28-15 No Massacre

第28部 Let’s Head Home

奥多摩湖畔から14日目の夕方から夜    


(15) No Massacre ************************************************** 2569文字くらい



「あーっ、くったくった。」



げふっとげっぷを吐き出しながら、腹部をさする撩。

白米と味噌汁の組み合わせは、昨日の朝以来。

牛肉も久しぶりとあって、満足感たっぷりの食事を終える。



撩に食後のコーヒーを出した香は、

食器を下げながら、次の動きに移ることに。



「あたし、洗濯機まわしてくる。」     

「はいよ。」

カップをずずっとすすりながら、一応答えとく撩。

視界の端で、パタンと扉が閉まるのを見留めると、

ふぅーと細く長い息がコーヒーで濡れた唇から漏れた。

左手で頬杖をついて、

右手でカップの縁を上からクレーンで摘むように

ゆらゆらと液体を揺らす。

目は指の隙間から見える黒い液体を捉えつつ、

耳ではしっかり隣りの空間で感じられる香の気配を追っている。



客間から洗い物を脱衣所に運び、ポケットの中身をチェックしながら、

洗濯槽に詰め込まれる衣類と香の姿が

瞼の裏で明瞭に動く。



「……はぁ。」



薄く吐き出される溜め息。

「見回りは明日にすっか…。」

奥多摩以降、

激減している夜遊びをカモフラージュにしたパトロールは、

今晩も先送りすることに。



—  どんな目にあっても、生き抜くから…  —



まだ色濃く残りエコーするあの台詞。

同時に別のシーンも被ってくる。

香が本気で死を覚悟したあの時の表情、

自分のためなら死は怖くないと、

偽りのない強い視線で終焉を受け入れる意志を飛ばしてきた。




「ったく、んとイザとなったら、おっそろしい程に固い決断をすんだよなぁ…。」




両手で白いカップを包んで、わざとずずっと音を立ててすする。

壁の向こうで、ピッという電子音が聞こえた。

洗濯機のスタートボタンが押されたのだろう。

もうすぐ、食器を洗いに戻ってくる。



これまで撩がピリオドに関わった命は、

軽く3ケタは超える。

逆に、救った命もまた同数以上。

香との生活が始まってから、香の目の前で人命を奪ったことも複数回。

そんな場面を目の当たりにしながらも、

そばに居続けることを選んだオンナが、

カチャリとキッチンのドアを開けた。



「あ、あれ?飲みに行くんじゃないの?」



いつもなら、夕食後は夜の新宿を徘徊する時間帯。

なのに、上着も羽織っておらず、

出かける準備をしている様子が全くない姿に、

当然疑問の声が出る。



「んー、今日はやめとくぅ。」

「ふーん。ま、帰ってきたばかりだしね。ウチで飲む?」



シンクの前に移動しながら、そう尋ねる香に、

パチっと目が開く。

きっと、以前なら

¨あんたが夜出歩かないなんて隕石でも落ちてくるんじゃないかしら?¨

¨余計なツケが増えなくて助かるわ¨

的な会話が返ってくるところだが、

その微妙な変化に本人はまだ気付いていない。



蛇口がひねられ、

先の牛肩ロース定食に使った食器が洗われ始める。

「どーっすかな…。」

香の背中を見つめながら、しばし悩む。

「コーヒーのおかわりにしとく?」

「あー、それ終わったら頼むわ。」

酒も飲みたいが、これから話そうとすることを考えると、

まだアルコールは先送りしたい。

「ちょっとまってて。」

素早く洗い物を片付けながら、短く返す香。

きゅっと水道が止まったところで、

やや緊張した空気が撩に伝わった。



「ねぇ、撩…。」

「ん?」

撩はカップに口をつけたまま

シンクの前に立つ香の後ろ姿を見る。

エプロンで手を拭きながら、振り向くその顔には、

少しだけ不安気な色が見えていた。



「ちょっと、聞きたいことがあるんだけど…。」

「んだよ。」

返事をしながら、

コトリとコーヒーカップを白木のテーブルに置いた。

「あ、あのね、ミックが言ってたんだけど…。」

「ミックぅ?」

