25-20 I Want To Touch You

第25部 Narusawa

奥多摩湖畔から13日目


(20)I Want To Touch You *********************************************1586文字くらい



「ったく、脅かしやがって……。」



撩は、サイレンサーを付けたパイソンをすっと下に向けた。

このあたりは、

かなりのニホンジカが生息していることは知っていたが、

よりによって、あそこで笹を食べなくてもいいだろうにと、

眉を寄せて苦笑する。



興奮した雄鹿でなくてよかったと、

群れが立ち去ったことに安堵する撩。

角で一突きされたら、場所によっては致命傷にもなる。

このようなことも想定内であったが、

愛銃の出番なくしてコトが終わったことに、

巨樹の横枝に座ったまま、とりあえずほっとする。



下手に手を出したら、最近何かと鋭くなっている相棒のこと、

自分の存在とその位置を突き止めてしまうことも十分ありうる。

まずは見守りだけで、余程の危険が迫った時の保険がわりだと、

己の行動に改めて理由付けをする。



香にとって、ビバーグそのものが初体験のはず。

都会暮らしの日常の中で、唐突に森に放り出されての疑似訓練に、

もう十分、恐怖心も味わっただろうと、

夜明けを待たずして、

香のそばに行きたくなる衝動が波のようにざばりとかぶさってくる。

今もまた、ダケカンバから降りたくなるのを抑えて、

撩はパイソンを腰に刺し直した。



「香……。」



相棒は、今何を考えながら、この寒い夜を過ごしているのか。

月も冷気を出しているような、

ひんやりとした乾いた空気に、

撩がふぅと吐き出した白い息もまたより濃くなって流れていく。



「朝まで、あと7時間、か…。」



見える場所にいるのに、触れられないこの状況に、

まるで、ケジメを付ける前と同じか、それ以上の

大きなストレスを感じる心理を、

撩自身、やや困惑する。




「こんなつもりじゃ、なかったんだがな……。」



純粋に、都会のフィールドしか知らない相棒に、

季節が厳しくなる前の野外訓練として、

人の重さの負荷がいかなるものかを、

山岳救助訓練を模しての体験をさせる。

これ一度経験しておけば、のちのちの仕事にも大きくプラスになるはずと、

生き残るための判断能力と技術を養うための、

超初歩的、至極初級編的な軽いステップのはずなのに。




「……まるでガマン大会じゃねぇーか。」



香に触れられるようになり、

その美しさと心地よさを知ってしまった今、

もう訓練は終わりだと、すぐにでも防寒シートを剥ぐり上げ、

抱きしめてやりたい。

もう、十分だと。

これ以上傷を増やすなと。



奥多摩以来、離ればなれで夜を過ごすことがお初となる今晩、

しかも相手はすぐそこにいるのに、

話しかけることも、近付くことも出来ない。

香が山荘に到着するまでは、

姿を見せない自主ルールを、早々に破棄したくなるこの面持ちに、

撩自身が、精神的な訓練を強いられてしまっている。



すでに、往路の高速を走っている時から、

うっすらとくすぶっていたものが、

現場が近付くにつれ、徐々に膨らんでいった。

いざ、香に訓練開始の情報を与えてしまったとたんに、

このオンナのそばを離れたくないと、甘えた心理が形になって沸き上がり、

それを振り払うのに、結構な努力を要している。



「はぁ…。」



撩は、曲げた膝の上に組んだ両腕を乗せ、

またその上に顎を置く。

顔をずらして、腕の布地で口元を塞いだ。

目を閉じると、

網膜にはこれまでの夜の残像が早さを変えて流れていく。



「うぅー、オハヨーのちゅうもできないのかよぉ…。」



訓練スタート前の午後3時頃に、でこちゅうをしたっきり。

約8時間で、すでにカオリン欠乏症。

手の届く場所にいるからこそ余計に感じる高いフラストレーション。

しかし、先のケモノの接近もあるので、

やはり離れるワケにはいかない。



撩は寒さよりも、

相棒の肌が遠いことに耐えなければならないと、

不本意ながら自身の忍耐訓練も加わったこの夜に、

早くおさらばしたいと、

天頂近くに浮く少しだけ膨れた半月をちらりと見やって、

ふうと目を閉じた。



*************************************************
第26部(1)につづく。





お腹すかせているワンちゃんが、目の前にある美味しいドックフードを
17時間マテが出来るかという感じです。

ようやく、13日目が終了…。
次は奥多摩から丁度2週間後の朝です。

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きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
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