28-05 Handmade Soba

第28部 Let’s Head Home

奥多摩湖畔から14日目の夕方から夜    


(5)Handmade Soba ********************************************** 2550文字くらい



「はい、お待たせ!まずはこっちね。」



カウンターの奥から出された黒いトレーには

黒い丼が2つ。

「あ、はい、じゃあ先に持って行きますね。」

香は、最初のトレーを受け取って撩の座る席へ運んだ。

距離は近いので、すぐにまた受け渡し口に向かう。

「奥さんのはこっちね。」

湯気が上がるかき揚げ蕎麦が差し出された時、極自然にかけられた言葉に、

ぎょぎょっとしてしまう香。

持ったトレーが振動でぶれた。



「お、お、おくさ…???」

「あんたの旦那さんもいいオトコだねー。

まさかお二人さん、芸能人かモデルかなんかかい?」

勝手に夫婦と完全に決めつけているレジの年配女性に、

真っ赤な香は口パクで声が出ない。



いや、夫婦ではないですと、正直に言おうとしたものの、

今しがた山荘で致してきたコトを思えば、

すぐさま全面否定も出来ず、

かといって¨まだ恋人です¨なんて言える心理状況でもなく、

仕事に関係のないこの女性に、¨パートナーです¨と言っても、

話しが混乱するだけだと、

香は、またシュウシュウと湯気を出しながら、

返す言葉に迷っていた。



「あたしゃ、長いことこの店で色んな人間の顔見て来てっけど、

あんたみたいな美人さんは、そうそう会えないわよ〜。」

「は…、そ、そんな、ことはな」

「ほら、あったかいうちに早く召し上がってちょーだい!」

香の返事を待たずに、3つ目のトレーを差し出しながら、

三角巾をした女性は香の片手に黒い丼が乗ったお盆をバランスよく手渡した。

出汁の香りを纏った湿り気のある湯気が鼻先をくすぐる。

「あ、ありがとうございます。」

「ごゆっくりー。」



再度、ギクシャクとしながら両手にトレーを持ってそばのテーブルに向かう。

「りょ、撩のはこっちね…。」

3種類のそばを頼んだ相方の前に2つのトレーと3つの丼が並ぶ。

撩は、先のやりとりをちゃっかり耳にしながら、

香の挙動不審をくくっと肩で笑った。

そんな撩の反応に気付くことなく、

自分の席に天ぷらそばを置くと、香は水のセルフコーナーを探す。

「あ、あたし、お水、取ってくる。撩、先に食べてていいよ。」

「あー、腹減った。いったらっきまーす。」

撩がパシっと割り箸を割る音を耳にしつつ、

顔をまた真っ赤にして席を離れる香は、

冷水器からグラス2つに冷たい水を注いだ。



「はぁ…。」



早く体温を下げたい。

外は、もう息が白くなる気温の季節と時間なのに、

どうにもこうにも体が火照り上がって仕様がない。

一体、これから撩との関係を問われた時、何と言えばいいのか。

香の中では¨パートナー¨としての立場が、第一中核だ。

しかし、関係が変わってから、仕事で接触する人、身近な人、

滅多に再会する機会がない人と、どう説明すべきなのか、

迷う事案が一つ増えてしまう。

香は、うーんと眉に浅くシワを寄せながら、水を持って席に戻った。

撩の前に、グラスをコトリと置いて、

すごごごごっと蕎麦をすする相方をちらりと見やる。




— さすが俺のパートナー —



4、5時間前に、濃密な時間を過ごした中で、

撩がそう言っていたことを思い出した。

またぶわっと顔が赤くなる。

あわてて持って来た水を勢い良くごくごくと飲む香。

「な、なんら?」

口から蕎麦を出したまま、撩がきょとんと香を見る。

「あっ、う、ううん、な、なんでもないの!い、いっただきますっ!」

撩はすでに2杯をカラにし、3つ目の丼に箸をつけた。

香は、あたふたしながら、

まずれんげで出汁つゆを掬ってつと一口すすった。

「あ、おいし。」

正直、味は期待していなかったが、いい方向に裏切られる。

なかなかの美味しさに、蕎麦を箸でずずとすすり上げた。

程よい腰に歯ごたえに、鼻に抜けた蕎麦の香りで早々に満足感を得る。

二口、三口進めると、

せっかく水で冷めた体温がまたじんわりと高まってきた。



「うん、美味しいわ、このお蕎麦。体があったまるわぁー。」

これなら、撩が近過ぎて反応してしまう妙な照れで赤くなっていても、

温蕎麦で火照っていると誤摩化せるかもと、

わざと、食事の温かさを強調してみる。

とりあえず、やっとまともな食事にありついた。

いずれにしても、

昨日の昼からの食事では、明らかにビタミンが足りないと、

香は、今日の夜食になるべきメニューの計画を立てながら、

かき揚げをはぐっと味わう。



「ふーっ、ごっそさん!」

「!!!っ、も、もう食べ終わったの?」

目の前にあった3つの丼は汁までなくなっていた。

「買いもんする店はどこに寄っかな。」

足を組んで、再び頬杖をつく撩。

「え?いつものスーパーでいいんじゃないの?」

蕎麦を食べながら、

なんで場所を選ばなきゃならないの?ときょとんとする香を

ちろっと見やる撩。

「おまぁ、知っている連中に会ったら、どうなるか知ってんだろ?」

「あ!」

ぽとっと割り箸が手から落ちる。

「いや、別にいいんだぜ?いつものところで。

おまぁが、野次馬根性むき出しの連中から

根掘り葉掘り聞かれて、問題なければ、だがな。」

頬杖のまま目を閉じ実に涼しい表情で淡々と説明されてしまった。



「……う。」



香は、すっかり忘れていた。

あれから2週間、撩と香のこれまでの事情を知っている

新宿界隈のお仲間たちの間に、

ウワサだけが、尾ひれ腹びれどころか、

尻びれ、背びれ、胸びれに、さらには

脂鰭まで付けられて広がっている中、

彼らが、とにかく何かを知りたくてうずうずしていることを。



「う〜、…で、でも途中で高速降りてスーパーとか探すの面倒かも…。」

香は丼の中に落とした箸を拾い上げて、

また左手を器の側面に添えると、つるるると蕎麦をすすってみる。

正直、慣れない店での買い物はあまりしたくない。

モノの売り場が違うと探すだけで時間のロスだ。



「さっと買って、さっと戻れば、だ、大丈夫じゃない、かな?」

そう提案しながら、

かき揚げにとどめをさして、れんげで汁をすすっと口に運ぶ。

「あー?おまぁ、それでいいのか?」

「んー、買い物メモあれば、そんなに時間かかんないと思うし…。」

「んじゃ、いつもんところに行くか。」

「うん。」



これからどう動くか、ある程度方向性が決まる。

馴染みのスーパーの閉店は夜8時。

その前にすべりこめればいい。

最後の二口、三口の蕎麦を味わい、

香も食事に一区切りつけることにした。


*******************************************
(6)につづく。





うーん、どうもこの2週間、
日中の食事が麺類に偏っとるがな。
そばの花、今年ちゃんと撮影できないまま収穫時期になってしまいました。
乾燥蕎麦のパッケージコレクションをしたりしてますが、
奥深い食材だな〜とつくづく思います。

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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