28-17 Down & Up

第28部 Let’s Head Home

奥多摩湖畔から14日目の夕方から夜   


(17) Down & Up ************************************************** 2640文字くらい



「……とりあえず、見とく、か。」



一応言葉通り、

1階駐車場まで降りてきた撩。

照明をつけ、肩にひっかけた上着に袖を通しながら、

クーパーに近付くと、バクンとボンネットを開けた。

オイルの交換がそろそろ近いかと、

油の臭いがくんと鼻につくエンジンルームをざっと点検。

特に今急ぐべき事案はなしと判断し、

またバンと音を立てて、車体のラインが元に戻る。


駐車場に急々の用はなかったが、

あのままキッチンで香を剥きたくなった衝動を誤摩化すべく、

距離をとって頭と息子を冷却中。

山荘で散々合体した後に、

間を置かずしてキッチンで襲った日にゃ、

さすがに初心者にはキツいだろと、

いや、それ以前にめちゃくちゃ嫌がられそうな場所故、

どうにかこうにか自制する。



この後、片付けやら、荷物の整理やらがある香に

食後のデザートいっただっきまーすと、

趣くままに食いつくワケにはいかんと、

ちゅう止まりにした自分をひとまず褒めておく。



「こいつを持って上がるか。」



運転席のドアをガチャリと開け、

後部座席に無造作に畳んであった薄手の毛布を引っ張りだした。

しばらく出番がなく、ホコリっぽくなっている。

今回の遠出で、

もしかしたら使うことになるかもと思ってはいたが、

未使用のまま。

帰りの車内で仮眠する香にかけてやればよかったかと思うも、

過ぎたことは致し方なし。

いつ最後に洗いに出したか思い出せないことを言い訳に、

駐車場に降りた理由付けに使うことにする。

ついでのこの往復で戸締まりやら警備システムもさりげなくチェック。



また、バタンとドアを閉めると、

ひょいっと毛布を肩にかけ、階上に続く通路へ向かう。

照明を消せば、暗くなる背後。

コンクリートで囲まれた階段を登りながら、

先の香の言葉と、この2週間をぼんやりと振り返る。



「……まだ半月、か。」



ふぅと上向きになり無機質な天井を見上げた。

細かく点滅する蛍光灯が交換を静かに訴える。

歩みはそのままに、ゆっくりと一段一段足を運び、

右肩にかけた毛布の端を指で軽く摘み直し、

左手をくいっとジャケットのポケットに突っ込んだ。

車のキーと、山荘のカギが中でかちゃりと音を立てる。



もう1ヶ月、2ヶ月の時間を重ねているような

濃密過ぎる毎日に、

あれからまだ14日しか経っていないことが

自分でも信じ難い。



激変した生活のなかでも、これまで通りのやりとりも健在し、

この状況に慣れないながらも、

必死についてこようとする香の姿は、

どの場面でも甘く胸が締め付けられる。

己の足音だけが響き、妙に静かな空間の中で、

高度を上げて行くにつれ、明瞭になっていく香の気配。

目を閉じて意識を少し集中させてみる。

耳から得られる情報が、脳の中で映像化され、

どこで何をしているのかをクリアに受信中。



「……随分と、苦しめたもんだよな。」



あまりにも長過ぎたプラトニック期間。

思いを重ねられないままに

過ぎ重なって行くいつも通りの日々。

毎日のように深夜や明け方にこの階段を登りながら、

相方が在宅していることに安心しつつ、

自分のしてきたことをどう誤摩化しおちゃらけるかを

イメージしながら近付くエントランス。



帰る場所に香がいることへの安堵とともに、

わざと受けるハンマーに快感と罪悪感を抱えつつ、

強烈な出迎えがない時は、

淋しさを覚えながら、それを埋めるべく

客間のドアを無音で開けた回数はもう数えられない。



そんなことを懐かしみながら、

ギッと5階の鉄の扉を開けた。

相方の現在地は、6階の脱衣所。

そのままそこに向かって階段を登り、

幅広の廊下を進んで行く。



角を曲がると、

仕切りのカーテンはオープン状態。

香は、ちょうど洗い終わった洗濯物を確認しつつ

撩が山荘に行く前にセットした乾燥機の中の物を

カゴに移している最中だった。



