26-12 Breeding Season

第27部 Mountain Villa

奥多摩湖畔から14日目   


(12) Breeding Season ************************************************ 3701文字くらい



タンタンタン、ザァー、と水の音に気付いて、

目が覚めた。



「ぁ、雨?」



明らかに雨が屋根や軒を叩く音に、

思わず声が出る。



「やっと起きたか。」



頭の上から降ってきた声に、驚いて顔を上げた。

暖炉を背にして、横抱きにされている自分に気付く。

目が合ってピキンと赤く固くなる香。

温かいキャメルの毛布の中で、撩の腕枕。

しかも2人ともバスローブ姿。

香は、なぜこんなことになっているのか、

思い出すのに一拍、二拍かかって、納得した。

ふぅと力が抜ける。



「よく寝てたなぁ。爆睡だったぞ。」

「ん……、夕べ、クマが怖くて、よく寝れなかったの、よ…。」

目元を薬指で少し擦りながらそう答えた香。

ゆっくり休めて、ずいぶんスッキリした。

「くまぁ?」

「だ、だって、このへんいるんじゃないの?

もし襲って来たら、どうやって撃つか、ずっとビクビクしてたんだからっ!」

この情報を与えなかったのは

失敗だったか、あるいは良かったのか、

一晩中、自分が思っていた以上に

夜の恐怖と戦いながらのビバーグに耐えた香が、

また無性に愛おしくなった撩。

くすりと笑いながら答えることに。



「もう、この辺のやつらは冬眠してるはずだぜ。」

「え?冬眠???」

「そ、この辺りは、一応ツキノワグマの生息域になってはいるが、

今年はドングリも豊作だったらしいから、

たっぷり食ってさっさと寝ちまってるよ。」

「なんだ…、そうだったん、だ…。」

はぁと更に脱力する香。

目を閉じると夕べ、間近で見た雌鹿を思い出す。



「……シカは、冬眠しないの?」

「しねぇーな。」

撩もあのシカの群れを思い出す。

どんなに、香のそばに行きたいと思っていたことか、と

目の前にいるのに、お預け状態を自主的にくらい、

晴れて解禁されたこの山荘。

体力回復を待ちに待って、目覚めた香とピロートーク。

訓練中に香が何を得たかを本人から聞きたいところではあるが、

撩のほうが、もうそれを二の次にすることを決めていた。



「あいつらはな…、今の季節が繁殖期なんだと。」

「え?」



雨音が強くなる。

「く、熊が?それとも、鹿のほう?」

がくっと頭が落ちる撩。

¨あんたは年中繁殖期じゃない¨というツッコミを期待していたが、

まだ熊の話しにこだわる香。

「あー、このへんの鹿は、秋がいちゃつくシーズン、熊のヤツらは夏と決まってるらしいな。」

一応持っている知識を披露。

「へぇ…。なんか、あんたが動物のこと語るなんて、意外だわ。」

「そーかぁ?ま、ボクちゃんは繁殖期なんざ決まってないけどねーっ。」

明るい口調で、ごろんと半転し、

香を見下ろす体勢に持っていく撩。

唐突に組み敷かれて、目をくるくるさせる香は、

ローブの合わせから見える撩の胸板が近過ぎてドキリとしてしまった。

左の大胸筋には相変わらず目立つ銃創があり、

それが視界に入る度に、生き延びたことの幸運が込み上がってくる。

撩の動きに、もしかしてと、

これからの流れを仄かに期待している自分がとても恥ずかしく、

悟られまいとあがいてみた。



「その説明、いらない。」

「ま、かおりちゃんは、ボキちゃんの生態をジューブン分かってんだもんなぁー。」

左右の頬を包まれた。

顔を動かせなくなる。

まだ強がってみせようとする香。

「動物界一の、ヘンタイ。」

キッとかなり頑張って目をそらさないように努力している様がバレている表情に、

ますますイヂメたくなる衝動に。

「その、ヘンタイと、…ずっと一緒にいるって決めたんだろ?」

撩の顔がじわりと近付いてくる。

くっと香の眉の角度が変わった。



昨晩、寒さに耐えながら、

充填している実弾6発だけで、接近してきた獣を倒せるのかと、

本気で一人、単独での戦いを覚悟していた。

未知の生き物たちの棲む、未知のフィールドで、

自分の持っている体験や知識が殆ど役に立たず、

お願いだから、ここに来ないでと、ただ祈るしかなかった長い夜。

勝てる公算の予測さえもつかない。

遭遇の仕方によっては最悪、

自分が襲われ体を引き裂かれる場面まで想像してしまっていた香。

こんな形で、撩との死別があっていいわけないと、

気を張りつめさせたい思いと、休みたい欲求がぶつかり続けた。



夜を無事乗り切れても、

明るくなった森でも、¨彼ら¨に出会ってしまうことも当然ゼロではないだろうと、

人形を背負って両手がすぐに自由に使えない状態で

尾根筋を歩き続けることも、危険な状態。

反撃できる条件はビバーグ時よりも悪いことを途中から感じ、

一刻も早く山荘に着かねばと、姿なき恐怖の対象を気にしながらの登坂。



それが、今しっかりとした作りの木造山荘の中で、

撩もいて、火もあり、屋根の下で無防備に横になれることが、

たまらなく深い安らぎとなり、

香の胸に込み上がってくる。



意地を張って、何をごまかそうとしていたかを、

見つめてくる撩の瞳で忘れてしまった。




「………こわかった。」

「ん?」

頬を包んだまま、香に触れようとした撩の動きが止まった。

