29-01 Indulging Time

第29部 Calm Day ?

奥多摩湖畔から15日目


(1)Indulging Time ************************************************ 2655文字くらい



時間帯としては、明け方。

すでに、麓まで紅葉のピークが降りてきている朝、

それなりに肌寒い。



抱き込んでいるそれをまた自分に引き寄せれば、

この掛布団の中だけは、

互いの体から放熱される温かさが逃げることなく

心地よい温度が保たれている。



途中で寝返りをうった香を、背中からぴっちりと包み上げ、

いつものように茶色のふわりとした髪に鼻先を埋める撩。



香の頭は、今は枕に乗ったままで、

首の下を撩の右腕がくぐり、

そのまま白い指と浅黒くも長くバランスのいい指を絡ませ、

双方の右前腕も重ね合わせる。



存在は知っていたが、初めて纏(まと)う上品な花柄のシルクに、

リビングでその布地を見た時から、

剥きたい衝動にかられつつ、

今晩は休肝日ならぬ、休膣日という言葉を勝手に作って、

絹糸の上からの感触だけで、やり過ごすことにした撩。



きっと香なりに気を遣っての夜のコーディネートに、

これを脱がせるのは、また今度なと、

お楽しみを先送りした。

その分というワケになるのか、ならないのか、

レム睡眠時に、ふいに体の向きを変えたのをいいことに、

相方の深い眠りの波を確認できれば、

その度に、耳に頬に首筋にと軽い口付けを繰り返し、

背後から密着して、右手をつなぎ、

左手で届く範囲全てをゆっくりじっくり撫で回し、

薄いすべすべの生地越しに、

体温と感触と匂いを楽しんだ。



本当は、肌に直接己の手を這わせたいと思うも、

それをしたら止めらんねぇーかも、と自らの特性を理解した上で、

セーブをかける。



こんなふうに女を抱き込んで一緒に就寝した記憶は、

殆どない。

それなりに満足させた後は、相応の金を置き、

後腐れなく、華麗に?退場するのが基本スタイルだった過去の像。



少しだけ目を開けて、

薄暗い中で、掛け布団の中からわずかに見えている

交互に絡んだ10本の指を視界に捉える。



こんな手の繋ぎ方などを、他でしたことがあっただろうかと、

部分的な記憶を引っ張りだしてみる。

いや、手首を握るだとか、普通の握手止まりで、

過去にソレ相応の年頃の女の指をこんなふうに組ませたことは

たぶん香が初めてだと、

また一つ自身の初体験を見つけてしまった。



指の間から伝わるかすかな心音。

香の手の甲はシーツに付き下側になり、

撩の右手はその上から重なっている。

尺骨の付け根から、小指の第一関節まで、

そっと自分の親指を動かして、指骨を確かめながら往復させる。

まだ脳が休んでいる状態の香からは反応がない。



己の薬指で香の人差し指を、すすっと動かして擦り合せれば、

指先の先端が触れ合い、指紋を確認するように、細やかに円を描く。

この指で、引き金を引いても、

人命を奪う罪はお前には背負わせない、

そう思いながら、またくっと全ての指に柔らかく力を込めた。

左腕も脇腹から囲い込み、右の肋骨の下に手先を差し込んで

香の体躯を引き寄せる。

すー、すーと静かに聞こえる自発呼吸。



「贅沢だな…。」



つい言葉が漏れた。

これから、こんなふうに抱き合って迎える朝が日常になる。

何年も、何十年も。

互いに生きていさえすれば、

肌のぬくもりを感じながら横になり、

目覚めて朝を迎えることができる。

これを至福の贅沢と言わずして、

なんと置き換えられるのか。



これまでの人生の多くの夜を、

ただ一人、

誰にも触らせることなく、

単なる休息としか言えない仮眠、惰眠を重ねて来た。




遥か昔、恐らく年齢が一ケタの時代は、

ゲリラ生活の中でも、海原やマリーの父親に守られるように、

密着しながら一緒に夜を過ごし、その日その日を生き延びてきた。

安らぎの眠りとは程遠く、

じっとりとした湿度と暑さに耐えながら、

