26-02 Sunrise

第26部 Mountain Villa

奥多摩湖畔から14日目の朝  


(2)Sunrise ********************************************************** 1903文字くらい



ずっと下向きで、ひたすら尾根道を登っていた香の目に、

右からきらっと光りが差し込む。



「ん?な、なに?」



てっきり鏡か何かが反射したものが目に入ったかと思いきや、

稜線の向こうから、日の出がお目見えした。

といっても、まだほんのわずかに頭が出ているだけ。

向こうの尾根の木々の形がきれいにシルエットで浮かび上がる。

気付かないうちに、空も随分と明るくなってきた。



「お日様出ちゃった、ね…。」



時間は、6時半頃。

あれから30分ほど歩き続けているが、まだゴールは遠い。

人形を背負っているので、

顔をあまり上げることができず、主な視界は、自分の足回り。

紅葉最盛期の森の中、

それを独り占めしている贅沢な環境のはずなのに、

周囲の赤や黄色を楽しむゆとりは殆どない。



ただ、足元に落ちている多種多様な葉の形と色を目にしながら、

葉っぱだけで種類が分かったら楽しいだろうなと、

モミジやイチョウくらいしか知らないことを

ちょっと残念に感じたりもした。



こめかみから、頬を伝って汗がぽたりぽたりと落ち始める。

吐く息は相変わらず白く、

さきほどから踝(くるぶし)あたりに、わずかな痛みを覚えるようになった。



「く、靴ずれ、おこしちゃった、かしら……。」



歩くのにさほど問題はない痛さだと、

立ち止まっても背中の人形を降ろして背負い直す労力を考えると、

そのまま前進したほうがいいと、さらに尾根道を進む。

昨日、渡されたばかりのトレッキングシューズ、

足に馴染まなくて当然。

やや眉を寄せながら、とにかく上を目指す。



東の空がますます明るくなり、

端しか見えていなかった太陽が、もうすっかり顔を出している。

陽が一つ分動くのに要する時間は約2分、

目標物が近い低い位置の動きは、より早く太陽が移動しているように見える。

目を細めながら、ちらりと尾根向こうの景観をみやる。

右半身が木々の隙間から照らされ、そこから陽の温度を感じ、

恒星の持つ熱エネルギーが衣服を通過し肌に届く。



「ふぅ…、い、いま、どのへんだろ…、はぁ、…ふっ。」



地図を見たいが、休息する都合の良い場所もなく、

陽の昇る角度で時間を読めればいいのだが、香にはそのスキルもなく、

本当にゴールがこの先あるんだろうかと、

だんだん不安になってくる。



汗も、額から眉を越えて、目に入ってきた。

ぬぐいたいけど、手は使えず。

こんなことなら、バンダナをおでこに巻いておけばよかったと、

一つ反省点が浮かび上がる。

手術の時に、執刀医が汗をふいてもらうシーンがポンと浮かんだ。

(うー、あたしも、ふいてもらいたい…。)

背中も全面にじっとりと発汗。

夕べ、タンクトップもブラも取り去ったので、

直(じか)に、カジュアルシャツとトレーナーに染みていく。



昨日の夕方、ロッジの捜索前に自分の左腿に巻き付けた

40センチの枯れ枝はそのまま。

額に巻きたいバンダナは首まわりに。

黒のフリースの右肩にはガムテープの修繕の痕。

両腕には、蛍光ピンクの格子模様が入る。

そんな姿で、ダミー人形を抱えてひたすらの登坂。



「つ、杖が欲しぃ…。」



自分に腕力があって、片手で背負っている重さを支えられるのであれば、

そこらへんに落ちている枝から長いものを選んで

ステッキがわりにしたいところ。

しかし、とてもじゃないが、背中の人形は両手の支えをなくしたら、

とたんにずり落ちること必至。

両手を使えず、時間も見れず、

もし足元のバランスを崩して、転倒したら間違いなく顔から着地だと、

重量に耐えつつ細心の注意を払いながら一歩一歩を重ねて行く。



そうこうしているうちに、

太陽がずいぶん上まで移動している。

香は一旦立ち止まって、一時停止のみの休憩をとることにする。

これで座ったりしたら、また復帰が一苦労。

はぁと息をついて、呼吸が整うのをしばし待つ。

激しく酸素を使っていることを自覚するこの運動に、

普段使っていない筋肉も動員されていることを感じる。



「こ、これ、明日か、明後日には、き、筋肉痛、かな?」



よいしょっと、若干ずれた人形をまた背負い直す。

そこに、また鳥の声が近付いてきた。

エナガ、コガラ、ヤマガラの混群が樹上を鳴きながら通過していく。

夕方より朝のほうが、鳥達が賑やかだと、

彼らのおしゃべりを耳にしながら、

香は、休憩に一区切りつけ、再出発することに。

ずいぶんと楽になった気がすると、休息の効果を実感しながら、

先へ進む。



できることなら、

手ぶらでのんびり、紅葉の森を歩きたかったと、

撩と一緒に、歩きたかったと、

ちらりと思うが、観光で来た訳ではない。

これは、訓練と、また言い聞かせて、

香は、尾根筋の一本道をゆっくりと登っていった。


***********************************
(3)につづく。






野鳥を登場させたので、生き物効果音について少々。
CHのアニメでは、かなりの野鳥の鳴き声が
音響として使われていています。
映画やドラマを見る時も、つい生き物考証的視点から、
監督のこだわりや作品への愛を探したりも。
しかし、近年の映像作品にはがっかりさせられるコトが多く、
季節や環境から大きく外れた自然音響の使い方がかなりあり、
折角のいい脚本、いい配役の仕上がりなのに、
自然考証がイイカゲンなばかりに、
作品全てが曇って見えてしまうことも…。
(歴史考証でも同じことが言えるかもしれませんが、こちらはド素人なもんで)
一方で、CHはかなり良い効果音の使い方がよく見られるので、
DVD-BOXを入手できたあかつきには、
全作品の生物演出を拾い出そうと目論んでおります。
(そんなヒマあんのか?←家族の声)
というワケで、
クーレンズのCHコラポモノ(なんでカオリンがないんだっ)を買うのをガマンして、
DVD-BOX用の貯金をちびちび積み立てて行こうと思いますぅ。
早く欲しいよぉ〜。

スポンサーサイト
プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


9万hit記念に
とりあえず作ってみた
CH専用Twitter
 


拍手1000パチ記念につけちゃいました。



かなり便利なサーチツール

登録サイト最新情報はこちらをチェック!


試運転中…

カテゴリ
最新記事
月別アーカイブ
検索フォーム
QRコード
QR
現在の閲覧者数: