28-06 Unconscious

第28部 Let’s Head Home

奥多摩湖畔から14日目の夕方から夜


(6)Unconscious ****************************************************** 1658文字くらい



「はーっ、美味しかった。」

「んじゃ、さっさと出るぞ。」

「うん。」



食べ終わった食器をコンパクトに重ねてトレーで運び、

返却口に戻す香。

「おばちゃん、ごちそうさま!」

「毎度!」

「撩、ごめん、先に車行ってて。あたしトイレ寄ってから出るわ。」

「あいよ。」



香との距離が出てきたところで、

レジの女性が身を乗り出して撩に声かけする。

「あんたもいいオトコだけど、奥さんもべっぴんさんだねぇー。

あたしゃ、仕事忘れて眺めちゃったわ。」

100%夫婦だと思っている年配のおばちゃん。

撩は、ポケットに手を突っ込んで、香の背中を視界の端で追う。



「……だろ?」



肯定の言葉を短く返す。

離れ際に追加のつぶやきがレジに届いた。

「当の本人は、まぁーったく自覚ねぇけどな…。」

「あれま。」

「ごっそさん。」

「毎度ぉー。」

撩は、片手を軽くぴっと動かして、そのまま店外へ。



「自覚のなさはなぁ…、

ボクちゃんにも責任あんのは、分かってんだけどさぁ…。」



はぁ、と複雑なため息を吐きながらクーパーに向かう。

駐車場には、まばらに停車している他県ナンバー。

まだ路面は湿ったまま。

わずかに残る水たまりがぱしゃっと跳ねて、

撩の踵(かかと)に小さな飛沫が舞う。

もうライトなしでは走れないほどにあたりは暗くなっている。

撩は、どさっと運転席に座ると、

すぐにエンジンをかけた。

グォンという音と共に、丸いライトがパッと前方を照らす。



「奥さん…、ねぇ…。」



左手をハンドルにかけ、右肘を窓枠にひっかける。

こめかみに、軽く丸めた指を当て、

鼻から細く息を吐いた。



「この前も、どっかで言われたな…。」



1週間程前、

買い物待ちの時に、レジのそばのベンチで、

見ず知らずの男に声をかけられたことを思い出した。

世間では、

もう香も結婚しても全くおかしくない年齢であることを

さきのやり取りで思い知らされる。

表の世界にいれば、

もう入園前の子どもくらいいてもおかしくない年頃。

先のレジの女性の声かけに、否定をしなかった己を振り返り、

目を閉じ、ふっと薄く笑みを浮かべる。



— だろ? —



あのセリフを香がそばで聞いていたら

どんな表情をしただろうかと、

真っ赤に茹で上がって耳から蒸気を吹き出す香がポンと浮かぶ。

その姿に重なって、

ライトの向こうから本人が戻ってきた。

照らされる八頭身が文字通り眩しい。



「ごめんっ、お待たせ!」



なぜかまた謝りながら、助手席に乗り込もうとする香。

半身を車内に滑り込ませたところで、はっと目が開く。

「あ!」

「んあ?」

「ね、ねえ、撩、あたしの服は?」

香が指しているのは、

登坂時に来ていた汚れの付着している衣類一式。

後部座席にあるかと思いきや何もない。

「あー、後ろのトンランクに入ってっけど。」

「ちょっと開けてくれる?」

「あいよ。」



再び車外に出た香は、

クーパーの後ろに回って、バクッとリアハッチを開けた。

暗くてよく見えないが、自分が山荘で畳んだままの状態で、

使った衣類が積み重ねられていた。

その脇にはトレッキングシューズに、ウエストバッグもある。

一体、いつの間に運び込んだんだかと、訝しがりながらも、

目的のモノを探す香。



「あ、あった!」



昨日の午前中に

自宅でメモ書きをしてジーンズのポケットに詰め込んだ

買い物メモ。

紙がわずかに汗で少ししっとりしているのを指先で感じた。

バクンとトランクを閉めると、小走りで車内に戻る。



「おまたせ!これがあれば買い物は早く済むわ!」

シートに座りながら、ピッと小さなメモ紙を撩に見せる香。

口で軽く挟んで、シートベルトをカチャンと閉める。

見つけたいもの発見できたことと、

買い物がいつもの場所でスムーズに出来そうなことに、

香の表情はより明るくなる。

口元からすっと紙切れを取ると、

タイトスカートのポケットにくっと差し入れた。



「そいつに肉追加な。」

「あと、果物とお野菜もね。」



グォンとエンジンがふかされ、

ぐいっと動いた赤い車は、駐車レーンを抜けて、

上りのパーキングから本線に入って行った。


******************************
(6)につづく。





ほんと、90年代前半あたりは、
25才までに結婚という世相が背景だった時代、
カオリンの26才という年齢は、
見えないところで、
言葉にできない適正年齢に対する圧迫があったかもと。
平成の世が四半世紀を過ぎた昨今、
私の友人知人も40オーバー結婚出産が
珍しくないお話しになりました。
個人的には、
変化する社会背景の中、多様な人生の選択肢を
穏やかに見つめ受け止めたいと思っています。


奥さん待ちですか?と撩に声をかけたスーパーの男は
11-06で登場。

買い物メモは、25-04に出てきます。
何度忘れて買い出しに出たことか…。

長編だと何かと過去のお話しが引っ張りだされるんで、
拾えるところは、
できるだけ参考情報をつけておきますね。

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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