「う、うん、教授の家で聞いたの。

あの、クロイツの軍隊を倒した時のことなんだけど…。」

「あー、親衛隊の連中な。」

コーヒーの追加を準備しながら、質問を続ける。

「海坊主さんと2人で100人相手にしたって…。」

2週間前の奥多摩の救出劇の時、

香は負傷し倒れている多くの兵士を見とめながら撩と一緒に森を脱出した。

具体的な人数は、撩とファルコンが埠頭での仕事をしている間に、

ミックからちらりと聞いてしまい、

ある事案がずっと気になっていた。



「まだ、あの時、あの人たち生きていたわよね…。」

「あー、心配すんな。冴子が全員、警察病院に送りつけたってよ。」

「え!そうなの!?」

初めて知った事実に、驚きの声が出る。

「港にいた連中も誰も死んじゃいないさ。」

撩は、目を伏せ、左頬に手を添えて肘をついたまま、

人差し指でカップの縁を押して傾け、くるくると白い陶器を回転させる。

大きく見開いた香の目は、すうと細くなり、

肩も空気が抜けるようにその位置を落とした。



「そっか…。」



「おまぁを助けるために、100人殺しましたっつーのは、

海ちゃんもしたくなかったんだよ。」

実戦での大量虐殺を経験してきている二人にとって、

不用な殺生は無用という暗黙の了解がある。

基本は命を奪わずに戦闘能力を奪う、

しかし、これが可能なのはそれなりのスキルがあるからこそ。



「もし、あいつら全員ぶっ殺してみろ。

そいつらの嫁やら娘やら愛人やらが、

敵討ちとかいいながら、まぁーた、やってくんだぜ。」

撩は、んーっと両手を天井に向けて伸びをした。

「サエバさーん、大好きーっとか言って寄ってくんだったら大歓迎だけどさ、

復讐よ!とか言ってナイフや銃とか持ってさ、

大勢こられたら、めんどくせーじゃん。」

撩は、コキッと肩を鳴らせたら、また頬杖をついて小首をかしげる。



香は、カラのカップに再びコーヒーを注いだ。

自分の分も一緒に用意する。

二人の間に立ち上る白い湯気が、焙煎の香りを室内に充満させる。



「そっか…。」



同じ言葉がより小さな声で発せられた。

「ミックの主義も、理にかなっているかもね。」

ぶっと飲みかけたコーヒーを吹き出した。

「ああ?」

口元を拭いつつ、香を見やる。

「自分に恋させちゃうっていうヤツ。」

「はん!あんなのは主義でもなんでもねぇーよ!」

「ふふっ、美樹さんも、趣味だって言ってた。」

甦る廃墟となった屋上でのシーン。

香は、撩の対面に腰を降ろす。



撩は、このタイミングがまさにチャンスと、

話題の主導権を引き寄せることにした。



「……まぁ、…¨痛み¨の軽減には、ちったぁなるかもしれんがな。」

「痛み…。」



カップを両手で包んだ香は、

2杯目のコーヒーを飲む撩をじっと見つめた。


***********************************
(16)へつづく。






冒頭、クロイツ戦終了後の森を二人で戻る場面を作らせて頂きました(01-06)。
そのお話しの蒸し返しです。
ただね、ほんとあの原作のシーンでは、
倒された親衛隊がぴくりとも動かない状態で、
うめき声も表現されていない画ばかりでしたので、
完全息の根止めちゃってる的な印象も強いのですが、
当サイトでは、上記の理由で
完全意識不明ということにしてしまいました。
あーん、北条せんせい、せめて一人でも、
小さくでよかったので、
うめき声の台詞を入れてほしかったです。
前にも触れましたが、
美樹を狙撃した単品は、即死かなと。
むむ、この殺された唯一の男の嫁やら連れ合いが、
時間をおいてCHを狙いにくるっというお話しも
また素材になるかもと。
ただ、薬物がらみなどの、更正の余地なしと判断した場合は容赦無し、でしょうね。
初期のエンジェルダストに犯された情報屋や
船でのミックとのやりとりを思い返せば…。

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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