04-02 Graveyard (side Ryo)

第4部 Report

奥多摩翌日の夕方から夜


(2)Graveyard (side Ryo) ********************************************************2813文字くらい



日没寸前に、目的地に到着。

「早く掃除しないと暗くなっちゃう!」

香は、俺が取り出したバケツセットと花束を受け取って、

先に歩き出した。

長い影が伸びる。

ったく、鍵閉める時間も待てねぇってか。

いつもより動きがスローな香に追いつくのは至極簡単で、

またバケツを取り返す。

「あっ、ちょっと!これくらい持てるってば。」

「掃除する時間がなくなりそうなんだろ?行くぞ。」

そう言って、あえて目を合わさず歩みを進める。



久しぶりに来る槇村の墓の前。

「アニキ、ちょっと待ててね。」

香はかがんで、ペットボトルの水と小さな柄付きブラシを使って、

手短に墓石についたコケや汚れを、ゴシゴシと落とし、

ある程度見栄えも良くなったところで、ざっと残りの水をかけ、

雑巾で拭い、湿り気をとった。

俺は少し後方からその様子を見守っていた。

ここは、手伝うより香と槇村の時間として、外野に徹する。



掃除道具をミニバケツに収めると、

香は、脇に置いてあった花を、そっと正面に供え、墓石につと手をつく。

「……アニキ、……ちょっとは、きれいになったかな。」

沈む直前の夕日が香を照らし、その髪が逆光で金色に輝く。

右足を膝まづいて静かに目を閉じ、槇村の墓に触れる姿は、まるで聖母。

一瞬、我を忘れて見惚れていたが、

その長い影がいつの間にか消え、日没を知った。



らしくもなく、

そのまま香が消えてしまいそうな不安が足もとから湧いてきて、

気付いたらそばに歩み寄っていた。

俺の隣で、まだ亡き兄との対話をしているのか、

香は閉じた目をそのままに、右手は墓石、左手は膝に添えていた。



槇村…。



俺は、槇村の名前が刻み込まれている場所へ視線を移した。



どんなに詫びても許してもらえないかもしれない。

お前が望んでいる幸せを、

香に与えることはできないかもしれない。

それでも…、それでも…、

俺たちが選び取った道を見守ってくれるか?



