26-10 Nap

第26部 Mountain Villa

奥多摩湖畔から14日目の朝    


(10) Nap ************************************************************ 2252文字くらい



「撩 …… 。」



困惑する香。

はだけたバスローブの裾からはみ出た両足が絡まる。

茶色い髪の毛の中にある5本の長い指にくっと力が加わり、

ローブ越しに撩の胸板が頬に押し付けられる。

心音が少し早い、そう感じる間もなく、

さらに腰に巻かれた太い腕がぎゅうと圧を与える。

前髪の生え際あたりに、ふぅーと細い息がかかった。

ぴくりと香の肩が動く。



「このばぁーか、俺に万が一のことがあるワケねぇーだろ。」



香は思った。

このオトコは、ファルコンや海原に撃たれた時のことをもう忘れているのかと。

確かに、あの時は自力で動けてはいたが、

一つ間違っていたら、ここにはいなかった。

万が一は自分には関係ないと、断言できる保証はどこにもない。

香の言葉を全面否定するこの台詞を、直球で受け止めるには、

これまで味わってきた撩を失う恐怖の方が大きく勝っていた。



香は、撩のバスローブを両手でぎゅうと握り込む。

目を閉じ、きりっと奥歯に力が入ってしまった。



この唐突の野外訓練で、

香は自分のレベルの低さと体力のなさを思い知らされた。

簡単なトラップにひっかかり、子供一人ゆとりを持って運べず、

夜の森のことさえも無知だった。

こんな自分が傍に居続けたら、

万が一が、千が一、百が一、十が一と、

撩に降り掛かる危険度の確率をより高めてしまう。



撩を失いたくはないと、

このぬくもりを失いたくはないと、そう強く思うのに、

未熟な自分の存在そのものが、相方を失う原因になりかねない。

そんな否定できない事実を、

今回のことで更に確証が上乗せされてしまった気分に陥ってしまう。



無言で体に力が入っている香を抱きしめたまま、

撩は、洗い立ての茶色い髪を

形のいい指でゆっくりと梳きながら優しく撫でる。

とたんに香の肩が小さく上下する。




「……よく頑張ったな。」




頭の上から聞こえたかすれ気味の声。

この声色に、どきりとしてしまう。

頑張らなかった、ワケではないが、十分とは言えない結果のはずなのに、

撩は、この山荘で合流してから、まだ一度も苦言や指摘を言っていない。

それどころか、数字の上では予想外の高得点。

返す言葉に迷っていたら、

撩は、ごろんと体を半回転させ、暖炉側に向かって香を横抱きにする。



「なぁ、……ここがいいか?それとも上に行くか?」

またのいきなりの質問に、訳が分からない。

「な、なんのこ」

「上にベッドがあんだけど、仮眠すんだったら、ここと2階どっちがいいかってこと。」

「かみん…?」

「おまぁ、夕べ殆ど寝てないんだろ?」

「あ…。」

「上も暖房あっけど、まだ部屋が結構冷えてんだな。

んで、ここでもいいんだったら、毛布もそこにあっから取ってくんぞ。」

「………。」

信じられない程に優し過ぎる撩、

こんなふうに、あからさまに自分に気を使う撩の姿を

奥多摩のあの日より前に見た記憶は殆どない。

夕べの不眠を読まれてしまっていることに驚きつつ、

香は顔をわずかに動かして撩を見上げる。

まだ自分の頭に撩の指が乗ったまま。



たった2週間前なのに。

奥多摩でこうして抱きしめてくれたのは、

わずか14日前のことなのに、

早々にこの訓練の準備をし、ゴールで出迎えてくれた撩に、

ふるっと香の瞳が揺らいだ。

今の自分の表情を見られたくないと、パフッとまた顔を伏せる。

撩のバスローブを握ったまま、火の傍にいたい、そう思った。



「……こ、こが、……ぃぃ。」



ぴくりとわずかに動く撩。

くしゃりと香の髪を掻き回し、よっと上半身を起した。

「ちょっと待ってろ。」

香の指が緩む。

立ち上がって、数歩足を動かした撩は、

ソファーに投げてあったキャメルの毛布をくいっと掴むと、

その場でばさりと広げながら、

また暖炉からやや離れた正面でごろんと横になる。

「あ…。」

恥ずかしがるパートナーの反応を見やりながら、

器用に香を抱き込み、2人が包まれるに十分な大きさの茶色いブランケットを

ふわりと覆いかぶせ、香を暖炉側にして、腕枕をしてやることに。



「目が覚めるまで、ゆっくり寝てろ。」



左頬にひたりと大きな手を添えられ、かぁあと火照り上がる香。

火が付いている暖炉の前で、バスローブ姿で、ふかふかのムートンラグの上。

撩とこんなことをしている状況に、

恥ずかしく、照れくさく、嬉しく、これでは気持ちが高ぶって寝られないと、

文句を言いたくなるも、

目を閉じながら、別の理由を言い訳にしてしまった。



「なんか、……いままでと逆の位置、だから、な、なんか、へん…。」

「あー?だったら代わるか?」

片眉だけが動いた撩。

「う、ううん…、このままで、いい…。」



出入り口に背を向ける撩、暖炉に背を向ける香。

これまでは、撩の右腕右肩に頭を預けるスタイルが定番ではあるが、

今日の香は撩の左に寄り添う。

どこか新鮮な気分を覚えながら、

さっきまで苦しさで力が入っていた体からふうとガスが抜ける様に、

緊張感が消え去って行く。



それに気付いた撩は、

頬にそえていた右手を前髪に絡めながら移動させ、

あらわになった白い額に唇を押し付ける。

「ひゃっ。」

「おやすみ……。話しは起きてからだ…。」

くいっと抱き直される。

「ん……。」



香はごぞっと身をよじり、撩によりくっつける場所に落ち着いた。

男の呼吸音と、右耳から伝わる心音と、

暖炉から聞こえる薪の弾ける音が、θ(シータ)派を出させる三重奏となる。



夕べは、人形を抱き込んで夜を過ごしたが、

やっと抱き込まれて休むことができると、

背中をさすられる心地よさを感じながら、

そのまま素直に撩の腕の中で、

体と脳を休ませることにした。


***********************************
(11)につづく。







もうこーゆー環境が整っちゃったら、
あとはスルこと一つでしょ!と。
仲良しタイム、もう少しお待ち下さいませ〜。

θ(シータ)派とは、脳波の一つで、うとうとしている時に、
主に側頭葉から出ているとされています。
アニマルセラビーや福祉園芸などで、このθ派が注目されています。
動物や植物に触れ合うことが、
脳にいい効果があることを裏付けしているとのこと。
これが確実だったら、個人的にもかなり嬉しいのですが、
まだ論文とか報文とかを見つけきれていなくてからに…。

【神谷さんハピバ!】
この方には2つお誕生日があると言ってもいいかもしれませんね。
記念日おめでとうございます!
撩の声はあなた以外はありえません。

【で、りょう君】
昨日の主催イベントで、
小学校5年生のりょう君がお母さんとお友達と参加してくれました。
もう、お母さんが「りょー、きてごらーん。」とか
呼びかけする度に、脳の隅っこがあらぬところに飛びそうに…。
仕事中にCHモードになってしまう自分に苦笑…。
[2013.09.18.08:45]

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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