26-06 Bathrobe

第26部 Mountain Villa

奥多摩湖畔から14日目の朝    


(6) Bathrobe ********************************************************* 3252文字くらい



「ああっ!棒がジャマで脱げないじゃない!」

慌てて左腿に巻いているガムテープを外して、

非常用に持ち歩いていた木の枝をバタバタと外す。



「ふーっ、間に合った…。」



立派な水洗トイレ、

きれいに掃除され、消耗品もちゃんと備えてあり、

芳香剤代わりになっているラベンダーのドライフラワーまでお洒落に飾ってある。

ペーパーもダブルの柄付き香料付きで厚手の高級品。



「こ、ここって、アジトというよりも、ペンションじゃない…。」



用を済ませた香は、

手を洗いながら想像していた山荘とかなり違うことに戸惑う。

ガムテープを丸めて、枝を拾い上げると、

そっとレストルームから顔を出す。



撩は先ほどと同じ暖炉の前で、しゃがんでトングを手に薪をいじっている。

「ね、ゴミ箱ある?」

「あ?」

唐突の質問に、振り向く相方。

「これ、捨てたいんだけど…。」

くしゃくしゃの布ガムテープを見せる香。

「あー、こっちのソファーの横にゴミ箱あっから。」

指を指す場所は、丁度香から死角になっている。

ややぎこちなさを纏って、撩のいる方に近付くが、

トレッキングシューズとフローリングが刷れる音が重たく響き、

さらに歩みを緩めて暖炉に近付いた。



ソファーの陰に藤で編まれた円柱のカゴが目に入る。

「あ、ここね?」

遠慮気味にガムテープの塊を落とす香の後ろから撩が声をかける。

「そいつは、こっちによこしな。」

「あ…。」

持っていた枝をひょいっと取られて、

暖炉の燃料にされてしまった。

ボウッと乾いた音と共に、枝が黒くなっていく。

「もう用なしだろ?」

「あ、うん。」

なんでこんなモノを持ち歩いていたのか聞いてこない撩に、

理由は全てお見通しかと、

あえて香も腿に縛り付けていた理由を説明することは

見送ることにした。



「先に風呂行ってくっか?バスローブもあっから。」

「え?い、いいの?」

「いーの。」

撩は涼しい顔をして腕を伸ばし、薪の位置を調整する。

材が動く度に細かな火の粉が舞い上がる。

実は、撩はこっそり客間から香の服を持ち出してここに持ってきているのだが、

今は、他の部屋にしまってあり、

持参していることはナイショにしておくことにする。

バスルームには、別の衣類のセットがあり、

それを纏って戻る香を密かに楽しみにしている撩。

そんなことをおくびにも出さずに香に進行方向を指示する。



「あっちの扉の奥がバスルームだ。さっさと行ってこい。」

「あ、う、うん、ありがと…。」



困惑気味に、撩が指差した扉に向かう。

もっと壊れそうな山小屋みたいなところを思い描いていた。

なのに、山荘というより別荘的な宿泊施設の雰囲気に、

そこで、撩と2人きりというのが、

どうにもこうにも気恥ずかしく、言葉もうまく出てこない。



指示された浴室も脱衣所も、

美しく快適で、ホテルのような空間に、

開き戸を持ったまま香は固まってしまった。



「……なんかスゴすぎない?」



木製ハンガーにクリーム色がかった白いバスローブが2着。

チェストの上には布ばりしたカゴ、

その中には香用と思われる新しいキャミソールとショーツ。

いかにも高品質の大きなバスタオルにフェイスタオルがセットされ、

棚には、タオルの予備が十分に積まれている。

床には、ふかふかの広いバスマットに、品のいいスリッパ。

洗面台の鏡も大きく、洗面ボールも広くて深い。

歯磨きセット、新しい石けんも備えてある。

淡いマーブル模様は天然の大理石かと、

自分にとって場違い過ぎる高級感に体が更に動かなくなる香。



「ま、まさか、あとで宿泊費とか請求されるんじゃないでしょうね…。」



まだ泊まってもいないのに、いらぬ心配をし始めるが、

コーナーに設置している洗濯機と乾燥機がふと目に入る。

「あ…、この服とかここで洗ったら乾かせるかしら?」

しかし、まだ香はここの滞在予定時間を知らない。

「んー、すぐ帰るんだったら、ダメね。」



それ以前に、自分の服にはペイントの汚れがあり、

肩も破けている。

ガムテープで補修している肩の穴は、

今日ここでは修理不可、カジュアルシャツとトレーナーも切り傷があり、

裁縫道具が必要。

いつも持ち歩いている簡易ソーイングセットは、

撩の車に置きっぱなしのバッグの中。

とてもじゃないが、車内だけならまだしも、

これをまた着て人が沢山いるような外は歩けない。



