28-07 Meeting For Reviewing

第28部 Let’s Head Home

奥多摩湖畔から14日目の夕方から夜    


(7)Meeting For Reviewing *************************************** 2950文字くらい



「腹も落ち着いたこったし、反省会でもすっか。」

「へ?」



買い物メモを無事手に入れ、頭の中はいつものスーパーで、

いかに素早く買い物を済ませるか、

店内の歩くコースを考えあぐねていた香。

反省会という言葉が、

主婦モードだった頭には何のことだか

一瞬分からなかった。



「あっ…。」



訓練の振り返りをここでするんだと、

状況を飲み込んだら、

間髪入れず撩の質問が降ってきた。




「おまぁ、何に気を取られてたんだ?」

「え?」

「最初のトラップは、かなり分かりやすい仕掛けだったはずだがな…。」

撩は、正面を見据えたまま、静かに問う。

最初のトラップ、

それは香がメッシュに包まれて宙づりになったあの罠のこと。



「あ…。」

「何かあったんだろ?」

「えーと…。」

「しっかりマーキングされてんだから、誤摩化しはなしだぜ。」

にやっと香をチラ見する。

「ご、誤摩化すつもりなんてないわよっ!」

むっとした口調で返す香。

あの黒のフリースに付着した蛍光ピンクの塗料は、

トラップに引っかかったサインであることは、香も承知していた。



「うーんと、何に驚いたんだっけ?」

「あ?」

あまりにも色々あり過ぎて訓練開始初期の記憶がうまく引き出せない。

「えーと、……ぁ、…あ!そうよ!」

香は、左手の平を右手のコブシでポンと叩いた。

「キツツキ!」

「は?」

「ハトくらいの大きさのキツツキがね、あたしの目の前で木を突いていたのよ。」

「はぁ?」

これくらいと、手でその大きさを表現する香。

暗い車内は、対向車のライトで時折照らされる。

相変わらず、片手はハンドルで、肩肘は窓枠にかけている撩は、

視線だけ香のほうに向けた。



「もうビックリしたんだからっ!」

香は、やや興奮気味でその時の状況を語り始める。

「すっごい音がしたのよ。聞いたこともない大きな音だったから、

何なの?って上を見上げたらキツツキが木に穴を開けようとしてたのよ。」

はぁ…と、やや上向きで息を吐き出す。

「あたし、初めて見ちゃった。キツツキなんて本物見たことなかったから、

ホントに縦に止まっているの見て驚いちゃった。」

「ふーん。」

「……それで、なのよね…。」



急にテンションを下げ、少し視線を落としてしょんぼりする。

「上ばかり見てて、下を見てなかったってか?」

「う…、そ、そうなの…。」

「なるほどね。」

「あの道、ものすごく注意しながら歩いていたのに…。」

悔しそうに俯く。

撩は、香がトラップに気付けなかった原因を確認出来て得心した。

しかし、それでも、1つでも罠にかかったら、

実戦ではアウト。

小さな油断が生死を分ける。



「本番だったら、おまぁは今頃…。」



とまで言って、先を言葉に出せなかった。

拉致監禁ならまだしも、即銃殺だってありうる業界。

今回は、たまたま網袋をナイフできることのできる簡易な仕上げにしていたが、

本戦ではまず脱出を許す素材は使わない。

金網か、極太ロープか、鎖か、

もともとは狩猟用に磨かれた技術は、ゲリラ戦のブビートラップとなり、

対人用として残酷に開発されている。



「ご、ごめんなさい。不注意でした…。」



しゅんとしている香に、

本当はそれでもよくやったと言ってやりたいが、

いくら野鳥に驚いたからといって、

それがトラップにひっかかってしまった理由としては

やはり簡単には、まぁいいとは言えない撩。

先の途切れた自分の文言の続きを香に連想させることにした。



「……本番だったら、今頃どうなってたか、自分で想像してみろ。」



拉致や監禁を体験した数は、

ぱっと思い浮かべるだけでも、片手は埋まる。

これまでは幸運だっただけで、いつ命を奪われてもおかしくなかった。

その前に、撩が助けてくれたからだ。



絵梨子の水着ショーの時も、

ラトアニアの大統領を襲ったテロリストに攫われた時も、