「あれ?それは?」

「あー、クーパーにのっけてあったヤツ、こいつもそろそろ洗い時だろ。」

そう言いながら、ランドリーバスケットにばさりと詰め込む。

「じゃ、じゃあこの後一緒に洗っとくわ。」

「あいよ。」

長居するとまた自制が効かなくなりそうなので、

短くそう言い残し、

大人しくその場を後にする。

とりあえずは、すぐそばの洗面所にひょこひょこと入ると、

軽く手と顔を洗い、いい加減に口を漱いだ。

タオルレールに架けられているのは、いつも新しい清潔なタオル。

それをくいっと引っ張って、

粗雑に濡れたところをわしわしと拭きながらも、

感覚は見えない香の気配を追う。



「ま、邪魔しちゃナンだしな…。」



ホンネは、ハンマーを受けても、

そばの脱衣所にいる香を

そのまま肩に抱えて寝室に持ち込みたいところであるが、

それなりに気を使い、家事に集中させることに。

背中を丸めてジャケットのポケットに両手を突っ込んで、

がに股スタイルでリビングに向かうも、

特に見たいテレビもなし。



「あ…、そーいや…。」



ふと思い出したことがあり、

ジャケットの内ポケットをごそごそとあさる。

ぴっと取り出した紙切れ一枚。

これがなくても、一応数字は正確に記憶されてはいるが、

ナマデータをとりあえず確認。



「んー、ちょいとばかし遅いか…。いや、かけてみっか。」



撩は、受話器を取り上げ、番号を押す。

コールが数回鳴ったところで、

すぐに相手が出た。

手短に、用件を伝えると電話の向こうの人物は嬉しそうに快諾する。

時間と場所を指定して、

打ち合わせがすめば、

「すまないな、休みの時に。」

と小さく謝罪する撩。

相手は、そんなことは気にするなと、香のためならと、

他にも色々と聞きたいところを抑えて、

じゃあ、また、とお互い受話器を置いた。



チン、と接続が切れた音と一緒に、

撩の鼻からもふっと極小の音が出る。

「ま、実験、実験、と。」

そんな意味深な言葉を吐きながら、

そのままソファーの短辺にごろんと身を仰向けに転がした。



「ふん……。」



ソファーの裏から愛読書をごそっと1冊取り出せば、

適当なページを広げてばさっと顔に被せた。

同時に指を組んで後ろ頭に滑り込ませる。

左足だけくの字にして曲げ、

右足はそのまま伸ばした。

長い下肢故、足首から先はソファーよりはみ出てしまう。

鼻から細く長く息が吐き出され、

厚い胸板の平面がゆっくりとその位置を下げる。



クッションの高さが丁度良く、

まどろみ行きのスイッチが入った。

しばし、相棒の動きを読みながら、

入ってもいないのに湯上がりのような心地よさの中で、

撩は、極々浅いウトウトモードに身を任せることにした。


**********************************
(18)へつづく。






海原父ちゃんが冴羽アパート入りした時、
撩は恐らく1階フロアから気配を感じ取ったんじゃないかと。
階段を上がり始める撩の背景に
非常口表示のついたドアがあったので…。
先に気配に気付いたのは海原でしたけど。
ただ、明らかに狭い階段でしたよね〜。
海原氏が昇ってきた階段や、
ミックと香が二人で話した場所と比べると。
一体どこの階段なんだ?
外付けの非常階段?

で、香との生活が始まって、
きっと毎晩不規則な時間に帰宅する撩は、
アパートの階段を上りながら、
階上に意識をより集中していたのではと…。
よくよく考えればどんだけセンサー鋭いんよっ!と思いますが、
シテハンの世界では、
6階リビングから地下の銃声が聞こえるのは常識なので、
慣れた場所での気配フロアー突き抜けキャッチは普通ということで〜。


というワケで、撩が誰に電話をしたかは、
第3幕にて…。
誰からいつ電話番号のメモをもらったか、
覚えている方はスゴい!!!


【お知らせ記事あり】
リンクノートWM名変更と追記サイト様を
一つ前の記事でご紹介しております。

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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