューズが、枝葉をパキポキと踏みしめ、

はぁ、はぁ、と吐き出す息がもう荒くなる。

緩い傾斜を進むだけでも、背中の重みがずっしりと増す。

香は、宿泊施設のある広場から、そのまま北上し、

沢沿いにしばらく進むと、

丸太で土止めされた細い階段が右手側に出てきた。



「こ、ここね…。」



撩は、尾根道1本だから迷うことはないと言っていた。

しかし、全く知らない道。

あらかじめ確認していた等高線では、

極端に密になっているところは見受けられなかったが、

初のフィールドで、重量のあるものを背負い、もうすぐ日没。

しかも気温はこれからどんどん下がっていく。

前進するには条件が悪過ぎる。

この尾根道に入れば、もっとまわりが見えにくくなり、

足元の安全も確認し辛くなる。



「ど、どうしよう…。」



香は、また選択肢を迫られる。

一度、ロッジに戻って一晩明かしてから、進むか。

それともこのまま進めるところまで行って、途中でビバーグをするか。

時間制限は、気にするなと言われていたが、

もし、この人質人形がケガをしていたり、衰弱していることを視野に入れれば、

一刻も早く目的地に連れて行く必要もある。

ロッジに戻っても、そこが敵のアジトならば、

長居は禁物。

すぐに現場から離れるのがセオリー。




白い息を出しながら、階段の前でその一歩を出すか迷う香。

「1本道…なのよ、ね。」

そうつぶやくと、片手でヘッドライトを点灯させ、

よっと背中の人形を背負い直し、ふっと顔を上げる。

進行方向を見据えて、

まず右足をその段差に乗せた。

「うわ…、キツ…。」

腿(もも)の筋肉に大きく負担がかかるのを自覚する。

「い、行かなきゃ…。」

二択から一つを選択した香は、前に進むことを決意。

2段目、3段目と乗せる足を変えるたびに、

下半身への強烈な負荷を感じ、これを一体いつまで登らなければならいのかと、

所要時間が掴めないゴールに、もうこめかみから汗が流れてきた。

途中から階段がなくなる。

西の空は、夕焼けで赤く染まり始めた。

陽が稜線に隠れるまであと30分ほど。

せっかく紅葉の森を歩くというのに、

その美しさを堪能するゆとりなどなく、

香は、子供の形をした人形を背負い、尾根道を進んで行った。







「……やっぱ、行っちゃうのねぇ〜。」



ロッジ待機よりも、前進を選ぶだろうと思ってはいたが、

山荘まで今日中に辿り着くのはムリと、

撩も香も同じことを考えていた。



がさっと、地面に降り立った撩は、

香が登っていった階段入り口前にやってくる。

十分距離が出来たところで、おもむろに斜面に積もっている葉っぱをどけて、

隠しているブルーシートをばさりと取り払った。

出てきたのは、ブラインド。



アースカラーのメッシュに、

蔓植物や常緑樹の枝葉がイミティーションで飾られている。

階段の両サイドに生えているウリカエデの枝を支柱にし、

極自然に見えるようにトレイルの入り口を隠す。

これで、他の輩(やから)が今後使うことは滅多にない。



「んじゃ、行きますかね…。」



気付かれない様に尾行をするのはお手のモノ。

ただ、あまり近付き過ぎると、手助けをしかねない自分の甘さに、

撩もまた心理的な戦いを強いられている。

前進すると香の気配がまた近くなり、ある程度の距離を置くことに。



日没前の薄暗い広葉樹の森、

あと30分もすれば、真っ暗になる。

軽装備であれば、

この標高差は無理なく目が効く時間内にクリアできるルートではあるが、

何せ背負っている人形は、香の体重の比重からすると

坂を歩けるギリギリの重さに調節がしてある。

慣れない条件の上、

ザックやフレーム付きの背負子(しょいこ)を使わずして、

移動できる早さは、

通常のそれよりも数倍以上の時間を要すことは間違いなし。



この後の動きも、自分の予想と重なることを願いつつ、

気配を消した撩は、香の踏みしめた足跡を辿りながら、

トレイルを進んで行った。


****************************************************
(15)へつづく。






ロッジのお片づけは、後日別の方がちゃんとして下さる予定です。
本編では出演なしですが…。

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
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十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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