さゆりと一緒に組事務所に押し込まれた時も、

セスナに連れ込まれた時も、

北尾刑事と倉庫に監禁された時も、

山荘に拉致された時も、

ホテルのベッドの上で縛られていた時も、

クロイツ戦の時も、

もう一歩、事が進む前に撩の手で阻止されていた。



もし、撩の力の及ばないところで、

同じことが起ったら、どうなるのか。

香はごくりと生唾を飲む。




目を閉じ、背筋を伸ばして、膝の上に指を絡めた両手を置いた。

深呼吸をして、自分が理解していることを言葉にすることに。




「……たぶん、楽な殺されかたは選ばれない、と思う。」



ぴくっと撩の眉がわずかに動いた。

「……相手が、シティーハンターのパートナーとして、あたしを狙ったら、

……きっと」

言葉が詰まる。

目の裏に、縛られたまま、手足を撃ち抜かれる自分の姿が像を結ぶ。

ぐっと指に力が入る。



「……急所を、……外されて、撃たれるか刺されるか、だね。」



苦痛を与えることを目的に、簡単には死なせない。

撩を倒し最大限のダメージを与えることが目的ならば、

相手に倫理や道理が通じる訳もなく、

可能な限りの陵辱を受けることは、容易に想像できる。



「それは、まだマシなほうかもな…。」



撩のぼそりとつぶやいた一言にギクリとする。

21才の時、

アスレチックの地下で3人の男に襲われそうになったことを

瞬時に思い出した。

あの時も、ギリギリだった。

もし、麻酔薬から目覚めるのが少しでも遅かったら、

もし、撩の登場がわずかでも時間がずれていたら、

とりかえしのつかないことになっていたに違いない。



あの台の上で、

乱暴をされる自分の姿までが明瞭に浮かんだ。

これまでは、クリアに想像できなかったことが、

新たな体験を経て、

レイプというものが生々しく連想できてしまい、

ぞくっと腕に鳥肌が立つ。



撩以外の男に、強制的にモノを突っ込まれてしまう、

それも複数の相手であったら、どんな生き地獄よと、

思わず自分で自分の腕を抱きしめ、

奥歯に力が入ってしまった。



それでも、安易に自分から死を選ぶワケにはいかない。

香は、撩の言わんとすることを掬いとり、

ふーと長い息を吐き出した。



「撩…。」

「んー?」

「……前にも、言ったでしょ?」

「………。」

無言のまま正面を見据える撩の横顔に向かって

ゆっくりと視線を上げる香。

まっすぐ運転席を見つめた。



「どんな目にあっても、生き抜くから…。」



香が言っている¨前¨というのは、

アパートの吹き抜けで受けた護身術訓練の時の台詞。

生きることを最優先にしろと、

見つめ合いながら約束した。




「…………。」




撩はまだ黙ったまま、アクセルを踏み続ける。

表情を変えないままに、夜の高速を南南西へと進んで行く。

この沈黙に、香は勘違いをし始めた。



撩が、怒っている。



最初のトラップに引っかかってしまったことを大きな失態として、

パートナーとしてあまりにも不十分過ぎると、

きっと呆れていると、

香はぐっと指を握りしめ、目を閉じた。



突然、

クーパーが電話ボックスのある待避所に滑り込んで停車する。

大きなブレーキ音と重なって思わず声が出てしまった。

「きゃああっ!」

閉じていた目が開き、

慣性の法則で身体が大きく前方に振られてしまう。

「なっ、何!一体!」

周辺は電話ボックスの明かりがぽつんと灯り、

背の高い街灯が間隔を広く開けて道沿いに並んでいる。



「撩?」



困惑する香。

二人の乗った車の脇を、何台かの乗用車やトラックが通過し、

そのヘッドライトで、

後ろから車内が緩く照らされた。



********************************************
(8)につづく。





改めて見返すと、
アスレチッククラブで眠らされたカオリンは、
ほんと貞操の危機でしたね〜。
そんな中でも果敢に対抗抵抗した姿にチクチクです。
撩が来てくれて、んとよかったよ…。

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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