28-01 Upstair Room

第28部 Let’s Head Home (全19回)  

奥多摩湖畔から14日目の夕方から夜    


(1)Upstairs Room **************************************************** 2905文字くらい



広く柔らかいベッドの上で目が覚めた。



見たことのない部屋の中。

まるで小洒落た山小屋のような木目の壁に、

無垢材の家具が見える。

羽毛布団が顔の半分までにかぶさっていたので、

指でそっと縁をずらした。



全く知らない環境に、

また気を失わされて拉致監禁の状態なのかと、

どきんと緊張する。

しかも、何も纏っていないオールヌード。



窓際にはオイルヒーターがあり、

そこから温められた空気のゆらぎが見えた。

そのガラスの奥には濡れた紅葉。

梢の高さから、どうやらここは2階部分かと想像する。



混乱した頭で、何があったかを思い出そうとする香。

それよりもこの空腹感はどうしたものかと、

くぅーと鳴る胃に手を当てる。



「ここ、…どこ?」



上体を起こしながら、自分の左手が右肩に触れた時、

ナイフで作ったカサブタに気付いた。

「あ……っ。」

一気に全てを思い出す。



急に新宿から連れ出されて、抜き打ち訓練があったこと、

ダミー人形を抱えて夜の尾根道を進み、

ビバーグしてやっと今朝方、目的地の山荘に辿り着いたこと。

仮眠して目が覚めたら、撩に抱かれまくったこと。

そこから、全く記憶がない。



もしかしたら、あの暖炉の前のことは夢だったんじゃないかと、

自分の欲で勝手に見た妄想かもしれないと、

どこまで現実なのかを確かめたい思いで、

布団の中の自分の体をチェックする。



「?」



汚れを感じない。

汗だくだったはずの皮膚は、すべすべさらさらで、

色々な体液がまとわりついていた淡い茂みも水気がない。

「や、やっぱり夢だったのぉ?」

ならば、今自分が何故素っ裸なのか、

ますます混乱する香。



布団で胸元を隠しながら、こめかみを押さえていると、

前腕に増えたキスマークを見つける。

「あ…。」

手首には、ちょうど脈をとる部分に赤く残された吸引痕。

やはり夢ではなかったのかと一部を思い出してみるが、

まだ自分の記憶にイマイチ自信がない。



「い、今、……な、何時よ…。」



周囲を見回すも、この部屋には時計がなかった。

外は明るいが夕方の暗さがある。

ぐったりとした倦怠感を覚えながら、

これからどうするかと迷い始める。

服がないとここから出られない。

何か羽織るものはないかと、まわりを見渡すと、

チェストの上に、見慣れた自分の衣類一式が目に入る。

同時に、かちゃりと部屋のドアが開いた。



「わわっ!」



赤の他人が入って来たかと思い、酷く驚いたが、

そこはもはや他人ではないパートナーが立っていた。



「お、起きたか。」



すでに、いつもの赤Tシャツにジャケットを着込んでいる撩。

ゆっくりとベッドに近付いてくる。

ますますもって、状況が分からなくなる。

撩もバスローブ着ていなかったっけ?と

それがいつの話しなのか、それとも現実じゃなかったのかと、

香は、目をパチパチさせてしまう。



「飲めるか?」

「え?」

そう聞かれて、撩の手に2つのマグカップがあることに初めて気付く。

湯気を出しているそれは、

あの時、コーンスープとどっちがいいかと聞かれた際に、

選ばれなかったミネストローネの方。



「ほれ。」

まだきょとんとしている香の前にずいっと出される白い陶器。

中のトマト色が鮮やかに映える。

「あ、あ、ありが、と…。」

かなり喉が乾いていた。

香は、右手で布団を胸元で押さえつつ、左手でカップを受け取る。

正直、これでは空腹は満たされないが、

とにかく何かを胃に入れなければと、

そっと口をつける。

「あつっ…。」

「慌てるなよ。」

撩は、そばにあったアンティーク調のイスに腰を降ろして、

香の姿を視界に入れながら、自分もカップの中身をすする。



「ね…、今、何時?」

「あー?」

撩も部屋を見回すも、ここには時間を知らせる道具がないことを知ると、

視線だけを動かして、窓の外を見る。

「んー、4時過ぎじゃね?」

ぶぶっ!ごほっ!

