28-03 Wheat Flour

第28部 Let’s Head Home

奥多摩湖畔から14日目の夕方から夜    


(3)Wheat Flour ***************************************************** 3685文字くらい



「撩…?」



2階から降りて来た香は、

気配があった脱衣所をそっと覗く。

撩は、洗濯機から衣類を取り出し乾燥機へと突っ込んでいる最中だった。



「おう、もう上には忘れもんないか?」

「あ、…うん、大丈夫。」

「んじゃ、キッチン片付けたら出発すんぞ。」

「え?」

香は、まだこの山荘のどこにキッチンがあるかを知らなかったりする。

「この廊下の奥から2番目のドア、先に行ってろ。」

「あ、う、うん、分かった。」

撩が洗濯槽から引っ張り出していたのは、

あの高級な厚手のタオル地で出来たバスローブ。

一体いつ洗濯したのだろうかと、

はてなマークがぽんぽんと浮かぶ。



言われた通り、

奥から2番目の扉の向こうが快適なダイニングキッチンになっていた。

テーブルの上に、コーヒーをいれた痕、

シンクの中には、カップが2つ。

これに自分が持っているマグも合わせて、

まずはこれを片付けなければと、香は腕まくりをし素早く洗い始めた。

布巾を探していたら、撩も合流。

「あ、ちょうどよかった。ねぇ、布巾ってどこにあるの?」

「あー、どこだっけか?その食器棚の引き出しに入ってんじゃね?」

指差された場所は、

いかにもその手のものがしまわれている雰囲気の場所。

「あ、あった。よかった。」

撩は食洗機を開けると、洗浄と乾燥が終わった食器を取り出し、

とりあえずもとの場所に戻す。

「そいつもよこしな。」

香が拭き終わったカップやコーヒーセット類を受け取り、

食器棚にしまい込むと

ぱたんと木枠ガラスの扉を閉めた。



「こ、これでおしまい?」

まるでユースホステルのように、自炊で宿泊するような設備に、

ここで手分けして片付けをする様が、なぜか無性にくすぐったくなり、

顔が赤くなりそうなのを誤摩化すべく、

おしゃべりのネタを探す香。



ふと、視線を泳がせると、

食器棚の脇に小麦粉と書かれた茶色い大きな紙袋がどんと置いてある。

見える数字に思い出したことがあった。

「ね、ねぇ、これって人形と同じ重さって言ってた袋だよね。」

30kgという表示に、

この山荘に到着した直後に聞いた撩の話しが甦る。

「ああ、おまぁ、これ持ち上げられるか?」

にやっとしながら、挑発する。

同じ重さの子供を背負って来たのだ、動かせないワケがないと、

袋の耳を持って持ち上げようとする。

「あれれ?」

最初の力の入れ具合では動かない。

「な、なんで?」

今度は、両手で抱き込んで前屈みになってから浮かせようとするが、

かなりの力を要し、腰に大きな負担がかかる。

20センチほど浮いたところで、どさりと落とした。

「えー?どうしてぇ?」

これでは、横に少しずつ動かすのがやっと。

ましてや、あの人形を背負った時にシンクのワークトップに座らせて

おぶったりしたような、縦移動はとてもじゃないが出来そうにない。



「うそでしょ?同じ重さじゃないわよ。こっちほほうが断然重たいじゃない。」

テーブルに寄りかかって、腕を組みくすくすと笑う撩。

からかわれていると、ちょっとむっとする香。

「うんにゃ、重さは一緒だぜ。」

そういいながら、ガスコンロの下の開き戸を開けて、

腕を差し入れ、元栓のつまみを90度回す。

「うそ…。」

「だから言ったろ、心理実験だって。」

パタンと戸を閉める撩は、香の表情がおかしくて、

くくっと肩を揺らす。

「心理実験?」

きょとんとする香は、撩の言っていることが理解出来ない。

「そ。んじゃ、行くぞ。これだけやっときゃ、あとは管理人のばあさまの仕事だ。」

パチンと照明を消す。

「あん、待ってよ!」

廊下を歩き、暖炉のある部屋に戻ると、随分と気温が下がっていた。