「夜の森が、……あんなに、怖いって感じるなんて、……思っても、みなかった。」

撩から注がれる視線をそらさずに、揺れる瞳で見つめ返す香。

「……撩は、あんな夜が、毎日、だったんだよ、ね?」

聞いてはいけないのかもしれないと思いつつ、

つい言葉に出てしまった。

頬に添えられている撩の指先が少しだけ反応する。

ふっと、目を細めて薄く笑みを見せる撩。

一晩、香が考えていたことがツキンと伝わってくる。



「……今も、こわいか?」



問われた質問には答えずに、香に逆に問う撩。

撩の手の中で、香は小さく顔を横に振った。

「ううん。」

ほんのわずかながらの微笑み。

香は、目を閉じながら自分の腕を毛布の中でそっと動かして、

ローブを着ている撩の背中に手を伸ばした。



本当は、¨撩がここにいるから…¨そう言いたかったが、

あまりにも少女漫画的な台詞ではないかと、

喉の手前でひっかかる。



「……火が」

「あ?」

「火が、そばにある、から…、なんか安心する。」

なぜか別の台詞が出てきてしまう。

しかし、止めた台詞をこのオトコは読んでしまった。

「火、だけじゃないだろ?」

「え?」

目がぱちっと開く。

「ったく、素直じゃないねぇー、香くんはぁ。」

にやりとイタズラを仕掛ける前のような楽しそうな表情。

それが目に入ったとたんに、唇の距離がゼロになった。

「んんっ。」

反射で目を閉じてしまう。

温かい大きな手で顔を包まれたまま、2日ぶりの濃密な触れ合い。

お互い、これが欲しかったと、

間を置いて珍しく香も僅かながら唇を動かしてきた。



雨音と、半分程に減った薪炭が燃える音に、

2人の口元が奏でるスマック音。

一昨日の夜以来の深く激しい口づけに、

一晩のブランクが、2人の中に¨もっと¨と求め合う我欲を沸き上がらせる。



細かく角度を変えながら、吸い付き挟まれ甘噛みもありと、

複雑な刺激を粘膜に受ける度に、香の指が撩の背中で小さく震える。

頬を挟まれたままで逃げられない。

息が出来ないと、苦しさを感じた刹那、

上唇下唇ともにうちゅーと引っ張られ、ちゅぽんと鳴らせて、

やっと解放された。



「っはぁ…。」



胸が上下する。

撩の指が香の前髪をくしゃりと掻き揚げた。

生え際の産毛がしっとりと湿度を帯びる。

「香…。」

「……ぇ?」

名を呼ばれてうっすらと目を開ければ、

色香をまとった瞳で見下ろされる。

「火だけじゃなくて、……俺が、いるから、だろ?」

パチパチとまばたきをする香。

かぁーと更に火照り上がり、ずばり言い当てられたことが悔しくて、

反論する言葉を懸命に探そうとする。



「……ずいぶん、自惚れた言い方ね。」



拘束されたまま、これが精一杯の抵抗。

「間違いじゃないだろ。」

何に対してかよく分からない心地よい敗北感を覚える。

もうこの最初のキスの一撃で頭はとろんと融かされてしまった。

はぁ…と長めの息を吐き出し、目を閉じながら体の力を抜く。

態度でイエスと言ったようなもの。

言葉の返事を待たずして、

撩は香の腰に巻かれたバスローブの紐に指をかけた。



「え?」



ぴくっと体が反応するも、それよりも早くまた口が塞がれる。

「ふっ…、んんっ。」

毛布の中でほどかれたタオル地の帯。

そのまま、キャミソール越しに手を這わされ、肩と鎖骨を露出させられる。

これまでの流れなら、¨ここでいいか?¨と言いそうなところを、

珍しく同意確認の文言省略でコトが進められている。



撩が、唇から首筋へ顔を移動させ、

右肩に着いたナイフの傷跡に、ねっとりと唇を這わす。



「あっ……。」



思わず首をそむけてしまった香の瞼越しに、

暖炉の炎の温かさが見えた。

薄目を開けると、揺らめく薪の火と熾(お)き火の赤が目に入る。

ガスコンロの火とは違う、

心の最深部にまで熱を与えるような暖炉の火炎。

きっとこれのせいだわ、と

頬に触れる撩の髪の毛に、自分の指をつと通す。



羊と駱駝の毛の温かさに挟まれ、

撩の重さを自分の体で受ける幸福感、

一つの試練を乗り越えた後の、

あの独特な心理がまたくすぶってきた。



またくっと目を閉じ、自分の腕と足を遠慮気味に撩に絡ませる。

今の時間を気にすることさえもどかしい。

このまま撩の愛撫に深く溺れたいと、

香は、完全に身を任せることにした。


*************************************************
第27部(1)へつづく。パス付き記事でございます。






やっと充電できた香ちゃん、
起き抜けなのに、ごめんね〜。
撩ちん、少ぉ〜しだけ暴走?
発情期はヒトにあるかないか、
動物生態学的知見と、ホルモンのバイオリズムから見ると、
厳密に言えば「ある」ですね。
女性の場合は排卵日前後にその傾向ありとか。
うーん、今回はカオリンは若干ずれてるかなぁ?
女の子の日は、あと1週間後の予定なので。
撩を欲してやまない発情カオリンも、けっこう(いやかなり)スキだったりして。
で、きっと撩もそんな香ちゃんを、きちんと受け止めてくれるんだな。うん。

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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