03-10 Departure

第3部 Turning Point

奥多摩の翌日


(10)Departure ***********************************************************:*****2448文字くらい



「…ん?…あれ?」

「起きたか?」

パチと目が覚めた香は、深く眠っていたので、

気分はすっきりしているが、

現在地がすぐに分からなかった。



目の前には、ガラステーブル。

右頬の下に温かい枕、ではなく撩の膝。

がばっと起き上がる香は、リビングで休んでいたことを思い出した。

同時に、撩の左手が、視界の端から上がってきて、

自分の左前頭に触れた。

そのまま後ろにくいっと引き寄せられる。

気付いたら、撩の左半身を背もたれにするように片腕で抱き込まれてしまった。



「撩ちゃんの膝枕は超レアもんだぜ。寝心地よかったろ?」

「りょ…。」

また赤くなる香は、

自分が撩に膝枕をしてもらったことに遅れて気付く。

(りょ、撩の膝枕って、は、は、初めて…だ、よね。)

撩の言う通り、とても心地良く休息することができた。

「うん…。」

香は、照れながらそのまま撩に体重を預け、目を閉じた。

「…あたし、どれくらい寝てた?」

「3時間ジャスト。」

(睡眠単位ちょうど2回分だな。)

「すごくすっきりした。…でも、今日は寝てばっかり…。」

「おまぁ、動けそうか。」

香は体を起こしてみる。さっきより随分楽になった気がする。

腹部も少し違和感はあるが、痛みはさほど強くないようだ。

「うん、大丈夫そう。」

「…じゃあ、槇ちゃんとこ行くか?」

「うん!」

「俺、着替えてくるから、おまぁも準備ができたら玄関で待ってろ。」

立ち上がった撩は、香の頭をくしゃっと撫でて、

先に部屋を出た。



撩が触れた頭部を、香も自分で触ってみた。

本当に、よく撫でてくれるもんだわ、とまたほんのり赤くなる。

香は、日が傾き始めたベランダにゆっくり向かった。

昨日の奥多摩の結婚式の日と同じ好天。

自分たちも大きな節目を迎えたけど、陽は変わらず昇り沈む。

ただ同じ陽の光でも、心新たに目に映る気がして、

目尻が熱くなる。



「…さて、洗濯物取り込もうかな…。」

撩が干してくれた洗い物を回収し、ソファーの上に積む。

「短い時間だったけど、薄手のモノばかりだから一応乾いてるわね。」

香は感触を確かめた。

しかし、今からたたむ時間はなさそうだ。

カラの物干しだけ持ち、折り畳んで脱衣所に持って行った。

さっきよりも歩きやすくなっているが、まだ素早くは動けそうにない。

あっと思い出して、洗面所に置いてある雑巾と柄付きブラシを、

小さなバケツに入れ、空のペットボトルに水を注いだ。

それを、脱衣所前に置いて、自分の部屋に寄る。



ポーチの中身を確認して、ドレッサーの前にかがみ、

少し髪を整え、また淡いルージュをごく控え目に塗り直し、外出の準備を整えた。

ふと立ち止まり、写真立ての槇村に視線を送る。



「アニキ…。言ってたよね。

あいつと一緒に仕事ができて幸せだって。

……あたしも、同じだよ。」

薄く微笑む。

「今から、お墓掃除してくるからね。」

そう言い残して、香は部屋を出た。



玄関では、すでに撩が車のキーを指でくるくる回しながら

壁にもたれかかって待っていた。

「んぁ?それ何だぁ?」

香の持っているモノを指差す撩。

「アニキのお墓、少し掃除しようと思って。」

「ふーん。」

「ね、途中で花屋さんに寄ってもらえる?」

撩の横に並んだ香は、また無自覚無意識で、

必殺上目遣いの首かしげでお願い事をする。

(っだぁー、それは反則だって!襲っちまうぞっ!)