もう火はついていない。

テーブル以外は、最初にここに来たときと同じ様になっている。



「ここも忘れもんないよな。」

声かけに、あたりを見回せば、木目の床の上に広げられた

クリーム色に近い毛色をしたムートンラグが目に入る。

とたんに、自分と撩の姿が残像で見えてしまい、

かぁあと赤くなってプルプルプルと首を振った。

視線をあわてて外すと、

ソファーの上にあの人形が毛布をかぶせられたまま

横たわっている。



「ね、ねえ!あのコは?」

「あ?」

「あの人形、このままにしておくの?」

振り返る撩は、またくすっと笑った。

「あれは、訓練用に注文して作らせたもんだ。

また出番があっかもしんねーけど、それまでは

ここのばあさまが、倉庫か地下に運んでしまっとくだろ。」

冴羽家の備品として置いておくよりも、

このアジトを収蔵先にしたほうがいいだろうと、

あらかじめ教授には申し出てある。



「え?ちょっと待ってよ。おばあさんに運ばせるなんて大変よ。」

「大丈夫だって、怪力ばあちゃんだから。」

「でもっ。」

「急がねーと暗くなるぞ。」

玄関に向かう撩の背中を見ながら、足が動かない香。



「……あたしが運ぶから、ちょっと待って。地下に持って行けばいいの?」

「へ?」

撩が振り返る。

まだ出会ったことのないここの管理人の老人に、

こんな重たいものを持たせるワケにはいかないと、

香は、人形に近付いてキャメルの毛布をそっとはぐった。

一晩共に過ごした幼い子供、偽物とは言え、

実在する心の距離が近い子供たちと姿を重ね見た。

香は、いつも自分がされているお姫様抱っこで、

人形を抱き上げる。

「やっぱりこっちの方が軽いわよ。」

「おいおい、ほっといてもいいっちゅーに。」

間違いなく同じ重さではあるが、どうやらホルモンのイタズラで、

香は、小麦袋より遥かに軽いと脳の中で錯覚している。



「地下?倉庫?」

「しょーがねぇーな。倉庫に持ってくか。」

2人でもう一度、廊下に出ると、

キッチンの隣り、一番奥の扉に案内された。

ギィーと鈍い音をたてて開いた扉の向こうには薄暗く、

パチンと照明が付けられて中の様子があらわになった。



キャンピング用品や、非常食、ストープに、ガソリンなどが目に入る。

壁の一辺には、乾燥を終えた薪がぎっしりと積み上げられていた。

スコップに、釣り竿に、狩猟用のライフルまで納められている

その一角に、長椅子があり、そばにはシーツも畳まれていた。



「あのイスの上でいい?」

「ま、問題ないだろ。」

「よいしょっと。」

静かに人形を横たわらせると、シーツを手にとり、

2、3回折り目を広げてそっとかぶせた。

「これでいっか。」

「んじゃ、行くぞ。」

「名無しちゃん、またね…。」

少し淋しさを臭わせた別れ際の言葉に、

撩もふっと息を吐き出す。

再びパチンという音と共に照明は消え、パタンと扉が閉められた。



「あー、腹減った。高速のどっかで食うか。」

廊下を歩きながら空腹を訴える撩。

「……お昼、食べてないんだよね。」

「メシ抜きで頑張っちゃったしぃ〜。」

頭の後ろに指を組んで歩く撩に、スコンと1トンハンマーが跳ねる。

「って!」

「も、もうっ!が、が、頑張るつ、つ、つもりなんて、な、な、なかったんだからっ!」

全身を赤くして、どしどしと先に暖炉の部屋に向かう香。

再度ラグが目に入り、またまたかぁあと体温が上がる。

一拍遅れて居間に入った撩は、固まっている香の背中を見て、

くくっとおかしくなった。

いたずらを仕掛ける様に、香を後ろから抱き込んでみる。

とたんにビクンと肩が跳ね上がる香。



「どーするぅ?うちもラグ敷いてみっか?」

「は?」



耳の後ろで囁かれる。

「そうすりゃ、床でも合体で」

きるぜ、と最後まで言う前に恥じらい100トンハンマーが振り落とされた。

とりあえずは、床を壊さないように手加減をした香。

柄(つか)を握りしめたまま、腕と肩を振るわせる。

