03-06 Eskimo Kiss

第3部 Turning Point

奥多摩の翌日


(6)Eskimo Kiss ****************************************************************1984文字くらい



3、4人前ほどの量をあっという間に食べ終わった撩は、

「はぁー、くったくった!」

と食器を下げながら、

やかんに火をかけ、コーヒーの準備を始めた。



サラダを食べながら、香はふと思い出して、撩に聞いてみた。

「ねぇ?」

「なんだ?」

「あ、あのね、…さっきの、バタフライなんとかって何?」

ゴトン!ガシャッ!

撩はミルを床に落とした。

「わっ!だ、大丈夫?」



「あははは…、わりぃ、手が滑った。」

(持ってるのがカップじゃなくてよかったっ…。ってか、どうやって説明しろっつーのっ。)

ひきつった笑いの撩がギクシャクしながら、

ミルを拾い上げ、豆やらコーヒーカップやらを用意する。



香は、疑問を聞き直そうか迷ったが、挙動不審になった撩の姿を見て、

これもまた聞いちゃいけないことだったのかと、

黙ったまま、サラダを食べ終え、スープを飲み干した。

その間、撩はミルを回して豆を挽く。



やかんの笛が鳴り、撩がコーヒーをいれた。

無言のまま耐熱ポットからカップに注ぐ。

夕べから2度目の撩のコーヒーに、香ばしい香りがキッチンに広がった。



「ほれ。」

撩は、香の前にコーヒーをスライドさせた。

「あ、ありがと…。」

するとおもむろに、撩は香の右隣に反対向きに座った。

その近さに、ドキリとする香。



左手にカップを持った撩は、右手をゆっくり動かした。

「……バタフライ・キスってのは、ここが触れることなの。」

撩の小指が、すっと香の右の睫毛だけをなぞった。

「ひゃあっ!」

真っ赤になって思わず、のけぞる香は、

バランスを崩してダイニングチェアから、ずれ落ちそうになった。

「っと。」

撩は右腕を伸ばし、そのまま香を抱き寄せた。

顔の距離が近くなる。

重ねて更に赤くなる香。

すぐに表情にでる香を見て、撩はまた悪戯心が疼いてきた。



「……エスキモー・キスも、してみる?」

抱き寄せている右腕が、そのまま後ろ頭に滑る。

「え?」

視界一杯の撩の顔が目を閉じながら、近づいてくる。

(うわー、近いっ!)

香は目をきゅっとつぶって、固まった。

すると、鼻先にすりすりと何かが優しく擦れ合っている。

片目だけうっすら目をあけると、ピントは合ないが、

どうやら撩の鼻尖が自分の鼻に触れているらしいのが分かった。

近過ぎる距離にボボッとまた一段赤くなる。

耐えきれず瞬時に瞼をまたきゅっと下ろしてしまった。



「ガキ以外では、これも初めて、だな…。」

首を少しかしげながらゆっくり離れた撩はそう呟いた。

アメリカ時代に、小さいソニアに、すりよられて何度かしたことはあったが、

大人の女に、ましてや自分からエスキモー・キスなんて考えられなかった。



「エスキモー?」

香は、朱に染まりながらも、なぜエスキモーなのか気になった。

「エスキモー、って最近はイヌイットって呼ぶけど、寒いところに住んでいるだろ。」

撩は説明を続けた。

「いっぱい着込んでいるから、顔も殆ど防寒具で覆われているけど、

鼻先だけは出ていることが多いから、キスの代わりに鼻をすり合わせるんだと。」

「へぇー。」

ちょっとした撩の雑学に照れながらも素直に感心する香。



「まぁ、この2つは、アメリカ人だったら、誰でも知ってるよ。」

撩の北米生活が長かったことを思い出しながら、香はあれ?と思った。

「ん?でも、初めてって?」

撩は、やや不機嫌そうな顔をして、視線をそらしコーヒーを持ち替えてカップに口をつけた。

「〜っ、そっ!両方とも初めてなのっ!撩ちゃんはっ!」

半ばやけくそな口調。

「へ?」

「…悪いか?」

カップに口をつけたまま、バツの悪そうな目で香を見る撩。

あらかさまに照れていることが分かる行動に、香はプッと吹き出した。

「ううん、全然悪くないよ、むしろ、…ぅ、嬉しい、かも…。」

撩は、その嬉しいという言葉に、にわかに動揺する。



経験豊富な撩に初めてのことなんてなさそうに見えるのに、

意外なことが撩にとって初ということが、

香は無性にくすぐったく、嬉しく、心が穏やかな気分になった。

撩は、ふっと笑って、香に直接コーヒーを手渡した。



「まぁ、飲みながらでいいから、そのまま聞いてくれ。」

「何?」

撩の表情がすっと変わる。

あの海原戦の前夜に見た顔と一緒だ。

香は、手渡されたコーヒーを少しすすって、次の言葉を待った。

撩は、空になったカップを両手で持ち、膝に腕を乗せ、やや前屈みで正面を見る。



「……俺に腹案があるって言ったこと覚えてるか?」

香はカップに口をつけたまま、しばし考えた。

たぶん、撩が言っていることは、奥多摩の帰り、車内で話していたときのことだろうと、

すぐに記憶が結びついた。

「…うん、覚えてる。」



撩は、ふーっと、一息吐いた。

「香…。」

視線だけを振り向きながら送る。

「…一緒に、……二人で生きるために…、」

撩は上体を起こし、右肘をテーブルにかけ、香に向き合った。

「……お前を、鍛える。」

「!!」

香は、目を見開いた。

「…りょ…。」


************************************
(7)につづく。






ラストの撩のセリフ、
リョウカさん、ここまで真似てしまって、
っほんと申し訳ないです!!
他の代替シーン、全く降りてこずでした…。

【今更修正】
煎れた⇒いれた
に訂正しました。
Sさんお知らせ感謝!
2014.02.11.23:44

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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