撩は、照れと焦りを隠しながら返事をした。

「おぅ。途中のあの店でいいな。」

「うん。」

「じゃ、出るか。」



玄関扉を開けようとしたが、香は、はっと息を吸った。

「撩!ごめん!上の部屋窓開けっ放しだわっ。閉めてくる!」

7階に行こうとする香の腕をくいっと握った。

「俺が閉めといたから大丈夫だって。」

(あ、そっか、撩着替えに自分の部屋に行ったんだよね。気付かない訳ないか…。)

ほっとした香は、自分の慌てぶりが恥ずかしくなった。

「ぁ、ぁりがと。」

小声でそう言って、靴を履こうとしたが、撩が腕を放さない。



「りょ…?」



つい香の細い華奢な腕をとってしまったのを、

すぐには離したくない気分になった撩。

滅多に付けない塗り直された薄い色のルージュで、

より艶やかになった美味しそうな唇もさっきから気になりっぱなし。



「外だと気軽にできねぇからな。」

「は?」

ふと周りが暗くなる。

きゅっと抱きしめられ、突然唇が降りてきた。

「んんんっ!」

香は慌てて目を閉じた。

パクパクと食べられてしまいそうな複雑な動きに、

腰が抜けてしまいそう、と香は一層赤くなる。

そしてまた、ちゅうーぽんっと離され、区切りの合図をもらった。

「んじゃ、行きますか。」

茹で蛸になってカチカチに固まる香の頭をくしゃりと撫でる。

(もう何回目か分かんねぇーっつうのに、わかっちゃいたが、こりゃ相当のウブだな。)

という自分も、触れたくて、愛おしくて、心の余裕がないのも事実。

(人のこと言えねーか。)

とそのまま、ギクシャクした香の肩を抱きながら玄関を出る。

昨日の夕方ここに戻ってきた時のことをふと思い出した香は、

さらに赤さを増し、恥ずかしくて、バケツを落としそうになった。



「階段降りるのゆっくりでいいからな。」

「え?」

撩は、バケツをひょいっと受け取る。

「それとも、またお姫様抱っこする?」

「!!!っ、いいいいいっ!自分で歩くっ!」

これ以上ないくらいの赤面で、ブンブンと顔を振る姿に、

苦笑する撩は、

香の少し前を、歩調を合わせ、一緒に駐車場まで降りていった。

鍵を回すと、撩は助手席を開ける。

「先に乗ってろ。」

と言いながら、後ろにまわり、リアハッチを開けバケツセットを入れた。

ガレージを開ける音が響く。



座席に座った香は、昨日の奥多摩からの帰りを思い出し、

あの時のこの席での会話が記憶をくすぐった。

バタンと音がして、撩が運転席に乗り込む。

「じゃ、行きますか。」

イグニッションキーを回し、口角を上げた撩が正面を向いたまま、

香に視線を送った。

照れたままの香は、目を合わせるのも恥ずかしく、

視線を逸(そ)らしつつ返事をする。

「ぅ、うん。」

聞き慣れたクーパーのエンジンの音を聞きながら、

2人はアパートを出発した。


***************************************************
第4部(1)へつづく





とにかくスキがあればちゅうちゅうモードのウチの撩ちゃん。
香ちゃんのお口がたらこ唇になりかねんぞ…。
次からは、お墓参り&教授宅へと場所が変わります。
相変わらずだらだらと長いですが、
奥多摩翌日の後半戦をご覧頂ければと思います〜。
え?そろそろ飽きてきた?
豆知識:「睡眠単位」とは一単位約90分とされ、
休息をとるのに脳を効率的に休ませる適切な長さと言われているとか。


【拍手御礼】
わーっ!6/13の1日だけで57パチパチも入っていましたっ!
ポチットして下さった皆様、
本当にありがとうございます!
2012.06.14.01:39
→半年分のレシートを家計簿に貼付けていたら、
 こんな時間に…。
 最近夜更かしし過ぎ…。


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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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