03-05 Lunch Time

第3部 Turning Point

奥多摩の翌日


(5)Lunch Time ******************************************************************3186文字くらい




洗面所からキッチンに入った撩は、冷蔵庫の中身をチェックした。

炊飯器の中には夕べ炊いた飯が残っている。

たぶん、朝食の分も兼ねて多めに用意していたのだろう。

量は十分にある。

ただ、朝までの保温だったら、そのまま使えるが、

昼までの長時間保温だと、どうしても古い炊き上がりの匂いが残る。

そこで、撩はチキンライスでトマトケチャップを使い、古い香りをごまかす調理法を選んだ。



無駄に器用な撩は、

以前海辺のオーディション会場や、竜神会会長の娘のボディーガードをした時、

そしてかつてのお隣さんであるダンサーの次原舞子宅での出張朝食などで、

本意不本意含め『まかない婦』として、料理の腕を発揮したこともある。

ただ、日頃は香の手料理が食べたいので、あえて食事を全面的に任せていたりする。

「たまには、香ちゃんのために腕をふるいますか。」

独り言と共に無意識に顔を緩ませ、ご機嫌モードで調理を始めた。



途中、壁一枚隔てた右手側の浴室から、水音と物音を拾って、香の気配を確認できていたが、

さすがに、水音に紛れて声までは聞き取れない。

故に、さっきの香の独り言は、知る由もない。

撩は、つい入浴中の香とベッドで見た香の姿を重ねて想像し、スケベ顔に緩んでしまう。

(ぐふっ、香があんなにいい体だったとは、っんと想像以上だったなぁ♡。)

そう思ったとたんに、反応のいい相棒がポンッと元気になる。

「あ、こらっ!ばかっ!大人しくしろってっ!」

撩は、頭をブルブルと振って、隣の気配をなるべく気にしないようにしながら、

食材に集中しなおした。



冷凍庫から取り出した鶏モモは固く凍っていたが、撩の力で簡単に、細かく裁断される。

「んー、頑張って磨いではいるが、もう一歩だな。あとで包丁も手入れしてやるか。」

と、砥石の場所を確認した。

ナイフなどの刃物にも小さい頃から扱い慣れてきた撩にとって、

切れ味は納得のいくものを使うのがセオリー。

包丁とて、撩の手にかかれば新品同様に様変わりする。



まずは、食材を切るのが先だと、冷凍インゲン、タマネギ、ニンニクを素早くみじん切りにし、

缶詰類の中から、とうもろこし缶を選んで、水切りをする。

レンジで残りご飯を温めている間に、中華鍋に、オリーブオイルを入れ、

熱したところで、具材を炒める。

軽く塩とコショウで味付けをして、

火が通ったら、これでもかっと言う程トマトケチャップを投入。

水分の蒸発で甘みが増す。

そこに、温まった飯を踊らせ馴染ませれば、ほぼ完成。

ついでに、レタスを素早くちぎって、キュウリとトマトをスライスすれば、

付け合わせのサラダも出来る。

テーブルの上にある、パセリの鉢植えから何房か摘んで、

みじん切りに、と包丁を手にとったら、キッチンのドアから気配を感じた。



「……りょ…。」

戸の陰からひょこっと顔、というか目から上だけを出している香。

撩は背中を向けたまま、振り返る。

「あぁ、もうちょいで出来るから。上に運ぼうかと思ったけど、ここで食うか?」

「……すごくいい香りがする。」

香は、歩きにくそうなところをあまり撩に見られたくなくて、

撩がまな板に向き合ったところで、キッチンにゆっくり入り、

ダイニングテーブルに持っていたボトルを置いて軽く片手をついた。



「ここで一緒に食べるか?」

後ろ向きのまま再度問うてきた撩に、香は慌てて答えた。

「あ、うん。そ、そうだ、あたし、スープ用意するわ。」

香は、普通を装いながら冷蔵庫の前に移動し、

メニューを読んで、冷凍してあった具入りのコンソメスープを取り出した。

製氷皿に小分けで保存しているので、必要な分だけ取り出して、

スープ皿に入れてレンジで温めるだけ。

「おまぁ、無理すんなって言ったろ。」

パセリをみじん切りしながら、撩が言う。

「平気よ。それにしても、撩が食事作ってくれるなんて、

大雨洪水警報でも出るんじゃないかしら?」

「んだよ、それ。」

撩は、盛りつけたチキンライスにパセリを散らしながら、

ぶすっとした表情で答えた。

「だって、やっぱり、今までにこんなこと滅多になかったもん。」

昨日からの、この撩の変化には、やはり慣れない。

「いいんでない?たまにはな。」

変化に適応するのに、お互いまだ時間がかかりそうだと、撩は苦笑した。



電子レンジが温め終了の電子音を発する。

「あぁ、俺が出すから、おまぁ、座ってろ。」

向き合った香の姿に一瞬動きが止まる撩。

「…それ、初めて見る服だよな。」

冷蔵庫からドレッシングを取り出そうとする香は、

すぐにそれに気付いた撩の観察力に、照れと驚きで赤面する。

(あ、あたしの服なんて、無関心だと思っていたのに…。)



