26-04 Fireplace

第26部 Mountain Villa

奥多摩湖畔から14日目の朝    


(4)Fireplace ********************************************************* 1703文字くらい




(あの切り株まで辿り着ければ、もう大丈夫だな。)



ふっと口角をあげる撩。

読み通り、想定していた休息ポイントで、

一時停止をした相棒を確認すると、

朝日を横から浴びながら、一足先に山荘に上がることにした。



トレイルを抜けて、ジャケットに手をつっこみ、

ひょいひょいと中庭的空間を直進。

ドアの前に立つと、

まるで、俺んちという遠慮の欠片もない手つきで、

ディンプルキーを2つ使い、上下ある2つのカギ穴を回した。

ロックは問題なく解除される。

本来だったら、こんなに簡単に侵入は出来ないが、

今だけセキュリティーは低レベル。

土足でそのまま入れば、広い居間に暖炉、

その前には羊の毛皮のラグが二畳分は敷かれ、

立派なソファーにテーブルがセットされている。



「どこの山荘も、似たような作りだこと…。」



そう言いながら、

テーブルの上の小さなデジタル時計のアラームをセットする。

香がここに入ってきてから鳴るように、

裏フタのネジを回した。



小細工がすむとおもむろに

暖炉のわきに積み上げてある十分乾燥した薪をいくつか持ち上げ、

ガラガラと火床の上にある金網の上に無造作に並べる。

細い枝も一緒に何本か突っ込み、ポケットのライターを探す。

「新聞紙かなんかねぇか?」

昨晩の下見の時に、確認しそこなっていた。

壁と一体化している物置棚の開き戸を開けると、ちゃんと古新聞も備えてあるのを発見。

「さっさと燃えてちょぉーだいな。」

暖炉の前に膝をついてしゃがむと、

ジッポのオイルを少しだけ材に振り撒き、

新聞紙と小枝から着火させる。

火は勢い良く成長して、順調に薪本体を炎で包んだ。



「こんなもんか…。」



赤い揺らめきが撩の顔を照らす。

あとは相棒をここで待つだけ。

どうやって疲れ果てたパートナーを迎えようか、

自分の登場の仕方の演出を、

ステンレス製の火ばさみで薪を微調整しながら妄想中。

やはりカッコいい出迎え方に越したことはない。



「ドアは開けといたほうがいいか?」



閉めていると、かえって警戒心を大きく持たせてしまう。

どうせ香のこと、建物を見つけたら人形をどこかに避難させ、

山荘のまわりを調べようとするに違いない。

それもまた訓練と言いたいが、

ここがゴール。

もうこれまでの経緯だけで十分だと、

一刻も早く相棒を掻き抱きたい。



「よっと。」



撩は膝に手を当て、勢いをつけて立ち上がり、出入り口に向かった。

全開すると、折角暖炉で温め始めた部屋の暖気が逃げてしまうが、

都合がいいことに、

この扉にはちゃんとドアストッパーが付いていた。



「半開きにしときゃ、分かんだろ。」



足でコンと支柱を下げて、中を覗ける幅で玄関ドアを開放する。

外からすぐに冷たい空気が流れ込んでくるが、

いずれ、この部屋の温度の方が勢いを増すだろうと、

再び撩は暖炉に向かい、更に太い薪をくべる。

ぶつかった材が、小さな火の粉を舞い上げ、ぼうっと燃え上がった。

撩の目の中にもその光りが映り込み、

久しぶりに見るナマの炎が燎火にも見え、

原始の血を騒がせる。



「うーん、ボクちゃん、セーブできるかしらん…。」



一晩溜めた自分勝手なストレスは想像以上に膨張中。

午後3時から翌朝8時という、

たった17時間という間が開いただけなのに、

すでに待てない自分に苦笑する。



「ん?」



敷地内に香が到着した気配をキャッチ。

「やっと来たか…、ってあいつ何やってんだ?」

消しているつもりの足音も、暖炉の前の撩に伝わってくる。

どうやら思った通り、ダミー人形をどこかに仮置きし、

周囲をさぐっている様子がうかがえる。



「ったく、さっさと入ってこいよ…。」



かがんで、火ばさみを持った腕を伸ばしたまま、

はぁとがっくりとうなだれてみる。

いや、本来ならば褒めてやるべき行動ではあるが、

これ以上到着時間を伸ばすなと、

今、自分が立ち上がって外に香を回収しに行きたい気分をぐっと抑制。



やがて、特に問題がないことに納得した香は、

また重いものを背負っていることが分かる足取りで、

玄関のドアにゆっくりと近付いてきた。



緊張感が漂うその気配に、また苦笑する。

撩は、もうそのまま暖炉に向き合ったまま、

香の登場を待つことにした。


******************************
(5)へつづく。





うずうずしている撩ちん。

ちょっと長いですが、火について思うところを…。
何年か前の「子ども白書」で、
平成生まれの世代では、火に対する経験度がかなり浅く、
マッチの存在や使い方を知らないのは珍しくなく、
日常的に、木が燃えるところを見たり、
熾き火の色を知っていたりする
若い世代がかぁ〜なり少ないとのことでした。
確かに、
ガスコンロとIHの普及(あ、IHや電子レンジの電磁波有害説はニセ科学の可能性大…)で、
学校行事のキャンプファイヤーや、
夏のバーベーキュー以外では、
ナマの火の光りと熱を体験できる場がなくなっとると…。
我が家は、幸運にも庭にブロック釜を設置でき、折々に調理に使っていますが、
地方においても、こーゆーことは今やレアな部類かもと。
出来たら将来的には、
ペレットも併用できる薪ストーブを導入したいところですが、
当分リフォームは出来そうにないので(金もないし…)、
まわりの仲間が持っている暖炉や薪ストーブに恩恵を便乗させてもらっています。

薪や材が管理下で燃えている様は、
祖先が火を使い始めた少なくとも160万年前から
刷り込まれた心の深部に与える何かがあるようで、
薄暗い中で放たれる炭火や熾き火のあの赤さは、
いつまでも見ていたい気になっちゃいます。
というワケで、この章(「部」って表現しちゃってますが)は、
この順調に燃えている暖炉の火を、一つのキーポイントにしております。

スポンサーサイト
プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


9万hit記念に
とりあえず作ってみた
CH専用Twitter
 


拍手1000パチ記念につけちゃいました。



かなり便利なサーチツール

登録サイト最新情報はこちらをチェック!


試運転中…

カテゴリ
最新記事
月別アーカイブ
検索フォーム
QRコード
QR
現在の閲覧者数: