26-08 Weizenbrot

第26部 Mountain Villa

奥多摩湖畔から14日目の朝    


(8)Weizenbrot ****************************************************** 2647文字くらい




「おまぁ、何やってんの?」



暖炉の前でほっぺを叩きまくっている相方に声をかける撩。

「あっ。」

ドアが開くのに気付かなかったことに、はっと驚いたが、

撩の姿に、もっと驚いた。



「ああああああんたも、な、なんでガウンなのよっ!」

「あーん?スープ湯煎であっためてる間に、俺もシャワー浴びたんだよ。悪いか。」

「だっ…、なっ…、あん…、そんなかっ…。」

おそらく、¨だって、なんで、あんたがそんな格好する必要があるの¨とでも言いたかったのか、

もう口パクで、頬への連打と熾き火で火照った顔を更に赤らめて、

目をくるくるさせている香。

実は、撩のバスローブ姿を見るのはお初。



首からタオルをかけ、香とお揃いの白いバスローブを纏った撩は、

パートナーの反応が面白くて、ふっと薄く笑いつつ、

両手に持っている大きなスープカップをゴトリとローテーブルに置き、

よっと言いながら、クッションを背もたれに腰を降ろした。

ぴくんと肩が上下する香。

一気に目が覚めた。



「冷めないうちに飲めよ。」

¨さめ¨違いの言葉掛けに、まさに夢が覚めないうちに飲んでしまおうかと、

ギクシャクしながら、両手でカップを持ち上げる。

「いっ、いた、だき、ますっ。」



どうしてこうも自分はドキドキとしているのか、

冷静沈着な撩と相反する様に、

バレたくないと思いつつ、緊張しながら口元に器を近付けた。

湯気の中にトウモロコシの甘い香りも漂う。

香は、濃い黄色のとろりとした液体を口元を細めてこくりと喉に流した。

昨日のミルクティーの缶以来の温かい食事。

パチパチと薪が燃える音も心地いい。



「はぁ…、おいし…。」

「ただの非常食だけどねん。」

撩も片手でくいっとカップを傾ける。

「パンは固いやつだから、スープに付けて食えよ。」

ヴァイツェンブロートは、ドイツパンの一つ。

「たぶん、教授おかかえの管理人が、焼いたモンだな。」

撩はそのままハグッとスライスされた欧州風のバンをかじる。

フツーの食パンあたりでいいと思っていたが、

かえっていい食材を出してもらい、雰囲気作りの演出に不本意ながらプラス効果。

「あ、あんまり、見たことのないパン、ね。」

ジャムがついていないほうを1枚選び、

ちょいっとパンの端をスープに浸して、愛らしい口でぱくりと食む。

「ん、おいし…。」

小麦の味がする、そんな第一印象。

「なんか、味が濃いね。」

同じ主原料のはずなのに、昨晩食べた輸入物の乾パンとは大きく違う味わいと風味に、

より意識がハッキリする。



「ね、管理人って?」

「あー、だからここを管理しているばぁー様がいるの。教授のお友達。」

「こ、ここって、ペンションか貸別荘とかじゃないの?」

「だから言っただろ、教授のアジトの一つだって。」

「で、でも、…。」

高級ホテル並みの品々に、落ち着いた内装が施され、

どうみてもこの後、使用料を取られてしまいそうな雰囲気に、

香は気が気でない。

「あー、いいから気にすんな。」

そう言いながら、撩はさっさと食べ終わってしまった。

「って、言われても……。」

続けようとする香の言葉を遮る様に言葉が重なる。

「ごっそさん、コーヒー持ってくっから。」

「あ、ありが…、じゃなくて、あたしがいれようか?」

「いーの、おまぁはそこで食ってろ。」

立ち上がった撩は右手をひらひらさせながら、フロアを出て行った。



「うー、こ、この雰囲気、……た、耐えられない。」



撩が色っぽ過ぎる。

腕まくりされた袖から覗く前腕の浮き出た静脈に、

ローブからはみ出ている胡座(あぐら)をかいたふくらはぎに、

合わせから垣間見える美しい胸板に、

少し湿り気の残る黒髪が、いつもより前髪を長く見せ、

その全てが、強烈な色香を漂わせ、

さっきまで主導権を握っていた副交感神経が、

あっという間に交感神経の支配に置き換わる。



あの時の言葉通り、山荘で待っていたとしたら、

夜の内に入浴すればいいものを、

なぜ、わざわざこのタイミングで同じ様にシャワーを浴びに行ったのか。

やはり、訓練中終始様子を伺っていたのではないかと、

ジャケットについていた木屑を思い出す。



「一体、どこに隠れてたっていうのよ…。」



全く気配を感じなかったことを振り返り、

尾行されていたとしたら、それにも気付かなかったことに、

やや気分が落ち込んでしまう。



動きがしばし止まっていたが、

まずは食べねばと、気をとりなおして、

もぐもぐと口を動かしながら、スープもすする。

それにしても、こんな場所で、こんな姿で、

もし、これで撩に触れられたりしたら、

一気に何もかもが真っ白になってしまいそうで、

まだ心臓がぱくぱくと高鳴り始める。

自分だけ勝手に緊張していることが、若干苦々しくも感じ始めた。

本来なら、

この訓練について自分なりの報告などをしなければならないのだろうが、

気持ちは、

撩にもっと近付きたいと思っている自分がまた情けなく、

撩を¨このもっこり男がぁ!¨と天誅を食らわせていたことさえも

恥ずかしくなってしまう。

これではヒトのことは言えないではないかと。



そんな考え事をしながら、

残りのドイツパンを全て食べ終わると、カップの中のスープもカラにして、

少ない食材にもかかわらず、体も温まりお腹にもたっぷり溜まった。

「……おいしかった。」

ことりと器をローテーブルに置いた香は、

暖炉の炎を見ながら、はぁと熱い息を吐いた。






一方、撩はキッチンでインスタントコーヒーを2杯分作りながら、

大きく長い息を吐き出す。

「あー、やべぇ…。」

破壊的魅力に爆発的悩殺力、それを本人が全くもって自覚していない。

間近でみるバスローブ姿の香は、撩にとっても初体験。

平静を装い、立ち上がろうとする息子を抑えに抑え、

まだ早いと必死でセーブする。



「あいつの疲労回復の方が先だろうが…。」



夕べはろくに寝ていないはずと、その中での重装備登坂は、

香の体に大きな負荷を与えているはず。

到着して早々に、大人の時間にするワケにはいかんだろうと、

当初からイメージしていたタイムテーブルにちゃんと従えと脳に命令する。

しかし、体は納得してくれておらず、

勝手に香のバスローブを剥くシーンが目の裏で合成されてしまう。



「だぁあああーっ!だめだっつーのっっ!」



ブンブンブンと首を振る撩。

一応、湯気があがる黒い液体入りのカップが2つ揃う。

「数時間くらいだろ?我慢しろっつーのっ!」

そう自分に言い聞かせ、片手で2人分のカップの耳の持ち

はぁとまた息を一つこぼしながら、

暖炉のある部屋に向かった。


*************************************
(9)につづく。






ヴァイツェンブロートは、今では洒落たこだわりのパン工房でしたら、
取り扱いは珍しくないものですが、
1991年代は、まだそんなに認知されていなかったパンかもと。
薄ーくスライスして、スモークサーモンとか、
ベビーリーフとか、クレソンとか、カットしたプチトマトとか乗っけて
イタリアンドレッシングとかけて朝食に、と思いましたが、
ここは、生鮮食品がない設定にしておりまして断念…。
カオリン、また別の時に撩ちゃんに作ってあげてね。
木イチゴジャムは、クサイチゴジャムあたりで。
今年、初めて作ってみましたが、
これは色んな意味で市販は困難だわぁ…。
知り合いのペンション経営者が個数限定で販売中。
気になる方は調べて見てね。

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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