「どうしよう…。」



とりあえず、考えるよりもまずは汗を流さなきゃと、

纏っていたダウンのベストから、フリース、シャツ、トレーナーと

順にごそごそと脱ぎ始める。

ピンクのカジュアルシャツは、自分の汗をたっぷり吸って重たくなっていた。

こんなものを着て、もう一晩外にいなければならないようだったら、

低体温症で遭難は間違いなし。

とりあえず脱ぐものを脱ぐと、フェイスタオルを1枚手に取って、

前を隠しながら浴室に、と思ったところではたと足が止まる。



「ここって、カギは?」



振り返ると、脱衣所には頼りないがロックが一応付いている。

香は慌てて腕を伸ばして、サムターンをカチリと回す。

あれから、スキあらば一緒に入ろうコールを言い続けるもっこり虫。

とてもじゃないがその提案をのめる心境には到底なれない。

ベッドの中でなら、

恥ずかしくても撩なら全てを許し受け入れられると思いつつも、

浴室は全く別問題。



「うー、これじゃ、心細いじゃないっ。」

香は、はっと思い立って、がらっと浴室のガラス戸を勢い良く開ける。

「ま、窓は??」

ない。

そのかわり、天井に大きめの換気口。

悲しいかな、

上からぶら下がっているスケベ顔の相棒がぼんやりと見えてしまった。

「の、のんびり浴びてらんないわ!」

いつ襲撃がくるか分からないと、

せっかく脱衣所と同等の快適な水回りにも関わらず、

香は、備え付けのシャンプーとリンスとボディーソープを使い

超特急で全身の汗を洗い流した。






「はぁー、さっぱりしたぁ。」



持ち込んだタオルでくしゃくしゃと軽く髪の毛の水毛と取り、

簡単に体を拭き上げる。

かさぶたになっていた右肩の傷が少しふやけ、

右腿の打ち身は、青紫に変色していた。

木のトゲが刺さった左指の穴は塞がってはいるが、赤い点となって残っている。

かがんで両方の踝(くるぶし)を確認すると、

右足の外側は赤くなり、左は薄く皮が剥けていた。

そして、撩が残した各所の吸い付き痕は、一晩明けて一段薄くなっている。

自分の体の傷を一通り見終わると、

たった半日かそこらで、よくもまぁここまで傷を重ねたものだと、

情けなくなってしまった。



「撩なら、無傷で当然なんだろうな…。」



慣れないフィールドで、色々と気を取られてしまったのもあり、

廃ビルや埋め立て地などの都市的環境とは全く違う場所で、

自分の注意力が追いついていなかったことを思い知らされる。



「はやく着替えなきゃ。」



脱衣所に出て、

訝しがりながら用意されていたインナーを手に取る。

未開封、未使用のショーツとキャミソールは

黒のシンプルなデザイン。

香は、どうしてこんなものまでちゃんと揃っているのか理解に苦しみながら、

透明なポリプロピレンフィルムの包装を開封する。



「し、シルクぅ?」



手触りから、覚えのある質感に目が見開く。

とりあえず、着るものはこれしかないので、

致し方なくショーツに足を通しキャミソールに腕と首を通す。

肌触りの良さを感じつつ、この後、これを着て帰宅した後、

洗ってどこぞに返さなければいけないのかと考え始めてしまう。



「安くはないわよ、これ…。」



体が冷え始めたので、

急いで厚いタオル地で織られている白のバスローブを纏う。

冴羽家には、そんな洒落たモノを置いている訳がないので、

これまた滅多に着ないものに緊張する。

この姿で撩のところに行かなければならないのかと、

他に選択肢を探そうにも、どうしようもないので、溜め息を吐きながら諦めることに。

一応、脱いだものをたたみ、

柔らかいスリッパを履き、

洗面台に備え付けているドライヤーとブラシで髪の毛を乾かした。

汗と汚れを一通り落とし、すっきりとする。



「はぁ…。この後、どうするのかしら?」



溜め息を吐きながら、

改めて脱衣所と洗面所を見回す。

目的地にゴールしたはいいが、

その後の展開が全く読めない香は、

自分には縁がなさ過ぎる環境で、

とてもじゃないが落ち着けそうにはなかった。


***************************
(7)につづく。





確か、原作冴羽家ではバスローブが出て来たシーンはなかったと思うのですが、
もし、あったよ!と見つけた方は教えて下さ〜い。
マリーとホテルに行った時、
撩のバスローブが出て来たくらいかなと…。

そういえば、
今日は、ルパン初代の山田さんのお誕生日。

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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