29-07 Foundation

第29部 Calm Day?

奥多摩湖畔から15日目   


(7)Foundation ************************************************** 2332文字くらい




「ねぇ、あたし伝言板見に行ってくるけど、

 撩はどうする?」



掃除やら洗濯やら台所仕事やらに一区切りつけた香が、

リビングにコーヒーを持って入って来た。



「あー…、とりあえず一緒に出っか。」

ソファーの短辺で寝っ転がったまま、

愛読書(の間に挟んでいる経済誌)の

チェックをしていた撩。

すでに目を通した新聞の脇にトレーが並んだのを見ながら、

上半身を緩慢に起して、伸びをした。

かちゃりとガラステーブルに置かれる入れ立てのコーヒーからは、

薄い湯気がゆっくりと天井に向かう。



奥多摩から戻って以来、

香が一人で伝言板を見に行くことを、極力避けてはいた。

ウワサが誇張されて先走りしているテリトリー内。

往路復路での、無用な接触を避けるためでもあり、

撩が香と一緒にいる時間をより多くする ” 正統な ” 理由のためでもあった。

二度ほど、たまたま単独行動させたら、

唯香に捕まり、ものの見事に侵入を許し、

質問攻撃で撃沈の幕を下ろしたのは、4日前。

勢いでツケを払いに行った先々では、

濃ゆーい話題を浴びせられて飽和状態になり、

軌道修正には一苦労ならぬ二苦労があったのは、6日前。



まだ2週間そこそこ。

顔見知りの連中が勝手に盛り上がっている期間を想像すれば、

年内か、少なくとも今月一杯は、

まだ用心しておいたほうがいいだろうと、

一緒に動くことにする。



出されたコーヒーカップに腕を伸ばして、

口元まで運べば、鼻腔を抜けていくいつもの落ち着いた芳香。

「いつ出るんだ?」

そう尋ねながら、長辺側に腰を降ろした香の様子をみやる。

「これ飲んだら。」

両手でカップを包んだまま、味と香りに集中して、簡単な返事になる。

「なぁ、……おまぁ、おっきめのバンダナ持ってたっけ?」

「は?」

「山に持って行ったヤツ、まだ乾いてないだろ?

 まぁ、タオルでもいいんだけどさ。」

香の衣類については、9割がた情報を把握しているが、

一応聞いてみる。

「なによ、それ。何に使うの?」

ずずっとコーヒーをすすりながら、

訝しがっている香を見れば、

きっと直球で答えを教えたら、また余計な緊張の元になるかと、

ヒントだけ与えることに。



「んー?訓練に使えっかな、と思ってさ。」

「え?訓練に?」

「あったら用意しとけ。

ないようだったら、これからついでに買いに行くっつーのもありだが。」

「あ、ううん、たぶんある。買わなくても大丈夫。」

香は、その布地で一体何をするのか、全く分からないでいる。

「……応急手当の仕方、とか?」

カップを包んだ手は口元のままで、白い陶器の縁(ふち)からのぞく

きょとんとした目だけが上目遣いで、撩を見る。

「ナ・イ・ショ。」

なんなんだ、そのカワイイ目力はっ!、と声が出そうになるが、

くすりと余裕の含み笑いを装えば、

飲み終わったカップを、再びテーブルに戻した。



「俺、着替えてくっから、準備できたら待ってな。」

と言いつつ、慣れさせる目的も込みで、

腰をあげながら、右隣りに座っている香の方に近づけば、

左手を自分の腰に添えて、

あいた右手を小顔にすいっと伸ばした撩。

前髪の房をかき分けて出て来た愛らしいおでこに、

素早くちゅっと尖らせた唇を触れさせた。

「ひゃあ!」

持っていたカップが両手の中で体の振動を受けて跳ねたが、

慌てて落とさないよう、しかっと持ち直すのに気を取られているうちに、

いたずらを仕掛けた相方は、

パタンと音だけ残してリビングを出て行った。

一拍置いて、ぼしゅっと香の上半身から湯気が立ち上る。



「な、なんなのよぉ〜。」



コトある度に、触れてくる。

嬉しいけど、これまでのことを思えば、

やはり信じられない。

1ヶ月前は、持っていた期待や願望を全て放棄すると

心に決めていたはずなのに。

こんなに、撩に触れてもらう日が来るなんて、

先月までは、想像もしてはいけないと思っていたのに。

オンナ扱いなんて終生されるワケないと思っていたのに。



それが、美樹とファルコンの結婚式に参列した日から、

まるで、オセロのゲーム盤が、

全面黒から全面白に塗り替えられるように、

総入れ替え状態。




「もらいすぎて、…どうにかなっちゃいそう。」



肌に、撩の唇の感触が余韻として残っている。

香は、左手を真っ赤になった額にじゅうとあてがった。

冷えた指先が心地いい。

目を閉じて、はぁと熱を逃がすように息を吐き出す。



かといって、全てが変わったわけではない。

激変した部分があまりにも大き過ぎて、

見えづらくなっていたが、

6年の間に積み上げて来た礎は確かにそのまま残されている。

普段からの何気ないやり取り、

その中にある基礎がなければ、今のこの変化にきっと押しつぶされ、

それこそ自分が入院でもしかねなかっただろうと、

ふぅーと肩から脱気する。



それにしても、よくもまぁ、あのタイミングで、

節目を迎えられたものだと、

改めて思う。

頭の中にポポンと浮かぶ、

快晴の下、湖畔で抱き合う自分たちの姿。

また、かぁぁぁと体温が上がり、

額に添えていた手をパタパタとウチワ代わりにして頬を扇いだ。

香もまた¨コトある度に¨色々と思い出してしまい、

体温調節が効かなくなる。



「やっぱり、…慣れない、わ…。」



少し、ぼぉーっとしていた時間が長過ぎた。

片手で持っているカップにはまだ液体が残っている。

「は、早く飲まなきゃ。」

暖房を入れていない部屋では、容積が小さいものほど冷えやすく、

もうぬるくなっている。

くっと、コーヒーカップを傾けカラにしたところで、

立ち上がりながら、トレーにかちゃかちゃと2人分のセットを片付ける。

ガラステーブルに濡れた台拭きをさっと滑らせ、

持って来た物を持ち上げて、背筋を伸ばした香。



「さ、準備準備。」



まだ、頬に赤味を残したまま、

香もリビングを後にした。



********************************
(8)へつづく。






とにかくちょこまかと手ぇ出してくるサエバ氏。
慣れさせる、というのはヤツにとっては言い訳だなと。
カオリン、頑張ってね。
たぶん、撩はカオリンの被服や装飾品については、
初期の頃からかなりしっかり把握していたのではと…。
落ちているハンカチ1枚からでも、
状況が読めて推察できること当然って感じ?

【S様ありがとうございます】
「煎」「淹」「入」の違い勉強させて頂きましたっ。
過去の分の確認、また一区切りした時に
見回りたいと思います。
ご連絡ありがとうございました!
2013.12.30.21:15


ーーーーー 時事的お知らせ/2013.12.30 ーーーー

本編につきましては、
2013年最後の更新となりました。
こんなだらだらの長編駄文にお付き合い下さっている全ての皆様、
本当にありがとうございます。
カオリンの干支の年も残り1日。
ヘビ好きなので、次の12年後がまた待ち遠しいところです。
また、別途年の瀬のご挨拶を明日の1818でお伝えしたいと思います。

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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