¨おやじ¨に肩を抱かれて座ったままウトウトとしていた

幼き自分を振り返る。



ただ、一度だけ、

ゲリラ軍に従事している現地の娼婦に呼ばれたことがあった。

仕事が済んだ、そのラテン系のスタイルのいい若い女は、

就学前の年齢であった撩をあてがわれているテントに招き入れた。

その少し前に、海原に今晩いいかと許可を貰っていたことを思い出す。

今日だけだぞと、念を押していたやりとりが浮かぶも、

当時の年齢ではその意味も解釈できずに、

手を引かれて寝床へ誘われた。



ただ、一緒に抱きしめながら寝かせて欲しいと、

その女の言葉に、理解と返事をする前に、

身長1メートルにも満たない撩は、抱きかかえられ

少し汚れた寝具の中に連れ込まれた。

優しく包まれた感触に、驚きの方が勝ってしまったが、

両親を失って数年、

母親以外の女に抱きしめられる経験がないままに、

初めて記憶に残る柔らかい腕がメモリーに刻まれた。

テントの入口では、

海原が見張っていることも分かっていたこともあり、

普段の緊張がふと解かれる。

髪の毛を撫でられたところまでは覚えていたが、

じきに意識はうつらうつらと途切れ気味になり、

そのまましっかりと寝てしまう。

気付いたら朝だった。

すでに、女の姿はなく、もたもたと起き上がり外に出てみれば、

タバコをふかしている海原がマシンガンを肩にかけたまま、

テントの脇に座っていた。



『 あの女は、先月息子を焼き殺されたんだ。 』



一人息子を奪われた哀しみを引きずりつつ、

それを一時的に誤摩化すために、

あの女は撩を指名したと、説明された。

後にも先にも、海原がそんなことを許したのはその件だけ。




それ以後は、母性愛を感じるような抱擁とは、

全く縁がなかった。

慈しみや、愛情を込めた触れ合いは、ある種のタブー。

むごたらしくおぞましい戦いの日々、

それが終結した後の生活も、光りが当たらない黒い影のエリアのみ。

女に触れても、通過するだけの関係に、情愛や恵愛は無用だった。



「変わった、もんだよな…。」



自らの生き方や考え方を大変革させてしまった

運命のオンナとの出会い。

もっと早くから、こうして触れ合えるようになっていればと

無駄にした時間を省みる。



やっと半月、

抱きしめて、抱き込んで、

同じベッドで横になることがやっと出来るようになったのは、

今月の上旬のこと。



「やっぱ、贅沢だ、な…。」



もう一度同じ単語がこぼれてしまう。

触れられなかった時間が長過ぎたこともまた、

その有り難さがより重く深く感じさせる。



両足も、また縒(よ)りをかけて絡ませ、

繋いでいる右手の指もぐっと握りしめる。

左腕をさらに深く巻き付かせ、

後ろ抱きのスタイルで更にぴったりと密着させる。

ふんわりとしたくせ毛に頬を埋め、

すーっと鼻で深呼吸をしてみる。



日が昇る前のひととき、

贅沢さを噛み締めながら、

撩は、香の目覚めを待つことにした。


********************************
(2)へつづく。






お待たせ致しました〜。
勝手ながら今回から、
毎週月曜日1919での更新で進めさせて頂きます。
第三幕も、だらだらのんびりの構成ですが、
お時間がございます時に、覗いて頂ければ幸いでございます。

撩を抱き込んだ女性は、「プレデター」でアンナ役を演じた、
エルペディア・カリロさんあたりでイメージして頂ければと…。


【お知らせ】
一つ前の記事にて、リンクの追記&移動を告知させていただいております。

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
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十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
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