「お、おまっ、何吹いてんだよ。」

ベッドサイドにあるティッシュをパスパスと抜いて、

涙目になっている香に渡す。

「だっ、だってっ!!!」

と言いながら、口まわりに飛び散った赤いスープを

こしこしと拭き上げる。

自分がここに到着したのは、確か朝の8時台だったはず。

なんでいきなり夕方に飛んでしまうのか、

時系列が全く理解出来ない。

目を激しく瞬かせ、台詞もうまく出てこない驚く様に、

撩は、くすりと笑いながら、イスに深く座り直す。



「あー、香ちゃんが仮眠して目ぇ覚めた時は、昼はとっくに過ぎてたの。」

「え?」

「この部屋に連れてきたのは3時半くらいだったかな?」

「は?」

ということは、ここで横になっていたのは30分ほどかと

鈍った頭で計算をする。

撩は、飲み終わったカップをベッドボードの上にコトリと置いて、

香の顔にくいっと近付く。

「その間に、何をしたか、おまぁちゃんと覚えてるぅ?」

にまっと小悪魔的な表情で香の茶色い目を見つめる。

とたんにボボボっと耳から湯気が出る香。

撩は腰を浮かせて、香の鼻翼にちゅっと唇を付けた。

「わひゃあ!」

「ここにもついてた…。」

吹き散らかされたミネストローネの具材を、

ぺろっと舌先に乗せるとそのままこくりと飲む。

目を丸くする香をよそにこれからの動きを説明する撩。



「着替えはそこにあっから、準備が出来たら出るぞ。」

「え?」

「ここも一応食料はあるが、作んのめんどーだろ。途中で食って帰るぞ。」

「は?」

撩は窓際に近付き、オイルヒーターのスイッチをオフにする。

「飲み終わったら下にこいよ。」

そう言い残して、自分のマグカップを手に取ると、

親指で階下を指しながら部屋を出て行った。

パタンとドアが閉まる音にはっと意識が戻される。

完全に撩のペース。

もう何が何だか分からない。

ちらりと着るべき衣類を見やる。



「あ、あいつ!いつの間に!」



ストッキングから、タイトスカート、冬用の厚手のシャツに、皮のジャケット、

お気に入りの下着の組み合わせ、そして訓練前に脱いだいつもの靴が床にあった。

一体、いつ客間からこのセットを持ち出したのか、

そもそも、最初にシャワーを浴びた時にどうしてこっちがあることを

教えてくれなかったのか、

疑問符が頭の上でいくつも回る。



「あれ?そういえばバスローブとあの下着は?」



脱衣所に準備されていた高級感たっぷりの衣類は、

撩とのいちゃいちゃで、自分たちの体液まみれのはずと、

それを放置してここを離れるワケにはいかないと、

顔を真っ赤にしながら、

大急ぎで撩の持って来たミネストローネを飲み干し、

部屋にそなえつけあったスリッパをつっかけ、

超特急でいつもの服に着替えた。

部屋を飛び出ようとしたものの、

世話になったこの空間に、なにか忘れ物はないかと

振り返り見回す。



ヒーターはさっき撩がスイッチを切った。

使ったティッシュとマグカップは手に持っている。

ゴミや私物はなしと確認し、

鏡台を覗き、指で軽く髪を整え終わると、

香は薄暗い外の紅葉を見ながらカーテンを閉めた。



「い、行かなきゃ。」



ドアを開けた香は、

まわりをきょろきょろと見渡し、

1階に続く階段を見つけて、急いで居間に向かおうとする。

しかし、どうにもこうにも腰回りが重たく感じ、

「ぁぅー…」と情けない声を漏らしながら、

一段一段、段差を降りて行った。


************************************
(2)につづく。






あらー、もう拍手が20以上、先に読んで下さった方、
ごめんなさい!
あとがきもどきがないことに、
20:31に気付きました…。
あわててリアルタイム打ち込みです。
もう最近、日常でもオトシが多くため息です。
第二幕といいますか、8日〜14日目の7日間のラストとなります。
こんなだらだらな長文駄文乱文にお時間を使って頂き
本当に本当にありがとうございます。
いつのまにか、このサイト2回目の秋。
第三幕につきましては、
10月にどこまで手直しができるかで
連載をさせて頂くかを決めたいと思います。
(できるだけ途切れさせたくないんだけどなぁ…)

【お知らせ】
「お問い合わせ専用コーナー その2 」を
10月9日(水)の1818で設置致します。
2013.10.09.00:30

Nさまっ、いつもご指摘ありがとうございます!!!

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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