「んと、あんたの頭の中ってそーゆーことしか考えてないのね…。」



潰れた撩をそのままに、

香はわざと足音を立てて照れを隠しながら出入り口に向かった。

玄関の扉をくっと押すと、

雨に濡れた土の匂いが鼻をくすぐり、雫で光る紅葉が目に飛び込んでくる。

うっすらと西の空が夕焼けに染まり、すでに雨雲は遠のいた模様。

昨日と同じく、息が白くなる。



「はぁ…。」



唐突の抜き打ち訓練で、こんなところに連れてこられるなんてと、

雨に洗われた山荘を振り返る。

そこに、腰を押さえながら、よろよろと撩が玄関から出て来た。

キーを取り出し、戸締まりをしている。

「んじゃ行くぞぉ。」

体をギシギシ言わせながら、

クーパーのドアを開けて、どさりと運転席に腰を降ろす撩。

「あ、待って。」

慌てて助手席を開ける香は、ふと動きが止まった。

「……あたし、う、後ろに座ろっかな。」

「ああ?」

さっきから、アノことを思い出させる事案が重なり、

隣りに撩がいることが、どうにもこうにも恥ずかしく、

近過ぎる位置で座ることに若干抵抗が生まれた。

「だ、だって…。」

と言い訳がましい続きを口にしようとしたところで、

ぐいっと手首を引っ張られ、

すとんと左の席に座らされる。



「おまぁの指定席はココ!ほれ早くドア閉めろ。」



目をぱちくりさせる香は、慌ててドアノブを引く。

バンと閉じられる音と同時に、クーパーにエンジンがかかる。



「指定、席、ね…。」



撩がなんともなしに、さらっと言い退けたその言葉が、

まるで、自分の胸の中で、

熱いお湯の入った風船が割れて中身が流れ出たと感じる程に、

深部から指先まで温度が広がった。



— 死なせやしないよ —



そう、言われた時に降って来た感覚と同じだと、

あのシーンがまた甦る。



グオンとタイヤが鳴って、

赤い車は教授のアジトから家路へと出発する。

先の熱を逃がすように右手を胸骨に当て、

はぁと小さく息を吐き出した香は、

夕暮れが迫る中、バックミラーに映る山荘を見ながら、

ふうと深く座り直す。



再び、獣道もどき経由で林道に入り、

ペンション街を直進、2人を乗せたクーパーは、

坂道を下りつつ高速に向かって進んで行った。


************************************
(4)につづく。





カオリン、ここでもプロラクチン分泌です。

本日から3日間、PCから離れます。
まだ出先でネットにつなげられる環境を持っていないので、
諸々の対応は10月15日以降となります。
(それでなくても、返信も激遅で、
 こっちにまともにログインできるのが
 2、3日に1度なのであまり普段と変わらないと思いますが…)

休肝日ではないですが、体をSNSから距離を置いて
見えないもの計れないものを休ませるのも
こーゆー機会がないとなかなかできんかもと…。

こちらの勝手なイメージとしては、
冴羽アパートのネット環境導入は、
1998年前後あたりからを想定しております。
教授のところでみりゃいいじゃん、から
やっぱりそろそろウチでも的な…。
長編が終わったら、この辺も形にしてみたいなぁ〜と。

それではしばし失礼致しますぅ。
(行き先&緊急連絡先等、表ブログを知っている方はそちらをご参照くださいませ〜)


【誤植脱字訂正!】
Nさま、いつも感謝です!
今、直しました!
2013.10.15.23:00

追記
Sさま「煎れる」チェック
変換しました〜!
2014.01.12.22:07

スポンサーサイト
プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


9万hit記念に
とりあえず作ってみた
CH専用Twitter
 


拍手1000パチ記念につけちゃいました。



かなり便利なサーチツール

登録サイト最新情報はこちらをチェック!


試運転中…

カテゴリ
最新記事
月別アーカイブ
検索フォーム
QRコード
QR
現在の閲覧者数: