26-05 80 Point

第26部 Mountain Villa

奥多摩湖畔から14日目の朝   


(5) 80 Point ********************************************************** 2308文字くらい




「りょ……?いる、の?」



まだ、整わない呼吸の中、

そっとドアの隙間から中を覗き見る香。

広い1階居間がダイレクトに見える空間のその奥に、

相方の広い背中を見つけた。

窓からの外の光りを横から受け、

炎の明かりでうっすらと縁取られた輪郭にどきりとする。



そして、急に安心感が沸き上がり、目元に水気がじわりと込み上がる。

同時に、きっと撩の考えていた予定の時間より

遅くなったに違いないと、ドアの外に立ったまま、

タイムオーバー覚悟の心理は反射的に謝罪の言葉を吐かせてしまった。



「ご、ごめん、なさい…。遅くなって…。」



暖炉の前で、片膝をついている撩、火バサミを持つ腕がぴくんと動く。

パチパチと弾ける音を出しながら、

熾(お)き火になりつつある炎を見つめる。

どうして、そこで誤るんだと、

膝にひっかけている腕にぐっと力が入ってしまった。

撩は、ふっと軽く息を吐き出し、ゆっくりと立ち上がる。

持っていたトングを、薪の山にカシャリと立てかけ、半開きにしたドアの方に体を向けた。

香の茶色い前髪のみが、扉の枠の端から覗き見えて、

白い息だけが外の空気に揺らめいて動いている。

自分から入ってこようとしない姿に、またずきりとオトコの胸が絞られた。



撩は、わざと足音を立てながら入り口に近付いて行く。

徐々に見えてくるドアの外の香の姿、

人形を背負っているため、背中を曲げて頭の位置も下がり気味、

顔を見ることができない。



撩の腕は、ドアをぐいっと押し開けて、

同時に片足の先で、ドアストッパーをトンと一押しして解除する。

おそらく香は、時間制限内にはミッションが終わらなかったと

勝手に思い込んでいる。

どんな言葉をかけてやるべきか、

多くの初体験をこなし、

体力的にギリギリの重労働を経てきた相棒に、

その戻ってきた姿だけで、撩の表皮にちりりと切ない電流が流れる。



選ぶべき言葉が出てこない。



無言のままでいる撩に、香はきっと怒っていると勘違いをし、

更なる詫び言を重ねた。



「ご、ごめん、……し、失格だよね。」



このバカと、声が出そうになった撩。

香のこめかみの汗がぽたりと2人の間に落ちる。

撩の大きな手がゆっくりと動き、前髪をくしゃりと搔き上げた。

疲労感が混じる表情で、

やっと顔を上げた香は、見下ろしている撩と久しぶりに視線を合わせる。

そこに、時計のアラームが鳴った。

「え?」

「ごーかく。時間内に着けたじゃん。」

「え?」

「ほれ、背中向けな。」



撩は、香をドアの内側に招き入れ、扉を閉めると、

ひょいっとダミー人形を受け取った。

力なくぷらんと手足が揺れ、そのままお姫様抱っこで、

ソファーの上に横たわらせる。

ついでにテーブルの上で鳴っていた時計も停止させた。

時間は朝の8時半。



やっと重さから開放された、香は戸口前で背中を丸めたまま、

はぁと片膝を床に付いた。

「こいつは、これでお役目御免だな。」

そう言いながら、撩は香の後ろにまわり腕を伸ばすと、

ウエストバッグのプラスチックバックルをパチンと外した。

どさりという音と共に、急に腰回りが軽くなり、ぎょっとしたところで、

正面から脇の下に撩の手が入り込み、起立させられる。

よろっとバランスを崩しそうになった香。

そのままぎゅーっと強く抱きしめられてしまった。

「あっ……。」

香は、汗だくのままで撩の腕に囲われて、

汚れているのに、臭いもあるのにと、下着も付けてないのにと、

恥ずかしさで一瞬抵抗をしようと思ったが、

込められる両腕の力に、安心感も重なり素直に体を預けることにした。



撩は、ノーブラのこともすぐに分かったが、

汗で濡れている背中のことも全く気にせずに

右手を香の髪の毛に埋めて自分の胸に小さな頭を押しつけた。

左腕はしっかりと腰回りに絡めさせる。



やっと触れられたと、この瞬間をどんなに待ちわびたことか、

欠乏していた感覚を得られたことが、

直通で自分の満足につながってくる。



背骨を伝う汗に、息の乱れ、まだ整わない心拍に、

無事の到着を褒めなきゃだめだろと、言葉を選ぶ撩。




「……おつかれさん。」




ぴくりと香の体が揺れた。

耳のすぐそばで聞こえたその言葉に、

やっとミッション終了の区切りを感じ、

はぁと脱力する。

「ま、80点くらいかな?」

「は?」

「とりあえずどーする?メシくう?それともシャワー浴びてくるか?」

抱き込んだまま、にやっとして香の瞳を見つめ下ろす。

まるで、夫の帰りを待っていた嫁が

¨お風呂にする?お食事にする?¨と言う台詞と同じではないかと、

きょとんとする香。

「え?」

「一応、一通りそろってるぜ。」

「ここって…。」

「んー、教授のアジトのひ・と・つ♡」

疲労と到着した安心感で考えがうまくまとまらない。

「そ、その前に、と、トイレいかせて!」

急に思い出したかのように、

顔を赤らめてそう言うと香は撩から離れようとした。

太い腕が拘束を緩める。

「あー、あそこの階段の下のドアが手洗いだ。さっさと行ってこい。」

「あ、う、うん、ありがとっ。」

ダッシュで駆け込む香を目で追う撩。

そう言えば、あいつは夕べ一回も用足ししていなかったなと、

寒さと発汗でそっちには水分がいかなかったかと、苦笑する。

落ちていたカメラバッグを拾い上げ、

ソファーにどさっと投げ置く。

香が連れてきた人形には、

長椅子にあった2枚のブランケットのうち1枚をかぶせて、

「任務終了な。」

と声をかけた。



撩は、再び暖炉に向かい、

薪を追加して火力をアップさせる。

「きょぉ〜はぁ〜、いちにちぃ〜、ここで、のんびりぃ〜♪」

ここからすぐに帰るつもりはない。

アパート以外の非日常的な場所で、

邪魔が入ることなく過ごせるとあったら、

無為に滞在時間を短くする必要はなし。

香の体力回復も含めて、夕方までにここを出られればいいかと、

撩は、窓の外の赤や黄色の葉を見ながら、

また燃料を追加した。


*****************************
(6)につづく。





やっと合流〜。

【お詫び&お礼】
やっとこっちの「記事の管理」画面をいじれた…。
今月になってから初めてのまともなログイン…。
もっとゆっくりかまいたいのにぃ…。
9/6より初回からお読み頂き拍手を残して下さっている方、
大量のパチパチをありがとうございます!
気がついたらお問い合わせコーナーにも
有り難く嬉しいメッセージが溜まっており、返信が遅れて申し訳ございません。
現在、コメントが入ったことをメールでお知らせしてもらえる
機能を使っておらず、ログインしないと確認できない状態で、
対応が更に後手後手になってしまい心苦しいところでございます。
お返事、少しずつ送らせて頂きますので、
少し猶予を頂けると有り難いです。
本当は、もっともっとCHとその関連にかける時間を増やしたいのですが、
実生活での時間配分がめちゃくちゃヘタクソで、
サイト管理も滞らせている始末…。
本編の手術も同時並行ですが、
できるだけ休載にならないよう努めたいと思います。
こんなサイトですが、皆様のご訪問に改めて感謝申し上げます。
[2013.09.08.18:18]

【拍手最高記録】
9/8の1日あたりの拍手数が157と過去最高を頂きました。
合わせて御礼申し上げます!

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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