「……あ、前にね、絵梨子がくれたの。」

「ふーん。」

両手に主菜の皿を持って、口角をわずかに上げた撩は、テーブルに配膳しながら、

優しい視線を香に送った。

「似合ってるぜ。さすが絵梨子さんだ。おまぁの良さを十分引き出してる。」

「?!?!?!」



てっきり、馬子にも衣装だとか、服が気の毒だとか、

他のモデルにあげるもんだったんじゃねぇの?とか、

憎まれ口が発せられるかと思っていた香はカァーっと赤くなり、

手作りドレッシングの瓶を握りしめたまま、冷蔵庫の前でフリーズしてしまった。



撩は、つい出た言葉に、ちとダイレクトに言い過ぎたかと、

その反応が愛らしくて、くすりと笑う。

こんな些細な褒め言葉でも、今まで言ってやれず、

憎まれ口ばかりで、どんなに香の心を抉ってきたことか。

(あまり、こーゆーことを言うのもガラじゃないが、たまにはな…。)



「さ、早く座れって。立ってるのが辛いだろ。」

両肩に後ろから撩の大きな手がかぶり、

そのまま浴室側の長椅子に誘導され座らせられる。

(あ、辛いのバレてる…。)

レンジからスープ皿を取り出し、これにも刻みパセリを散らしながら、

撩は、ちゃっちゃかと配膳を整える。

「ほい、食うか。」

短時間で、チキンライスとコンソメスープとサラダが仕上がる。

撩は、自分の大盛りにざくざくスプーンを入れ、みるみるウチにカサが減っていく。



赤くなっていた香は、料理の芳香にハッと気付いて、

目の前の食事に視線を落とした。

「本当にいい香り、いただきまーす!」

空腹だった香は、嬉しそうに最初の一口を運ぶ。

「おいしっ!」

撩の手が止まる。

突然の既視感、いわゆる『デジャヴ』が甦る。



あれは立木さゆりが香とキッチンで料理をしている時に見た、

香の笑顔、それと重なった。

彼女と一緒にただ話しているだけで、

あんなにも楽しそうで幸せそうで眩しい笑顔になった香を見て、

自分は、香を怒らせ、悲しませ、泣かせ、不安がらせ、

その表情を歪ませてばかりだと、

自分と一緒では、香は笑顔になれないと、

姉と会話する幸せそうな香の微笑みに、彼女が自分の元から去ることを半ば覚悟した。

しかし、香は実の姉との生活よりも、撩との生活を選んだ。



今、目の前に、幸せそうな笑顔の香がいる。

撩は、ふっと、短い思索から意識を今に戻した。



この笑顔を守りたい。



らしくもなく、こんなことをまじめに考えてしまった自分も悪くはないな、

と香を見つめる。

撩の視線に気付いた香は、ちょっと照れながら、目を合わせた。

「すっごく美味しいよ。」

撩は、上目遣いで、首をかしげたままスプーンをくわえる香が自分を見ているのに気付く。

(まぁーたコイツは無意識でそんなツボなことをするぅ。)

「そりゃそうだろ、隠し味に毒キノコ入れといたからな。」

「はぁ?」

自分も照れて余裕がないのを隠すために、ごまかしの返事をしといた。

それを分かってのことなのか、香は一度クスッと笑った。

(お腹すいていたのもあるけど、……撩が作ってくれたっていうのが

ものすごく嬉しくて、美味しさがアップしてるみたい。

これって相乗効果って言うのかな。)

こんなこと、直接言ったら、まるでバカップルだわと、思いながら、

香は嬉しそうに食事を進めた。


*******************************
(6)につづく。






奥多摩から2回目の食事シーンでございます。
撩ちゃん、ちょいとだけ素直バージョンです。
節約志向の強い香ちゃんだたら、
炊飯器の保温を翌朝までオンにしっぱなしというのも、
あまりないかもしれないかーと思いながら、
疲れていたらから、切るの忘れてたってことで。
メモ:レンジで温め直すほうが圧倒的に電気代がかからないらしい。



【訂正!】
またやっちまいましたぁ〜。
「孫にも衣装」→「馬子にも衣装」の誤字訂正させて頂きましたっ!
こーゆーオトシ、私生活でも売る程あるので、
情けない限りでございますぅ〜。
ご指摘感謝です!


【御礼】
ひぇ〜、いつのまにやら7000hit!
ご訪問、本当にありがとうございますぅ!

2012.06.04.22:50

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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