「……撩。」



しばらく黙っていた香がふいに俺の名を呼んだ。

「……一緒に来てくれて、ありがとね。」

薄く開いた目は槇村の名前に向けられていた。

「……1人でも、…ここに来るつもりだったから、

撩から誘ってくれて、…嬉しかった。」

俺は、ふっ口角を上げ、と視線を香から墓石に移した。



「シスコンのアイツのことだ。

……黙ってたら、枕元にやってきそうでな。」

ぷっと香は笑う。

「…さっきの花屋さんでね、花言葉でこれを選んでもらったの。」

きれいにラッピングされている花束には、

ルピナスとワレモコウとカスミソウ。

香が今の気持ちを、この花にメッセージとして託したことは、

種類を確認した時から薄々感じていた。

「……撩は無駄に物知りだから、説明はいらないわよね。」

ちょっと恥ずかしそうに赤らむ香。

まぁ、口説き文句用や暗号用に、有名どころの花言葉は

一通りインプットされてはいるが、こんなふうに使われるとはなぁ。



ルピナスは「私は幸せです」。

カスミソウとワレモコウは「感謝」。

花屋の店員が加えたかったクチナシもルピナスと同じ花言葉を持つ。

お前は、こんな俺のそばで本当に幸せなのか…。



「えー、カオリン教えてくんないの?」

込み上がった照れくささをごまかすために、不真面目モードで返事をしてみる。

「もうっ、分かってるくせにっ。」

しゃがんだまま、ほんのり朱に染まっている頬を見せながら、

上目使いで、下から俺を見上げる表情に、

おまぁこそ、今の顔にどれだけ悩殺力があるか分かってねぇだろ。

と、思わず口から出そうになった。



そんな俺の心の揺れも気付かないまま、

香はゆっくりと立ち上がった。

「……話しはもう終わったのか?」

「うん、ちゃぁんと報告しました。」

周辺は先ほどよりも更に薄暗くなる。

「あーんなこととか、こぉーんなこととかぁ?」

わざと意地悪口調で聞き返してみれば、

「もうっ!そんなスケベ顔で言わないでよっ!」

ミニハンマーがスコーンと側頭部に軽く当たる。

「って!」



「……撩はもういいの?」

「男とは長話しするもんじゃねぇーの。」

こんなやりとりをしながらも、

つい、もしも、が脳裏を渦巻く。




もし俺が日本に来なかったら。

もし槇村と出会わなかったら。

もし槇村が死なずにすんでいたら。

もし香に出会わなかったら。



いくら考えても無意味なことだとは思いながらも、

決して交わることのなかった人生のラインが重なってしまった配剤に、

「たられば」が頭から離れることはない。

だが、もはや香がいない生き方などあり得ない。




周りの光度が落ちて来て、周辺がやや見えにくくなる。

その薄闇に香が吸い込まれてしまわないように、

か細い腕をとって、自分の腕の中にしまい込む。



「…りょ?」

「槇ちゃんの前で、誓いのキスでもしとく?」

「っば、ばかっ、何言ってんのよっ!」

こんな俺が、神になんて誓える訳がない。

これに関しては槇村以外、誓う相手はいない。



腕の中で慌て身じろぐ香が可愛くて、くすりと笑う。

「まぁ、ここで、んなことしたらアイツも困るだろうから、こっちだけな。」

俺は、香の左手をそっと取って、その白く細く形のいい薬指を口元まで運び、

第3関節のところに、ちゅうっと吸い付いた。

触れた部分がほんのり赤く残る。



ボンと沸騰する香は、みるみるうちに体温が上がっていく。

その場所への接吻が何を意味するか、

自分でもこの行為に小さく驚く。

マリッジリングなんて贈れるような柄じゃないがな…。



すると、柔らかい風が俺たちの脇を一巡するように流れていった。

さっきまでほぼ無風だったのに、

このタイミングで、この心地のいい風は…。

ゆっくりお互いの視線を合わせる。

「……今の、……アニキか、な?」

「かもな。」

二人して、薄暗くなった墓地でくくっと笑う。



腕の中にあるそのまろやかな体を、

さらにきゅっと引き寄せ、自分に密着させた。

柔らかい髪に頬を寄せ、暫しその体温と心拍に浸る。

照れている香がその己の心境を体で分かりやすく伝えてくる。

ここは屋外で公共の場であることを忘れそうになるが、

他に人の気配がないのをいいことに、

薄暗くなり始めた墓地で抱き心地の良さを堪能する。



遠くで、かすかにサイレンの音が聞こえる。

俺はゆっくり目を開け、香を見下ろした。

「さて、動くか。

夜の墓地にいつまでもいると、会いたくないもんが出てくるぞ。」

「い、いやなこと言わないでよっ。」

「そっか、カオリンまだこの手の話し、苦手なんだっけ?」

「は、早く戻ろっ!」

すでに、赤い顔から青い顔になった香は、まじめに怖がり始めた。

コロコロ変わる表情が、香の飽きない魅力の一つだろう。

こんなこと、間違っても直接言えたもんじゃないが…。



「じゃ、いきますかね。」

俺は、左手でバケツを持ち上げ、右手は香の肩を抱き、先を促した。

香は、ちょっと赤くなりながら、

ちらっと後ろを振り返って、夕闇が濃くなった背景を見つめた。

「アニキ、……またね。」



俺は、夜目が効くから問題ないが、

この日没から夜になる時間帯の独特な暗さは、

屋外で、最も物が見えにくい時間帯でもあり交通事故も多い。

いつものように動けない香は、まわりの見えにくさも手伝って、

足取りが無意識に慎重になっている。

まぁ、ミニまではすぐそばだからいいかと、思いつつ、

また抱き上げたくなる衝動を静かに抑えた。


*******************************
(3)へつづく。





冒頭で触れています通り、このあたりも
リョウカさんの場面をお借りしております。
一線を越えたあとの2人が、墓地に報告に行くシーンは、
各所で描かれておりまして、
どうしても、どっかで読み覚えのあるコマが出てきてしまいますが、
求めているモノの共通項の一つとしてお許し下さいませ〜(汗っ)。
さて、次はアパートに戻る前に、ちょっと寄り道です。


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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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