03-07 Training

第3部 Turning Point

奥多摩の翌日


(7)Training *********************************************************************3000文字くらい



撩は、空のカップをテーブルの上に置き、

もう片方の肘もテーブルにひっかけ、

口調を軽くして続けた。



「…おまぁさぁ、いっつも自分のこと後回しにして、後先考えずに行動するだろ?」

「え?……ぁ…。」

香は、瞬時に暗さを伴う表情になり、カップを両手で包んだ。

やっぱり足手纏いなんだよね、と情けなさと悔しさで涙腺が緩む。

「あ、勘違いすんなよ。足手纏いとか思ってんじゃねぇーだろうな。」

泣きそうな香は、あれ?と思った。



「お前は、自分の身の安全を二の次にして、

依頼人や他人を助けようして、何度か危険な目に合っているのは自覚しているか?」



撩は、小さなしおりを蝙蝠のナイフから身を挺して守ろうとした香の姿や、

自転車で転倒した少年をかばって、車に轢かれる直前だったこと、

目の見えないまゆこに車が突っ込んできた時のこと、

エンジェルダストを投与されたミックに飛びついた時のことと、

過去の様々な事案を思い返していた。



「もう、これは性分なんだろうから、

やめろって言ってもたぶん治せないもんだろ。」

今まで抱えていた想いを少しずつ吐露する撩。

「それとは別にさ、俺の相棒だって理由で、

狙撃されたり拘束されことも何度もあったよな。」



香は、柏木圭一の依頼や、銀狐の時、北尾刑事と一緒に監禁された時、

そして今回のクロイツの件のことが、ざっと脳裏を流れた。

シティーハンターのパートナーとして認知されてなかったまでも、

依頼人と一緒に拉致されたり、

人質になったりしたことも合わせたら、両手では足りないかもしれない。



「それで、おまぁがケガしたり、取り返しのつかないことになったら、

それこそ俺が槇ちゃんに呪い殺されること確実だしな。」

「ご、め…なさぃ…。」

「ばぁか、謝んなくっていいっつぅーの。」

撩は右手で香の頭を自分に引き寄せた。

「謝るのは、俺の方だ…。」

香の髪に鼻先を埋める。

「…こんな世界に、…おまぁを引き込んじまったことは…、

いくら詫びても、…槇ちゃんには、許してもらえないだろうな。」

「撩っ!それは違うわ!」

香は、目を見開いて顔を上げた。

「ぐへっ!」

「いったあっ!」

その拍子に、撩は顎をしたたかにぶつけた。アッパーカット状態だ。

香も頭を抱える。

「〜つぅ。」

「い、今のは、油断した…。」

撩は顎をさすりながら、苦笑いをする。



「大丈夫か?」

「…うん、…でも、でも、さっきの違うからっ!撩が引き込んだんじゃないのっ。」

手があいていないことに気付いた香はカップをテーブルに置くと、

真剣なまなざしで、撩の胸を掴んで言った。



「…あたしが、…自分で、望んだことなの…」



今度は撩が目を見開く。

「…あたしが、……あなたの傍に、ずっと居たいと勝手に思っていたから…。」

そこまで言って、香は視線を落とし、口をぐっとつぐんだ。

「…だけど、結局、お荷物なんだよね。…押しかけパートナーみたいなもんだし、

…いつも撩に迷惑ばかりかけて、危険な目にあわせて…。」

(あたしのせいで、撩が死んじゃうかもしれないのに…。)



飲み込んだ言葉は、音にしてしまうと現実になってしまいそうで、

とてもじゃないが、言えなかった。

自分のせいで撩が命を落とすという、決してゼロではない確率に、

すでに語尾は涙声で震える。



撩は大きな溜め息をつく。

(まぁーだ、そんなことを考えてんのか。)

「……いいか、香。お前のほうが危険な目に『合わせられている』んだぞ。」

撩は、香を両腕で胸に抱き込んだ。

「俺のせいで。…俺の傍に居る限り、これからも色んなことが起こるはずだ。」

「りょ…。」

腕に力がこもる。



(…俺は、…お前を失いたくない…。)



幾度となく、まわりの人間が大切な者を、愛する者を失う現場を見てきた。

闇の世界に生きる者たちが、自分のウィークポイントとなる

家族を攫われ、見せしめのごとく本人の目の前で惨殺された例など、

履いて捨てるほども知っている。



自身も、ケニーに、槇村と、その死に立ち会い、

ゲリラ時代に共に闘った仲間も燃え尽きた命は数えきれない。

だからこそ、自分には愛する者をそばには置けないと、

愛する者を、大事な者を作るのはタブーだと、

失う恐怖を味わうくらいなら、そんなものを始めから望まなければいいと、

人を愛おしむ感情そのものを中米の地に置いてきたつもりだった。



全ての生死に無関心であり続けるような、

死神としての生き方を変えるつもりはなかったのに。

なのに、槇村と出会い、香と出会い、

自分に、こんな感情がまだ残っていたのかと、驚かされ、

まるで忘れ物を届けられたような気分をも味わった。

人間らしさを自分の中に甦らせてくれたのも、槇村と、そして香だ。



「…撩。」

しばらく続いた沈黙は、香の小さな声で途切れた。

「…だから、おまぁに俺と生きるための訓練をする。」

二人の視線が柔らかく絡む。

「…りょ……。」

「まあ、心配するな。

最近、おまぁも気配消すの上達してきてるし、

タコ伝授のトラップも業界じゃトップクラスだ。

ミックや美樹ちゃんにコーチしてもらってから、射撃もコツが分かってきただろ。

身のこなしも随分素早くなってきたし、基礎は十分だから、あとは応用だ。」



次から次へと出てくる自分への褒め言葉に、

香は幻聴じゃないかと、目を丸くする。



「……ほ、ほんとに?」

「ああ、たぶん、声かけなくても、美樹ちゃんやタコが、一緒にセンセーしてくれんだろ。」

香は、こみ上げてくるものが抑えきれない。

嬉しさなのか、喜びなのか、理由の分からない涙がボロボ出てくる。



「ったく、そんなに泣くなって。

……人を殺すための訓練じゃない。

自分を守り、依頼人も守れる、生きるための訓練だ。…やれるな?」

「……ぅ、うん!」

「手加減しねぇーぞ。」

香は一瞬、ぴくっと反応したが、

表情と身を引き締めて背筋を伸ばし言葉を返した。

「はい、よろしくお願いします!」



撩は、そのまっすぐな瞳に、自分が溺れていく気分になった。

(あっちのほうも手加減しねぇとか言ったら即ハンマーかな。)

「撩の、…パートナーとしてちゃんと動けるように、鍛えて欲しい…。」

「公私ともに、だろ?」

カァーッと血流が香の表皮に広がってくる。

零れ出た涙を、撩は親指でそっとぬぐい、

そのまま、大きな手の平で頬を包んで香の唇をゆっくりと味わった。

「ん…。」

目を閉じた香から小さな声が漏れる。



(死なせやしない。

共に生きて、お互いの誕生日を過ごすんだろ。

何があってもお前を守り抜く、だから…、絶対に俺より先に逝ったりするな…。)



深くなる接吻、撩は自分の想いを託すように、密着度を高めた。

太い腕が香の背中にまわり、ゆっくりと上下に動く。

緩やかに振れる頭部の軸が、細やかな変化を香の唇に与える。



「ん…、ふっ…。」

まだ、息つぎがうまくできない香の苦しそうな声に、

はっと引き戻される。

(だぁー、いかんっ!

このままここで、おっぱじめてしまいそうだ!やめ、やめっ!)

撩は、名残惜しいとばかりに、また、ちゅうーと全唇に吸い付いて、ぽんっと離れると、

これからの予定を伝えることにした。



「よ、よしっ!俺は洗濯モン干してくるから、

おまぁは、夕方までリビングか俺の部屋で休んでろ。」

上から下まで真っ赤になった香は、

恥ずかしがりながらも、撩のキス終了の合図がなんとなく気に入ってしまった。

「そ、そう言えば、出かけるって、どこに?」

「槇ちゃんとこ!」

撩は、細い肩に手を添えたまま立ち上がる。

「あ、洗いモン気にすんなよ。」

離れ際に、香の髪をくしゃりと触れながら、そう言い残して脱衣所に向かった。


**********************************************
(8)につづく。





訓練宣言、
これもリョウカさんのイメージを応用させて頂きました。
香を終生受け入れる決意をした撩は、複雑な心境を抱えながらも、
きっと香を鍛えるに違いないっ!
これもCH共通イメージって思っちゃだめ?
撩のコーチって、どげなもんかと、
これまた妄想ネタが膨らみますが、
カオリンの持っている素質を
さらに上手に引き出してくれることでしょう。
公私ともに〜♡

スポンサーサイト
プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


9万hit記念に
とりあえず作ってみた
CH専用Twitter
 


拍手1000パチ記念につけちゃいました。



かなり便利なサーチツール

登録サイト最新情報はこちらをチェック!


試運転中…

カテゴリ
最新記事
月別アーカイブ
検索フォーム
QRコード
QR
現在の閲覧者数: