28-09 Presents

第28部 Let’s Head Home

奥多摩湖畔から14日目の夕方から夜 


(9)Presents ********************************************************* 2223文字くらい



エンジン音だけが響く車内。

撩の左腕に寄りかかったまま、香は目的地に到着するまでに、

先の反省会のちゃんとをすべきではと、

うっすらと昨日のことを振り返り始めた。



「…ねぇ、撩?」

「ん?」

「あ、あのさ、……本当に、時間内だったの?」

「へ?」

「あ、あたしが上に着いた時間よ。

もっと早くゴールしなきゃならなかったんじゃないの?」

ダッシュボードのメーターを見つめながら、

香は申し訳なさそうな口調で話し始めた。



撩は、反省会の続きかと、ふっと鼻から息を出して

左肩のぬくもりにちらりと視線を流す。

「うんにゃ、だいたい想定内だぜ。」

「だいたい?」

「最初のトラップにかかっちまったことと、怪我3ヶ所は計算外。」

「あ…。」

「それがマイナス20ポイント分な。」



撩は、いつものカジュアルシューズに履き替えている香の足元をちらっと見やって、

ストッキングの下に

うっすらと隠されている踝(くるぶし)の靴擦れの位置に視線を落とす。

暗がりの車内、そこははっきりとは見えない。

すぐにフロントガラスの奥に視野を変え、ふんと一息呼気を出す。



「まぁ、靴擦れは仕方ない、よな…。」

「あ、あたりまえじゃない!」

抗議の口調になる香。

「あんな登山靴、初めて履いたんだもん!

だいたい普通は靴って慣れさせる時間が必要でしょ?

なのに、いきなりアレを履けって、皮剥けても当然だわよ!」

撩の横顔を見ながら、ぷんぷんと可愛く怒る様がまた愛おしく

撩も素直に謝ることに。



「あー、悪かったよ。だが、今履いている靴じゃあの坂は歩けなかっただろ?」

と、言われて自分の足元を見直してみる。

確かに、靴底は薄く、

傾斜のあるダートの上ではグリップが効かないアウトソール。

「う…、そうかも…。」

しかし、用意されたレディース向けのトレッキングシューズは、ミディアムカットで、

どうしても踝との摩擦が発生してしまう。

「厚手の靴下があればよかったかも…。」

「あ…。」

撩が素で、はっという表情になる。

「わ、わりぃ、そこまで考えてなかった。」

「は?」



自分の準備不備のせいだったかと、

このミスで香の肌に傷を付けてしまった己を小さく恨む。

「あんた、どーゆーイメージで今回の道具準備したのよ?って、

あれってまたどっかに返さなきゃなんないの?」

「いんや、そのまんまお前が使ってもオッケー。

ただし、あの塗料は落ちねぇーから、捨てだな。」

「えー!洗ってもダメなのー?」

「そ。」

黒のフリースは、洗濯して、

破れた箇所を縫い直せば再利用可能かもと期待していた事案が

がらがらと崩される。

残っている衣類は、汗をたっぷり含んでいるダウンのベスト。

「じゃ、じゃあ、あの黄色と黒のベスト、もらっちゃっていいの?」

「気に入らねぇーか?靴もセットだぜ。」

返ってきた言葉にドキンとする。

思わず、撩のほうを見てしまった。

前方を見据えたままの横顔に、香の細い眉が切なくハの字になる。

言葉が詰まった。

じわっと胸が熱くなり、

視界を変えるべく撩の左肩に頬を埋めた。



「ぅうん…、そんなワケ、ないじゃない。」



喉が詰まってうまく声が出ない。

たぶん、

今気を緩めたら泣いてしまうかもしれない。



ずっと以前、撩からこれを来て現場に行けと、

水着を渡されたことがあった。

濃いファッションピンクのビキニパレオ付き。

銃を隠すためとはいえ、

かなりイヤイヤながらであのプールに向かったことを思い出す。

ことが終わって、帰宅後に洗濯して干していたら、

撩にさっさと回収されてしまった。

¨なんだ、もらえるかと思ってたぜ¨と

小さくぼやいていたのは、

丁度アパートで暮らし初めてまだ数ヶ月もたっていない頃だった。



くすっと、男言葉を使っていた頃が過ったのは、

このやりとりで、

ダウンジャケットとトレッキングシューズが

初めて撩からもらった被服となったからだ。

「……誕生日でも、クリスマスでもないんだけど…。」

「はぁ?」

「……なんか、すごい嬉しい。」

俯き加減のくせ毛がさわっと揺れる。



撩は、たったこれだけのことで、その台詞をこぼす香に、

これまで、何もしてやれなかったことを思い出し、

ちくちくと過去が心の隅に過って行く。

¨誕生日とかクリスマスには、別のもんを贈ってやる¨と言いたくなる台詞を

喉仏のところで寸止めした。

何を贈るつもりなんだ?と、

方向性がまったく決まっていないだろ?と、

ぎりぎり脳が訴える。



「ただの備品だぜ?」

代わりに出てきたのはこの言葉。

「ううん、…なんかプロの登山家とかが使いそうな高そうなヤツじゃない。」

「あー、値段は知らねぇーな。」

「え?」

「エレクトラのママにメモだけ渡して準備してもらったんだよ。

一品一品いくらかっつーのは俺も知らねぇ。」

「ちょ、ちょっと!これってこれから請求されんの???」

寄りかかっていた肩から、がばっと顔を上げる香。

「いんや、もう支払済み。」

「……ちょっと、…あのバッグに入っていたもの、一括だったりする?」

「そ。」

急に経理担当として支出の心配をし始める。

「……一体、全部でいくらかかったのよ?」

「忘れた。」

ジト目になる香。

「……あんた、値段も確認しないで買い物したってこと?」

「あー、心配するなって。おまぁが管理している金からは使ってねぇーから。」

「は?」

「あ…。」

撩の口から、なにか重要な情報がこぼされたことに、

香は、きょとんとしたまま

一拍かかってようやく気付いた。


*****************************************
(9)につづく。






香の時間切れじゃなかったの質問は、
ファルコンの、あの時本当に弾切れだったのか質問と
同じような空気ってことで。
きっとヤツは弾切れではなかったと思う…。

香のビキニパレオは、完全版2巻第14話に掲載!
そう言えばあの時、カオリンのモモをヤツがなでなでしておった!

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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